
この記事は2025年4月3日に「テレ東BIZ」で公開された「激変の時代を生き抜く 新たな道の開拓者たち」を一部編集し、転載したものです。
目次
柳井氏、孫氏…大物経営者たちが出演~キングカズ18年ぶり登場
2006年4月にスタートしたカンブリア宮殿。第1回ゲストは、トヨタ自動車の張富士夫副会長(当時)だった。以来、番組は激変の時代に勝ち残る経営者たちを描き出してきた。
「服でも世界を変えられると思っています。自分がやっている産業で世界を変えると思わないといけない」と語っていたのは、柳井正ファーストリテイリング会長兼社長(2008年12月放送)。番組開始当時、売り上げ4,000億円だったファーストリテイリングはついに売り上げ3兆円を突破した。
一方、ソフトバンクは番組開始当時、携帯事業に参入したばかりだったが、今ではグループ売り上げ6兆円を突破した。孫正義社長(当時)は「『ソフトバンクは何も発明していない、つくっていない』とよく言われます。他人のふんどしを借り倒していけば借りるのが上手になる。それも1つのお家芸です」(2010年7月放送)と語っていた。
そして当時ニューヨーク・ヤンキースだった松井秀喜とサッカー元日本代表の三浦知良も2007年1月にゲストとして登場する。
▼「正直に言えば、現役をやっていたいです。」と語る三浦知良さん

この頃、40歳を目前にして現役にこだわっていた三浦は、自らの10年後について聞かれると、「正直に言えば、現役をやっていたいです。還暦までやりたいと思っている。そんなことは不可能ですけど」と語っていた。
その言葉から18年。現在、三重県のアトレチコ鈴鹿クラブに所属する三浦は、40シーズン目となる今シーズンも現役として契約更新した。
「いつの間にかここまできていた。体力や肉体は衰えましたが、サッカーに対する気持ち、メンタルは衰えなかったことで続けてこられたのだと思います。58歳になって、今でも60歳までできるかというと、やりたいとは思いますが、『絶対やるんだ』とは思ってないです。誰と戦っているかというより、自分との戦いなので」(三浦)
1億回超再生の動画を作る~元インフルエンサーの24歳
▼「『ザ・青春』を撮っている」と語る岡春翔さん

HA-LU社長・岡春翔(24)が若者の心をつかむのは、スマホで見るショートドラマだ。
1話1分程度の学園ものの「ハル学園」。総再生数は1億3,000万回を突破した。
そのドラマづくりは常識破りのものだった。20代ばかりのスタッフに囲まれる岡。実は全員、ドラマづくりの素人だったという。
「全員初心者で、HA-LUに経験者が入ることはそんなにないです。素直でいいやつ。そういう人のほうが後から伸びる」(岡)
描かれる世界観は岡の憧れのものだ。
「自分の後ろの席に女の子が座っていて……『ザ・青春』を撮っている」(岡)
2024年創業したばかりのHA-LUの武器は、そのスピード。撮影後、最短1週間で次々にドラマをアップしていくというその若者たちのパワーに、サイバーエージェント・キャピタルなど複数のファンドが出資を行っている。
今度は新たに漫画も手がけるという。
▼今度は新たに漫画も手がける

「漫画を作って速攻でドラマ化、アニメ化する。SNSだと放送枠が決まっていないし、予算も最初はコンパクトにできる。革命が起きるんじゃないかな」(岡)
HA-LUのショートドラマには、若者を掴むノウハウが詰まっている。
「最初の3秒でカット数がえぐいんです。まず親指を止めさせる作業。いかに最初にインパクトを与えて視聴維持率を伸ばせるかが勝負なので」(岡)
▼最初の1秒でいかに目を留めさせるか。物語作りにも工夫がある

最初の1秒でいかに目を留めさせるか。物語作りにも工夫がある。
「最初の段階で誰が悪者かが分かる。話が入ってきやすいようにロジックでコンテンツを作っています」(岡)
そんな岡は、SNSに生きてきた。高校を卒業後、大阪から上京した。金も縁もない中、没頭したのが、SNSに自身を投稿することでフォロワーを増やすインフルエンサーだった。
「SNSの総フォロワー数が個人で50万人ぐらいなので、結構当たった」(岡)
2024年創業したHA-LUでスタッフを集めたのも「DMナンパです。SNSでいい人を探しまくって、DMを送ってZoomで話して、カフェに行って『一緒にやろうぜ』と」(岡)
元ニートからお坊さんまで、SNSのダイレクトメッセージを通じて声をかけ、集めた。
「若い人たちは『自分が自分である理由』をすごく探す。エンタメの領域で日本を代表する会社として世界と戦えたらかっこいいかなと」(岡)
今、渋谷である計画を進めていた。やって来たのは、2020年にオープンした商業施設「ミヤシタパーク」だ。
「TikTokを見たら『ミヤシタパーク』で撮っている若者がめちゃくちゃ出てくる。渋谷をジャックするならここはマスト」(岡)
渋谷にいくつもある巨大モニターをHA-LUのコンテンツで埋め尽くし、SNSで話題にしようと考えているのだ。
そんな岡のアイデアに協力を申し出る人もいる。長年、渋谷のまちづくりに関わる「渋谷あそびば制作委員会」の庄司明弘理事は語る。
「(岡は)あまり計画的ではない感じがしたんです。『気持ちで乗り越えよう』みたいな感じがとてもワクワクした。こういう人に成功してほしいです」
現代を軽やかに飛び回る岡の大胆さが、その成長を支えている。

