「老後の生活、お金はいくらあれば安心できるんだろう…」
「周りの人はどれくらい貯めているの?」
そんな漠然とした不安を抱えていませんか。かつてメディアでは「老後2000万円問題」が話題になりましたが、物価高や円安が進む今、本当に必要な金額は人それぞれ違います。
この記事では、あなたの老後に必要な老後資金の具体的な計算方法から、他の人がどれくらい貯蓄しているかのリアルなデータ(中央値)まで、分かりやすく解説します。さらに、年代別・目的別に「今からでも間に合う」具体的な資金準備の方法もご紹介します。
- なぜ物価高や円安が進む今、老後資金の準備が急務なのか
- 必要な老後資金を計算する方法
- 30代・40代・50代の年代別ロードマップ
なぜ今、老後資金について考えるべきなのか?
「老後のことなんて、まだ先の話」と思っている方も多いかもしれません。しかし、老後資金の準備は、先延ばしにすればするほど困難になります。なぜ今、真剣に考えるべきなのか、その3つの理由を解説します。
「老後2000万円問題」から数年、状況はさらに深刻に
2019年に金融庁の報告書がきっかけで広まった「老後2000万円問題」。これは、高齢夫婦無職世帯が年金収入だけで生活すると毎月約5万円が不足し、30年間で約2,000万円の貯蓄が必要になるという試算でした。
この報告書から数年が経過し、私たちの生活を取り巻く環境はさらに厳しさを増しています。当時はあくまで「モデルケース」の一例でしたが、この問題提起は「公的年金だけでは、ゆとりある老後生活を送るのが難しい」という現実を浮き彫りにしました。老後資金の問題は、決して他人事ではなく、私たち一人ひとりが直面する課題なのです。
止まらない物価高騰と円安が老後資金を圧迫する現実
近年、食料品やエネルギー価格の上昇など、私たちは「インフレーション」、つまり物価が継続的に上がる状況を肌で感じています。例えば、現在100万円で買えるものが、年2%のインフレが続くと、20年後には約149万円なければ買えなくなります。
もし、あなたが老後資金を「貯金」だけで準備している場合、インフレによってその価値は実質的に目減りしてしまいます。さらに円安が進めば、輸入品の価格が上がり、家計への負担は増大します。
今準備している老後資金が、30年後も同じ価値を保っているとは限らないのです。だからこそ、インフレや円安にも負けない資産の置き場所を考える必要があります。
大切なのは「あなた自身の」必要額を知り、今すぐ行動すること
必要な老後資金は、あなたが「どのような老後を送りたいか」によって全く異なります。持ち家か賃貸か、趣味にどれくらいお金を使いたいか、旅行には行きたいか…。
大切なのは、あなた自身に必要な金額を試算し、目標を明確にすることです。そして、目標額が分かれば、あとは行動するだけ。準備を始めるのが早ければ早いほど、時間を味方につけて、複利の力を最大限に活用できます。老後資金の準備に早すぎるということはありません。
あなたに必要な老後資金はいくら?
では、具体的に「あなた自身に必要な老後資金」はいくらでしょうか。難しく考える必要はありません。以下の3つのステップで、簡単に不足額を計算してみましょう。
ステップ1:老後の「支出」はいくら(総務省データから見る)かかる?
まずは、老後に毎月どれくらいの生活費がかかるか把握しましょう。総務省の「家計調査報告(2024年)」によると、65歳以上の無職世帯の平均的な支出は以下の通りです。
- 夫婦のみの世帯
消費支出(食費、光熱費、娯楽費など):約25.9万円
非消費支出(税金、社会保険料):約3.3万円
合計支出:約29.2万円/月 - 単身世帯(一人暮らし)
消費支出:約14.9万円
非消費支出:約1.2万円
合計支出:約16.1万円/月
もちろん、これは平均値です。「持ち家でローンがない」「趣味にお金をかけたい」など、ご自身のライフスタイルに合わせて調整してください。例えば、「夫婦で月に1度は旅行に行きたい」なら、平均より支出は多く見積もる必要があります。
ステップ2:年金はいくらもらえる?
