米農家が流通まで担うために立ち上げた、株式会社大潟村あきたこまち生産者協会。創業時から注目を集めたが、現社長である涌井信氏が入社して以降、事業は大きく進化した。従来のBtoC通販に加え、ホテルや病院へのBtoB販売を強化。さらに発芽玄米やパックご飯といった加工食品分野へ注力し、事業の多角化を進めた。
栽培(1次産業)、加工(2次産業)、販売(3次産業)までの一貫した事業で「農業の6次産業化」に先鞭をつけた同社だが、さらなる成長のための課題は何なのか。涌井社長が語る。
企業サイト:https://akitakomachi.co.jp/
「農業の6次産業化」の先陣を切る
── 株式会社大潟村あきたこまち生産者協会は、農家による企業です。創業の経緯を詳しく教えてください。
涌井氏(以下、敬称略) 創業者は私の父で、父は新潟県十日町の農家に生まれ、大規模農業に取り組むために20歳そこそこで大潟村に入植しました。しかし、入植と同時に始まった減反政策など、さまざまな苦労を経験する中で「自分たちがつくったお米を自分たちで消費者に届けたい」という思いに至りました。
そこで、減反をしないという選択をし、大潟村で米農家を続けたのです。最終的に、農家自らが減反するかしないかを自分で決められるようにすると共に、会社を設立し、お米の産地直送を始めました。
設立時はインターネットもない時代で、お米を産地から直接東京や大阪にお届けするという取り組みは珍しく、注目を集めました。お客様が農家から直接、買いたいというニーズに応える形で中間流通を省き、創業以来、成長を続けています。
私が26歳で入社してからは、新たな取り組みとして、それまでのBtoC(消費者向け通販)に加え、BtoB(法人向け販売)を強化しました。当時、広がりを見せていた無洗米に注力し、ホテルや飲食店、病院などへの営業を積極的に行いました。
そのために東京支店を立ち上げ、関東を中心に販路を拡大しました。過去には九州や北海道などにも営業所がありましたが、現在は東京と大阪に集約しています。
また、加工食品分野にも力を入れるようになりました。発芽玄米は、食べやすく加工した玄米としてスーパーなどにも並び、現在も当社の柱となるロングセラー商品です。さらにレトルト食品や、現在、最も注力しているパックご飯など、加工食品のラインアップを拡充しました。
私が会社に入ってからの20数年間で、事業は大きく変化しています。
私の入社前は小中学生の学習体験として、ウィンナーやパン等の手作り体験工房にも挑戦しましたが、現在残っているのは私が参画してからの発芽玄米やレトルト食品、パックご飯、そして甘酒といった商品です。創業者の父がさまざまなことに挑戦する人間だったこともあり、お米とは関連しない多岐にわたるチャレンジをしてきたことは、会社にも良い影響があったと思います。
これら一連の取り組みが、当社の6次産業化を推進してきたのです。
── やはり売り上げも、BtoB事業への参入で伸びたのでしょうか?
涌井 はい、間違いなくBtoBの営業を始めてから伸びました。販路が増え、発芽玄米やレトルト食品、そして近年ではパックご飯が当社の成長をけん引しています。
一方で、創業以来続けてきたBtoCのお米通販事業は、競合が増える中で徐々に縮小傾向にありました。新たな売り上げをつくる必要性から、先ほどの営業所の開設などにも取り組んだということです。
農地引き継ぎで「よそ者」と見られないための方法は?
