障害者の「住まい・はたらく・親なきあと」を支える地域共生型モデルを展開しているKINOPPI株式会社。茨城県南エリアを中心にグループホーム「キノッピの家」を20拠点展開し、障害者向けCoワーキングスペース「KINOPPI CAFE」の運営や、親亡き後の暮らしを見据えた相談窓口・支援事業も行っている。
社会課題を“資源”と捉え、誰もが役割と居場所を持てる社会を目指す同社の代表取締役である紀林氏に、創業から現在までの道のり、事業への想い、そして今後の展望について聞いた。
企業サイト:https://kinoppi.co.jp/
創業から現在までの事業変遷と成長の軌跡
── 会社員時代に会社を設立されたとか。
紀 もともとは大学卒業後にフリーター生活を経て28歳で就職をし、18年ほどサラリーマンをしていました。28歳で正社員になり、その傍らで、自分の会社を設立したのですが、創業当初は、中古のアパートやマンションを購入し、貸し出す不動産賃貸業を営んでおりました。
個人的な理由から、もう少し事業を拡大する必要性を感じました。双子の子供たちが私立小学校を受験することになり、入学金や月謝など、かなりの費用がかかると見込まれたからです。
会社勤めだけでは経済的に厳しいと考え、アパート・マンション経営に乗り出したのですが、しかし、不動産賃貸業は資産形成の一つではあっても、劇的にキャッシュを生み出す実業ではありませんでした。そこで、中古不動産を活用して、何か他に事業ができないかと考え始めました。
世の中にこれから求められるものは何か、不動産が好きだったこともあり、中古不動産や地域の空き家を活用して地域に貢献できる事業はないかと、さまざまなマーケットを分析しました。その中で、障がいのある方々の支援につながる事業の可能性を見出したのです。
当時、勤めていた会社の社長にこの事業構想をプレゼンしたのですが、「うちは福祉は専門外だ」と断られてしまいました。しかし、この事業は将来的に必ず求められると確信していたため、自分の会社でこの事業を始めました。
障がい者グループホーム開業から2年間は会社員と副業という形で事業を進めていましたが、副業で始めた事業が2年強で年商1億円を超えるまでに成長しました。拠点の数も増え、自分の会社にコミットする必要性を感じ、3年ほど前に会社員を卒業し、自身の会社に代表取締役として入社しました。
会社員を卒業してからの3年間で、年商は1億円ずつ着実に増加し、今年度は4億2000万円を超えました。当初はグループホームの運営事業のみでしたが、2年目からはコンサルティング事業も開始し、こちらも順調に伸びています。
茨城県で始めた事業でしたが、全国的なニーズがあることを確信し、自身のノウハウを共有することで、より多くの困っている方々を支援できると考え、コンサルティングサービスを展開しました。現在、グループホーム運営とコンサルティング事業の2本柱が順調に成長を続けています。
副業時代から見えた、障害者支援事業の可能性
── 副業という形からスタートされたとのことですが、当時、どのくらいの時間を事業に費していたのですか?
紀 茨城県に住んで都内の会社に通勤していたので、平日は時間を割けませんでした。現場にはパートスタッフがいたため、指示を出したり、電話で対応できる範囲は遠隔で行ったりしていました。現場のスタッフには、お客様対応や見学の対応などを指示し、質問があった場合は後でオーナーが折り返すというオペレーションを組んでいました。感覚的には、寝る時間を削るというほどの忙しさではありませんでした。むしろ、今のほうが忙しいくらいです。
パートスタッフの方々には、オーナーの代わりに現場に入ってお客様対応をしていただくという意識で入職していただきました。当時、7~8人のパートスタッフがおり、グループで連携を取りながら、私は別の会社で勤務していました。それでも、2年強で年商1億円を達成できたのは、スタッフの皆さんが主体的に動いてくれたおかげです。
── 沖縄ご出身とのことですが、茨城県に移られたきっかけは?
紀 出身は沖縄ですが、千葉県船橋市で育ちました。幼少期に両親が離婚し、小学校2年生の時に親の都合で千葉に来たんです。船橋市に住みながら大学を卒業し、就職したのですが、子供が小学校受験をすることになり、その学校が茨城県取手市にある私立校でした。受験のために1年間ほど準備をし、合格したことがきっかけで、茨城県に住むことになりました。
子供たちに何か事業を残したい、家業を作りたいという想いもありました。現在、妻も代表取締役を務めており、妻の両親や私の母親もスタッフとして働いています。家族で地域に密着した事業を営むことで、子供たちにも胸を張れる仕事ができるのではないかと考えています。地域密着型の事業は、後継者にとっても良い経験になると信じています。
── ここまで成長できた要因をどう分析していますか?