次に、老後の主な収入源である公的年金がいくらもらえるか確認します。厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、平均受給額は以下の通りです。
国民年金(老齢基礎年金)のみ:約6.5万円/月
厚生年金(国民年金分含む):約14.7万円/月
ただし、これはあくまで平均です。受給額は、現役時代の働き方(会社員、自営業など)や加入期間、収入によって大きく異なります。正確な金額を知るために、毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」や、日本年金機構の「ねんきんネット」で、あなた自身の見込額を必ず確認してください。
ステップ3:「支出 - 収入」で不足額を計算してみよう
ステップ1と2で、「支出」と「収入」が分かりました。これで不足額が計算できます。
(計算式)
毎月の不足額 = 老後の支出 - 年金
例えば、平均的な夫婦世帯(支出26.7万円)で、夫が厚生年金(14.5万円)、妻が国民年金(5.6万円)を受給する場合、
26.7万円(支出)-(14.5万円+5.6万円)(収入)= 6.6万円
毎月6.6万円の不足となります。もし、65歳から95歳までの30年間(360ヶ月)この不足が続くと仮定すると、
6.6万円 × 360ヶ月 = 2,376万円
これが、あなたが老後までに準備すべき「老後資金」の一つの目安となります。この金額が、先の「老後2000万円問題」の根拠に近い数字です。まずはご自身の数字で計算し、目標額を明確にしましょう。
もし老後資金がないとどうなる?
もし、十分な老後資金を準備しないまま老後を迎えてしまったら、どのような生活が待っているのでしょうか。お金に困ることで直面しうる、5つの具体的なリスクを解説します。これは決して脅しではなく、目を背けてはいけない現実です。
食事や趣味を切り詰め、楽しみのない日々
まず直面するのは、日々の生活レベルの低下です。年金収入だけでやりくりしようとすれば、食費を極端に切り詰める必要が出てくるかもしれません。
「たまには外食したい」「友人と旅行に行きたい」といった、ささやかな楽しみも我慢しなくてはならなくなります。趣味や学び直しなど、人生を豊かにするための活動も制限され、ただ生きるためだけの毎日になってしまう恐れがあります。
病気やケガをしても、十分な医療・介護が受けられない
高齢になればなるほど、病気やケガのリスクは高まります。老後資金が不足していると、医療費の支払いが大きな負担となります。「お金がないから」と受診を控えたり、必要な治療や薬を諦めたりすれば、健康状態はさらに悪化する可能性があります。
また、将来介護が必要になった際も、費用を捻出できず、希望する介護サービス(施設への入居や手厚い在宅介護など)が受けられないかもしれません。
住み慣れた家を手放す、または修繕ができない
持ち家の場合でも、老後には固定資産税や火災保険料、修繕費(外壁塗装、給湯器の交換など)といった維持費がかかり続けます。これらの費用が払えなくなれば、雨漏りや設備の故障を我慢して住み続けるか、最悪の場合、住み慣れた家を手放さなければならない事態も考えられます。賃貸の場合は、年金収入では家賃の支払いが厳しくなり、より家賃の安い物件への転居を余儀なくされる可能性もあります。
子どもや親族に金銭的な負担をかけてしまう
「自分たちの代で迷惑はかけたくない」と思っていても、老後資金が尽きてしまえば、子どもや親族に頼らざるを得ません。
生活費の援助や医療・介護費用の負担をお願いすることになれば、それは子どもたち自身の生活やその先の孫世代の教育資金計画にも大きな影響を与えてしまいます。金銭的な問題は、家族関係の悪化につながるケースも少なくありません。
社会的に孤立し、心身の健康を損なう
経済的な余裕のなさは、精神的な余裕のなさにも直結します。友人との付き合い(冠婚葬祭、食事会など)を断らざるを得なくなり、次第に人との交流が減り、社会的に孤立してしまう可能性があります。
社会とのつながりが希薄になると、認知機能の低下や「うつ」のリスクが高まることも指摘されています。お金がないというストレスは、心身両方の健康を損なう引き金になりかねないのです。
まだ間に合う! 老後資金準備ロードマップ
老後資金の必要性は分かっていても、「何から始めればいいか分からない」という方も多いでしょう。資産形成は、年齢(=投資できる期間)によって最適な戦略が異なります。ここでは年代別のロードマップをご紹介します。
【30代】時間を最大の武器に! iDeCoとNISAで雪だるま式に増やす
30代の最大の武器は「時間」です。老後まで30年以上の時間があるため、「複利効果」を最大限に活かせます。おすすめは、税制優遇が非常に大きい「iDeCo(個人型確定拠出年金)」と「新NISA(つみたて投資枠)」の併用です。
iDeCoは掛金が全額所得控除になり、新NISAは運用益が非課税になります。少額からでも「長期・積立・分散」投資をスタートさせましょう。月1万円の積立でも、時間をかければ大きな老後資金の土台となります。
