この記事は2025年11月18日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:自民党の責任ある積極財政議連が25兆円規模の経済対策を提言」を一部編集し、転載したものです。
自民党総裁選で、高市氏を強く支え、勝利の原動力となったのは「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の議員たちだ。高市首相の「責任ある積極財政」の主張は、この議連の名前と同じである。
議連は、25兆円規模の経済対策の実施を求める提言をした。17兆円程度と報じられた経済対策の規模は、議連の求めに応じて増額されていくとみられる。
自民党総裁選で、高市氏を強く支え、勝利の原動力となったのは「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の議員たちだ。若手を中心に70名のメンバーが議連に参加している。高市氏の20名の総裁選推薦人の内、議連の議員は12名も占めている。積極財政は旧安倍派が中心であるというのは間違った見方であり、議連のメンバーは派閥横断的である。高市首相の「責任ある積極財政」の主張は、この議連の名前と同じである。議連の議員が、マクロ経済政策の勉強を続けてきたのは、安倍元総理の強い問題意識からだ。政治家の仕事は、地元の陳情を受けるなど、ミクロに偏りやすい。国民を豊かにするのが政治家の仕事であるから、若手の政治家はマクロ経済政策をしっかり勉強すべきであるという考えだ。マクロ経済政策をしっかり勉強することが、政治家の国家観を作ることにもなる。城内経済財政大臣を顧問として、民間エコノミストと議論を重ね、マクロ経済政策の勉強を続けた結果、多くの若手議員が積極財政派となり、議連は拡大してきた。積極財政を掲げる高市政権の誕生に、議連の議員が貢献したことは、安倍元総理が後世のために蒔いた種が結実した結果である。議連は、25兆円規模の経済対策の実施を求める提言をした。17兆円程度と報じられた経済対策の規模は、議連の求めに応じて増額されていくとみられる。
自民党「責任ある積極財政を推進する議員連盟」
日本の底力を引き出す25兆円規模の戦略的補正予算編成に関する提言
―責任ある積極財政の実行を通じて、国民生活を守り強い経済を実現する―
一、 現下の経済情勢と基本認識
日本経済はいま、実質賃金が30 年近く伸びず、成長の果実が国民に届かない構造的停滞から脱却できるかどうかの分岐点にある。デフレ的心理が社会全体を覆い、企業は投資より内部留保を優先し、家計は将来不安から消費を抑制してきた。その結果、潜在成長力は低下し、地域経済や中間層の活力も失われつつある。
こうした中、高市早苗内閣は「責任ある積極財政」を掲げ、国民生活を守るためには慣例や前例にとらわれず、必要な政策手段を総動員する方針を明確にした。
これは単なる財政政策の転換ではなく、「国民の暮らしを立て直し、日本の底力を取り戻すための国家的挑戦」である。30 年にわたる実質賃金停滞の構造を転換し、成長と分配の好循環を実現するには、官民が一体となり、危機管理投資・成長投資・人への投資を強力かつ可及的速やかに進めることが不可欠である。
一部には、「積極財政は国債の信認を損なう」、「金利が急上昇する」、「将来世代にツケを残す」といった懸念がある。しかし、これらはデータにも国際常識にも基づかない過度な杞憂である。また、しばしば“国民一人あたりの借金”といった単純化された指標が議論されるが、政府の負債は国民個人の借金ではなく、主として将来世代が利用する公共サービスやインフラへの投資の裏側にあるものである。2,100 兆円を超える金融資産を保有する家計をはじめ、企業・政府を含めたマクロ経済全体の資金循環を踏まえる視点が不可欠である。以下、基本的な認識を整理する。
1. 金利上昇で財政が圧迫されるとの懸念
国債の9 割以上が国内保有、金利は財政赤字だけでなく、企業など民間の資金需要・成長率・物価・日銀の金融政策で決まる。現状はまだ企業の資金需要が弱く、25 兆円規模の財政支出で長期金利が大幅に上昇するリスクは低い。足元の金利上昇はむしろ持続的な名目成長を期待した、正常化の動きである。