── 米不足が国家的な課題となっています。
涌井 まさに直面しているのが、加工食品、特にパックご飯の製造拡大に伴う原料米の確保です。パックご飯は大量のお米を使用するため、安定的な供給体制の構築が不可欠です。
当社は、大潟村を中心に契約栽培で原料米を確保していますが、それだけでは足りず米穀店からも仕入れています。また、加工工場の稼働が増えるにつれて、取り扱う原料米は増加の一途をたどっています。
そこで、6次産業化を推進する企業としては、自分たちがつくるお米や契約栽培米をさらに広げる必要が出てきました。当社はもともと農業法人であり、2次産業である食品製造も行いますが、やはり強みは1次産業にあると考えるからです。
対応する取り組みとして、2年ほど前から直接栽培や契約栽培を拡大しています。直接栽培としては、現在、秋田県内で約120ヘクタールの農場を運営していますが、将来的には1000ヘクタール規模への拡大を目指したい。それでも、パックご飯工場の需要にはまだ足りない状況です。
なお、拡大する背景には農業を「家業」から「産業」へと成熟させたいという思いもあります。
若い世代が農業をやりたいと思っても、就職先としての農業法人はまだ少ないのが現状です。一方、当社には大学卒業後に農業をやりたいという意欲を持った若者が応募してくるケースが増えています。彼らが活躍できる場として、社員として農業に取り組める体制を構築し、「農業」の「産業」としての成熟を目指しています。
1000ヘクタール規模の農場を運営するには、当然、そこで働く若い力が必要です。自分たちでお米をつくることは、需要の面からだけでなく、若い人たちに就職先として当社を選んでもらうためにも不可欠なのです。
── 農地を広げるという点について、具体的なプロセスを教えてください。
涌井 農地の拡大は、地主の方々が農地を手放したいという情報が入るところから始まります。担い手が減ったことを理由に農地を売却したい場合、それを引き継ぐ流れが一般的です。
ただ、地域社会との関わりという課題が存在します。農業は地域社会を守る側面もあるため、外部から来て農地を求める我々が、「よそ者」として見られないようにするため、地域社会との良好な関係構築は、農地拡大において重要な課題です。
大潟村内での農地拡大は比較的順調に進んできましたが、他の地域へ進出する際は、そうした課題に直面することがあります。そのため、農地を手放したいという方がいたら、まずは契約栽培をベースにお声がけする形で進めています。
契約栽培としながら、地主の方が引退されるタイミングで農地を引き継ぐことが、理想とするパターンです。
自社で米を生産できるという優位性
── 米を扱う企業はほかにもあると思いますが、大潟村あきたこまち生産者協会の競合優位性はどこにあるのでしょう?
涌井 当社は食品製造業に分類されますが、製造メーカーとして、他社との大きな優位性を築くことは難しいと考えています。それよりも、当社の原料の9割以上がお米であり、そのお米そのものを自社でつくることができる点が、最大の強みであり、優位性です。
さらに、会社として、毎月給料を支払って社員が農業に取り組める体制を構築している点も他社との違いです。約1000ヘクタール規模の農場運営を目指し、社員形式での農業体制を整えることで、就職先として成熟した農業法人としての地位を確立しつつあります。
国内市場においては、人口減少に伴う消費動向の変化もありますが、パックご飯などの需要拡大は今後も続くと考えています。一方で、海外への販売も意識するところです。現在、米価の高騰により海外との価格差が大きくなっていますが、賞味期限が1年あるお米の海外販売に今後、注力します。
また、当社はプライベートブランド商品の開発にも力を入れています。プライベートブランドを展開するには品質管理の監査をクリアできる体制が不可欠です。
当社は、お米の検査はもちろん、加工食品の検査や工場の品質管理にも力を入れてきたため、ノウハウが蓄積されており、プライベートブランドの展開を継続できています。
── 農業の6次産業化においては、マーケティングのノウハウに不足があり苦戦するケースも見られます。
涌井 マーケティングの観点では、BtoBの事業、特に海外を含めたパックご飯の展開と、契約してくださる農家の数をどう増やすかという、二点を同時進行するのが重要だと考えています。契約栽培を広げるためには、「お米をつくってください」とお願いするだけでなく、再生産できる価格提示が必要になります。
また、最近では、夏の高温によるお米への被害が懸念されており、高温耐性のある品種や多収穫品種、倒れにくい品種など、機能性のある品種への関心が高まっています。
当社は、こうした多収穫品種を企業と協力して提供し、その土地や気候に適していれば契約栽培につなげる取り組みも行っています。
課題は「理念の継承」と「人材」
── ラインアップの拡大は検討していますか?