紀 福祉業界は、他のサービス業とは少し異なります。行政からの給付金や予算を収入源としているため、運営基準や設備基準を満たす事業を展開するだけで、利用者の方々への付加価値提供という意識が薄い事業者が多いのが現状です。
どこも同じような「金太郎飴」のようなグループホームが多い中で、私は利用者の方々が本当に求めているものは何かを常に考えてきました。
ご家族との対話を通じて、障がいのある当事者の方々が、これまでのグループホームに対して抱いていたイメージを理解できました。そこで、私たちは「障がい者ファースト」「当事者ファースト」の視点に立ち、魅力的な部屋や物件、暮らし方、ルール、料金設定などを、ユーザー目線でカスタマイズしていきました。
その結果、利用者の方々からの評判も高まり、営業活動をほとんど行わなくても紹介が来るようになったのです。創業から2年間、利用者の方々を第一に考えたサービス設計の見直しが、現在の成長につながっていると感じています。
── 利用者の性格や要望に応じて、部屋の雰囲気などを変えているそうですね。
紀 はい。最も大切にしているのは、「その人が生活を選べること」です。画一的なシェアハウス型だけでなく、二人暮らしや一人暮らしなど、さまざまな選択肢を提供しています。ルールや支援内容も、利用者の方々の生活の自立度に合わせて柔軟にカスタマイズしています。一人ひとりに合わせた対応をすることで、利用者の方々にご満足いただけているのだと思います。
個別対応は手間がかかりますが、障がいは一人ひとりの個性や嗜好、生活スタイルによって大きく異なります。知的障がい、精神障がい、発達障がいといった分類だけでは語れない部分が多く、一人ひとりに向き合い、共にルールを作り上げていくことが重要だと考えています。
経営者として譲れない「還元」の精神
── 経営者として譲れない、最も大切にされていることは何ですか?
紀 福祉事業に携わる者として、最も譲れないのは「還元」の精神です。私たちの事業は、行政からの給付金や訓練給付費を収入源としています。これを、スタッフや利用者の方々にきちんと還元していかなければ、事業は持続しないと強く意識しています。
給付金が入ってくるのを待つだけでなく、それを支援スタッフにどう還元し、働く人々を増やしていくか。利用者の方々がハンディキャップを克服しながら働く中で、その賃金をどう改善していくか。多くの福祉事業者は、給付金で得た収入をいかに効率化し、コストをかけずにオーナーが利益を得るかを考えていますが、私たちはスタッフの待遇や利用者の方々の工賃に還元することを重視しています。
福祉サービスも「使う人のため、働く人のため」にあるべきだと考えています。還元し続けない限り、事業はスケールせず、存続もできません。経営が成り立たなくなり、事業所が売却されるケースも少なくありませんが、それはスタッフが離職したり、利用者の方々から敬遠されたりすることが原因だと考えられます。社会に還元し、循環させるという視点が、福祉経営者には不可欠だと考えています。
── 今後の市場をどのように見ていますか?
紀 福祉業界のマーケットは、まだ「本番は来ていない」と考えています。特に、8050問題(80代の親が50代の子供の生活を支え、経済的・精神的な負担を抱える社会問題。子供はひきこもり状態で、親に依存していることが多い)は、今後さらに深刻化すると予想されます。
現在、認定障がい者の9割以上が在宅で暮らしており、その多くを高齢の親が支えています。親御さん自身も高齢化し、体力・経済的な面で支援が難しくなるケースが増えています。親亡き後の子供の生活支援と、親自身の老後の生活を同時に考えなければならない状況に、多くのご家族が直面しています。
この問題に対して、グループホーム以外の生活インフラが不足しているのが現状です。私たちは、この課題を解決するために、空き家を活用し、地域高齢者と障がいのある親子をマッチングさせる高収益モデルを構築しました。
地域の高齢者にとっては働く場を提供し、障がいのある方々にとっては地域で安心して暮らせる住まいを整備する。このような社会貢献性の高いビジネスモデルは、地域の金融機関や行政からも応援を得やすく、融資や社債の発行にもつながっています。
── 競争優位性はどこにあると考えていますか?
