入江工研株式会社
(画像=入江工研株式会社)
入江 則裕(いりえ のりひろ)――代表取締役社長
1957年6月23日生まれ。法政大学工学部経営工学科を卒業後、企業勤務とパソコンスクール運営を経て、1999年に父の会社である入江工研を継承。父の死や工場の度重なる自然災害、リーマンショックを乗り越え、独自の技術を開発し続ける。経営方針「守破離」を掲げ、技術の継承と発展に尽力している。趣味は生け花やフルート演奏など多岐にわたる。
入江工研は 1966 年、まだ東京オリンピックの余韻が残る銀座で産声をあげました。以来約60 年間、当社は金属ベローズの製作を中核として、技術革新と研究開発、そして生産性の向上に努めてきました。
初期には、空調用伸縮継手の他、鉄道用、原子力関係のベローズなどの製作を主業としてきましたが、その後、加速器の部品の製作を契機として、高真空技術分野に進出。
今日では、半導体製造装置用各種真空ベローズをはじめ、ビーム診断機器、真空バルブなど、真空装置付属機器の分野で数多くの製品を提供し、一品仕様などお客様のニーズに合わせたベローズが製造可能であるため、広くご愛顧をいただいております。
お客様はベローズを必要とされる産業分野の企業で、一般の消費者の方が目にすることが「ほとんどない」商品でもあります。 当社の標榜する「見たことのないモノを創る会社」は普段目にすることがほとんどない製品(ベローズ)の製造をしている意味と「研究開発」を推奨し、新規製品を生み出す企業姿勢を表しております。

目次

  1. これまでの事業変遷
  2. 自社事業の強みやケイパビリティ
  3. これまでぶつかってきた課題や変革秘話
  4. 今後の事業展開や投資領域
  5. メディアユーザーへ一言

これまでの事業変遷

—— まずは、御社の事業の変遷についてお伺いしたいと思います。

入江工研株式会社 代表取締役・入江 則裕氏(以下、社名・氏名略) 当社は主に半導体製造装置の部品を製造している会社です。高速鉄道や宇宙衛星の部品も手がけています。私がこの会社に関わるようになったのは1999年です。当時、父が77歳で、私は次男として家業を継ぐことになりました。本来は兄が継ぐ予定だったのですが、兄が継ぎたくないとなり、私に話が回ってきました。私はその時、パソコンスクールを運営しており、さらにその前はSEをしていました。そのため、現在の事業とは全く異なる分野からのスタートでした。

事業承継の際には、父は兄に継がせたかったようですが、結果的に私が継ぐことになりました。私は技術者ではないので、周囲の役員たちが最初は歓迎してくれましたが、次第に言うことを聞かなくなりました。父は高速鉄道の設計者の一人で、国鉄を辞めてこの会社を設立しました。非常にバイタリティのある人物で、病院に入院しても論文を書き続けるような人でした。特に父が倒れてからは、会社の運営が私に回され、役員たちとの関係に苦労しました。

—— それはまさに試練の連続ですね。

入江 就任してから4年後に父が亡くなり、その直後に四国の工場に危機が訪れました。工場は山の上に建っており、拡張工事中に雨が降ってのり面が崩れてしまったのです。修復には1年かかりました。その後も、川沿いにある別の工場が水害に見舞われました。こちらは3か月ほどで復旧しましたが、その後リーマンショックが起き、売上が3分の1に落ち込みました。しかし、大手企業からの受注があり、なんとか乗り越えることができました。

自社事業の強みやケイパビリティ

—— 事業の強みやケイパビリティについてお聞かせいただけますか。

入江 我々の強みは非常にニッチな分野にあります。特に真空に関する特殊な製品を作っていることが挙げられます。私の父が高速鉄道の設計者だった関係で、緻密で特殊な部品を作ることに長けているんです。

また、我々は個別の設計から生産までを手がけることが得意で、職人も多く抱えています。宇宙衛星や半導体の部品といった、カスタム製品が多いのが特徴です。サイクロトロンといった国家プロジェクトにも関わっています。技術力には自信がありますが、少量多品種生産が中心で、大量生産には向いていません。

それに加えて、ノーベル賞に関連するようなプロジェクトにも部品を提供しています。ただ、やっていることは地味かもしれません。水星まで飛んで行った部品も作っていますし、月のプロジェクトにも関与しています。一般的にはあまり知られていませんが、技術力は評価されています。

大学との連携も強く、日本表面真空学会の副会長を務めている関係で、研究所とも繋がりがあります。こうした繋がりを活かして、さまざまなものを開発しています。

—— 輸送用機器の業界から広がっていったのですね。

入江 はい。やっているうちに、核融合や真空機器に広がっていきました。半導体も真空の中で作るので、その分野にも進出しています。今では多品種少量から多品種多量に近いところまで来ています。

