丸山化成株式会社

2018年設立の化学メーカー・丸山化成は、トラックやバスなど、ディーゼル車の排気ガスをクリーンにする会社。エンジンの排出ガス成分のうち窒素酸化物(NOx)を低減させる排気ガス浄化装置や、ディーゼル車が出す黒い煤(すす)をキャッチするフィルターのメンテナンス製品などを手がけている。

同社を率いるのは、大手建設機械メーカー販売会社でトップ営業マンだった松浦陽平社長。一貫して数字に基づく経済合理性を追求する松浦社長の分析眼は、大手企業が市場を独占する高品位尿素水市場への参入戦略に活かされた。商品自体に差別化が不可能な寡占市場だからこそ、逆にコスト構造と専門知識を武器にすれば、独自の勝ち筋があると見出したのだ。

EV化の波が押し寄せる中、彼が見据えるのは2050年までのディーゼル需要と、次なる成長の柱となる蓄電所経営だ。数字に基づく冷静な判断、固定概念を打ち破る挑戦、そして「小さくても強い会社」というビジョン──。

メーカー出身の起業家が語る、中小企業ならではの戦い方と未来への布石とは。

松浦陽平(まつうら ようへい)──代表取締役社長
1970年、東京都生まれ。1995年、大学卒業後、大手建設機械メーカー販売会社に入社。営業職として10年間、エンドユーザー中心のリテール営業で全国トップクラスの販売実績を記録。その後、販売促進部へ移り、ヒット商品開発グループに参加。開発に携わった新型機は特定セグメントで業界シェア70%を達成した。直轄営業部では、大手企業のみを対象とするホールセールスを経験し、シェアゼロからトップクラスまで拡大。東京支店長を経て、2018年に退職し、同年起業。
丸山化成株式会社
2018年、設立。高品位尿素水(AdBlue[1] )の製造・販売、高品質・低価格・短納期にこだわった特許取得済みのDPFディフェンスシステムなど、顧客ニーズに応える独自の強みを持つ。2025年10月現在、全国に19拠点展開し、全国一律のサービスを目指している。主要取引先は、全国の燃料商、トラックディーラー、建機レンタル、部品商社、公共交通機関、ECサイトなど多岐にわたる。なお、AdBlueは、ドイツ自動車工業会(VDA)に認証された高品質な尿素水だけが名乗れる登録商標。
企業サイト:https://maruyama-kasei.jp/

目次

  1. 大手の寡占があるからこそ「差別化できる」と確信
  2. 独自技術が受賞、大手にはできないデリバリー体制も強み
  3. EV化の予測と対応 ディーゼルの電気化には時間がかかる
  4. 地域社会への貢献と「小さくても強い会社」を目指す

大手の寡占があるからこそ「差別化できる」と確信

── 長くメーカーに勤務した後に起業したそうですが、現在の経営スタイルに大きく影響を与えた経験や出来事、考え方を教えてください。

松浦氏(以下、敬称略) 特定のエピソードがあるというよりは、これまで物事を数字で議論し考えることを大切にしてきました。独学で簿記を学んだことが、経済合理性を理解する上で非常に役立っています。

お客様への提案はもちろん、社員のガバナンスにおいても、感情論ではなく客観的な数字に基づいて冷静に判断することが大切だというのが私の考えです。会社の数字を学ぶことが、私の経営の起点となっています。

── 起業してからは、大手企業が販売するディーゼルエンジンに使われる高品位尿素水のAdBlue市場に参入しましたが、どのような勝ち筋を見出されていたのでしょうか?

