
「亡くなった親が海外に資産を持っていた」
「外国で暮らす親が日本に資産を持っていた」
このような国をまたぐ相続は、国際相続と呼ばれ、日本国内の相続よりも手続きが複雑です。
その理由は、適用される法律や税制が国ごとに異なるからです。
この記事では、国際相続を進めるのに必要な基礎知識(国際相続とは何か、重要キーワード、法律や税制など)をわかりやすく解説します。
最後までお読みいただければ、国際相続の手続きを進めやすくなります。
- 国際相続では、適用される法律や税制が国ごとに異なるため、国内の相続よりも手続きが複雑になる
- 国際相続を理解する上で重要なキーワードとして、準拠法、国際裁判管轄、プロベート、二重課税がある
- 日本と海外では相続税の考え方が異なり、日本では財産を受け取った人が相続税を支払うが、アメリカなどでは被相続人の財産に相続税が課される
目次
国際相続とは

はじめに、国際相続とは何かを確認したうえで、国際相続には具体的に「どのようなケースがあるのか」について整理しましょう。
国際相続とは財産や人が国境を超えている相続のこと
国際相続とは、資産や人(相続人や被相続人など)が国をまたぐ相続のことを指します。
近年、海外在留の日本人や日本で暮らす外国籍の方々が増加し続けています。
たとえば1994年と2024年を比較すると、海外在留の長期在住者は19.7万人、永住者は30万人増えています※。
それにともない、日本に関連する国際相続の事例が増えています。
※外務省領事局政策課 海外在留邦人数調査統計(令和6年10月1日現在)
国際相続のよくあるケース
ひと口に国際相続といっても、さまざまな状況があります。
以下のような内容が典型的なケーススタディです。
・日本在住の日本人の親族が海外に資産を所有していた
例:アメリカの銀行に預金を持つ父親(日本在住)が亡くなり、妻と子が相続人になった。
・日本在住の外国籍の親族が海外に資産を所有していた
例:フランス国籍でフランスに不動産を持つ父親(日本在住)が亡くなり、妻と子が相続人になった。
・海外在住の日本国籍の親族が現地で資産を所有していた
例:カナダに住む日本人の父親が亡くなり、現地の不動産が遺された。
国際相続だと問題が起きやすい理由
国際相続には、異なる国の法律や税制、手続きが適用されるため、通常の相続よりも複雑になりやすくトラブルが発生することが多いです。
そのため、国際相続で資産を受け継ぐ場合は、この分野に詳しい弁護士や税理士などの専門家のサポートを受けるのが賢明です。
状況によっては、現地の専門家と連携する必要もあります。
ただし、専門家に丸投げするのは避けましょう。
「本当に適切な処理がされているか」を判断するために当事者が「国際相続とは何か」などの基礎知識を知っておくことも重要です。
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国際相続を理解するために覚えたいキーワード

