特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
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独自の技術をわかりやすく使いやすいプラットフォームとして提供し、ヘルスケア業界・小売業界など、幅広い事業者様の販売促進〜システム開発・運用を支援しています。
創業時からの事業変遷
—— 会社を設立した背景を教えていただけますか?
株式会社Sapeet 代表取締役社長・築山英治氏(以下、社名・氏名略) 大学時代、アメフト部に所属していた際に体重が60キロから100キロ近くに増え、オンラインで服を購入する際にサイズが合わず困った経験がありました。特に、ネットで購入したジャケットのサイズが全く合わず、苦い思いをしたことが大きなきっかけです。この不便さを解消したいと考え、オンライン試着の技術を研究するために大学院の研究室に進みました。
その後、ECサイト向けの仮想試着ツールを開発しました。このツールでは、自分の体型のアバターを推定し、3Dの服データを物理演算で試着して着心地や色合いを確認できます。この技術を基にして、Sapeetを創業しました。
—— 最初は試着ツールから始まったのですね。その後の展開についても教えてください。
築山 初期の数年間は試着ツールを企業に営業していました。しかし、導入されても効果が測定しづらく、長続きしないケースが多かったため、事業の方向転換を検討しました。当時、ZOZOスーツなどの体型測定技術が注目され、アパレル業界でも体型測定に対するニーズが高まっていました。そこで、試着ツールで培った機械学習技術を応用し、AIソリューションの提供にシフトしました。
そしてPKSHA Technologyのグループに入った後、身体分析アルゴリズムの研究開発を進め、AIソリューションのメニューを拡大する中で、姿勢や可動域、歩行分析が可能なSaaSプロダクト「シセイカルテ」を開発しました。また、アパレル業界向けに、肌や顔の形状に合った商品を推奨するソリューションも提供しています。
—— 事業の幅が広がっていったのですね。その後生まれた具体的なソリューションやプロダクトの事例についても教えてください。
築山 例えば、営業や接客のロールプレイをAIアバターが行い、その結果をAIが評価・フィードバックするソリューションを開発しました。これにより、営業力や接客力の向上を支援しています。また、メンタルケア分野では、傾聴型のAIチャットボットを開発し、山形市の孤独や孤立の問題解決をサポートしています。
さらに、ノーコードでカルテを作成できる「マルチカルテ」や、営業商談の標準化を支援する「カルティセールス」など、幅広いプロダクトを展開しています。これらのプロダクトは、コミュニケーションを円滑にし、顧客体験価値を高めるために設計されています。
上場を目指された背景や思い
—— 上場を目指された背景や、その思いについて教えていただけますか?
築山 上場を目指す背景には、事業成長と社会的信頼性の向上があります。私たちのミッションは「ひとを科学し、寄り添いをつくる」というもので、このミッションを実現しながら事業を拡大したいと考えています。特に、身体の領域というセンシティブな情報を扱うため、お客様やパートナーに対して信頼性を示すことが非常に重要です。上場を通じて、この信頼性を高め、事業の基盤を強化したいという思いがあります。
また、知名度を向上させることも大きな目的の一つです。「Expert AI」という私たちのコンセプトやミッションをより多くの人に知っていただき、これを事業成長に結びつけたいと考えています。
—— 信頼性と知名度の向上、どちらも上場を目指す意義として重要ですね。エンジニアリングを強みとしている御社にとって、人材採用も大切だと思いますが、その点についてはどのようにお考えですか?
築山 技術力はもちろんですが、それだけではなく、事業開発力も欠かせません。私たちは、プロダクトアウトではなくマーケットインの考え方を重視しています。つまり、お客様の課題に寄り添いながらサービスを提供し、事業を拡張していくスタイルです。ですので、技術と事業開発の両輪が私たちの強みだと考えていますし、それを成り立たせる優秀な人材をバランスよく採用しております。
優れた技術がなければ求められる解決策を提供することはできませんし、一方で、技術を事業に繋げる力もなければその価値を十分に活かすことができません。この両立が重要です。
—— 山形市での取り組みについてもお伺いしましたが、地方創生への貢献という観点からも非常に意義深いですね。
築山 ありがとうございます。具体的には、24時間対応可能なAIチャットの提供により、単身高齢世帯やシングルマザーの方など、孤独を感じやすい方々の孤立感を軽減するお手伝いをしています。AIなら深夜の相談にも対応できますし、相談数が増えてもお待たせせずに対応ができます。緊急性の高い相談はアラート機能で担当スタッフに通知するなど、人による細やかなケアとのハイブリッドで提供しています。上場を機に、こうした取り組みもより多くの方々に知っていただければと思っています。
今後の事業戦略や展望
—— 今後の事業戦略と展望についてお伺いしたいと思います。
築山 事業戦略は大きく三つの柱に分かれています。一つ目は、AIソリューションの提供です。研究開発を通じてアルゴリズムを進化させ、既存の取引先に対してさらに高い価値を提供することを目指しています。同時に、新規取引先の開拓にも力を入れています。
二つ目のAIプロダクトに関しては、現在展開している「カルティクラウド」シリーズの機能やサービスを充実させ、販売チャネルを拡大する予定です。この技術基盤を活用し、新たな市場をターゲットにAIプロダクトを開発し、製品ラインナップを増やしていきます。また、海外の代理店と連携することで、グローバル市場への進出も積極的に進めます。
三つ目の柱は、プラットフォームの展開です。新規事業の創出やM&Aを通じて、迅速に市場ニーズに対応していくことを目指します。私たちの技術を駆使し、お客様の課題を具体的に解決するためのプラットフォームを構築していきたいと考えています。
—— AIプロダクトの海外展開について、どのような手応えを感じておられますか?