2. 平時に国債発行を抑えるべきとの主張
有事に必要なのは抑制された国債発行残高ではなく、強い経済基盤と供給力である。平時に投資を怠れば基盤が弱まり、有事こそ対応できない。平時の積極投資こそ最大の備えである。
3. 財政規律を失えば金利が暴騰するとの指摘
日本では30 年、財政拡張と金利上昇の相関はない。過度な緊縮がデフレを固定化した。金利を安定させるのは規律より成長への信頼である。
4. トラス・ショックの再来との懸念
英国の混乱は、過度なレバレッジ運用を行っていた年金基金による損失穴埋めのための大量の保有国債売却、国内に強い資金需要が存在していた中での追加的な財政拡大と金融政策(バランスシート縮小姿勢にあった)との矛盾などが原因であり、個別要因といえる。日本は財政赤字がほぼゼロであることに加え企業は貯蓄超過で、財政収支と企業貯蓄率の合計であるネットの資金需要1は消滅しているため、同様の構造的リスクは存在しない。
5. 将来世代へのツケ回し論
国債は将来世代に返済を押し付けるものではなく、成長資産を残す手段である。国内保有が大半で、実態は世代間の所得移転。最大のツケは成長を怠ることである。
6. 市場の信認を失うとの懸念
日本国債は世界で最も安定した安全資産であり、通貨主権国家の信認は経済成長と政策の整合性で維持される。むしろ積極財政が成長期待を通じて信認を強化する。いまこそ、長年の「緊縮の常識」を見直し、未来への投資を通じて日本経済を再起動させなければならない。本議員連盟は、高市政権が掲げる「責任ある積極財政」を強力に後押しし、国民一人ひとりの暮らしの安心と希望を実感できる経済の実現に向け、断固たる政策実行を求める。
二、提言の基本方針
①生活の安全保障・物価高対策、②危機管理投資と成長投資、③外交力・防衛力の強化、に基づき、以下の原則のもと、令和七年度補正予算を編成すべきである。
1.「危機管理投資」「成長投資」の加速
・AI・半導体・造船・量子・航空宇宙・エネルギー・防災・防衛産業・ フュージョンエネルギー(核融合)、食料・農林水産業など、17 戦略分野を中心に官民連携の中長期投資を推進。
・基金制度の「3 年ルール」を見直し、10 年以上の継続投資を可能とする。
・公共投資の評価に使われてきた社会的割引率(B/C)の4%固定を見直し、低金利を反映した適正な基準へ改めることで、成長投資・防災投資を不当に抑制してきた緊縮バイアスを是正する。
2. 「生活の安全保障」への即効投資
・上記の「危機管理投資」と「成長投資」に加え、物価高対策、賃上げ環境整備、家計減税・エネルギー支援などを通じて、家計の可処分所得を直接的に押し上げ、需給ギャップを+2%超へ押し上げる。
3. 「地方・中小企業」への分配拡大
・補助金・地方交付金を通じ、地方経済・中小事業者の投資・雇用を刺激。
・地域インフラ更新・観光再生・スタートアップ育成に重点配分。
4. 「人材・教育」への長期投資
・教育国債の創設による教育・科学技術・人材育成への恒常的財源確保。
・リスキリング、AI 活用教育、看護・介護人材確保への重点化
5. 「未来への安心」への社会的投資
・年金・医療・介護制度の経済成長前提を1%超へ見直し、悲観的試算を是正。
・「 悲観バブル」を脱し、持続的成長による社会保障の安定化を図る。
三、規模感と財源方針
【規模感】
これらの政策を着実に実行するためには、直近の補正予算(R6:14.7 兆円【一般会計13.9 兆円、特別会計0.8 兆円】、R5:14.3 兆円【一般会計13.1 兆円、特別会計1.2 兆円】)を大きく上回る規模が、現下の下押し圧力と投資競争の厳しさを踏まえれば最低限必要であり、令和七年度補正予算の規模は総額25 兆円超を確保すべきである。
これは、恣意的な「規模ありき」の数字ではなく、①生活の安全保障・物価高対策、②危機管理投資と成長投資、③外交力・防衛力の強化を一つひとつ精査・積み上げた結果である。
