
ヤドカリ投資とは、住宅ローンを利用して購入した自宅を、完済後に売却したり賃貸に出したりすることで、安定した住まいの確保と資産形成の両方を目指す投資手法のことです。
本コラムでは、ヤドカリ投資のメリットやデメリット、失敗しないために注意すべきポイントについて詳しく解説します。
ヤドカリ投資とは?

ヤドカリ投資とは、自宅用に購入した物件に一定期間居住し、住宅ローンを返済したのち、その物件を賃貸に出したり売却したりして資産化し、次の住まいへと移っていく投資手法です。
名前の由来は、ヤドカリが成長に合わせて貝殻を住み替える習性にちなんでおり、住まいを「資産」に変えていくという発想がユニークな特徴といえます。
この手法は、物件購入時に住宅ローンを利用できたり、税制上の優遇を受けられたりするなどのメリットがある一方で、住み替えに伴うコストや売却できないリスク、投資物件として経費計上できないなどのデメリットがあり、必ずしも効果的な資産運用とはならない可能性に注意が必要です。
そのためヤドカリ投資を検討する際には、これらのメリットやデメリットをしっかりと理解し、綿密なシミュレーションのもとで慎重に計画を立てることが求められます。
ヤドカリ投資のメリット

ヤドカリ投資は安定した暮らしと資産形成を両立できる投資手法ともいわれますが、実際にそうなのでしょうか。ここでは、ヤドカリ投資を行うメリットを3つ紹介します。
住宅ローンを利用できる
ヤドカリ投資の大きなメリットとして、自宅用の物件なので住宅ローンを活用できる点が挙げられます。
通常の不動産投資では投資用ローンを利用することになり、住宅ローンと比べて金利が高めに設定される傾向があります。しかしヤドカリ投資では、あくまで自宅用物件として購入するため、居住用の住宅ローンを適用でき、より低金利で借り入れることが可能です。
金利 | 返済期間 | |
---|---|---|
住宅ローン | 変動金利で年0.3~0.8%程度 固定金利35年で年2.5~4%程度 |
最長35年 |
投資用ローン | 年1.5~4%程度 | 最長35年 |
この金利差は、長期的に見れば返済総額に大きな差をもたらします。また、物件購入時の初期費用を抑えやすく、資金計画にも余裕を持たせることができるため、将来的に不動産投資を始めるうえでのハードルが低くなるでしょう。
住宅ローンと不動産ローンの違い(返済期間、金利、審査基準など)や、借換えの可否、住宅ローンで不動産投資を行った場合に起きることについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
【関連記事】不動産投資ローンと住宅ローンの違い7選!
住宅ローン控除などの税制優遇を受けられる
住宅ローンを利用し、実際に自宅としてその物件に居住している場合には、居住期間中に住宅ローン控除を受けることが可能です。
住宅ローン控除とは、最長13年間にわたって年末時点での住宅ローンの残額のうち0.7%にあたる金額を、その年の所得税額や翌年の住民税から控除できる制度で、実質的に家計の手取りが増える効果があります。通常の不動産投資(不動産投資ローン)では利用できません。
※現行の住宅ローン控除は2025年のものであり、2026年以降の制度内容については2025年9月時点で未定。
キャピタルゲインを得られる可能性がある
ヤドカリ投資では、将来的に物件の市場価格が上昇することによって、売却時にキャピタルゲイン、すなわち売却益を得られる可能性があります。特に都市部や再開発地域などのエリアで、市場価格が大きく上昇した事例もあります。
ただし、地価が上がっているということは、新たに購入する物件の価格も同様に上昇している可能性があるため、次の住まいの購入コストが高くなることもあり得ます。そのため、利益が出たからといって安易に売却するのではなく、将来的な資金計画や住み替えの戦略をしっかり立てておく必要があります。
また、過去に取引相場価格が上昇したエリアであっても、今後も引き続き上昇するとは限りません。そのため、購入時の物件選定は慎重に行う必要があります。
ヤドカリ投資のデメリット
ここまではヤドカリ投資のメリットを解説しましたが、ヤドカリ投資には注意しなければならないデメリットや注意点もあります。ここでは、主なデメリットを4つ紹介します。
物件選びが難しい
ヤドカリ投資では、自ら住むための快適性と、将来的な売却や賃貸を見据えた資産価値の両方を兼ね備えた物件を選ぶ必要があります。
将来的な売却や賃貸を見据えた場合、駅近の人気エリアで間取りや設備が一定以上の水準であることが望まれますが、そのような物件は価格も高騰しがちです。一方で、自分が住みやすい快適な物件であっても、将来の収益化に適さないケースもあります。
つまり、ヤドカリ投資では実需と投資の視点をバランス良く持ち合わせなければならず、初めて不動産を購入する人にとっては難易度の高い投資といえるのです。
住み替えに伴うコストが大きい
ヤドカリ投資は、住宅ローンを完済した物件から次の物件へと移り住むスタイルですが、そのたびに発生するコストが大きくなります。具体的には、引っ越し費用、新居の取得にかかる頭金や諸経費、旧宅の売却や賃貸に向けたリフォーム費用などが挙げられます。
特に築年数が経過した物件は、賃貸に出す際に水回りの修繕や内装のリフォームなどが必要になることも多く、その分の出費がかさむ傾向にあります。
また、売却する場合には、売却のタイミングと次の住まいの購入のタイミング調整も必要で、上手く調整し切れないと仮住まいなどの思わぬ費用が発生するケースもあります。
こうした住み替えに伴うコストを見込まずに投資を進めると、結果的に手元資金が圧迫され、収支が赤字になるリスクもあるため、慎重な資金計画が求められます。
売却・賃貸にリスクが伴う
住宅ローンを完済し、物件を売却または賃貸に出そうと思っても、必ずしも希望する条件で取引できるわけではありません。
例えば売却する場合、希望通りの価格で売れるとは限りません。近隣の供給状況や景気、金利動向などの外部要因によって大きく価格が左右されます。
一方で賃貸に出す場合には、空室期間が長引いたり、入居者による家賃滞納・設備の破損などのトラブルが発生したりすることもあります。さらに、修繕費や管理費などの支出も継続的にかかるため、必ずしも安定収益が得られるとは限りません。
そのため、ヤドカリ投資を念頭において不動産を購入する場合には、必ずこうしたリスクも踏まえたうえで出口戦略を検討するようにしましょう。
物件にかかる費用を経費計上しづらい
ヤドカリ投資では、物件を自宅として購入・居住するため、その期間中にかかる住宅ローンの利息や固定資産税、修繕費などは基本的に経費として計上することができません。また、将来的にその物件を賃貸に出したとしても、過去にかかった費用をさかのぼって経費にすることはできません。
つまりヤドカリ投資は、居住期間中の費用を自己負担する前提で始める必要があり、純粋な投資用不動産と比べると税務上の優位性に欠けるということになります。
失敗しないためのポイント・注意点