涌井 現時点では、明確な計画があるわけではありません。この点は、今後の検討課題ですね。
── 農業の6次産業化を実現している企業として、規模がかなり大きいと感じます。
涌井 従業員は約140人です。創業当時の社員は少なく、新しい社員が中心となっています。そのため、会社の理念や大切にしていることを、どう受け継いでいくかが課題です。
当社の強みとしては、品質管理に対する徹底した姿勢が挙げられます。製造部門には、今日の作業が明日も確実に再現できるよう、さまざまな仕組みやルールがあります。
会社が大切にしていることを継承するためには結局、これらを一つひとつ守り改善することの繰り返ししかありません。また社長として、部長との毎週のミーティングを通じ、週単位の課題や今後の見直しについて議論も行います。
一方で、人材のスキルにはばらつきがあり、特定の個人に仕事が集中する傾向があります。職人技のような専門性を次世代へいかに引き継ぐかに苦労しており、特に若い世代を中心とした人材育成は常に課題と感じています。
秋田県という立地から、人材確保は容易ではありませんが、県外の大学からの応募者も増えており、少しずつ人材の課題は解決に向かっていると感じています。現在、新たに建設したパックご飯工場がフル稼働し、年間の売り上げは100億円を目標に頑張っているところです。
秋田県内で食品メーカーとして100億円を超える規模の企業は少ないと思われ、経済産業省の「100億宣言」にも採択されました。こうした状況は、人材獲得においても追い風となると感じています。
米不足や労働安全のリスクにどう取り組む?
── 米不足に関して、ファイナンス面での課題はありますか?
涌井 原料米の仕入れ資金が膨らんでいる状況に対応するため、秋田銀行、商工中金、秋田信用組合との協調融資を受けております。米価の高騰に対応するため、1年以上前から銀行と相談を重ね今回の資金調達に至っています。当面の資金繰りは、かなり楽になりました。
── ファイナンス以外のリスク対策も教えてください。
涌井 経営者として、10年以上先の未来を見据え、準備を進めています。最も大切にしているのは、従業員が安全に働ける環境です。農業や製造業には危険な作業も伴い、事故と隣り合わせの部分もあります。事業で最優先にすべきは労働安全です。その上で生産性や品質管理を追求しています。
常にリスクに対するアンテナを高く持ち、現場の清掃が行き届いていないといった状況から、従業員の心の緩みや品質管理低下のリスクを察知し、改善に努めています。毎月、品質管理や労働安全に関する会議を行っており、リスク低減も重要です。
また、1次産業である農業は、地域社会との関わりが非常に重要です。大潟村をはじめ、地域社会との良好な関係を築くことを大切にしています。東京や海外で商品を販売する企業ですが、地域の農業との関わりを重視しています。
── 独自に多くの米を流通させたことで、周囲からの期待もあるので は?
涌井 食品メーカーとして秋田県で最大規模となることは、当初想定していませんでしたが、そうなった以上は従業員のレベルアップ、商品のレベルアップ、そして顧客対応やサービスレベルのアップも図っていかなければなりません。
地域社会において、誰もが知っている企業となることで、厳しい意見も寄せられるようになるでしょう。そうした意見、期待に応えられるよう、内側からの意識改革が必要です。そうなるためには、私も従業員も日頃から自分自身を高めるための努力が必要であると考えおります。
会社としてより高い目標を掲げることになり、これまでよりもはるかに大きい仕事にも挑戦する必要があるでしょう。海外展開や農業の拡大を通じて、若い人たちが就職先として農業法人を選んでくれるような会社を目指します。
- 氏名
- 涌井信(わくい しん)
- 社名
- 株式会社大潟村あきたこまち生産者協会
- 役職
- 代表取締役社長

