リーマンショック後の民事再生という苦難から再起し、新たに立ち上げた株式会社ジェクトワン。現在、同社はソリューション、リノベーションに加え、社会課題解決を掲げた空き家解決サービス「アキサポ」を事業の柱とする。
「儲からない」との反対を押し切って始めたアキサポは、同社のBtoC情報獲得の鍵となり、経営の大きな転換点となった。さらに、多岐にわたる不動産のマルチカテゴリーを強みとし、不況に強いポートフォリオを構築。今後は、AIを活用した「空き家のコタエ」プロジェクトを推進していくという。
「日本一、不動産を最適化できる会社」を目指す大河社長の、挑戦の軌跡と未来戦略を追う。
企業サイト:https://jectone.jp/
目次
「ソリューション」「リノベーション」「アキサポ」が事業の3本柱
── ジェクトワンはアキサポが知られていますが、それ以外にも事業の柱があります。現在はどのような体制なのでしょうか?
大河氏(以下、敬称略) 私はもともと、1人、2人といった少人数から会社をスタートし、不動産事業を小さく手掛けていました。その後、開発やリノベーションを事業として行うようになり、9年前にアキサポ事業に取り組み始めています。
現在は、ソリューション事業、リノベーション事業、アキサポ事業の大きく3つの事業を展開する会社となっています。
── 創業から15年超という中で、大きな成長につながったターニングポイントについて教えてください。
大河 アキサポ事業の開始が、大きな転換点です。しかし、実質的な売上ベースでの成長という点では空き家事業ではなく、ソリューション事業が大きく寄与しています。不動産事業には手数料収入と売買収入の二つがありますが、創業当初は手数料収入が中心でした。
その後、自社で売買できるようになり、これが大きな成長の原動力に。さらに設立から1年半ほど経ったころ、東急不動産様と共同で大きなプロジェクトを手掛けました。
その10年後に、リノベーション事業をスタート。現在ではリノベーション事業だけで売上の40%近くを占めるようになっています。
会社としての方向性が大きく見えたのは、9年前に始めたアキサポ事業です。不動産デベロッパーの領域は通常BtoBですが、アキサポはBtoC、すなわち空き家の所有者から直接、情報を得るビジネスモデルです。
これにより、初めてBtoCからの情報を直接受け取れるようになったことが、非常に大きなターニングポイントだと考えています。
リーマンショックからの再起とジェクトワン創業
── 大河社長は、以前の会社で民事再生を経験されたとのことですが。
大河 はい。私はもともとサラリーマンで、38歳で独立し、現在のジェクトワンの前身となる会社を設立。2人でスタートした会社は5年で売上約15億円、社員100名規模にまで急成長しましたが、当時の不動産流動化バブルとサブプライムローン問題、そしてリーマンショックの影響を受けました。
上場の一歩手前であったものの、結局は民事再生という結果になってしまったのです。
そして、民事再生申請が認可された後に、私は退職。連帯保証などの負担も少なかったため、再びゼロから会社をつくることができました。それが現在のジェクトワンです。当時、就職が決まっていない社員が数人いたため、彼らとともに少人数でスタートしたのが17年前になります。
── 17年間、さまざまな困難があったかと思いますが、特に大きな壁は何でしたか?
大河 アキサポ事業は、当時の不動産の常識を変えるものでした。
不動産事業は通常、一つのプロジェクトに対して銀行融資を受け、それを元に進めていきます。しかし、アキサポは銀行融資を受けられませんでした。つまり、自分たちの資金を削って事業を行うしかなく、従来のビジネスモデルとは真逆だったのです。
同業他社からは、「なぜ儲からないことをやるのか」という声も多くありました。しかし、空き家問題が大きな社会問題としてクローズアップされていた時期であり、私は民間不動産事業がそのソリューションを構築できない状況に疑問を感じていたのです。
マネタイズできるモデルを構築し、空き家を減らすことと利益を上げることが両立できれば、民間企業のあるべき姿を示せると考え、無理をしてでもスタートしました。
事業開始当初は、結果が出なければやめようと、3〜5年のタイムリミットを設定。成果が出なかった時期は、ソリューション事業やリノベーション事業で得た利益をアキサポに投資して回していたような形でした。
しかし、テレビ番組で注目されたことをきっかけに、年間数十件だった反響が数千件にまで増加し、「できる」という手応えを得られました。これが、アキサポ事業をマネタイズしていく過程での大きな壁であり、乗り越えた経験です。
── そのような反対の中、事業を推進できた原動力は何だったのでしょうか?