アパレル最年少上場の経営者~売り上げ700万未満である決断
▼東京・原宿界隈にはそこかしこに9090の数字

yutori社長・片石貴展(31)のヒットブランドが「9090(ナインティナインティ)」。東京・原宿界隈にはそこかしこにこの数字が。渋谷区の店の前には大行列ができていた。その1990年代の文化を意識したという独自の世界観が、国内外の若者をつかんでいる。
「PAMM(パム)」もyutoriが展開するパジャマを中心とした部屋着のブランド。家で着るからこその楽しい柄にしているのだという。
「日本のパジャマや部屋着は画一的。自分にとって気分が上がるものを家の中で着るだけでも、満たされるものがある」(片石)
▼「こんなところで留まるべきではないと思っています」と語る片石貴展さん

そんな巧みなブランド戦略で、2023年、片石はアパレル企業史上、最年少の30歳で東京グロース市場に上場を果たした。今、業界で最も注目される男だ。
「今期が売上高80億円(予想)。アパレルの広大な市場に対して、こんなところで留まるべきではないと思っています」(片石)
yutoriの本拠地は若者文化の街、東京・下北沢にある。社員の年齢は圧倒的に若い。
「従業員が300人超で平均年齢は25歳なので、上場企業の中では若いと思います」(片石)
創業7年でブランド数は30以上だ。片石の成功を支え、大事にしてきたものが、本社の入り口に掲げられていた。yutoriのビジョンだという言葉「若者帝国」だ。
「若者の初期衝動と反骨精神を価値が大きいものだと捉えているので、大事にしています」(片石)
片石は驚くべき手法でヒットブランドを生み出してきた。最近できた「9090」のレディース向け新ブランド「9090girl」のディレクターを任される田中粋華は、まだ22歳だ。
「メチャクチャびっくりしましたが、信頼してブランドを任せてくれて、一気にやる気が出ました」(田中)
yutoriでは、ある能力がブランドを任される基準になっている。SNSへ商品を発信する動画作りだ。アパレルの経験より、いい動画が作れるかどうかが重要だという。
「むしろ経験者を意図的に採用していない。yutoriのカルチャーに合わないことも多いので」(片石)
yutoriブランドの購入者の多くが商品情報をSNSの動画で得ている。だからyutoriの社員たちは、若い顧客の心に触れる動画を作るため、自らモデルになり撮影に飛び回っている。画面の加工や編集を駆使し、いかに再生数を増やせるかでブランドを任されるかが決まる。
その一方で、片石はyutoriから生まれたブランドにこんなルールも作っている。
「僕らはブランドを『Yリーグ』という仕組みで管理しています。『Y5』のブランドが一番低くて、『Y1』が一番大きい。ポイントは、1年かけて月の売り上げが700万円にいかなかったら自動的に撤退することです」(片石)
「Yリーグ」はブランドを育成するyutoriの制度。立ち上げ期から定着期まで、売上に基づき5つのランクに分類。月商700万円に達しないブランドは撤退するなど、シビアな基準で管理されている。
「誰かの判断でブランドを停止すると『止めた人が憎い』となる。そうではなく、初めからルールを決めておいてフェアでロジカルが通っていると、みんな理解してくれる」(片石)
明確なルールを決める一方、社員とは議論を尽くし、深く関わりあう。
「雇用の流動化が進んで会社との関係も希薄になっている。基本的には終身雇用をしたい。もっと血の通ったやりとりを会社でもぶらさずにいきたいと思います」(片石)

ITベンチャーの旗手が再び~これまでにないコミュニティー
2024年12月にリリースされたSNS「mixi2」が話題になっている。やりとりを行うのは招待された友人たち。最近のSNSとは違うアットホームな雰囲気が受け、サービス開始1週間で登録者数は120万人を超えた。
▼「mixi2」が話題になっているMIXI創業者・笠原健治さん

今の時代にそんなSNSを作ったのは、カンブリア宮殿の第4回目のゲスト、当時30歳だったMIXI創業者・笠原健治(49)。日本で最初に普及したSNS、初代の「mixi」を作った人物だ。
2006年に番組に出演した当時、売り上げは10億円程度の会社だった。現在は本社を「渋谷スクランブルスクエア」に構え、2024年の売り上げは1,400億円を突破している。
この20年で、SNSからゲームまでさまざまな事業へ拡大したMIXI。どの事業でも笠原がこだわるのは、生活を豊かにするサービスだ。
▼「追いかけ続けてきた20年だったと思います」と語る笠原さん

「愛情を感じるとか、ほっこりするとか、豊かなコミュニケーションを広げて世界を幸せな驚きで包む。それを追いかけ続けてきた20年だったと思います」(笠原)
そんな笠原が自ら開発し、今、世界的にヒットするサービスがある。写真や動画を家族で共有できるアプリ「みてね」だ。
「おじいちゃん、おばあちゃんも毎日楽しんで見てくれているようなので、すごくうれしいです。『(子どもが)今、立った』とか、それを通して家族とコミュニケーションを取れるのがいい」(利用者の鳥畑茉莉名さん)
その操作の簡単さで、今や利用者数は世界で2,500万人を超えた。
今、どんなサービスが求められているのか、笠原は休む間も無く挑み続けている。
~村上龍の編集後記~

片石さんは、「古着女子」という古着好きが集まるコミュニティを作っていた。その後、資金調達をして、yutoriを法人化、上場を達成し、現時点では30以上のブランドを展開。成長は「Yリーグ」で育む。
月間の平均売上に基づき、立ち上げ期~確立期を経て定着期に至る。立ち上げから1年以内に月次売上が700万円に達しなければ撤退。なかなか厳しい。HA-LUは縦型のショート動画を作る。「ワカモノ帝国」がどういうものかわからないけど、できたら面白い。