GENSEN HOLDINGS株式会社

2024年、大江戸温泉物語と湯快リゾートが統合して誕生した、国内最大級の温泉運営企業GENSEN HOLDINGS株式会社。コロナ禍や能登半島地震という未曾有の危機を乗り越え、この巨大グループを率いるのが川﨑俊介社長だ。その戦略の核は、回収率20%超を誇る顧客アンケートに基づく「GENSEN BUSINESS MODEL」。「布団敷きは不要」といった顧客の“本音”を徹底的に反映し、不要なサービスを削ぎ落とすという。データドリブンな経営改革を進め、従業員の「心理的安全性」を重視、「湯水のように人を輩出する」組織を目指すという川﨑社長の経営哲学に迫った。

川﨑俊介(かわさき しゅんすけ)──代表取締役社長
1981年、長崎県生まれ。2004年に株式会社TOAIに入社。同年湯快リゾート株式会社に出向し、ホテル開業準備担当としてホテル業界でのキャリアを開始。開業準備課のリーダー、マネージャーを経て、2012年より「三好屋」支配人および北陸エリアマネージャーとして、ホテル運営の第一線で実績を重ねる。2014年からは施設管理部門のセクションマネージャーとして湯快リゾートの「低コスト高品質」というオペレーション基盤の強化に貢献。その後、2019年に施設運営部ゼネラルマネージャー、2024年から運営・施設管理本部の本部長として経営の中枢を担い、2025年3月に代表取締役社長に就任。
GENSEN HOLDINGS株式会社
日本初の温泉テーマパーク「大江戸温泉物語」で得たノウハウを活かし、2007年から全国の温泉・温浴関連施設の経営・活性化事業を展開。「温泉に入られたときの抜群の快適さ・居心地の良さ」を提供し、「この価格でこんなにいいサービスなら、また来たいね」とお客様に思われるコストパフォーマンスの高さを徹底した「大江戸モデル」で、シニア層のお客様を中心に継続的に高く支持されている。
企業サイト:https://corporate.ooedoonsen.jp/

目次

  1. 2024年にブランド統合、国内最大級の温泉・温浴施設運営企業へ
  2. M&Aとデータドリブンな投資戦略
  3. 顧客アンケートで実現する、いただいたお金を1円も無駄にしない顧客満足
  4. データに基づく人材育成と組織文化の醸成
  5. ファンドとの協業で成長。大切にしているのは社内の文化と風土

2024年にブランド統合、国内最大級の温泉・温浴施設運営企業へ

── 大江戸温泉物語は全国にあり知名度も高いと思います。御社の成り立ちを教えてください。

川﨑氏(以下、敬称略) もともと2003年に、お台場に「大江戸温泉物語お台場」を開業し、2021年に営業を終了しましたが、2007年からホテル・旅館の営業に携わるようになりました。2024年には大江戸温泉物語と湯快リゾートが大江戸温泉物語ブランドとして統合し、現在72施設の温泉宿・ホテルとテーマパークを展開しています。

当初はブランド統合という形でしたが、事業統合も果たし、大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ株式会社と湯快リゾート株式会社が一緒になり、GENSEN HOLDINGS株式会社に組織変更しています。

── これまでにあった転換点は何ですか?

川﨑 2024年11月の大江戸温泉物語グループと湯快リゾートの統合です。

西日本を中心に温泉宿を展開していた湯快リゾートと東日本を中心に展開していた大江戸温泉物語が統合し、ホテル数を拡大しました。もともと似た事業モデルであった両者がそれぞれの強みをあわせ、経営を統合することで、骨太な経営基盤を確立できたことが大きな転換点となりました。

── 直面した大きな壁・課題についてはどうですか?

川﨑 大きな壁は二つあります。一つはコロナ禍です。事業モデル上、営業ができない期間が続きました。もう一つは直近の能登半島沖地震です。旧湯快リゾートの金波荘は大きな被害を受け、閉館も検討しましたが、1年半の休館を経て、現在「TAOYA和倉」という新しいブランドとして再生し、営業を再開できています。コロナ禍にしても能登半島地震にしても、たくさんの方々のお力添えもあり、再開できていると感じています。

コロナ禍を乗り越えるうえでは、GoToトラベルなどの補助制度を活用しました。また、やむを得ず休館していた期間を利用してリニューアルも実施しました。コロナ明けにはお客様のグループサイズが小さくなることを予想し、新たな事業としてペットとの旅行需要を見越した「わんわんゾート」シリーズを立ち上げ、休館中に施設をオープンさせました。これにより、コロナ明けの差別化を図り、準備を進めました。

コロナ以前から自社ウェブサイトでの顧客集客に力を入れていたため、団体旅行などに左右されない個人旅行の顧客獲得ができており、回復は早かったと感じています。

── 旅行業界における成長性と競争優位性はどのように分析していますか?

