株式会社アノマリーは、2004年の創業以来、ダンスイベントを軸にコミュニティの構築を進めている。中学校のダンス義務教育化、SNSでの普及、プロダンスリーグ「D.LEAGUE」の発足など、ダンス市場が急速に拡大する中で、同社はダンスの著作権管理システム「MOTIONBANK」を開発。世界各地で若年層をつなぐコミュニティを構築した。ダンスを「接続詞」として活用し、日本企業と海外市場をつなぐ「文化的商社」という独自のビジネスモデル。同社代表の神田勘太朗が目指す未来とは──。
1979年長崎県生まれ。2004年に同社を創業以来、ダンスイベントを軸としたコミュニティ構築を手がける。ダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」の立ち上げや、ダンス著作権管理システム「MOTIONBANK」の開発など、ダンス市場の拡大と発展に尽力。国内外でダンス文化を基盤とした新たなビジネスモデルを打ち立てた。
2004年創業のダンスエンターテイメント企業。「Let’s get it !! ~カマす!!~」
をミッションに掲げ、ダンスイベントの企画・運営、ダンス著作権管理システム「MOTIONBANK」の開発、海外でのコミュニティ構築など、多角的に事業を展開。ダンスを単なるエンターテイメントにとどまらず、教育、健康、ビジネス、国際交流のツールとして活用し、新たな市場価値の創造を目指している。エンターテインメントとテクノロジーを融合させ、若年層を中心としたコミュニティ構築とカルチャーの持続的発展を目指すクリエイティブカンパニー。
ダンス市場の黎明期から現在、そして未来へ
── 創業されたのはもう20年も前だとか。
神田氏(以下、敬称略) アノマリーは2004年に創業して以来、ダンスイベントを軸としたコミュニティ構築を手がけてきました。私の母がダンサーだったこともあり、ダンス市場がまだ世の中に注目されていなかった頃から、ダンスが持つ言語を超えた文化圏でのつながる力に魅力を感じていました。私自身もダンサーとして世界を目指していて、ダンスイベントを大きくしていく中で、この市場の魅力と可能性を強く感じるようになりました。
その中で、いくつかの課題に直面しました。特に近年、多くの企業が若年層へのアプローチに難しさを感じています。私たちのお取引先も、マーケティングの観点から若年層へのアプローチを模索していました。若年層の中心にダンスがあることを踏まえ、私たちはこの若年層のコミュニティを通してお取引先の課題解決を設計していきました。
というのも、2012年にはダンスが中学校の必修科目になり、年9時間のダンスを選択する生徒が増えたんです。ダンスに関わる人が増え、SNSの流行とともにInstagramやYouTubeでのダンス投稿が一般化しました。その後、TikTokで爆発的に広がり、オリンピック競技に採用され、私たちもダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」を発足させました。
また、業界で長年の課題だったダンスの著作権問題にも取り組んでいます。「MOTIONBANK」という事業では、ダンスの振り付けの著作権管理に加え、ダンスを踊らない人でも振り付けを創作できるような仕組みを構築しています。
ボーカロイドによってボカロP(ボーカロイドを使った投稿者)が生まれ、新しい作曲家が誕生したように、ダンスを踊らない人でも振り付けを作品として作り、それに対するロイヤリティを受け取れるような世界を目指しています。
競合なき市場で「接続詞」となる
── 御社の競合はどういう企業やサービスなのでしょうか?
神田 競合は非常に難しい質問です。投資対象として考えるならば、競合とその優位性を明確にする必要があるでしょう。
もしダンスを芸能ととらえるならば、音楽出版社、音楽レーベル、芸能事務所などが競合になりえます。しかし、私たちは振り付け師やバックダンサーなど、多くのダンサーと共存していく形なので、競合という言い方は適していません。
たとえばゲーム業界では、リズムゲームやダンスゲーム、あるいはフォートナイト(米エピックゲーム社のオンラインゲーム)のエモート(感情を表現するキャラクターやアニメーション)などがあります。フォートナイトが発表した2018年のデータでは、ユーザーの約9%強がエモートを購入しています。何百億円という市場の中で、ダンスがコミュニケーションツールの一つとして使われているのです。しかし、これも競合とは言えません。
したがって、競合優位性というよりも、ダンスがあらゆる職種やマーケットに接続できるという形に近いのです。現在、海外展開も広げており、ダンスカルチャーを通してコミュニティ構築を進めています。
私たちは、まだ多くの人にとってなじみの薄いダンスというものを介して、国と国、企業間、コミュニティ間をつなぐ「接続詞」のようなポジションにいると考えています。
参入障壁の低さが生む爆発的成長
── ダンス市場の展望について、今後の市場をどう予測されますか。
神田 現時点でも、世界中でダンスを踊る人はたくさんいます。TikTokで踊る人たちを含めればダンス人口は数億人レベルです。これまではダンサーだけのものだったダンスが、一般の人が自分のプロフィールとして軽くダンスを踊ることを投稿する時代になっています。
日本が最初にダンスのプロリーグを立ち上げましたが、同じように海外でもリーグができてくるでしょう。それを統合するような大会も出てくるでしょう。クラブカルチャーや伝統的な祭りでの踊りまで含めると、この「踊るコミュニティ」はもっと拡大していきます。
── プロリーグの収益モデルは、他ジャンルのプロリーグと近いのでしょうか。
神田 まったく同じだと考えてください。チケット収入、グッズ収入、スポンサー収入、そして配信権の4つが主な収益源であり、他のスポーツ業界と変わりません。
ダンスIPで世界を席巻する「文化的商社」
── 新規事業や海外展開の計画などはありますか?
