本記事は、濱本 志帆氏の著書『リーダーの傾聴 なぜ、部下の不満に気づけないのか』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
評価しない、レッテルを張らない
部下から話を聞き出すときは、「何をしたか」「何をしていないか」という客観的な事実を整理し、それをもとにコミュニケーションを行います。
例えば、指示通りの成果が上がってこなかった部下に対して、「やる気がないんだよ」「〇〇さんはいい加減だね」などといった言葉をかけてしまいたくなることもあると思いますが、それは事実ではなく、上司の主観的な評価や不満が含まれています。
評価が先行すると、部下は「自分が批判されている」と感じ防御的な姿勢に入ります。これ以上評価を下げたくないという気持ちから本音を隠したり、言い訳をしたりするようになり、真の課題や背景事情が見えなくなります。
評価やレッテルを先に伝えてしまうと、部下は受け止める余裕を失い、防御的になるおそれがあります。
例えば、部下にデータ入力を頼んだとき。上司としては「作業が終わったら報告がほしい」「できれば集計までやってくれたら助かる」といった期待を持っていたとします。ところが、何の報告もなく、作業が終わったのかどうかさえ分からない。そんな状況に、上司が不満や苛立ちを感じるのは自然な反応でしょう。
しかし、そうしたマイナスの感情のまま対話に入ってしまうと、どうしても相手を責める口調になったり、「態度を改めさせたい」という意図がにじみ出てしまったりします。すると部下は、上司からの印象を悪化させないためになんとかその場をやり過ごそうと本心ではない謝罪を繰り返したり、黙り込んでしまったりすることが多くなります。
思い返してみてほしいのですが、決めつけられるような言い方をされたときに反射的に言い訳をしたり、沈黙で抗議や保身の意思を示したりした経験はないでしょうか。ましてや、それが上司という「権威を持つ相手」からの言葉であればなおさらです。
私が会社員だったころ、作業の進捗を共有しない同僚がいました。同僚といっても実務経験は浅く、年齢は私のほうが上で、入社も先だったため、仕事を教える関係にありました。
当時は「なぜ報告してくれないんだろう?」と不思議に思っていたのですが、後になって気づいたのは、「実は私は怖がられていた」ということでした。
「うっかり声をかけて怒られたくない」との思いから、仕事上必要な報告すらできずにいたのです。つまり、私の態度が相手を萎縮させていたのです。
もしかしたらあなたも、自分が思っている以上に部下から怖い存在だと思われているかもしれません。それが、報連相がうまくいかない理由の一つかもしれないのです。
まずは事実を伝える
進捗の報告をしないなど、部下がこちらの期待通りの行動をしなかったとき、どのような理由があったのかは話を聞くまでは分かりません。だからこそ、いきなり注意する前に、まずは「報告がなかった」という事実を丁寧に伝えましょう。
重要なのは、やっていなかったことを本人に認識してもらうことです。
つい、「このくらい言わなくても常識でしょ」と思ってしまうこともあるかもしれませんが、それはあくまであなたの価値観や経験に基づいた主観にすぎません。
話を聞く前から注意やアドバイスをする管理職の方は少なくないです。特に、「どうせこうに違いない」といった予断があると、「何とか言って分からせなければ」という思いが強くなり、必要以上に注意やアドバイスをする方向に向かってしまうように見受けられます。
けれども、予断を捨てて、ただ事実を確認するための対話に徹するほうが上司にとっての負担は軽くなります。なぜなら、その対話には「説得しなければならない」というミッションが伴わないからです。
なお、報告を受ける場面でも同じことがいえます。
部下の話を聞いていると、事実というより本人の主観が混ざっていたり、むしろ主観に終始していると感じたりしたことはないでしょうか。
とはいえ、そこで「それは〇〇さんがそう思っているだけでしょ」と返してしまうと、それもまた上司自身の主観になります。これでは事実を確認する対話にはなりません。
このようなとき、「具体的にどんなセリフを言ったのか(言われたのか)」「実際に何をしたのか(されたのか)」といった質問をして客観的な情報を引き出します。
私が相談を受けたときのことです。ある相談者が「ひどいことを言われた」と強い口調で訴えてきたため、5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)を確認しながら、事実を掘り下げていきました。
「あなたはそのとき何と言いましたか? それに対して相手は何と返しましたか?」とやり取りを具体的に尋ねたところ、相談者は次第に落ち着きを取り戻し、「……、そこまできつい言い方じゃなかったかもしれません」と、自分の思い込みに気がついたり、怒りや悲しみが和らぐ表情を見せたりする瞬間に立ち会ったことがあります。
職場でのパワハラ・セクハラや月100時間以上のサービス残業、労災隠し、不当解雇を経験したことから、「会社が労働者を大切にできるための支援」を志し、社会保険労務士資格を取得。
顧問業務を行いながら、会社と労働者のトラブル解決に携わる過程で、本来的に職場トラブルを防ぐ方法を考えるようになる。
その後大学院に進学し、組織心理学とトラブル発生のメカニズムを研究。MBAを取得。大学院での研究と実務経験から、問題行動の背景には処遇に対する社員の不満があり、その8割は「不満を聴く」ことで解消していることに気づく。
これを紛争解決に取り入れたところ、多くの困難事例を早期解決できるように。
現在は特定社労士の試験でグループ研修のグループリーダーを7期務める。
裁判になる前に職場トラブルを早期解決する実務家として15年の経験をもとに、特定社労士実務家の育成セミナーや、企業内ハラスメント研修、経営者向け研修など講師実績も多数。
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