この記事は2025年10月3日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「フィンテックが牽引するナイジェリアのスタートアップ市場」を一部編集し、転載したものです。


フィンテックが牽引するナイジェリアのスタートアップ市場
(画像=mod/stock.adobe.com)

(世界銀行「Global Findex Database 2025」ほか)

ナイジェリアは、アフリカで有数のスタートアップ・エコシステムを有する。米ベンチャーキャピタルのパーテック・パートナーズによると、ナイジェリア発スタートアップの資金調達額は2021年に18億ドル(185件)と過去最高に達した後、市場調整を受けて減少に転じ、23年には南アフリカにアフリカ大陸首位の座を譲った。しかし、24年には5億2,000万ドル(103件)を確保し、再び首位の座を取り返した(図表)。

ナイジェリアは2億3,000万人超の人口を擁し、年齢中央値が19歳という極めて若い人口構成で成り立っている。それ故、デジタルネイティブ世代がスタートアップ市場拡大の原動力となっている。

政府も積極的に支援策を展開し、22年10月には「ナイジェリア・スタートアップ法」を制定。スタートアップ企業への法人税の減免や従業員への所得税優遇措置、投資家への投資額に応じた税額控除制度を規定している。さらに、27年までに資金調達額50億ドルの達成を目標に据え、24年5月には米国にスタートアップハブを開設して人材交流と投資誘致を図る。

こうした施策が奏功し、ナイジェリアはアフリカ最多のユニコーン企業輩出国となった。24年10月にはマニーポイント社が1億1,000万ドルの資金調達を実施。新たにユニコーン企業の仲間入りを果たした。アフリカに存在するユニコーン9社のうち5社がナイジェリア発で、そのうち同社を含む4社はフィンテック分野に集中している。スタートアップ資金調達に占めるフィンテック比率は、アフリカ全体の60%に対してナイジェリアは72%と際立っている。

フィンテックに資金が集中する背景には、同国の低い金融包摂率がある。世界銀行によれば、フィンテック黎明期の11年におけるナイジェリアの銀行口座保有率は30%にとどまり、24年には63%まで向上したが、依然として世界平均(79%)を下回る。特に農村部では現金決済が支配的で、銀行インフラへのアクセス制約も大きい。

こうした環境下にスマートフォンが普及し、フィンテック企業がデジタル決済や送金サービスを提供することで、銀行インフラを飛び越えたデジタル金融サービスが普及している。ナイジェリア中央銀行も21年に非接触決済機能を備えた中央銀行デジタル通貨「eナイラ」を導入したが、利用率は低迷。結果として、スタートアップ発フィンテック企業が金融包摂推進の中核を担う構図が鮮明となっている。

日本政府もナイジェリアのスタートアップ市場に注目する。25年4月には、同国スタートアップ向けの投資環境整備および起業家支援インフラ構築を目的とし、総額47億7,600万円の無償資金協力を決定。経済多角化による持続的発展が課題となるなか、多様なセクターにおけるスタートアップの創出・成長が期待されている。

フィンテックが牽引するナイジェリアのスタートアップ市場
(画像=きんざいOnline)

国際金融情報センター アフリカ部 エコノミスト/中川路 健太
週刊金融財政事情 2025年10月7日号