「KKR」と「ベインキャピタル」。富士ソフトの買収をめぐり、米国を代表する投資ファンド同士が半年以上にわたって繰り広げていた攻防戦がついに決着する。対抗TOB(株式公開買い付け)を予告していたベインキャピタルが撤退を決めたからだ。これにより、ベインを牽制しつつ、2段階にわけてTOBを実施してきたKKRに軍配が上がる見通しだ。

KKRの買付期間は19日まで

ベインキャピタルは2月17日、富士ソフトへのTOBを取りやめると発表した。富士ソフト創業者の野沢宏氏と相談のうえ、同社と同社株主の利益も熟慮して検討した結果、1株9600円とする買付価格の引き上げを行わず、TOBを実施しない結論に至ったとしている。

ベインは2月5日からTOBを開始する準備を進めてきたという。ところが、前日の4日、すでにTOBを実施中のKKRが富士ソフト株の買付価格を9850円と、ベインの9600円を上回る水準に引き上げた。これを受け、ベインは10日にTOB予告の撤回も選択肢に含め、今後の方針を検討することを明らかにしていた。

現在行われているKKRのTOB(第2回分)は買付期間が4度延長され、いよいよ19日に期限を迎える。富士ソフトの株価は2月初め、終値で9990円と1万円に迫る高値を付けたが、ベイン撤退に伴い、足元はKKRが提示した買付価格の範囲にさや寄せされる形になっており、TOB成立の公算が大きい。

ベイン、敵対的TOBも辞さずの構え

争奪戦の標的となった富士ソフトは独立系のシステム開発大手。同社がKKRによるTOBを受け入れて株式を非公開化すると発表したのは2024年8月上旬にさかのぼる。

当初の買付価格は1株8800円で、買収総額5580億円に上る大型案件として注目された。そこに割って入ったのがベイン。富士ソフトにKKR側を上回る条件でTOBを提案している事実を公表した。

ベインの対抗TOB予告を踏まえ、KKRは9月中旬していた当初予定を前倒しし、9月5日にTOBを開始。さらにTOBを2段階方式に変更した。この変更で買付予定数の下限を撤廃し、数にかかわらず、応募株式のすべてを取得したうえで第2回を実施することにした。

一方、ベインは10月にKKRを650円上回る1株9450円でのTOBを正式に提案。富士ソフトの賛同を前提に10月中にもTOBを始める方針を示した。

この際、富士ソフト創業者の野沢氏ら創業家(18.5%の株式を所有)はベインと共同歩調をとる意向を表明。野沢氏はKKRの買付価格がベインより低いことから、会社側がベインの提案に賛同しない場合、「取締役の善管注意義務違反にあたる」などと主張し、創業者と会社側との意見対立が表面化した。

KKRは第1回TOBで約34%の株式を取得。11月20日から始まった第2回TOBでは買付価格を第1回の8800円から9451円に引き上げた後、今年2月4日に9850円まで引き上げた。これに対し、ベインは昨年12月、富士ソフトの同意の有無にかかわらず、敵対的TOBも辞さない方針に軌道修正し、買付価格も9600円まで引き上げた。