大河 空き家をなくすという理念はもちろんですが、企業の将来性も重要です。
デベロッパーの取引はBtoB、つまり不動産会社やゼネコンとの取引が中心です。しかし、BtoBは個人の営業力に依存する要素が強く、将来的にデジタル化が進む中で通用しなくなると考えました。
そこで、BtoCの文化を築くことが、10年後、20年後も続けられる会社になるための鍵だと考えたのです。今は損をするように見えても、それが将来的に会社のスタイルとして跳ね返ってくると信じていました。
私自身、24〜25歳ごろから不動産業界に長く携わっており、社会の流れと不動産の形がマッチしないと感じていた側面があります。だからこそ、新しい領域を自分たちでリスクを背負って開拓していく必要があったのです。
幸い、当社は創業当初からソリューション事業やリノベーション事業で利益を出せる体質を築けていたため、新しい事業に挑戦する余裕がありました。将来的には、アキサポ事業のBtoCの情報力を活かし、ソリューション事業やリノベーション事業もサポートできるような形を目指しています。
── アキサポ事業では、具体的にどのようなサービスを提供しているのでしょうか?
大河 基本的には、空き家や土地を所有されている方から情報を収集し、その活用方法を提案しています。現在は、売りたくない所有者だけでなく(※)、売りたい所有者からの情報もすべて取り扱っています。
※…売りたくない人向けに「活用」サービス、売りたい人向けに「買取」サービスのご提案をしている
活用エリアも東京中心だったのが買取サービスを中心に全国へ広がり、空き家所有者全員が対象です。年間数千件以上の反響があり、社員が島根県や四国、北海道まで出向き、空き家を買い取るなどの事業を行っています。空き家で悩む方々全般の課題解決に取り組む段階にきています。
マルチカテゴリー展開がもたらす競争優位性
── ソリューション事業やリノベーション事業における競合優位性は、どのような点で強みがあるのでしょうか?
大河 まず、ソリューション事業においては、マンションだけなど単一のカテゴリーを専門とする会社が多い中で、当社は土地に合った事業を展開するという視点で事業を進めています。そのため、マンション、ビル、ホテル、戸建て、アパート、商業施設など、さまざまなカテゴリーの建物を手掛けています。
従来のデベロッパーが「建物をつくるために」土地を探すのに対し、当社は「土地に何が合うのか」という視点から、マンション、ホテル、ビル、あるいは商業施設など、最適な建物を企画開発しているということです。
マンションだけを開発するほうが事業効率は良いですが、当社は建物のカテゴリーが多岐にわたるため、それぞれの物件で収支やつくり方が異なり、単一型のビジネスより非常に難しい。
しかしその分、多方面に事業を展開できます。たとえば、アパート事業が売上の半分を占めていた時期もありましたが、個人投資家の融資問題でアパート事業が売れなくなった際、すぐに事業を縮小できました。これは、アパート事業以外にも鉄筋コンクリートのマンション、ビル、ホテル、リノベーションなど、多様な事業があったため実現できたことです。
不動産事業は大きく分けて、建物をゼロから建てる「開発」と、既存の建物を改修する「リノベーション」や「コンバージョン」があります。リーマンショック時には開発事業がストップしましたが、リノベーション事業は短期融資で完結するためリスクが少なく、投資額も抑えられます。
よって、どのような不況がきてもリノベーション事業は残る。当社はアキサポも含め、再生事業を強化しており、一つの事業に依存しないポートフォリオ構築が強みです。
ホテル事業もコロナ禍で苦境に立たされましたが、他の事業があるため乗り越えられました。ホテル事業が不調でも、他の事業でカバーできるということが差別化の大きなポイントだと考えています。
── マーケティング戦略については、どのように考えていますか?
大河 アキサポのマーケティングは反響獲得に注力していますが、今後は会社全体のブランディング構築を進めていきます。特に力を入れているのが、リノベーション事業におけるブランディングの価値向上です。
現在はアキサポを中心にデジタルマーケティングを展開し、反響を得て集客していますが、将来的にはリノベーション事業における差別化を図ります。
リノベーション事業の差別化は、「良い場所で、良いものをつくる」ことに尽きると考えています。そこで、ジェクトワンが作るリノベーションだからこそ良い、というブランド価値を確立したいのです。
中古マンション市場では、新築マンションのように「大手がつくるマンションだから良い」というブランド力はまだありません。しかし、当社は良い場所を選び、そこで質の高いリノベーションを行うことで、そのブランドを築いていきます。
一つひとつの物件の工事やデザインにこだわりを持ち、目指すのは無印良品のようなものづくりです。リノベーション事業は参入しやすい分野ですが、その中でサービスを差別化しトップに立つため、質の高いものづくりとセレクトショップのような視点が必要になります。
現在、その構築を進めている段階です。
── 空き家所有者の年齢層について、ご高齢の方が多いイメージがありますが?