紀 戸建て型グループホームから二人暮らし向けのグループホーム、さらには一人暮らしの夢を叶える住まいまで、多様なニーズに対応できる点です。また、地域の金融機関や行政との連携を深め、社会性のあるビジネスとして応援してもらえる体制を築いていることも強みです。このモデルをオンライン経営塾で全国に広めることで、多くの地域課題の解決に貢献できると考えています。
サービス業として、お問い合わせいただいた際の電話応対、見学時の丁寧な案内、体験利用時のおもてなしなど、一つ一つの対応にホスピタリティを重視しています。これが、現場での営業力の強みとなっています。
また、私たちのグループホームは、直接的なBtoC営業に見えますが、実際には相談支援専門員やケアマネージャーといった専門職の方々を介したBtoBの側面も持ち合わせています。市役所や病院からの紹介も多く、地域との連携をスムーズに行うことで、選ばれる理由となっています。
── コンサルティング事業については、どのように受講者を募っているのですか?
紀 ビジネスモデルの意義や社会的な必要性、そして安定した収益が見込めるビジネスモデルであることをセミナーでお伝えし、トライアルしたい方を募集しています。
対象は、社会貢献事業をポートフォリオに加えたい経営者の方々、新規事業を始めたい方、そして会社員や医師、看護師などの経験を活かして、福祉分野のオーナーになりたい方々です。前回開催したセミナーには200名以上が参加し、126名が個別面談を申し込み、その内44名が開業に向け手を上げていただきました。10月からは、1年間の経営塾もスタートします。
このプログラムでは、オンラインでの講義や個別指導を通じて、受講者が自身の地元で事業を立ち上げ、拡大していくまでを伴走します。社会の役に立ちながら、しっかりとした収入と利益を確保できるビジネスモデルは、他の業界にはなかなか見られないため、多くの方に興味を持っていただいています。
強みは地域のシニアスタッフ
── 御社の組織面での強みと、課題と感じられている点を教えてください。
紀 強みは、福祉未経験の地域のシニアスタッフを戦力化できたことです。これは、他の会社では難しい点だと考えています。
課題としては、事業の急拡大に伴い、情報量が膨大になり、社員が見落としてしまう部分が出てくる可能性があることです。現在、20拠点以上を展開し、利用者数も110人を超えています。これを支えるスタッフは180人ほどいますが、正社員は8人です。エリア担当制にしていないため、全スタッフが全利用者さんをサポートする体制ですが、このままでは情報過多になり、組織体制の見直しやサポート部門の強化が必要だと感じています。
経理、総務、営業サポート、マーケティングなどの専門部署を設置し、社員の兼務を解消していく必要があります。コンサルティング事業部も、より専門性を高めるためにチーム化していく必要があると考えています。経営者として、管理部門の作り方や本社機能の整備については、現在も悩んでいます。社員が兼務だらけになり、一人ひとりがスペシャリストになっていく中で、組織としてスピード感を維持していくことが課題です。
── 今後の展開や展望について、どのような未来構想を持っていますか?
紀 グループ全体を通して、8050問題の解決に具体的な方法論を持って取り組んでいきたいと考えています。これまで、障がいのあるお子さんたちの地域での暮らしを整備し、それを全国に広げることに注力してきましたが、それだけでは不十分だと感じています。
グループホームに入居できている家庭は、まだ比較的恵まれていて、お金の問題や相続問題など、親亡き後の整理がつかず、動けなくなっている家庭も少なくありません。
そこで今年、一般社団法人「親なきあとのサポート協会」を立ち上げ、シニア向けの相談業務にも着手しました。障害のあるお子さんと、その親御さん、双方を丸ごと地域で支援できるような地域社会を全国に広げていくことが、私の描く未来像です。それが実現できれば、子供たちにも胸を張れると考えています。
まだ道半ばですが、これからは障がい者支援だけでなく、親亡き後の不安を安心に変えることが、私たちの使命になります。人々の不安をなくし、より良い社会を築いていくために、これからも挑戦を続けていきます。
- 氏名
- 紀 林(きの はやし)
- 社名
- KINOPPI株式会社
- 役職
- 会長