【40代】家計の見直し&投資額UP! 資産のポートフォリオを意識し始める
40代は、子どもの教育費や住宅ローンなどで支出が増える時期ですが、老後資金準備も本格化させたい重要な時期です。まずは家計を徹底的に見直し、使っていないサブスクや高すぎる保険料など無駄な支出を削減し、投資に回す金額を増やしましょう。
また、「ポートフォリオ」を意識し始めることも大切です。預貯金だけでなく、株式や投資信託の割合を増やして、資産全体の成長を目指します。さらに、物価上昇に備えるインフレヘッジとして、株式だけでなく、金(ゴールド)や不動産など、インフレに強い実物資産への分散も視野に入れ始めると良いでしょう。
【50代】ゴールは目前! 守りを意識した資産運用と退職金の活用法
50代は老後が目前に迫る時期。増やすことと同時に守ることも意識した資産運用が必要です。退職金がもらえる場合は、その額を把握し、老後資金の不足分を明確にしましょう。
退職金を一括でハイリスクな投資に回すのは危険です。まずは生活防衛資金(生活費の半年~1年分)を確保した上で、残りを運用に回します。
この時期もiDeCoやNISAは有効ですが、ポートフォリオは株式などの割合を少し減らし、債券などの安定的な資産の割合を増やすことを検討します。また、資産の目減りを防ぐインフレヘッジとして、家賃収入などの安定したキャッシュフローを生む不動産関連投資などへの組み換えも有力な選択肢となります。
【目的別】老後資金対策
老後資金を準備する方法は一つではありません。あなたの目的やリスク許容度に合わせて、様々な対策を組み合わせることが重要です。ここでは6つの具体的な対策をご紹介します。
先取り貯蓄と家計簿アプリで支出をコントロールする
資産形成の第一歩は支出の把握と最適化です。まずは家計簿アプリなどを活用し、何にいくら使っているかを見える化しましょう。無駄な支出が見つかったら、それを削減します。
そして、最も確実な貯蓄方法は先取り貯蓄です。給料が振り込まれたら、使う前に一定額(例:月3万円)を別の口座や積立投資に自動で移す仕組みを作りましょう。「余ったら貯蓄する」では、なかなかお金は貯まりません。
iDeCoを検討する
老後資金準備の王様とも言えるのがiDeCoです。最大のメリットは、掛金が所得控除になること。例えば、毎月2万円を積み立てると、年間24万円が課税所得から差し引かれ、所得税や住民税が安くなります。さらに、運用益も非課税です。ただし、原則60歳まで引き出せないため、無理のない範囲で始めることが大切です。
NISA(つみたて投資枠)の活用を検討する
2024年から始まった新NISAは、iDeCoと並ぶ強力な資産形成ツールです。特に「つみたて投資枠」は、長期の積立・分散投資に適しています。
最大のメリットは、投資で得られた運用益が非課税になること。通常、投資の利益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座ならそれがゼロになります。
また、iDeCoと違いいつでも引き出し可能なため、老後資金だけでなく、教育資金や住宅資金など、様々な目的に対応できる柔軟性も魅力です。
個人年金保険や財形年金貯蓄を検討する
「投資は怖い」「元本割れのリスクは取りたくない」という方には、保険や貯蓄制度も選択肢になります。
・個人年金保険
保険料を払い込み、将来一定期間(または一生涯)、年金形式でお金を受け取れる保険商品。年末調整で生命保険料控除が受けられる場合があります。
・財形年金貯蓄
勤務先が導入している場合のみ利用可能。給与から天引きで積み立て、財形住宅貯蓄と合わせて元本550万円までの利子が非課税になります。
家賃収入(インカムゲイン)を狙う不動産関連投資
老後資金準備において、インフレ対策は不可欠です。インフレが起きると、現金の価値は目減りしますが、一般的に不動産や家賃の価値は物価と連動して上昇しやすい傾向があります。
そのため、不動産関連投資(現物不動産、REIT(不動産投資信託)、不動産小口化商品など)は、インフレヘッジの手段として有効です。特に、毎月安定した「家賃収入」を得られる仕組みは、年金以外の「第2の収入源」として、老後の生活を力強く支えてくれます。株式や預貯金だけでなく、資産の一部を不動産関連に分散させることは、インフレに負けない老後資金を構築する上で重要な戦略です。
まとめ
老後資金への不安は、正体不明だからこそ大きくなります。老後2000万円問題やインフレの現実に目を向け、ご自身のリアルな不足額を計算してみましょう。そして、30代なら「iDeCo」と「新NISA」で時間を味方に、40代なら「家計見直し」と「ポートフォリオ分散」、50代なら「守り」と「退職金の活用」を意識するなど、あなたの年代に合った対策をスタートさせることが重要です。
老後資金の準備に「手遅れ」はありません。最も大切なのは、「今すぐ行動を起こすこと」です。まずは、一番簡単な第一歩として、「ねんきんネット」でご自身の年金見込額を確認してみる。家計簿アプリをダウンロードして、1週間の支出を記録してみる。NISAの口座開設を申し込んでみる。今日から賢い資産づくりをスタートさせましょう。
(提供:ACNコラム)