平安伸銅工業株式会社

1952年の創業以来、時代ごとの社会課題に合わせて事業ドメインを変化させてきた、平安伸銅工業株式会社。事業の変化とは、住宅の工業化に貢献したアルミサッシ製造から収納効率を飛躍的に高めるつっぱり棒への移り変わりであり、現在は「私らしい居場所」の実現するための「暮らすがえ」という新たな概念の打ち出しや、DIYブランド「ラブリコ」の展開等を行う。

単なる収納改善に寄与するだけにとどまらず、つっぱり棒で培った「可変性」「仮設性」という技術的基盤を生かし、生活空間をより柔軟かつ動的に変えていけるプロダクトやサービスを展開し、豊かな住まいを創造をするというミッションを掲げる。

同社代表取締役の竹内香予子(かよこ)氏に、「暮らすがえ」に込めた思い、そして「10年で売上高100億円」達成に向けパートナーを巻き込みながら成長を目指す戦略について、聞いた。

竹内香予子(たけうち かよこ)──代表取締役
1982年、兵庫県生まれ。2006年、大学卒業後、新聞社で記者として警察・行政の取材を担当。2010年、家業である平安伸銅工業に入社。2015年、父の後を継ぎ32歳で三代目代表取締役に就任。
平安伸銅工業株式会社
1952年創業。大阪市に本拠を置く、生活日用品メーカー。これまで主力製品としてきたつっぱり棒だけでなく、消費者の暮らしの変化に寄り添うことを意味する「暮らすがえ」企業として、収納・インテリア用品を開発製造。
企業サイト:https://www.heianshindo.co.jp/

目次

  1. 会社が進化した先に行き着いた「暮らすがえ」とは
  2. 「10年で売上高100億円」達成に向けた成長戦略
  3. 「試す」マインドと柔軟な人事で拓く未来
  4. 「私らしい暮らし」を創造するパートナーとともに

会社が進化した先に行き着いた「暮らすがえ」とは

── ミッションとして掲げている「暮らすがえ」という言葉の意味や込めた思いを教えてください。

竹内氏(以下、敬称略) 「暮らすがえ」は、会社の歴史にも深くつながっています。私たちの会社は1952年の創業以来、時代ごとに事業ドメインを大きく変えてきました。

戦後、住宅難の時代に社会課題だったのが、安心・安全な住宅の提供です。そこで、住宅の工業化に貢献するアルミサッシを創業期に開発し、手ごろな価格で家を早く手に入れられることに貢献しています。

1970年代に入ると住宅数と世帯数が逆転し、ハコ(住宅)はあってもその中に不便さが残る時代になりました。たとえば、収納空間がライフスタイルの変化に対応できていないとの課題です。

そこで、大掛かりな工事なしに収納効率を上げるつっぱり棒を提供し、空間を快適にすることへの貢献をしました。

そして現代、「もの余りの時代」となり便利な道具が揃っている中で、何が足りないのかを考えました。私が感じた疑問は、一人ひとりが自分らしくいられる「居場所」として住居が機能できているか、です。ハードとしての住宅があるだけでなく、その中身を自分らしくアレンジできる柔軟性はあるのかと思ったのです。

そして、つっぱり棒で培ってきた「可変性」「仮設性」というプロダクトのベースを生かし、より動的に生活空間を変えられるプロダクト、さらにサービスまで提供すれば、住まいを現代に合わせられると考えました。

「暮らすがえ」は、収納効率を上げるだけでなく、変化する生活者の課題に合わせた事業展開を意味します。この文化づくりをミッションに掲げたのは、2020年ごろからです。

── メーカーとしてつくった製品を生活者に認知され購入につなげるため、どのような取り組みをされていますか?

竹内 プロダクト提供だけでなく、暮らし方そのものにもアプローチできるよう、試行錯誤しながら取り組んでいます。初期段階では、私の自宅を「つっぱり棒ハウス」としてショールーム化し、実際に生活している様子をメディアに公開しました。

「暮らすがえ」を通じて豊かな暮らし、自分らしい暮らしが実現できることの発信を意図したものです。自社での発信だけでなく、メディアに取り上げていただくことでパブリシティ獲得にもつながっています。

2020年以降は、さらに自ら発信し、仲間を巻き込んでいくステージへ進行しました。自社ECサイトを通じて、実際に「暮らすがえ」を実践している社員のライフスタイルを発信したり、私自身の「つっぱり棒ハウス」に関する発信をSNSアカウントを通じて行ったりしています。

さらに、暮らしのプロとして認知されているインフルエンサーの方々と連携し、彼らのYouTubeチャンネルで私の家を取材・公開したり、私のインスタグラムアカウントでライブ配信を実施したりもしています。

生活者の方々に直接「暮らすがえ」のノウハウや変化のメリットを発信し、マスメディアからのパブリシティ獲得だけでなく、双方向のやり取りができるSNSを通じてより身近な形で共感の輪を広げることを目指すものです。

── その取り組みは、売り上げにも反映されているのでしょうか?