川﨑 国内の旅行消費額は2023年に約22兆円、2024年には約25兆円と全体的に伸びています。さらにインバウンド旅行者の増加が見込まれるため、業界自体の売上規模は拡大していくと予測しています。弊社はその中でも「GENSEN BUSINESS MODEL」という独自のビジネスモデルを確立しており、お客様のニーズにあわせたサービス提供に注力しています。

具体的には、大江戸温泉物語グループとして現在二つのブランド、三つのシリーズを展開しています。

一つは大江戸温泉物語ブランドで、スタンダード、プレミアム、わんわんリゾートの三シリーズ。もう一つのブランドが「TAOYA」(タオヤ)です。これら二ブランド三シリーズの施設を価格およびサービスでそれぞれ変え、お客様の旅行スタイルにあわせて選んでいただけるようにしています。

このブランドのすみ分けは、競合との差別化という観点だけでなく、現在72施設ある施設をさらに増やしていく予定であるため、自社内での差別化を図るうえでも重要になると考えています。

── マーケティングで特に力を入れている点はどこですか?

川﨑 現在約176万人が登録されている会員システム「いいふろ会員」強化することで、さらなる顧客増加を目指しています。

毎月約6万人のお客様が新たに入会されており、自社サイト予約での割引や誕生日クーポン、利用回数に応じたクーポンなどを発行しています。今後はさらにロイヤルティプログラムに力を入れ、176万人のお客様をリピーター化し、利用促進を図っていきたいと考えています。

M&Aとデータドリブンな投資戦略

── 今後のマーケティング規模と施策、特に新店舗拡大についての戦略や施策を教えてください。

川﨑 私どものビジネスモデルでは、新規出店は新築で建物を建てるわけではないため、思い通りにいかないのが実情です。しかしながら、各ブランド・シリーズに適した良い物件があれば積極的に出店を検討はしていきたいと考えています。

物件探しは幅広く行っていて、M&A仲介業者や銀行経由はもちろん、直接ウェブサイトに「買ってくれませんか」という問い合わせもあります。

既存店へのマーケティングを含め、テレビCMや広告、地場での露出、プレファレンス向上といった構想についてですが、基本的には市場の動向が非常に早いため、ここ5年で新聞やテレビといったオールドメディアからウェブへの移行が進んでいることを考えると、特定の媒体に固執するのではなく、そのタイミングで最適な媒体を選択するのが一番だと考えています。

ただし、やったことのない分野には積極的にチャレンジしていきたいです。コロナ禍以降、業績は順調に推移しているものの、定型的な経営に留まっていたため、今後はチャレンジを通じて新たな価値を発掘していきたいと考えています。

顧客アンケートで実現する、いただいたお金を1円も無駄にしない顧客満足

── 競争優位性をどのように分析していますか?

川﨑 私たちの強みは、回収率が20%から25%と高い自社アンケートにあると考えています。これにより、サービスの追加や削減をその都度判断しています。

たとえば、歯ブラシなどのアメニティの提供有無を調整し、顧客満足度を0.1ポイント単位で確認するといったことを行っています。新しいニーズはチャレンジしないと分かりませんし、他社のサービスを参考にすることもありますが、試行錯誤の結果をすぐに自社アンケートで判断しています。

ある旅館が懐石料理の品目を変更し、アンケートで顧客の反応を細かく確認してメニューを変更しているそうですが、これと同じことを我々も行っています。時代の変化は早いため、いかにニーズを的確にとらえ、実行できるかが重要です。

また、得た収益をどのように再配分するかも非常に重要です。単価の上昇やインバウンドによる集客で収益化できた資本を、どこに投入するかを常に考えています。

労働人口や国内人口が減少する中で、従業員への還元やお客様への還元は不可欠です。素泊まりのビジネスホテルでも価格が上昇していることを考えると、一泊二食付きの温泉旅館も価格は上昇していきますが、それをいかに次の投資へつなげられるかが重要です。

他社と比較した際のプロダクトとしての強みは、「お客様が必要としていないものは提供しない」という点です。たとえば、弊社では全ブランド夕食時の布団敷きサービスを行っていません。お客様のニーズとして「部屋に入ってきてほしくない」など、多くのお客様が希望されないため、布団敷きサービスは行っていません。

また、浴衣も部屋には置かず、ロビーで選んでいただく形にしています。これは、部屋に入った後にサイズが合わないといった不便をなくすためです。

このように、お客様が気づかないような「ないもの」が多いことが、実は差別化のポイントであると考えています。これは効率化というよりも、必要のないところにお金をかけないという考えに基づいています。

真の顧客満足とは、お客様からいただいたお金を1円も無駄にしないこと。お客様が必要としないサービスにコストをかけることは、顧客満足度に反するという考えのもとに、サービスビジネスモデルを構築しています。

データに基づく人材育成と組織文化の醸成

── 組織面の強みや今後の拡大に向けた課題、求める人材像についても教えてください。

川﨑 事業拠点が各温泉地にあるため、地方創生や地元に愛着がある方を積極的に採用していきたいと考えています。その土地に住んでいなくても、日本の観光産業を元気にしたいという熱意を持つ方々に入社していただきたいです。学歴や固定概念にとらわれず、熱意を重視したいと考えています。お客様目線でどれだけ考えられるかが最も重要です。

