デジタル遺産の相続で家族が困らないための生前整理のポイント
(画像=terovesalainen/stock.adobe.com)

相続では、家族に引き継ぐ財産として「どこに何がいくらあるのか」を確定させることが必要です。現金や預金、株式など、多くの財産はその種類や金額を確定することができます。

しかし、財産のなかにはその種類や金額がわかりにくいものもあります。特に、現代において問題となっているのがデジタル遺産です。相続に向けてしっかりと管理しておかないと、どこにどの財産があるのかわからなくなってしまいかねません。その結果、相続手続きが進まず家族を困らせることになってしまいます。

本記事では、デジタル遺産の概要や相続手続など、デジタル遺産の相続と生前整理のポイントを解説します。

目次

  1. 「デジタル遺産」とは故人が遺したネット上の資産・情報のこと
  2. デジタル遺産の相続手続き
  3. デジタル遺産の整理は生前にやっておこう
  4. 遺言書にデジタル遺産を盛り込もう
  5. 専門家や専門サービスを活用しよう
  6. 残されたデジタル遺産で家族を困らせない対策を

「デジタル遺産」とは故人が遺したネット上の資産・情報のこと

はじめに、デジタル遺産とは何かを見ていきましょう。その名のとおり亡くなった人が生前に持っていたデジタル形式の財産で、金銭的価値があるものです。

デジタル遺産には、次のようなものがあります。

  • ネット銀行の口座
  • ネット証券の口座
  • FX
  • 暗号資産(仮想通貨)
  • 電子マネー
  • クレジットカードやネットショップなどのポイントやマイレージ
  • その他デジタルに関係する資産(NFTや著作権など)

デジタル遺産には、ネット銀行やネット証券の口座だけでなく、ネットショップなどのポイントやマイレージも含まれていることに注意しましょう。

また、デジタル遺産と似ているものに「デジタル遺品」があります。これは、金銭に関係しないデジタルの財産を指します。

デジタル機器はもちろん、スマートフォンに保存された写真や動画などのデータやクラウドのデータ、SNSやブログのアカウントやデータなどがデジタル遺品です。一般的に、デジタル遺産といわれるものには「デジタル遺品」が含まれることも少なくありません。

デジタル遺産やデジタル遺品の厄介なところは、所有者の遺族が利用状況を把握しにくいことです。

また、遺族が故人のデジタル遺産やデジタル遺品を把握できても、ログインのパスワードなどがわからないと中身を確認することができません。所持しているデジタル遺産やデジタル遺品の種類やアカウント名・パスワードなどを整理し、遺族にわかるようにまとめておくことが重要です。

デジタル遺産の相続手続き

次に、デジタル遺産がある場合の相続手続きについて見ていきましょう。

デジタル遺産の相続手続きの流れ

デジタル遺産の相続手続きは、一般的な相続手続きと同じです。

しかし、デジタル遺産がある場合は特別に注意しなければならないことがあります。

まず、一般的な相続手続きの流れから見ていきましょう。

①相続人と相続財産の確定(遺言書がある場合は遺言書も確認する)
②誰がどの財産をいくら引き継ぐのかを確定する(遺産分割協議書の作成)
③遺産の名義変更手続き
④相続税の申告と納税

デジタル遺産がある場合は、遺産分割の対象となるものを理解しておかないと、遺産分割のやり直しなどあとでトラブルになりかねません。

遺産分割の対象となるものは、デジタル形式の財産で金銭的価値があるものです。つまり、上述したデジタル遺品を除くデジタル財産が、遺産分割の対象となります。

金銭的価値のないデジタル遺品は、遺産分割の対象とはなりませんが、あとでトラブルになることもあるため、相続手続きの際に何があるか遺族が把握できるようにしておきましょう。

デジタル遺産の相続トラブル事例

デジタル遺産の相続では、次のようなトラブル事例があります。

・パスワードが不明でポイントなどが失効
これは、「故人が多額のポイントなどを所有していたが、遺族はパスワードを知らないために専用サイトにログインできずポイントが失効してしまった」というものです。ネットショップのポイントやコミュニティ通貨などでは、有効期限を過ぎると失効するものが多い傾向です。ログインIDやパスワードがわからないと、ポイントなどを利用できないまま失効してしまいます。

・サブスクの自動課金が続き解約できず無駄な支出
これは、「故人が音楽のサブスク利用をしていたのを家族が知らずに放置していたため、毎月利用していないサブスクに支払いを続けていた」というものです。サブスクは、利用者が亡くなったからといって自動で利用停止されるものではありません。そのため、遺族が気づくまでずっと支払いが続きます。

・SNSアカウントが放置され乗っ取りや不正利用
これは、「SNSアカウントが放置され、気づいたときには第三者に乗っ取られていた」というものです。SNSアカウントが第三者に乗っ取られると、犯罪などに利用され思わぬ形で加害者となってしまうこともあります。