大河 窓口に声を掛けてくださるのは40〜60代が中心ですが、それは70〜80代の方々の息子さんなどが代わりに問い合わせることが多いからです。そのため、中心となる層は50代、60代であり、彼らはデジタルにも比較的慣れています。問い合わせもメールが一般的な手段です。
ジェクトワンならではのAI戦略
── 組織面での強みや課題、今後の拡大計画について教えてください。
大河 17年目にして、ようやく組織が整ってきていると感じています。今後、新しい部署の設立計画もありますが、それは既存の部署に力がついてきた実感があるからです。
今後の拡大計画において最も重要なのは、AIの活用です。今年度から、短期目標として「AIを使いこなす」ことを掲げています。AIを活用して業務を合理化し、削減できた時間で新たな業務に取り組むことを目指しています。
半年以上前からGoogleのGeminiを活用しており、社内のアクティブユーザーも増えました。不動産会社はDXやAI導入が遅れている企業が多いですが、当社は積極的に進めています。
現在、アキサポ事業ではAIを活用したプロダクト開発を進めており、先日「空き家のコタエ」プロジェクトをリリースしました。これは、空き家の所有者が自身の物件の面積、築年数、活用方法、価値などを把握できていないという課題に対し、住所などの基本情報からAIが物件の活用方法や賃料、売却価格、解体費用などを可視化するサービスです。
来年の実用化を目指しており、これまで1時間以上かかっていた調査が数秒で完了するようになります。所有者にとっても、投資家にとっても、物件の検討がしやすくなるでしょう。
当社は現在140名ほどの規模ですが、売上を増やすためには人数を増やすだけでなく、生産性を向上させることが不可欠です。そのため、AI活用に注力しています。
── 組織拡大における「壁」について、何か経験されたことはありますか。
大河 正直なところ、大きな壁はあまりありませんでした。コロナ禍以降、毎年25名ずつほど増員しており、100名を超えると名前を覚えにくくなるという点はありますが、定期的に全社員と会食するなど、コミュニケーションは取れています。
最終的な目標となる「不動産の最適化」とは?
── 直近では伊藤忠都市開発との業務提携がありましたが、どのような効果が期待できるのでしょう?
大河 これまで独立企業として、大手の資本を入れずに経営してきました。しかし、伊藤忠都市開発様とはかねてからの取引もあり、シナジー効果が非常に高いと感じています。提携により伊藤忠都市開発様のグループ全体のDX推進チームや、全国に約1000のネットワークを持つセンチュリー21様、伊藤忠ハウジング様のリノベーション事業などとの連携が可能になります。
純粋に相互利益が多いことから、今回の提携に踏み切りました。
── 経営者として大切にしていること、意思決定の際に重視されている点は何でしょうか?
大河 最も大切にしているのは、「誰が、何を、どのように仕事をするのか」ということです。
その人に合った人員配置を行い、ポテンシャルを100%引き出せる環境をつくることが重要です。仕事のやりやすさ、雰囲気、人間関係といった点で風通しの良い会社でありたいと思っています。仕事がやりづらい、上にいいにくいといった状況があると、本来の力が発揮できません。実際、そのような場合は配置転換も行います。
意思決定については、トップダウンも必要ですが、そればかりでは社員が諦めムードになるでしょう。「社長が決めるんでしょ」とならないよう、民主的に意見を出し合い、活発な議論を経て、客観的に良い方向へ向かうことを意識しています。
ただし、どうしても譲れない点については、私が押し通すこともあります。
── 今後の展望について、5年後、10年後どのような会社になっていたいと考えていますか?
大河 短期的にはAIの使いこなし、中期的には空き家事業で日本一を目指します。そして、アナログ・デジタル両面から空き家事業のAI化を進めます。
長期的には、「日本一、不動産を最適化できる会社」になることです。不動産の最適化とは、その場所にあった本当に良いものをつくることです。
以前、マンションデベロッパーだった頃は、商業地域にマンションを建てたり、本来ビルが合う場所にマンションを建てたりと、場所の特性を無視した開発をしていました。それが嫌で今の会社を設立しましたから。
不動産を最適化する事業を通じて、社会から認められる会社になることが長期的な目標です。
- 氏名
- 大河幹男(おおかわ みきお)
- 社名
- 株式会社ジェクトワン
- 役職
- 代表取締役