松浦 逆説的な考え方なのですが、AdBlueは大手企業が約4社で市場を独占している状況で、まず商品自体に差別化ができないという点に着目しました。AdBlueは、大手のものでも弊社のものでも、エンドユーザーから見ればまったく同じです。

しかし、大手企業は多額の固定費を抱えているため、コストパフォーマンスでは(ベンチャーや中小企業に比べて)劣ります。原料となる尿素もワールドワイドな商品であり、価格差はほとんどありません。したがって、中小企業である弊社が、大手企業とは異なるアプローチで差別化できると考えました。

さらに、AdBlueはエンジンの排気工程で使うものですが、大手企業には、その仕組みや効果を深く理解していない営業担当者も少なくありませんでした。私は建設機械の分野で経験を積んできたため、エンジンの構造やAdBlueの働きについて体系的に説明できるという強みがあったのです。

素人が物売りをするのと専門知識を持っての提案とでは、お客様への説得力がまったく異なります。価格で差別化できないからこそ、商品自体の理解度で勝負できると考えました。

たとえば、ガソリン業界ではどのスタンドで給油しても品質は同じですが、AdBlueに関してはかねてより品質の違いを主張されるお客様もいました。

しかし、私は「ガソリンと同じように、AdBlueもどこのメーカーのものでも同じ品質です」と論理的に説明し、最終的には市場にその理解を広められました。私が事業を始めた7年前は、まだユーザーの知識もそこまで高くなかった。

私が起業した2018年は、建設機械におけるAdBlueの使用が義務化され始めた時期です。大手企業がまだ手をつけていないこの分野への参入で、まず建設機械市場でのシェアを獲得できると考えました。

私の出身母体が建設機械業界であったこともあり、お客様も多数いらっしゃったため、そこから事業を拡大する戦略でした。

独自技術が受賞、大手にはできないデリバリー体制も強み

── 「DPFディフェンスシステム」という、特許を取得した独自のソリューションを提供していますが、創業当初から検討されていた商材なのでしょうか?

松浦 事業を開始して半年ほどはAdBlueの販売に注力していたのですが、お客様との会話の中では、AdBlueの話よりもむしろ、ディーゼル車のDPF(Diesel Particulate Filter。ディーゼル微粒子捕集フィルター)の不具合による修理コストに悩んでいるという声を多く聞くようになりました。「DPFのトラブルを何とかしてほしい」という要望が強かった。

そこで知恵を絞って開発したのが、DPFディフェンスシステムです。

DPFが詰まる原因は複合的であり、その解決策として、まずDPFのクリーニングから着手しました。同業他社もDPFクリーニングを行っていますが、弊社ではより差別化できる方法を追求し、独自の技術を確立しました。

クリーニング後には、メンテナンスと切り替えのタイミングを組み合わせた提案を行い、お客様の車両の延命に貢献しています。この技術開発は、第30回「千葉元気印企業大賞」で優秀技術部門賞を受賞するなど、高く評価されています。

── このDPFディフェンスシステムや顧客中心のサービス体制が、大手や競合他社と比較した場合の競争優位性にあたるのでしょうか?

松浦 競争優位性があるのは、独自技術としてDPFディフェンスシステムを保有していることですね。

そしてAdBlueは、ガソリンや軽油と異なりお客様が自分で給油するのではなく、弊社が配送にうかがう必要があります。そのため、デリバリー体制、特に緊急対応が非常に重要です。大手企業はシステム化されたデリバリー体制を組んでいますが、緊急対応が難しい場合が見られます。

弊社の強みは、翌日や夜間でも対応できる柔軟なデリバリー体制です。お客様が困ったときに、すぐに駆けつけられる。また、ホースの破損やキャップの紛失といった小さなトラブルにも迅速に対応できます。

こうしたきめ細やかな対応により、お客様がサービスに不満を感じて他社に乗り換えたというケースは一度もありません。人間ですからエラーを起こすこともありますが、その際はすぐに謝罪し、お客様最優先の姿勢を貫いています。

EV化の予測と対応 ディーゼルの電気化には時間がかかる

── 一方、EV化が進む中で、AdBlueの需要が将来的に減少する可能性も指摘されていますが、市場の変化に合わせてサービスをどうブラッシュアップする予定ですか?

