この記事は2026年8月7日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「対照的な日米の金融政策により1ドル=170円超えも視野に」を一部編集し、転載したものです。


対照的な日米の金融政策により1ドル=170円超えも視野に
(画像=eRuslan/stock.adobe.com)

円安進行を抑える切り札である「日本銀行の利上げ続行」カードが、政治の闇に葬り去られようとしている。入院によって6月金融政策決定会合を欠席した植田和男総裁を、日銀関係者が批判したという怪しげなうわさが市場で流れた。5年間の任期満了まで2年近く残すなか、内田眞一副総裁を引き合いに出し、後任の総裁人事予想を報道するメディアも出始めたが、まったく失礼な話である。

内田副総裁は、アベノミクスの異次元緩和を長年支えた日銀事務方だ。そのハト派ぶりは随所に垣間見える。足元では「6カ月に1回」程度の利上げペースだが、2024年2月の内田副総裁の講演では「12カ月に1回」と示唆していた(図表)。高市早苗政権がリフレ派委員を日銀に送り込んでいるが、植田総裁の任期中には、政策委員会9人の過半数を握れない。そのためか、力ずくで2%前後へ利上げを続行しそうな植田総裁を降板させ、ハト派の内田副総裁を登板させたい政治家の影がちらつく。

折しも、高市政権が26年の「骨太の方針」原案で、政府の成長戦略への連携を日銀に求めたため、利上げ打ち止め観測が一部で浮上した。プライマリーバランス黒字化方針の削除は財政不安を増幅し、長期金利が急上昇。円は1ドル=163円台後半に達し、40年ぶりの水準に沈んだ。この「骨太ショック」が、国内外投資家の「日本売り」を誘発したことは疑いようがない。

こうした状況下で、年度末にかけてドル円相場の想定レンジを示すとすれば、下値は為替介入観測報道があった7月30日に一時つけた1ドル=156円付近がせいぜいとみる。その理由は、日米金利差のいっそうの拡大を米連邦準備制度理事会(FRB)議長が印象付けたからだ。

FRBのケビン・ウォーシュ議長は7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で、目先の中東紛争ではなく「コロナ禍から63カ月間続いている2%目標を超える物価高」を問題視した。コロナ禍対応で急膨張したFRBのバランスシート(BS)を、12月から圧縮する可能性が非常に高まった。

対照的に、日銀は6月会合では、段階的に進めてきた長期国債の買い入れ減額を27年3月末で終了し、同年4月以降は月2兆円程度の国債買い入れを続けることを決めた。高市政権に利上げを反対されないための交渉材料のはずが、逆に新たな日米金利差の拡大要因となり得る。

CME先物建玉を見ると、FRBの利上げは9月と来年3月の2回と織り込まれている。7月31日には、15年ぶりに日米協調介入が行われたが、前述の長期ゾーンの金利差で、1ドル=173円前後まで円のフリーフォールが起きかねない。

対照的な日米の金融政策により1ドル=170円超えも視野に
(画像=きんざいOnline)

明治安田アセットマネジメント チーフストラテジスト/杉山 修司
週刊金融財政事情 2026年8月11日号