
これまでの事業変遷
—— 葬儀業界の変遷について、事業の歴史を踏まえてお聞かせください。
株式会社ティア 代表取締役社長・冨安 徳久氏(以下社名、氏名略) 私はこの業界に入ってもう46年になります。私が葬儀業界に携わり始めた頃、葬儀社というのは今のようにトータルで式典をプロデュースする存在ではありませんでした。むしろ、道具の貸し出しが主な役割で、門前の提灯を貸し出したり、祭壇を提供したりするのが中心でした。当時、葬儀を式典として司るという概念はほとんどありませんでした。
——どのように変わっていったのでしょうか?
冨安 大きな変化が訪れたのは、昭和30年代頃です。その頃から冠婚葬祭を包括的にサポートする「互助会」という仕組みが生まれました。この互助会制度では、積立方式で会員を募り、結婚式の衣装の貸し出しやプロデュース、さらにはお葬式のサポートも手掛けるようになったのです。専用の結婚式場や葬儀会館が徐々に登場し、式典の形が変わり始めました。
——専用会館が登場した背景には、どのようなニーズがあったのでしょうか?
冨安 当時、葬儀の現場では祭壇をトラックに積み込み、依頼者の自宅や集会所、お寺などに運び込んで飾り付けをするのが一般的でした。そのため、効率的な運営が難しく、次第に専用会館で一括して行う方が合理的だという流れが生まれたのです。この流れの中で「セレモニーディレクター」という役割が注目されるようになりました。式典全体をトータルでプロデュースし、打ち合わせから進行までを手掛ける流れが昭和30年代から40年代にかけて定着していきました。
——ティア様が28年前に創業され、現在の成功を収められたわけですね。
冨安 私がティアを創業したのはちょうど大規模な葬儀会館が主流になり始めた時期でしたが、当初から「少子高齢化」の影響を見据えていました。少子化による親族の減少、高齢化による高齢者が親を送るという構図の増加。こうした時代の変化を考えると、大規模会館ではなく、地域密着型の小規模会館が求められるようになると判断しました。この結果、名古屋市内ではトップシェアを獲得しました。
——全国展開についてはいかがでしょうか?
冨安 全国展開も視野に入れていますが、まだまだ課題が山積みです。関西の会館数は増えてきましたが、関東はまだまだこれからです。2023年からは北陸地方にも進出を始めました。最終的には47都道府県すべてにティアブランドを届けたいと考えています。
自社事業の強みやケイパビリティ
——事業の強みやケイパビリティについてお聞かせいただけますでしょうか?
冨安 強みは人財です。人が最大の差別化要因となる業種ですから、人に対してかける時間、労力、そしてお金を惜しまず、社員の教育に投資しています。そのために、葬儀業界では初めてのヒューマンリソースセンター、つまり教育センターを作りました。新卒や中途採用、さらにはフランチャイズの社員に向けて、学校のカリキュラムのような研修体制を整えています。教育部が全ての研修を担当し、物事の考え方や捉え方の教育まで行っています。
例えば、働くということは「与えること」です。他の人は働くことを「お金を得ること」と考えがちですが、私たちは違います。目指すのは「日本で一番“ありがとう”と言われる葬儀社」です。売上や利益で日本一を目指すのではなく、お客様からの感謝の言葉が結果的に売上や利益をもたらすと考えています。人に資本を割いて教育をすることで、お客様の満足度が上がります。だからこそ人にお金をかけられるという循環を作り上げています。
—— その循環がうまくいっているのですね。全国展開の自信もそこから来るのでしょうか。
冨安 そうです。人、物、金、情報という四大資源がありますが、すべて人が司ります。人に対してお金や時間を使わないところは、令和時代の経営、21世紀経営では継続が難しいと思います。今期のスローガンにも「育め。人的志本経営」と入れています。志とは使命感です。使命感を持って、より多くの人に喜んでもらうことを目指しています。
これまでぶつかってきた課題や変革秘話
——創業以来、順調に成長を遂げてきた印象がありますが、その過程で大きな壁や課題に直面されたこともあったのではないでしょうか。そうした局面でのエピソードについてお聞かせいただけますか?
冨安 この業界は特に、独特な慣習や消費者心理が根強く残っているため、変革には多くの壁がありました。例えば、昔は「親が生きているうちに葬儀のことを考えるなんて不謹慎だ」という考え方が主流でした。この意識は業界自体が消費者に広めていた面もあり、結果として消費者が事前に葬儀について知りたいと思っても、情報にアクセスすることすら難しかったのです。
消費者の視点に立てば、事前に費用がいくらかかるのか、どのように準備すればいいのかを知りたいというのは当然のことです。私たちは、そうした消費者の不安を解消するために、比較的早い段階でインターネットでの見積もりサービスを導入しました。必要事項を入力するだけで、料理や返礼品、祭壇などの費用がすぐに分かる仕組みを作ったのです。
——それは画期的ですね。しかし、業界全体の慣習に挑む形になると、相当な反発もあったのではないでしょうか?
