この記事は2025年8月7日に「第一生命経済研究所」で公開された「ガソリン旧暫定税率廃止をめぐる動向と今後の課題」を一部編集し、転載したものです。
ガソリン旧暫定税率廃止に現実味
2025年7月末、与野党6党が年内のできるだけ早い時期にガソリンの旧暫定税率を廃止することで合意、さらに8月1日には野党7党が「11月からの廃止」を求める法案を衆議院に提出した。燃料高が社会的課題となる中、長年続いた暫定税率問題は大きな転機を迎えつつある。ただし、財源の確保や地方自治体への配慮、関連補助金の扱いなど、解決すべき課題が山積しており、実現にはまだ複数のハードルが存在している。それでも、廃止へ向けた流れが加速していることは間違いない。
CPIコアを0.2%Pt弱押し下げ
現在、ガソリン税(揮発油税+地方揮発油税)は合計53.8円/ℓが課されている。その内訳は本則部分28.7円、旧暫定税率分25.1円だ。今回の法案ではこの上乗せ分である「旧暫定税率」の25.1円/ℓが廃止される予定であり、これはガソリン小売価格を大きく引き下げる効果がある。
廃止が実現すれば、政府が現在実施している燃油補助金との調整も同時に進むことが予想される。現状では、ガソリン・軽油10円/ℓ、灯油・重油5円/ℓ、航空機燃料4円/ℓの補助金が設定されている。このうち消費者物価指数に採用されているのはガソリンと灯油だけであるため、CPIへの影響を考えるにはこの2品目のみの影響を見れば良い。
仮に11月から旧暫定税率廃止と同時に補助金が終了すると、ガソリンは補助金終了で10円/ℓ値上がりする一方で、税率引き下げにより25.1円/ℓ値下がりし、ネットで15.1円/ℓの値下げとなる。CPIコアはこれだけで約0.19%ポイント押し下げられる。また、灯油は補助金終了なら5円/ℓ値上がりし、CPIコアを0.025%ポイント程度押し上げる。合計すれば、CPIコアへの押し下げ効果は0.17%ポイントと見込まれる。
補助金はどうなる? ~ガソリンと軽油の価格水準逆転も~
旧暫定税率廃止に関連して、現在実施されている補助金をどうするかも問題となる。前述のとおりガソリン分の補助金は終了が既定路線だが、その他については流動的だ。なかでも議論になる可能性が高いのが軽油である。
現在野党が提出している法案では、ガソリン税の旧暫定税率が対象である。軽油にかかる軽油引取税においても、本則税率である15円/ℓに加えて旧暫定税率(特例税率)が17.1円/ℓ、合計32.1円/ℓが課されているのだが、今回は軽油の旧暫定税率分は廃止対象外となっている。トリガー条項が発動される場合にはガソリン、軽油とも旧暫定税率分の課税が一時停止されることから、軽油も廃止対象となるのが自然と思われたが、今回はあえて軽油を外したようだ。軽油引取税が地方税であり、廃止すれば自治体の歳入が大きく減少するため、自治体側から反発が出ていることが背景にあるものと思われる。
軽油の旧暫定税率を残したまま補助金を終了させた場合、軽油価格は補助金分である10円/ℓ上昇する。現在のガソリン価格が174.2円/ℓ、軽油価格が154.3円/ℓであるため、仮に「ガソリン旧暫定税率廃止+補助金がすべて終了」となった場合、ガソリン価格が15.1円/ℓ低下して159.1円/ℓ、軽油価格は10円/ℓ上昇して164.3円/ℓとなり、ガソリンと軽油の価格水準が逆転することになる。軽油は物流や産業用途が多いため、運輸コスト増大につながるとして問題になる可能性が高いだろう。軽油の補助金を終了することのハードルは高いのではないか。
とはいえ、仮に軽油の補助金を継続した場合でも、ガソリン価格は159.1円/ℓ、軽油価格は154.3円/ℓと、現在20円/ℓ程度存在する価格差が、5円/ℓ程度まで縮小することになる。ガソリンとの対比から、軽油の旧暫定税率も廃止すべきとの意見が強まるだろう。今回、ガソリンの旧暫定税率廃止がまとまったとしても、来年度にかけて、今度は軽油の旧暫定税率廃止に向けての議論が盛り上がることが予想される。
また、軽油以外の補助金についても、とりわけ灯油価格の上昇は、冬にかけて暖房需要が増す寒冷地において大きな負担増となることから不満が出るだろう。ガソリン以外の補助金を終了するハードルは高いと思われることから、「ガソリン旧暫定税率廃止+ガソリン以外の補助金は継続」をメインシナリオとしたい。
経済効果の大きさは代替財源の議論次第
ガソリン高は家計、特に車を頻繁に用いる地方圏の住民にとって大きな負担であり、近年の高騰局面では消費活動を抑制する要因にもなってきた。ガソリン旧暫定税率廃止によって約1兆円程度の減税(事業者含む)、ガソリン補助金の終了を考慮しても6000億円超の追加減税になるとみられ、家計負担の軽減から消費マインドの喚起、景気への一定の下支えが期待できる。
もっとも、現在「代替財源をどこに求めるか」が最大の争点となっていることからも分かるとおり、単純な減税にはどうやらなりそうにない。仮にガソリンの旧暫定税率が廃止されたとしても、環境対策の名目で他の税を引き上げたり、車体課税の強化などを同時に行うことで減収分の穴埋めを行えば、家計負担が全体として減るとは必ずしも言えない。
結局のところ、ガソリン旧暫定税率の廃止が家計負担の軽減や消費刺激にどこまで繋がるかは、今後の制度設計と運用次第である。今後の議論の行方に注目したい。