神田 上海とラスベガスには進出済みで、メキシコシティとドバイは準備段階です。インドも9月訪問し、年内には進出できる見込みです。ガーナやセネガルにも入り込んでいます。
── アフリカや中東への展開は意外ですね。
神田 世界中にはダンスを踊る子どもたちがたくさんいます。私たちはダンスバトル大会「DANCEALIVE」のIP(知的財産)を全世界に展開し、各国で大会を運営することで、その地域で若年層のコミュニティを構築しています。この若年層コミュニティを活用したいと考える企業は、地元の企業だけでなく、日本の企業が海外進出する際にも存在します。
将来的な姿として、このダンスIPを進出させた国でコミュニティ構築を行い、それを活用していただくことでBtoB向けの「文化的商社」を目指しています。単純にダンスイベントの興行収益やスポンサー収入だけでなく、コミュニティを活用した商流を作っていくのです。特にアフリカは日本企業が苦手とする地域なので、私たちがダンスで入り込み、ここから10年でコミュニティを作り上げます。10年後、アフリカ市場が今の中国やインドのように成長したタイミングで、若者向けのマーケティング拠点も私たちが押さえている、というのが今の目標です。
中東も同様です。サウジアラビア、バーレーン、オマーン、カタール、UAEといった国々にもダンスはたくさんあります。そこでコミュニティ構築をしておけば、オイルマネーも含め、中東のターゲット層にアプローチできます。王族の息子たちもダンスをしていますからね。そういったことを考えると、先を見越した仕込みをすでに進めているのです。
無形資産への投資が日本を面白くする
── 海外の可能性を考えると、日本で市場を伸ばすには何が必要なのでしょうか。
神田 日本は有形資産への投資は多いですが、数値化できない無形資産に対しては非常に弱いのではないかと感じています。
今や中国、アメリカ、サウジアラビアなどが台頭する市場経済において日本が遅れをとった背景には、無形資産に投資してこなかったことがかなり大きかったのではないでしょうか。
私たちで言えば、ダンスプロダクトを通したコミュニティ構築も、価値化しにくいものだと思われがちです。しかし、こういうことをやる企業のほうが伸びしろも大きい。
「競合がいない」と言うと「盛り上がっていないのでは?」と返されることもありますが、実際には人はものすごくたくさんいるのです。
AIの普及がさらに加速し、「人は何のために働くのか」という問いが生まれた際、人は楽しいもの、心を躍らせるもの、明日の活力になるものに盛り上がっていくと思います。そういったところに今のうちから投資することは、非常に重要だと考えています。
今やソニーさんですら「これからはコンテンツの会社になっていく」と言っています。アニメの価値も大きいですよね。同様に私たちが20年間言い続けてきた「ダンスの時代」が、確実に来ています。だからこそ、各企業の方々には、私たちのような企業と組み、コミュニティ構築というオフラインの重要性を改めて認識していただきたいです。
たとえば、オンラインで何万人ものフォロワーがいても、自分で100人も集められない人はざらにいます。私たちは日本ではダンスの大会で1万人以上を集めていますし、海外でもセネガルで500人規模、ガーナで1000人規模の大会を開催しています。
そうしたパワーを感じる大手企業や、ビジネスの畑が違っても「こういうところに投資すべきではないか」と考える方々が、もっと日本を面白くすると思います。そういうところにも目を向けてみてはいかがでしょうか。
- 氏名
- 神田 勘太朗(かんだ かんたろう)
- 社名
- 株式会社アノマリー
- 役職
- 代表取締役