企業を貯蓄超過から投資超過に転換させるためには、足元でゼロ%近傍の需給ギャップは+2%が求められ、安定的に名目GDP 成長率を3%程度にするためにはGDP 比-5%程度へのネットの資金需要の拡大が必要である。この組み合わせが2%台の持続的な物価上昇と整合的である。また、2025 年後半の成長減速見込みや企業収益の悪化観測も、機動的な上振れ余地を確保する根拠となる。
【財源方針】
① 成長投資・危機管理投資のための国債発行は躊躇しない。 国債は永続的に借り換え可能な制度債務であり、将来の税収で即座に返すものではない。最大のツケは“借金”ではなく“成長機会の損失”である。
② 既存基金の残高活用(燃料油激変緩和0.8 兆円相当など)を最大限に活かし、補正での追加歳出を最小化。
③ 税制・制度改正は別枠管理とし、ガソリン・軽油の「当分の間税率廃止」は歳出勘定に算入しない。
④ 歳出を複数年度コミットメント設計とし、設備投資・賃上げ・人材育成を連動させる税制措置(例:一括償却・研究開発控除)で民間投資を誘発。
【財政規律と債務管理】
歳出を税収の範囲内に収めるPB 黒字化目標では、本来必要である成長投資が著しく抑制されてしまう。高市政権の新方針は、「PB 黒字化の形式目標」から、「政府債務残高対GDP 比の安定的引下げ」という実質的健全化指標への転換である。また、成長投資は政府資産の増加も意味するため、債務から資産を差し引いた、純債務残高GDP 比も参照することが必要である。成長投資の拡大により持続的に名目GDP が増加すれば、日本国債の格付けは最上位であるAAA まで改善させることが可能である。実質的健全化指標への転換は、単なる規律の緩和ではなく、成長による財政改善という国際標準への回帰であり、経済力を基礎とする「責任ある積極財政」の骨格を成す。
四、重点配分項目(計25 兆円)
①生活の安全保障・物価高対策(6.3 兆円)
(1)生活防衛の即効策としての重点支援地方交付金 2.0 兆円
・推奨メニュー拡充(燃料費等支援・米など食料品の高騰対策・給食費・官公需単価引上げ・地域版賃上げ支援の横展開など)、交付額目安の前倒し通知で即応
(2) 厳冬期の電気・ガス料金負担軽減 1.1 兆円
・1‒3 月の標準単価抑制に加え、寒冷地・多子世帯の加算を新設、自治体実装費も含む
・灯油価格の高騰に対応するため、寒冷地中心に灯油購入支援を緊急実施
(3)実質賃金を確実に押し上げる中小・小規模事業者の賃上げ支援 1.5 兆円
・賃上げ促進税制を活用できない赤字企業でも使える賃上げ給付+社会保険料軽減支援、最低賃金上振れ地域の加点、業務改善支援金の充実等
(4)こども・子育て支援 1.2 兆円
・第三子以降の保育料実質無償化の前倒し、ひとり親・多子の光熱・通学交通の臨時加算
(5)物流・公共交通の燃料高対策 0.5 兆円
・バス・トラック事業の原資に「運輸事業振興助成交付金」併用、地方路線維持
②危機管理投資と成長投資(14.7 兆円)
(1)経済安保・科学技術(6.5 兆円)
(2)食料安保・一次産業振興(1.0 兆円)
(3)エネルギー・資源安保(2.0 兆円)
(4)防災・減災・国土強靭化(3.0 兆円)
(5)未来投資・人づくり、人材育成(1.0 兆円)
(6)医療・健康・介護体制(1.2 兆円)
③防衛力と外交力の強化(3.0 兆円)
(1)防衛費(GDP2%達成に必要な上積み) 2.2 兆円
(2)米国関税措置への対応 0.4 兆円
(3)経済外交・ODA の戦略強化 0.4 兆円
④その他
地方交付税交付金 1.0 兆円
五、結語
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、単なる財政出動ではなく、「危機を成長に変える国家戦略」である。経済あっての財政の基本方針のもと、国民生活の改善を優先し、「強い経済」「豊かな暮らし」「誇れる国家」を実現するために、本議員連盟は、上記の方針に沿った真水25 兆円規模の補正予算の早期編成を強く要望する。
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