松浦 ブラッシュアップは常に難しい課題ですが、マーケティング予測から2035年まではAdBlue事業は安泰だと考えています。また、日本で使用されたトラックや重機は中古車として海外に輸出されるため、日本国内の需要が減少しても海外市場には一定の需要が見込めます。

そこで、インフラ輸出という考え方で海外展開も視野に入れているところです。現在、東南アジアを中心に、いくつかの海外企業から提携の話も来ています。

さらに、私は2050年までディーゼル車が完全に電気化されることはないと考えています。ディーゼルは、環境面、経済性、耐久性のバランスが取れた有効な手段であり、カーボンニュートラルへの対応としては、代替燃料が主流になると予想しているからです。

そのため、AdBlueやDPF関連の事業は、今後も残ると考えています。

一方で、電気自動車の普及を見据え、新たな事業の柱として蓄電施設インフラの分野にも注目しています。将来的に、モバイルディーゼルがモバイル充電に変わる際には、充電施設が不可欠です。

そのインフラ整備に貢献できる機器の開発や、早ければ来年、遅くとも再来年には蓄電所の経営にも参入したい。これは、リスクヘッジと将来への投資という側面もあります。

── 蓄電所の経営は、興味深いです。現在、全国19拠点へと急拡大されている中で、市場の変化やリスク管理、財務面・組織面でのコントロールはどうしていますか?

松浦 まず、儲かっている事業所の利益を新規事業所の運営に充てるという考え方で、統合的な管理をしています。新規事業については、たとえば24ヵ月という期間を定め、その間に黒字化できなければ速やかに撤退、というコミットメントも必要でしょう。

蓄電所の経営については、現在、日本の投資の中で最もローリスクで高い利益が見込める事業の一つだと考えています。将来の電気自動車普及を見据えた充電インフラ整備への貢献、そして本業でコツコツと積み上げた利益をより大きなリターンが見込める分野に投資するという意味合いもあります。

過去の事例では、東日本大震災後の再生可能エネルギー普及政策(FIT制度)を活用し、太陽光発電で得た収益を関東エリアの赤字事業に投資して成長させた企業もありました。こうした事例から、新たなビジネスチャンスに対し、体力のあるうちに挑戦することの重要性を学んでいます。

地域社会への貢献と「小さくても強い会社」を目指す

── ジョイントベンチャーの設立や銚子電鉄の駅ネーミングライツ取得など、他の取り組みも活発です。

松浦 ジョイントベンチャーは、資金が限られている中で人の信用を基盤に事業を進めるための、一つの手段です。また、化学メーカーのビジネスモデルとして、ライセンスビジネスが有効となります。限られた資源の中で全国展開を行うには、他社と組んでシナジーを生み出す方が効率的であり、長期的には大きな利益につながると考えています。

銚子電鉄の駅ネーミングライツは、偶然のつながりから始まりました。顧問税理士が、どん底だった銚子電鉄を再建させた人物であり、そのこ゚縁で千葉県内の優良企業が駅のネーミングライツを取得するという取り組みに参加した経緯です。

これは、地域社会への貢献という側面もありますが、同時にこうした取り組みを通じて、お客様や地域とのつながりを深めていきます。

弊社のビジョンは、「小さくても強い会社」を目指すことです。物流業界や建設業界に貢献できる、お客様の事業効率向上に貢献できる会社でありたい。そして、お客様と弊社双方に利益が生まれるような事業を展開していきたいと考えています。

蓄電池事業のような畑違いの分野への投資はあくまでも将来への投資であり、本業であるAdBlue事業を生かす方法を常に模索し、お客様と共に成長することを目指します。

── ここまで活動的になれる原動力は何でしょうか?

松浦 自分自身の限界を決めず、自分を信じて何事にも取り組むことです。そうして自分の殻を破り、自己変革を遂げられます。私も固定概念を持たずに挑戦してきたからこそ、ここまで来ることができました。

頭の良い人ほど固定概念にとらわれがちですが、そこから一歩踏み出す勇気を持つことが、新たな発想を生み出す鍵です。仕事に情熱を持つ皆さんと共に、私も挑戦し続けていきたいと考えています。

氏名
松浦陽平(まつうら ようへい)
社名
丸山化成株式会社
役職
代表取締役社長

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