現在、採用については改革の真っ最中です。新卒・中途採用ともに、統合により社員数が膨大になっているため、まずは自分たちの会社の可視化から始めています。社員全員について調査し、今現在結果を出している社員のデータ・ファクトに基づく組織体制を模索しています。

そこから、我々が目指すGENSEN HOLDINGSのスタッフ像をデータドリブンで明確にし、それに沿った教育計画や育成計画を立てることで、人材を育てたいと考えています。

会社の規模が大きくなると、学歴や経歴、職歴を重視する傾向がありますが、もし今結果を出している会社がそういった人材だけで作られていない可能性がある場合、それはミスリードにつながると考えています。健康診断と同じで、体のことを分かっていないと治せないし、良くもできません。この統合のタイミングだからこそ、そういったものを可視化することが非常に重要だと考えています。

ファンドとの協業で成長。大切にしているのは社内の文化と風土

── ファイナンス面について、今後の資金調達や投資の方向性を教えてください。

川﨑 資金調達については、現在ローンスターファンドの傘下で資金が入ってきているため、事業会社として資金を調達する必要がありません。新規出店やリニューアルへの投資も、ファンドのエクイティで実行できています。

投資については、弊社のマーケティング部門でデータファクトに基づく投資計画があり、たとえば稼働率と客室単価が非常に高い店舗は投資回収年数が早いため、そういったところから優先順位をつけて投資を行っています。

72施設もあるため、単に古いからという理由ではなく、回収を前提に優先順位をつけています。一通り投資を進めてきた結果、回収年数が悪い場合でも、客室に露天風呂付き客室をスポットで投資することで、管理に投資するよりも回収年数が早くなる状況を作り出しています。

データドリブンな経営ができるようになった背景には、もともと数字に厳しい会社でしたが、約10年前に湯快リゾートとともにファンドの傘下に入ったことがあると考えています。ファンドへの買収や売却はネガティブにとらえられがちですが、我々の場合は異なります。ファンド傘下になったことで、創業一族でなくても出世でき、経営者になれるという、よりオープンな会社になりました。

また、ファンドで働く方々は極めて優秀なため、そこから知識を得られることも非常に大きいと感じています。さらに、ファンドは良い会社にしか投資しませんし、買ってくれません。つまり、我々が作っている会社はそもそも「売れる会社」であり、「買っていただけるような会社」になっているということです。

温泉旅館業は全国に約1万件ありますが、ファンドから買われる会社は100件、200件にも満たないレベルです。この事実を考えると、我々の会社は非常に良い会社であると社員にも伝えています。

── 経営者としてのこだわりや大切にしていること、そして今最も力を入れていることも教えてください。

川﨑 まず「文化」です。大江戸温泉物語と湯快リゾートが合併統合したものの、災害や不況といった困難に直面した際に、会社として沈んでしまうこともあります。それを乗り越えるためには、独自の文化が必要だと考えています。

それは、先ほど申し上げた「真の顧客満足」や、お客様に必要とされないサービスをやめ、逆に希望されることを追加するといったことです。このようなことができる人材を継続的に生み出すためには、会社内に文化が必要です。

これまでは、大江戸温泉物語と湯快リゾートともにプロパーの社員が思想的に伝え、維持継続してきただけで、意図的に何かを起こしてきたわけではありません。今後は、意図的に人材を輩出する会社、つまり「湯水のように人を輩出する会社」にしたいと考えています。

そのため、その文化を可視化するために、弊社の「ビジネスモデル」を浸透させています。これを構築し、浸透させることをここ3年ほどで実行しなければ、すぐに軸のない木になってしまい、枝葉のテクニック論では不況や困難に立ち向かえません。

もう一つ大切にしていることは、「風土」です。合併と統合において、最大の困難はやはり文化と風土の構築にあると考えています。しかも、今回はどちらか一方が大きい会社ではなく、同等規模の統合でした。そのため、人事などで入り混じった状況が起きましたが、結果的には文化と風土は作り続けるしかありません。

そこで、「心理的安全性」を浸透させ、従業員のパフォーマンスを最大化する状況を目指しています。創業オーナーや20年近く勤めている社員も多く、現代のビジネスモデルで考えると、心理的安全性が確保されていない場合、従業員が安心して意見を出せる環境を整備し、重要な文化風土を構築しておくことが、結果的にリスクマネジメントの観点からも良いと考えています。

また、お客様は癒やしを求めて来られるわけですから、温泉旅館で働く従業員はその体験価値を非常に高めていかなければなりません。これまではチェーンストア理論で営業してきたため、「どこに行っても同じサービス品質」は担保できたと考えていますが、今後は「その地域、その施設に行かないとできないこと」を増やしていく必要性があります。その点からも、心理的安全性を確保し、誰もが活躍できる会社を構築したいと考えています。

氏名
川﨑俊介(かわさき しゅんすけ)
社名
GENSEN HOLDINGS株式会社
役職
代表取締役社長

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