—— 日本の中小企業が多品種少量から成長するのは難しいと言われていますが、どう感じていますか。

入江 確かに、いろんなことをやらなければならないので、勉強も大変です。絞り込みたいという気持ちもありますが、1つ1つの案件が大きな利益を生むわけではないので、現状はこのような形です。

これまでぶつかってきた課題や変革秘話

—— これまでに直面してきた課題について、どのように乗り越えてこられたのか、お聞かせいただけますか。

入江 私たちの会社はもともとニッチな分野で活動していました。誰も知らないような研究所のような存在で、一品一様で製品を作っていたんです。しかし、半導体の分野に進出することになり、表舞台に立つことになりました。それまで裏通りを走っていたのが、いつの間にか表通りを走っているような感覚でしたね。

そこでまず、大量生産が必要になりました。それに伴い、製品の管理やサービスも重要になりました。特に、世界中に部品が散らばっている状況では、メンテナンスやサービス体制が非常に大変です。また、新製品を常に開発し続ける必要があることも課題でした。

—— 新製品について、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。

入江 大きなプロジェクトとしては、医療分野に進出しています。これまで半導体分野を扱ってきましたが、真空技術を応用して「吊るさない点滴」を開発しました。従来の点滴は吊るす必要がありますが、私たちの製品は床に置くことができるため、家庭用医療に非常に適しています。点滴を吊るす場所がない家庭でも使用できるようにしたのです。災害時や輸送時に非常に有効で、オリンピックのような大規模イベントでの活用も考えています。 もう一つは、特殊な真空ポンプの開発です。このポンプは真空を作るためのもので、現在非常に高評価を受けています。

—— そのような革新的な製品をどのようにして思いつかれたのでしょうか。

入江 吊るさない点滴に関しては、ビジネスマッチングの機会を利用しました。大阪の商工会議所で行われたイベントで、企業が直面している問題を解決するために、新技術を活用できるかどうかを考えました。そこで私たちの技術が役立つのではないかと考えたのが始まりです。

—— なるほど、アンテナを張り巡らせて、新しい可能性を探る姿勢が大切ですね。

今後の事業展開や投資領域

—— 今後の事業展開について、重点的に投資したい領域をお聞かせいただけますか。

入江 私たちは真空技術の分野に注力しています。私たちは「真空の花」と言っていますが、新しい分野で真空技術を活用しようというコンセプトを掲げています。具体的には、医療分野や宇宙、核融合、半導体、太陽電池など、多くの分野で真空技術が必要とされています。私たちはその特殊な分野で花を開かせようとしています。

—— 真空技術の重要性について、もう少し詳しく教えてください。

入江 真空技術者の資格というものがあり、全国で1500人ほどしかいないんです。1人1人の付加価値が非常に高い。特に半導体の分野では、金属と金属が噛み合わないように設計する必要があります。これができる人間が少ないため、我々にとって大きなチャンスです。

—— 今後の目標はありますか。

入江 各分野のオピニオンリーダーになることを目指しつつ、現在は半導体業界と共に成長できるように、コンサルタントを入れて計画を進めています。

—— 次の世代へのバトンはどのように考えていらっしゃいますか?

入江 娘がいますが、誰がやってもいいような状態に持っていくことが大切だと考えています。私の親戚は生け花の世界で長い歴史を持っており、次の世代に繋げるために新しいものを作れる人を探しています。事業承継も同じで、次の時代を担う人材を見つけることが重要です。

経営は何があってもめげない打たれ強さが必要です。余談になりますが、私の父は戦争経験者で、非常に強い意志を持っていました。戦争に行かないために必死で学び、理系の道を選びました。高速鉄道を作った時も、焼け野原からの復興を目指して必死でした。そういった強さや図太さのある経営マインドを次の世代にも渡していきたいですね。

基本的には半導体分野をベースにしつつ、医療や鉄道分野も拡大していきます。

メディアユーザーへ一言

—— 最後に、メディアの読者さんに向けて、一言メッセージをお願いできればと思います。

入江 日本は今、少し元気がないと言われていますが、そんなことはないと思います。日本は世界で最も古い国の一つですし、その長い歴史の中で培われた技術は、簡単には破られません。だからこそ、日本のものづくりには自信を持って、夢を描き続けることが大切です。 日本は、一国で独自の文化圏を形成している唯一の国です。それは誇りに思うべきことであり、歴史を見直し、前に進むことが重要です。我々のスローガンである「守破離」の精神も大切です。伝統を守りつつ、新しいものを生み出すことが、日本の強みです。

これからの時代を背負う経営者の皆さんには、どんな時代でも、夢を描き続け、自信を持って前に進んでいってほしいです。

氏名
入江 則裕(いりえ のりひろ)
社名
入江工研株式会社
役職
代表取締役社長

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