・デジタルデータ(写真・動画)の消失
これは、「写真や動画などのデジタルデータの行方がわからず、気づけば消失していた」というものです。家族や亡くなった人の大事な思い出が不本意になくなることは、人にとってはお金に代えがたい価値の消失となります。後悔しないためにも、デジタルデータがどこに保管されているのかを生前にまとめておくことが必要です。

・相続人が遺産の存在に気づかず申告漏れでトラブルに
これは、「相続人がデジタル遺産の存在に気づかずに相続税の申告で漏れてしまった」というものです。相続税の申告でデジタル遺産が漏れてしまうと、申告のやり直しが必要なだけでなく納税額が少なかったことに対する延滞税などのペナルティが課されます。また、遺産分割のやり直しをしないといけないなどの手間がかかります。

デジタル遺産の整理は生前にやっておこう

デジタル遺産で相続トラブルが起こることを防ぐためには、生前時点でのデジタル遺産整理が必要です。

デジタル遺産管理ノートの作成

デジタル遺産を整理しておくためには、普段からデジタル遺産管理ノートを作成しておきます。

デジタル遺産のアカウント一覧やログイン情報(IDやパスワードなど)、残高や契約状況などをノートに一覧化しておくものです。デジタル遺産管理ノートには、決まった形式はなく、わかりやすくまとまったものであれば、どのような形式でも問題ありません。

また、紙で作成してもパソコンで作成してもどちらでも大丈夫です。ただし、デジタル遺産管理ノートの存在を遺族に示すためにも、通帳や遺言書などと一緒に保管するなど、見つけやすい形で保管しておかなければいけません。あらかじめ信頼できる家族に、デジタル遺産管理ノートがあることを知らしておくことも考えましょう。

デジタル遺産・情報の取捨選択

デジタル遺産を自分の死後に、どのように扱ってほしいのかも事前に決めておきましょう。たとえば、写真や動画、SNSのアカウントなどをどのように扱ってほしいか決めておきます。消去してほしい場合は、デジタル遺産管理ノートなどにその旨を明確に記載しておきます。

また、自動解約・自動削除設定を活用することも考えましょう。Googleの「アカウント無効化管理ツール」やAppleの「故人アカウント管理連絡先」の機能を使えば、相続時に自分のアカウントの設定を遺族に引き継ぐことができます。

そのほか、各種サービスにも同様の機能があるケースが多いため、利用しているサービスに引き継ぎ機能があるかどうか確認しておきましょう。

遺言書にデジタル遺産を盛り込もう

デジタル遺産管理ノートの作成とともに行いたいのが、遺言書にデジタル遺産を盛り込むことです。遺言書に何のデジタル遺産があるのか、誰に引き継ぐのかなどを記載することでデジタル遺産が見つからないなどの相続時のトラブルを防ぐことができます。

また、デジタル遺産管理ノートの紛失など万が一を考えて、遺言書にもデジタル遺産のアカウント一覧やIDやパスワードなどのログイン情報を記載しておきましょう。

一般的な遺言書は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つがあります。自筆証書遺言とは、手書きで作成した遺言書のことで、公正証書遺言とは公正証書の形で作成された遺言のことです。公正証書遺言の場合、遺言の作成を公証役場の公証人がおこなって保管もしてくれるので安心です。

自筆証書遺言は、自分で遺言を作成して管理するため、紛失したり遺族に遺書があることが気づかれなかったりする恐れがあります。そのため、法務局などに遺言書を預ける「自筆証書遺言書保管制度」を活用して保管することも選択肢の一つです。

専門家や専門サービスを活用しよう

「相続のためのデジタル遺産管理が不安」という人も多いのではないでしょうか。その場合は、専門家や専門サービスの活用を考えます。弁護士や司法書士に頼めば、遺言書作成やデジタル遺産を含む相続手続き全般のサポートをしてもらえます。

デジタル遺産管理だけで良い場合は、デジタル終活アプリやクラウド型エンディングノートといったデジタル遺産管理サービスを利用することも選択肢の一つです。

また、家族の対応困難な場合は「死後事務委任契約」の利用も考えます。死後事務委任契約とは、第三者に対して死後にデジタル遺産管理を含むさまざまな手続きをおこなうことを委任する契約のことです。このように、さまざまなサービスから自分にあったものを選択し、利用を考えましょう。

残されたデジタル遺産で家族を困らせない対策を

デジタル遺産とは、故人が生前に持っていたデジタル形式の財産で、金銭的価値があるものです。たとえば、ネット銀行やネット証券の口座、暗号資産(仮想通貨)や電子マネーなどが相当します。

また、スマートフォンに保存された写真や動画、SNSのアカウントやデータなどのデジタル遺品もデジタル遺産に含まれることが多い傾向です。デジタル遺産の相続では、遺族がIDやパスワードを把握していないためにログインできないこともあります。

また、そもそもデジタル遺産の存在を知らないことも多く分割協議や相続税申告のやり直しなど、さまざまなトラブルが起きる原因となることも少なくありません。

デジタル遺産管理ノートの作成や、遺言書にデジタル遺産を盛り込むといった対策をおこない、死後に遺族を困らせないようにしましょう。

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(提供:ACNコラム