ID為替レポート
(画像=外為どっとコム マネ育チャンネル)

総括

FX「ドル安基調、米雇用悪化、米株の伸び悩みはトランプ政策によるもの」

ドル円=144-149、ユーロ円=170-175、ユーロドル=1.15-1.20

通貨ごとの注目ポイント

*円「通貨6位(5位)、株価15位(14位)、8月はドル安だが円が最強ではない。株価も世界では下位グループ」
(8月はドル安だが円が最強ではない。株価も世界では下位グループ)
 8月は米雇用統計の悪化、パウエル議長の利下げの可能性の示唆があり、昔ならリスク回避や、米金利低下の円買いが殺到しそうなものだったが、円は先週は5位、8月はここまで3位と、それほど強くない。
年間では6位。貿易赤字の縮小と外貨投信の増加で需給が拮抗しているからだろう。
 日経平均は最高値を更新したが、主要市場では15位と下位グループにいる。世界はもっと強い。
日本の10年国債利回りはジリ高推移して1.619%。
 
(植田日銀総裁、賃金上昇圧力に言及)
 植田日銀総裁は賃金・物価動向について、新型コロナ禍後の世界的なインフレ進行が外的ショックとなり、プラスの物価上昇率が続くとの予想が定着したと指摘。今後も「大きな負の需要ショックが生じない限り、労働市場は引き締まった状態が続き、賃金には上昇圧力がかかり続ける」との見方を示した。
 ただ次の日銀利上げ時期について10月が多く42%、次いで来年1月が33%、12月が11%。

(今週は日銀の基調的なインフレ率を捕捉するための指標など)
 今週は日銀の基調的なインフレ率を捕捉するための指標、7月企業向けサービス価格指数、8月の月例経済報告、7月雇用統計、8月東京都区部消費者物価、7月鉱工業生産、小売業販売額など重要指標の発表が多い。

(ラチェット効果)
 ラチェット効果は、経済学の概念の一つで、一度上昇した価格、支出、生産量等が後に縮小しない現象。具体的には、企業の生産量や消費者の消費水準が一度上昇すると、それが新たな基準となり、その水準以下に下がることが難しいという現象を言う。物価抑制のため利上げや円買い介入を望む人もいるが、ラチェット効果により物価下落は抑制される。利上げなどで株価下落、企業業績の悪化、運用成績の悪化、税収が起きれば日本経済は縮小する。

*米ドル「通貨11位(11位)、株価(NYダウ)14位(15位)、ドル安基調と株の伸び悩みはトランプ大統領の蒔いた種」
(ドル安基調継続、株も他市場と比べるとそれほど強くない)
 今月は7月雇用統計の悪化とパウエルFRB議長の利下げの可能性の示唆がありドルが下落、ドルは月間10位、年間は11位とドル安基調は続いている。株価はダウが最高値を更新と雖も年初来7.26%高で上位グループはギリシャの43%高を始め20%以上高くなっている市場も多いので米株の勢いはそれほどでもない。10年国債利回りは4.258%で月初の4.375%から低下している。

(9月の利下げ期待高まる)
 パウエルFRB議長は、ジャクソンホールの経済シンポジウムで9月のFOMCで利下げを実施する可能性を示唆しつつも確約はせず、労働市場へのリスクが高まっていることを認めつつも、インフレ高進のリスクが依然存在するという見解を示した。
  パウエル議長は「失業率やその他の雇用関連指標が安定しているため、政策スタンスの変更を検討する際は慎重に進めることができる」と述べた。同時に「政策は引き締め的な領域にあり、ベースライン見通しとリスクバランスの変化を踏まえると、政策スタンスの調整が正当化される可能性がある」とした。

(雇用悪化と、株の伸び悩みはトランプ政策によるもの)
 雇用悪化は、DOGEのよる政府効率化による大量解雇がある。不法移民の送還もあった。株が他市場に比べ伸び悩んでいるのは、まだ続く関税の不確実性で、資金が米国以外に逃避しているからだろう。

(米雇用統計の2つの調査方法での違い)
 失業率などの測定に用いられる家計調査と新規雇用者数や賃金の測定で用いられる事業所調査の間で影響度が異なっている。事業所調査では、調査期間中に給与が発生していない場合には雇用者数としてカウントされない。一方で、家計調査では、さまざまな理由により働けず、給与が支払われていない場合であっても、雇用されている者は対象としてカウントされる。このため、労働省は事業所調査と家計調査では異なる結果となることがある。(例、災害。また公務員の大量解雇の影響は=いつ辞めるのか)

*ユーロ「通貨1位(1位)、株価4位(4位)DAX)、通貨首位。株価も強いが経済が強いわけでもない。米の不確実性によるもの」
(通貨・株が強いのは経済の強さからではない)
 ユーロは強い、スイスと同率首位(年間)。株価も強い、独DAXは年初来22.37%高、ギリシャ(アテネ)は43.16%高。ただ経済が強いかというとそうでもない。やはり米国の不確実性による欧州への資金逃避が一大きいのだろう。独10年国債利回りは2.73%。

(今週の指標)
 今週は独の8月IFO景況感指数、7月小売売上、雇用統計、8月消費者物価、デギントスECB副総裁の講演がある

(8月PMIは改善)
ユーロ圏8月製造業PMIは50.5(前回49.8)、サービス業50.7(同51.0)、総合51.1(同50.9)とやや改善。

(ECBのタカ派)
 独連銀ナーゲル総裁は米ドルとユーロの為替レートは基本的に長期平均なので心配する必要はないと述べた。またサービスインフレが高止まりしていることから、追加利下げの「ハードルは高い」という認識を示した。総裁は、政策金利について「現時点で一段の措置を講じるべきという議論はあま見られない」と語った。