国際相続をどう進めるかについてはケースバイケースですが、多くの国で手続きを進める際に必要となる以下のキーワード(考え方、ルール)があります。
1.準拠法
どの国の法律が適用されるか
2.国際裁判管轄
どの国の裁判所で紛争を解決するのか
3.プロベート
その国の裁判所の管理下で相続を進めるのか
4.二重課税
1つの財産で2回税金を納めていないか
これらの内容をあらかじめ知っていると、国際相続をスムーズに進めやすくなります。
1つひとつのキーワードの内容を確認していきましょう。
1.準拠法|どの国の法律が適用されるか
国際相続では、国ごとに相続に関する決まりが異なります。
そのため、国際相続を進める際にはまず、「どの国の法律が適用されるか(日本の法律が適用されるのか、それとも外国の法律が適用されるのか)」を確認する必要があります。
この「どの国の法律が適用されるか」のルールを準拠法といいます。
一例では、日本の相続では、遺言がなくても法定相続(民法で定められた割合や範囲で財産を引き継ぐこと)に基づき財産を分配するのが原則です。
一方で、アメリカでは、遺言がなければ裁判所が管理するのが一般的です。
このように相続のルールは国によって異なります。
日本では、相続の際にどの国の法律が適用されるかを「法の適用に関する通則法」で定めています。
通則法の第36条「相続は、被相続人の本国法による」に基づくと、亡くなった人の本国の法律が適用されるのが原則です。
以下はその一例です。
・日本国籍の人が海外で亡くなった場合
日本の法律が適用
・アメリカ国籍の人が日本で亡くなった場合
アメリカの法律が適用
ただし、資産の種類が建物や土地の場合、その不動産がある国の法律が適用されることもあります。
また、被相続人の本国の法律で「被相続人の住所地の法律を準拠法にする」と定められていた場合、それに従うこともあります(これを反致といいます)。
準拠法に関わるキーワードとして、「相続統一主義」と「相続分割主義」もあります。
こちらも合わせて覚えておくと国際相続における準拠法をより深く理解できます。
相続統一主義 | 相続分割主義 | |
---|---|---|
考え方 | 全ての相続財産に被相続人の本国(または住所地)の法律を適用とする | 相続財産のうち不動産はその所在地の法律を準拠法とし、それ以外の財産は被相続人の本国(または住所地)の法律を適用する |
採用する国 | 日本や韓国、EU加盟国(一部を除く)など | アメリカ、イギリス、中国など |
2.国際裁判管轄|どの国の裁判所で紛争を解決するのか
相続が発生すると当事者間のトラブルが発生しやすいです。
たとえば、以下のようなトラブルがあります。
・遺言の内容が不公平である
・遺産の分配方法で意見が折り合わない
・同居家族が遺産を使い込んでいた
国際相続においてトラブルが発生した際、国際裁判管轄(どの国の裁判所で紛争を解決するのか)に留意する必要があります。
なぜなら、この部分が明確にならないと紛争がスムーズに解決しないからです。
たとえば、相続でトラブルが起こった際、相続人Aは日本の裁判所で手続きをおこない、相続人Bがアメリカの裁判所で手続きをおこなっていると話し合いが複雑になってしまいます。
国際相続で遺産分割の争いなどが起きた際は、被相続人が亡くなったときの住所地(または遺産の所在地)に国際裁判管轄があるという考え方が一般的です。
たとえば、アメリカ人の被相続人が亡くなったときに日本に住んでいた場合、相続人は日本の家庭裁判所に申立てをすることができます(相続人の居住地が日本・外国は問いません)。
ただし、アメリカ人の被相続人が亡くなったときにアメリカに住んでいても、相続人全員が「日本の裁判所で遺産分割をしたい」と合意した場合は、日本の家庭裁判所に申立てをすることができます。
3.プロベート:その国の裁判所の管理下で相続を進めるのか
プロベート(Probate)とは、裁判所の管理下で「その遺言が有効であるか」を確認し、相続人に「適切に相続財産を分配」する手続きを指します。
プロベートにおいて裁判所が介入する理由は、遺言書の偽造や不公平な相続財産の分配を防ぐためなどです。
プロベートが必要かどうかは、その国によって異なります。
日本の場合、裁判所が管理しなくても、遺言や法定相続のルールに沿って、当事者間で相続を進められます。
一方、アメリカやイギリスなどの英米圏の国では、相続が発生すると裁判所にプロベートを申請するのが一般的です。
国際相続におけるプロベートの流れは以下の通りです。
1. その国の裁判所にプロベートを申請する
2. 裁判所の管理下で管理財団が遺言書、財産、負債の整理をする
3. 裁判所の許可を得て、管理財団が財産を分配する
注意点としては、国際相続を進めるにあたっては、複数の国で手続きが必要になることがあります。
たとえば、亡くなった被相続人の本国と財産がある国の両方で手続きが必要になるというようなケースです。
なお、国際相続でプロベートを進めるには、一般的に遺産の総額の3〜10%の費用がかかるといわれます。
その内訳は、裁判所の手数料や財産の鑑定費用、弁護士・遺言執行人・会計士の報酬などです。
また、国や財産の内容によって、相続手続きを完了させるのにかなりの期間を要することがあります。
4.二重課税|1つの財産で2回税金を納めていないか
国際相続における二重課税とは、同じ相続財産に対し、2つの国の税金が課せられることを指します。
アメリカの不動産を持つ日本人が亡くなった際、日本とアメリカの両方で税金が課されてしまうようなケースです。
二重課税を回避する方法として「外国税額控除」と「租税条約」があります。
状況に応じて適した方法を選択しましょう。
・外国税額控除
「外国税額控除」とは、外国で納めた税金(全額または一部)を自国の税金から差し引く仕組みを指します。
たとえば、外国で納める相続税が2,000万円、日本で納める相続税が3,000万円の場合、差し引いた1,000万円を日本に納めるような方法です。
・租税条約
もう1つの「租税条約」とは、特定の国同士が「健全な投資や経済交流のために、二重課税を回避しよう」と約束している特別なルールを指します。
租税条約を結んでいる国は、「どちらの国で課税するか」や「外国税額控除をどのように適用するか」などを取り決めています。
日本では、2024年11月1日時点で155カ国・地域と租税条約を締結しています(執行共助条約のみを含む)。
国際相続における遺産分割の方法