ここまで解説したように、基本的にヤドカリ投資は「不動産投資」という観点からは王道とはいえないものの、「マイホームを購入したいが、ローンを完済する頃には引っ越したい」といったニーズにはマッチします。
そこで以下からは、ヤドカリ投資を念頭に置いて不動産を購入する際に、失敗しないために注意すべきポイントを3つ紹介します。
ローン完済後に活用する
住宅ローンを利用して購入した物件を賃貸に出すためには、「ローンを完済していること」が条件となります。住宅ローンは本来、自らが居住する目的のために用意されたローン商品です。完済前に賃貸利用を開始することは、多くの金融機関において契約違反とみなされる可能性があります。
金融機関との契約内容によっては、ローン残債の一括返済や金利の引き上げといった条件もあるため、転用を検討する際には、事前に必ず契約書を確認し金融機関に相談するようにしましょう。
住宅ローンを利用して不動産投資をした際に起きることや、金融機関にバレる理由、例外的に不動産投資ができる条件については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【関連記事】住宅ローンを利用して不動産投資をするのはNG!罰則やバレる理由を解説
市場調査と収支シミュレーションを徹底する
たとえ立地が良くても、地域によっては賃料相場が安定していなかったり、将来的な資産価値の下落リスクが潜んでいたりする場合があります。そのため将来的な物件の売却や賃貸経営を成功させるためには、物件の購入前における、綿密な市場調査と収支シミュレーションが欠かせません。
具体的には、周辺の不動産市況、賃貸需要、人口動態などをしっかりと分析し、そのうえでシミュレーションを行っておくことが重要です。また、ローン返済中の期間や住み替えにかかる費用、空室期間のリスクまで織り込んだ収支予測が求められます。
感覚や期待だけに頼った投資判断は、後々の資金繰りに大きな支障をきたす可能性があるため、慎重な検討を心がけましょう。
資産形成にこだわりすぎない
ヤドカリ投資は、住宅の購入と住み替えを通じて不動産を資産化していく手法として注目されていますが、あくまでも資産形成の一つの手段にすぎません。
資産形成を急ぐあまりに、無理な住み替えやローンの重複、生活スタイルに合わない物件選びを続けてしまうと、本来の目的である「安定した暮らしと資産形成の両立」が崩れてしまいます。ときには「今の住まいに長く住み続ける」という選択の方が、経済的にも精神的にも合理的な場合もあります。
ヤドカリ投資は、その性質上、物件の売買や転居を何度か繰り返すことになりますが、そのすべてが成功につながるとは限りません。大切なのは、自分自身のライフプランや家族の状況を踏まえたうえで、柔軟に判断することです。
(提供:manabu不動産投資 )
- 【オススメ記事】
- 「FPの私ならここを見る」 プロが語る不動産投資とは?
- 不動産投資の種類はいくつある?代表的な投資方法を紹介
- 少額から始められる不動産投資4選
- 不動産投資は30代から始めるべき?メリットや注意点について解説
- 初めて不動産投資をする際に気をつけることとは?
- コラムに関する注意事項 -
本コラムは一般的な情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的とするものではありません。
当社が信頼できると判断した情報源から入手した情報に基づきますが、その正確性や確実性を保証するものではありません。
外部執筆者の方に本コラムを執筆いただいていますが、その内容は執筆者本人の見解等に基づくものであり、当社の見解等を示すものではありません。
本コラムの記載内容は、予告なしに変更されることがあります。