(米欧共同声明)
 米国とEUは7月に合意した新たな貿易協定の枠組みに関する共同声明を発表した。米国はEUから輸入する大半の製品に15%の関税を課し、EUは米国の工業製品に対する関税を撤廃するほか、農産物や水産物に優先的な市場アクセスを与える内容が明記された。

米国が現在課している37.5%の自動車関税は、EUが合意した対米関税の引き下げや撤廃に必要な法案を導入すれば15%に引き下げられる。
また、声明によると、EUは7500億ドル相当のLNGや石油、原子力エネルギー製品に加え、400億ドル相当の米製の人工知能(AI)半導体を購入する。さらに、EU企業は2028年までに米国の戦略的分野で6000億ドルを追加投資する。EU産の鉄鋼、アルミニウム、およびこれらの金属で作られた製品に対する50%の関税を維持することも明記された。

*ポンド「通貨5位(4位)、株価11位(10位)、今年は珍しく穏やかな堅実な動き。マン中銀委員に注目」
(珍しく堅実)
 今月はここまで4位、年間では5位と堅実で円よりも若干強い。FT株価指数は年初来14.05%高とまずまず。10年国債利回りは4.7%と先進国では最高水準。
英国は政治経済で波乱が起きることが多いが、今年は静かだ。

(英中銀マン政策委員の講演)
今週は大きな指標はない。27日に英中銀マン政策委員の講演がある。前回の会合で利下げに反対したマン委員は、ここ数カ月の賃金上昇ペース鈍化にもかかわらず、インフレ圧力は依然として課題であり、政策金利を利用して物価上昇を抑えることが重要だという認識を示していた。

英中銀は物価上昇が執拗に高止まりするリスクに対する懸念をさらに強める可能性がある。8月のインフレ率が英中銀の物価目標の2倍となる4%に達する予想も出てきた。
7月の消費者物価は前年同月比3.8%上昇し、G7で最も高い伸び率を示し、9月に4%でピークに達するという予測が前倒しになりつつある。

(指標はやや改善中)
 8月の英消費者信頼感指数はマイナス17と、7月のマイナス19から改善し、昨年12月以来8カ月ぶりの高水準になった。
8月PMIは製造業が47.3(前回48.0)、サービス業が53.6(同51.8)、総合が53.0(同51.5)

(フィッチの見通し)
・GDPが2025年と2026年に1.2%成長すると予測
・最近の貿易協定の規模は経済成長を大幅に押し上げるには不十分であり、英国とEUの貿易統合によってより大きな影響とより広範囲な意義をもたらすような成果は見られない
・世界的な不確実性の高まりと外需の弱さにより、投資の伸びは抑制されるだろう

*豪ドル「通貨7位(8位)、株価12位(12位)、今週はCPI、先週の指標は改善」
(豪ドル、株価とまずまずの位置)
 豪ドルは先週弱かったNZドルに追いつき年間7位に一歩浮上した。豪全普通株指数は年初来9.66%増。10年国債利回りは4.31%。豪ドルがもう一伸びするとしたら、最大貿易相手国の中国経済の回復だが現在は米中貿易の不確実性もあり経済も減速気味だ。

(今週はCPI)
 今週は7月消費者物価の発表がある。予想は前年比2.2%上昇、6月は1.9%上昇であった。

(指標改善)
 8月の消費信頼感指数は98.5と、前月比5.7%の大幅上昇で2022年初め以来の高水準になった。RBAが利下げし、追加利下げに含みを持たせたことで、家計とマクロ経済の見通しが上向いた。
また8月のPMIも改善した。製造業は52.9(前回51.3)、サービス業が55.1(同54.1)、総合が54.9(同53.8)となった。

(次の焦点はGDP)
 次の焦点は2Q・GDP。予想は前年比で2.1%増、1Qは1.3%増。前期比では0.5%増の予想、1Qは0.2%増

*NZドル「通貨7位(7位)、株価19位(19位)、弱いがドルより強いのが救い」
(週間最下位、月間もここまで最下位)
 NZドルは週間最下位、月間もここまで最下位と、前号で触れたように弱い。ただそれでも年間で豪ドルと同率7位で急落感はない。株価も弱く、主要市場では数少ないマイナス圏の市場で年初来0.52%安。
10年国債利回りは4.4%。

(ハト派姿勢を示したNZ中銀)
 前回も「NZを離れる国民」と悲観的な事を書いたが、中銀のよりハト派的な姿勢がNZドルを押し下げた。NZ中銀は予想通り政策金利を0.25%引き下げ、3.0%とした。成長に対する国内外の逆風を警告する中、今後数カ月間でさらに利下げするよりハト派的な姿勢も示した。0.5%の利下げも検討されたことは市場に衝撃を与えた。 ホークスビー総裁は、企業や消費者が慎重な姿勢を崩さず「より多くの支援を必要とするならば、それがさらなる行動を促すことになるかもしれない」と述べた。

(中銀の先行き見通し)
中銀は2025年4Qの政策金利を2.71%と予想し、5月の2.92%予想から引き下げた。26年1Qの平均政策金利は2.55%と予想、従来の2.85%から引き下げた。
声明で「中期的なインフレ圧力が予想通り緩和し続ければ、政策金利をさらに引き下げる余地がある」と述べた。

(今週の見どころ)
 今週は2Q小売売上、8月企業信頼感指数、消費者信頼感指数の発表がある。

(関税率は15%)
米国はNZからの輸入品に当初示唆されていた10%よりも高い15%の関税を課した。関税率の変更は不確実性をもたらす。