遺産分割とは、被相続人の財産を配偶者や子などの相続人の間でどのように分けるかを決める手続きを指します。
日本の遺産分割は相続人の話し合い(遺産分割協議)で決められることが多いですが、国際相続の遺産分割は複雑なことが多いです。
国や状況によって進める方法は異なりますが、ここでは一例をご紹介します。
1.被相続人の基本情報の確認
国際相続で遺産分割を進める場合、まず確認すべきは以下の項目です。
・被相続人の国籍
・被相続人の住んでいた国
・財産が所在する国 など
これらの情報が重要な理由は、その内容によって前述の「準拠法」「国際裁判管轄」「プロベート」の内容が変わってくるからです。
2.財産を整理し、遺言書の存在を確認する
国際相続で遺産分割をおこなう際、優先しておこなうべきことは財産を整理すると共に、遺言書が存在するかどうかの確認です。
遺言書が存在する場合は、遺言書の有効性を確認したうえで遺産分割を進めるのが一般的です。
また、欧米圏の国などでは、プロベートが必要になります。
参考までに、海外在住の日本人の遺言書は大使館や領事館でも作成することが可能です。
「国際相続に対応した遺言書を作成していないため不安……」という場合は、各国の大使館や領事館に相談してみましょう。
3.遺産分割に必要な書類を用意する
国際相続では、遺産分割を進めるのに必要な書類の内容も各国や状況で異なります。
まずは、どのような書類が必要なのかを確認しましょう。
たとえば、海外在住・外国籍の相続人が日本で相続手続き進めるには、日本の戸籍謄本に代わる「相続証明書」や「出生証明書」「宣誓供述書」などが必要です(国によって内容が異なります)。
この手続きを実際に進めてみると、その国のルールを理解したり、翻訳作業を進めたりなど、思っていた以上の時間と手間を要することも少なくありません。
ご自身やご家族だけでは作業を進めるのが困難な場合、その国の相続に詳しい弁護士や税理士などの専門家に相談するのが望ましいでしょう。
4.遺産分割を進める
遺言書に記述された被相続人の意思や、その国の決まりに沿って遺産分割を進めます。
日本で遺産分割を進める場合は、相続人全員の話し合いによって遺産の全部または一部を分割することができます(民法907条)。
一方、アメリカなどで遺産分割を進める場合は、プロベートが必要です。
その後、それぞれの相続人の遺産分割の割合や内容が確定したら、名義変更や財産の分配などを実行します。
5.名義変更などを進める
一般的に、国際相続ではその財産がある国ごとに名義変更の手続きを進めることが多いです。
たとえば、日本人の被相続人が、海外3ヵ国で不動産を所有していた場合、それぞれの国で名義変更の手続きが必要です。
注意点としては、各国の相続のルールが異なるため、住んでいる国と財産のある国など複数の国で手続きをおこなわなければならないこともあります。
そのため、国際相続を進める際は必ず、その国の財産ごとの相続手続きのルールを理解することが重要です。
相続放棄は被相続人の国籍に注目

国際相続で相続放棄をしたい場合もあるでしょう。
基本的な考え方としては、被相続人の本国の法律が準拠法となります。
たとえば、被相続人が日本人なら日本の法律、外国人なら本国の法律に従って相続放棄の手続きを進めます。
ただし、相続の本国の法律で、「被相続人の住所地の法律を準拠法にする」というように反致を認めているケースもあります。
この場合は、被相続人が外国人でも、日本の法律に従って相続放棄の手続きを進めます(この場合、家庭裁判所で反致についての説明が必要です)。
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日本と海外の相続税の仕組みの違いについて解説