築山 海外からの問い合わせは主にインバウンドで始まりました。「この製品は他にない」といった声が多く、台湾、インドネシア、ベトナム、アメリカなどの代理店と協力しています。まだ実績は十分ではありませんが、成長のポテンシャルは非常に高いと感じています。
—— 海外の代理店が製品の可能性を評価しているのですね。その他の点でAIプロダクトは具体的にどのように展開していくのでしょうか?
築山 業界と支援業務の二軸で展開を広げています。現在は、治療院やフィットネス、パーソナルトレーニングといった業界を中心に、集客や来店促進、顧客管理などの支援業務を提供しています。ただ、これらの市場にはまだ成長の余地が多くあります。また、ウェルネス業界やBtoC業界など、新たな領域への進出も視野に入れています。これにより、市場シェアの拡大を目指しています。
—— 集客や来店促進から顧客管理まで、浸透度を高めつつ新たな市場を開拓していくということですね。フォーカスしたい業界はありますか?
築山 特にフォーカスしたい業界は決めていません。チームごとに分かれて、各業界のパイプラインをモニタリングしながら、安定的に成長させていくことを目指しています。ウェルネスの領域以外でも、コミュニケーションのアルゴリズムが成長しています。これにより、会社全体の成長率を維持していきたいと考えています。
今後のファイナンス(調達・投資)計画について
—— IPOで調達された資金はどのように活用される予定ですか?
築山 IPOで得た資金は、主に販売促進、研究開発、人材採用に充てる予定です。今後追加で資金調達を行う場合は、M&Aや新規事業の展開、さらにはそのための人材採用など、成長を加速させる領域に重点を置きたいと考えています。
—— 研究開発や人材採用への資金投入は重要ですね。アライアンスを組む際には、どのような業界や企業との連携をお考えですか?
築山 我々の不足を補完できる企業や専門家との連携を重視しています。現在、市場への浸透度が十分ではないと感じている部分があるため、これまでアプローチできていなかった層にアクセスできるパートナーがいれば積極的に協力したいです。また、販売網の強化や技術面の向上、ナレッジ・ノウハウの蓄積を図るために、こうした領域で補完関係を築ける企業とも連携を進めていきたいですね。
—— 上場されてからの変化についてもお聞きしたいのですが、何か変わったことはありますか?
築山 上場後は反響が大きくなり、お問い合わせの数が格段に増えています。また、メディアへの露出機会が増えたことで、当社の認知度も徐々に上がっていると感じます。経営者としても、一定の頻度で外部とのコミュニケーションや意思決定に取り組むことが重要だと改めて実感しています。
メディアユーザーへ一言
—— メディアユーザーの皆様にメッセージをお願いいたします。
築山 私たちのミッションである「ひとを科学し、寄り添いをつくる」という理念を大切にしながら、専門知識やノウハウを体系化したExpert AIを通じて、より良い顧客体験を提供する世界を実現したいと考えています。この取り組みによって、私たちだけでなく、顧客やエンドユーザーの皆様が相互に寄り添い合える社会を目指しています。
さらに、社会課題の解決に貢献しながら、高い顧客満足度と継続率を維持し、安定した事業基盤のもとで成長を続けていきたいと考えています。皆様からのご支援が私たちの挑戦を支える力となります。これからの歩みに、ぜひご注目いただければ幸いです。
- 氏名
- 築山 英治(つきやま えいじ)
- 社名
- 株式会社Sapeet
- 役職
- 代表取締役社長