冨安 業界団体からの圧力や嫌がらせも経験しました。しかし、私は最初から覚悟を持っていましたし、こうしたことが起こるのは想定内でした。それでやめるようでは消費者のための変革は実現できません。
——困難を乗り越えた背景には、強い覚悟があったということですね。
冨安 変革を進める上で、重要なのは覚悟と消費者目線を貫く姿勢です。しかし、変革にはもう一つ大きな課題がありました。それは人財育成です。スピード感を持って展開する中で、人財の採用や教育が追いつかない時期があったのです。
——スピード展開と人財育成のバランスは、非常に難しいテーマですね。
冨安 教育が追いつかないまま現場に立たせてしまうと、ティアの理念である「ご遺族のために尽くす」という本来の姿勢が薄れ、流れ作業のような対応になりかねません。これでは他社との差別化も難しくなります。そのため、教育に特化した「ティアアカデミー」を設立し、体系的なカリキュラムを整えました。また、模擬葬儀が行える専用の研修センターも建設しました。
——研修センターの設立は大きな投資ですね。
冨安 人財育成にお金と時間をかけることが、最終的には企業の成長に直結します。また、葬儀業界は24時間365日対応が求められるため、労務管理や働きやすい環境づくりも重要です。最近では、人事制度の改革にも力を入れ、より働きやすい職場環境を目指しています。
今後の事業展開や投資領域
——今後の事業展開や投資領域についてお聞かせください。
冨安 ティアは全国展開を目指しています。現在、私たちは1都1府10県で事業を展開していますが、最終的には47都道府県すべてにティアの葬儀サービスを届けたいと思っています。
——全国展開の実現には多角的なアプローチが必要ですね。
冨安 現在、私たちは4つの方法を柱に事業展開を進めています。まずは直営店の拡大、次にフランチャイズ事業、そしてM&Aによる既存の事業者の吸収。最後に、「企業連合」と呼んでいる取り組みです。この4つを駆使することで、全国制覇を目指しています。
——特にM&Aや企業連合は、スピード感のある展開を可能にする手法ですね。
冨安 2023年には2社をグループ化し、一気に30店舗以上を増やしました。もちろん、M&Aでは、理念や運営方針を浸透させることが重要です。
——葬儀事業以外の新たな投資領域についてはいかがでしょうか?
冨安 少子高齢化が進む中で、葬儀事業だけでは限界があると感じています。そこで注力しているのが、生活関連事業です。現在、50万人を超える会員様に対して、葬儀以外のサービスを提供し始めています。たとえば、家事代行やエアコン掃除、庭の手入れなど、日常生活を支える便利サービスを展開しています。ただ単にサービスを提供するだけではなく、「感動」を届けることを大切にしています。
——「感動を届ける」という点は御社の理念とも一致していますね。
冨安 経営理念には「哀悼と感動のセレモニー」という言葉があります。この「感動」という要素を、葬儀だけでなく生活関連事業にも注入しています。たとえば、エアコン掃除をお願いしたお客様が、「若いスタッフがとても丁寧に対応してくれて感動した」と感じるような体験を提供したいと思っています。こうした感動が、リピーターを生み出し、事業の持続性につながると考えています。
——新しい事業として「生前葬」も進めているとお聞きしました。
冨安 はい、生前葬も積極的に取り組んでいます。ただ、「葬」という字が暗いイメージを与えるため、私たちはこれを「感謝想」と呼び、商標登録も取得しました。この取り組みは、元気なうちに感謝の気持ちを伝え合う場を提供するというものです。たとえば、60歳や70歳、80歳といった人生の節目に、家族や友人を招いて感謝を伝え合うセレモニーを行う。これが「感謝想」のコンセプトです。今年には帝国ホテルでの大規模な感謝想も予定しています。
——葬儀業界の未来を見据えた新たな潮流ですね。
冨安 時代のニーズを先読みし、新しい潮流を自ら作ることが大切です。他社が始めた流行に乗るだけでは、差別化が難しく、収益も安定しません。私たちは、消費者のニーズを先取りし、独自の価値を提供することで成長を続けていきたいと考えています。
メディアユーザーへ一言
——最後に、このインタビューを読んでいる経営者や投資家の方々に向けて、ティア様の意気込みやメッセージをお願いいたします。
冨安 2つのことをお伝えしたいと思います。
1つ目は、私たちが取り組んでいる葬儀という事業は、誰もが人生で一度は通る道に深く関わるものだということです。ターゲット層に制限がある商売も多い中、葬儀業界は非常に社会性の高い業界です。2040年頃まで日本の死亡人口は増え続けますが、それを支える担い手は減っていくという構造的な課題があります。その中で、地域社会に根付きながら、長く安定して続けられる事業が葬儀なのです。
フランチャイズとしても大きな可能性があり、事業の立ち上げから運営まで、私たちは全力でサポートします。葬儀という社会的使命のある事業を通じて、より多くの人の役に立ちたいと考えている方には、ぜひ私たちとともにチャレンジしていただきたいと思います。
2つ目は、経営において「志」を持つことの重要性です。日本には100年、200年続く長寿企業がたくさんあります。それは、売上や利益といった数字だけを追うのではなく、「多くの人を喜ばせたい」という志を追求してきたからだと私は思っています。ただ利益を追求するだけでは、消費者や社会に不利益をもたらすような不祥事を招きかねません。
数字を追求すること自体は間違いではありませんが、それに加えて「絶対に消費者を裏切らない」「法に触れるようなことをしない」という姿勢を経営に組み込むべきです。そうした志のある経営が、長寿企業の土台を作るのだと思います。そして、社員一人ひとりがやりがいを感じながら働ける環境を整えることこそが、経営者の務めだと考えています。
ティアが目指すのは、「幸福を創造する経営」です。葬儀だけに限らず、生活関連事業や新しいサービスを通じて、人々に感動を届け、幸せを創り出す企業でありたいと考えています。
- 氏名
- 冨安 徳久(とみやす のりひさ)
- 社名
- 株式会社ティア
- 役職
- 代表取締役社長