日本と海外では、相続税の考え方も根本的に異なります。
国際相続について、日本の考え方を当てはめて考えてしまうとトラブルの原因となります。
ここでは一例として、日本とアメリカの相続税の考え方を学びましょう。
日本の相続税の考え方
日本の相続税は、相続や遺贈によって財産をもらった人が納めるのが基本です。
日本人だと、財産をもらった人が相続税を払うのは当たり前のように感じられますが、海外ではこの考え方が根本的に異なる場合もあるため注意しましょう(詳しくは後述します)。
ただし、全ての人が相続税を収めるわけではありません。相続税が課せられるのは、「3000万円+600万円×法定相続人の数」で算出した基礎控除を超えた分の財産に対してです。
このほかにも、配偶者の税額軽減や各種控除があり、これらを勘案したうえで最終的な相続税の額が決まります。
海外の相続税の考え方
アメリカの相続税(遺産税)は、被相続人の財産に課税されるのが基本です。
たとえば、20億円の財産が遺された場合、この財産に課税される相続税を担当の省庁が計算し、差し引いた残額が相続人に分配されます。
ただし、アメリカの相続税でも基礎控除が設定されており、この額を超えたときに相続税が課せられます。
日本との違いは基礎控除額が高額なことです。
たとえば、2024年度の連邦遺産税の基礎控除額は1,361万ドルです(アメリカ人の場合)。
国際相続に強い弁護士の特徴

言葉や法律、手続きの違いなど、複雑な問題が山積しています。
そんな国際相続をスムーズに進めるには、専門家のサポートが不可欠です。
では、国際相続に強い弁護士とは、どのような特徴を持つ弁護士なのでしょうか。
頼りになる弁護士を見つけるための5つのポイントを紹介します。
1.国際的な法律知識が豊富
国際相続に強い弁護士は、国内の相続法だけでなく、外国の相続法や国際私法にも精通している必要があります。
相続人の国籍、被相続人の国籍、財産の所在地など、さまざまな要素を考慮し、どの国の法律が適用されるかを正確に判断しなければなりません。
また、相続税に関する知識も重要です。
各国で税制が異なるため、二重課税のリスクを回避し、節税対策を検討する必要があります。
さらに、国際的な条約や判例にも精通し、常に最新の法律知識をアップデートしていることが求められます。
2.外国語能力と国際的なネットワークがある
国際相続では、海外の相続人や関係機関とのやり取りが頻繁に発生します。
そのため外国語能力は必須です。
特に、英語だけでなく、関係する国の言語を理解していれば、よりスムーズなコミュニケーションが可能です。
また、海外の弁護士や税理士、行政機関などとのネットワークも重要です。
現地の専門家と連携することで、情報収集や手続きを効率的に進めることができます。
海外の法律事務所との提携関係があれば、さらにスムーズな対応が期待できます。
3.国際相続に関する豊富な経験
国際相続は、国内の相続に比べて複雑で、予期せぬ問題が発生することもあります。
そのため、豊富な経験を持つ弁護士に依頼することが重要です。
さまざまな国籍や財産のケースに対応した経験があれば、問題解決の糸口を見つけやすくなります。
過去の事例から得たノウハウや知識は、依頼者にとって大きな安心材料となるでしょう。
また、経験豊富な弁護士は、手続きの遅延やトラブルを未然に防ぐための対策も熟知しています。
4.円滑なコミュニケーション能力がある
国際相続では、法律や手続きが複雑なため、相続人は不安や疑問を抱くことが多いです。
そのため、弁護士には、専門用語を避け、わかりやすい言葉で説明する能力が求められます。
相続人の立場に立って、親身になって相談に乗ることが重要です。
また、文化や習慣の違いを理解し、相手に配慮したコミュニケーションを心がけることも大切です。
弁護士との信頼関係が築ければ、相続人は安心して手続きを進めることができます。
5.専門分野の特化している
法律事務所の中には、国際相続に特化した事務所があります。
このような事務所は、国際相続に関する専門知識や経験が豊富で、最新の情報を常に把握しています。
また、国際相続に特化したノウハウやネットワークを持っているため、よりスムーズな手続きが期待できます。
さらに、複数の言語に対応できるスタッフが在籍している場合もあり、言葉の壁を心配する必要もありません。
専門性の高い事務所を選ぶことで、質の高いリーガルサービスを受けることができます。
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まとめ|国際相続に強い弁護士や税理士に相談しよう

国際相続とは国をまたぐ相続であり、適用される法律、遺産分割の方法、相続税のルールなどが、国ごとに異なります。
そのため、相続人の間でトラブルが起こりやすいです。
これを回避するには、遺産を遺す方や、遺産を受け継ぐ方(または相続人)が、その国の相続のルールを理解し、信頼できる弁護士や税理士などの専門家に相談することが重要です。
また、将来的に国際相続が発生する場合は、財産が存在する国の変更や、生前贈与を積極的に活用するなどの方法でプロベートを回避することも可能です。
この場合もやはり、信頼できる専門家のアドバイスに基づいて進めることがポイントです。
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(提供:ACNコラム)