竹内 2020年までの取り組みで、認知獲得と売上向上の両方を実現できました。次のステージとなる2020年以降の取り組みはまだ基盤構築段階ですが、より「私らしい暮らし」を発信し、共感の輪を広げることで、仲間が増え、体制が強化できると確信しています。

また、全国に200名以上の「つっぱり棒マスター」がいらっしゃることも、熱のあるコミュニティづくりにつながります。マスメディアでボリュームのある認知を獲得することも重要ですが、それと並行して密度高く「暮らすがえ」に参加するコミュニティづくりが重要なのです。

「10年で売上高100億円」達成に向けた成長戦略

── 現在、売り上げの規模は30億円とのことですが、10年で100億円達成という目標を掲げられています。目標達成に向けた成長戦略を教えてください。

竹内 現在、中小企業庁などが推進する「中堅企業育成」の流れの中で、私たちも「10年で100億円」という目標を掲げ、チャレンジを始めています。

具体的には、既存事業と新規事業の両輪で、成長を目指しています。既存事業では、ホームセンターチャネルを中心にインストアシェア(特定店舗の総売上に占める自社売上のシェア)の向上や廃棄率の低下が、具体的な目標です。

私たちの得意とする技術を活かした製品を、ホームセンター内の他のカテゴリーにも展開したり、まだ取引のない小売店さんにもつっぱり棒を置いていただいたりも、目指しています。OEMやPB受託開発にも力を入れ、小売店さんの良きパートナーとして選ばれるようにもなりたいです。

新規事業としては、暮らすがえという軸をさらに深掘りし、自分たちの手で暮らすがえを広げる視点で、プロダクト開発や販路開拓にチャレンジします。領域としては、防災、福祉、オフィスなどを想定しており、これらの分野で暮らすがえを体験できる空間づくりを進め、お客様にその良さを周知することで事業拡大を目指します。

── 提携や協業パートナーについてですが、具体的にどのような企業や個人との連携を求めていらっしゃいますか?

竹内 私たちの「アイデアと技術で私らしい暮らしを世界へ」というビジョンに共感し、住まいづくりや次世代の暮らしをより良くすることに興味を持ってくださる企業と一緒に、それぞれの得意分野をベースにしたプロダクトやサービスをつくっていきたいです。

業種・業界を問わず、未来の暮らしというテーマに関心のある方々からのご連絡をお待ちしています。まずは「試す」という気持ちで、重く考えずに緩やかな協業関係からスタートできればとの考えです。

「協業関係」ですから、私たちの配下に入るのではなく、いつでも近づいたり離れたりできる横のつながりを築いていきます。

「試す」マインドと柔軟な人事で拓く未来

── 新しい挑戦を続ける中で、社員にはどのようなことを求めていますか?

竹内 つっぱり棒の「仮設性」にも通じますが、「まず試してみる」という考え方が非常に重要です。暮らしを柔軟に変えるための「身軽さ」は、試すという言葉に集約されます。

たとえば、「ここが不便だからレイアウトを変えてみよう」「ここに空間があるから棚をつけてみよう」「ライフスタイルが変わったから、これを取り外してみよう」といった行動につながります。この試すマインドを、社内に浸透させたいです。

最近、CCO(チーフクリエーティブオフィサー)として青木亮作(オリンパスイメージングやソニーでプロダクトデザインを担当し、現在は株式会社テント共同代表)が参画し、「暮らすがえという言葉だけでは着手が難しい」との意見があり、「実は、暮らすがえとは『試す』ことなのではないか」という新たな視点が出てきました。

私たちはこれまでも「試す」人々を応援してきましたが、より明確に言語化します。そして社内外に「試す」を伝えることで、自分の居場所を軽やかに変え自分らしさを整えるのを、応援していきたいです。

── 仲間を巻き込んでいく中でも、特に「人事」という切り口が重要だと考えているそうですが。

竹内 はい、私たちにとって組織づくり、つまり人事は極めて重要なテーマです。「暮らすがえ」の文化を真に定着させるためには、単に人材を採用するという枠を超えて、私たちのビジョンに「共感」してつながれる仲間を増やしていくことが不可欠だからです。

そのためには、まず私たちが大切にしている価値観を知ってもらう必要があります。イベントの開催などを通じて、私たちの想いを伝える機会を積極的に作っていこうと考えています。

また、関わり方も直接雇用だけにこだわりません。「DRAW A LINE」での成功体験がそうであったように、形にとらわれず、熱量を持って共に走れるチームを作ること。その柔軟な姿勢を示すことこそが、ユーザーの共感を生み、事業を加速させると信じています。

ですから、前出の青木が率いるテントに限らず、「暮らすがえ」の文化を広げることに共感してくださる方がいれば、ぜひ様々な役割や関わり方で、私たちのチームに参加してほしいですね。

「私らしい暮らし」を創造するパートナーとともに

── これからの「暮らすがえ」を実現するプロダクトづくりについて、教えてください。

竹内 私たちのビジョンは「アイデアと技術で『私らしい暮らし』を世界へ」です。

住まいづくりや次世代の暮らしをより良くすることに興味を持ってくださる企業と一緒に、それぞれの得意分野を生かしたプロダクトやサービスをつくっていきたいです。業種・業界を問わず、未来の暮らしというテーマに関心があれば、ぜひ声をかけてください。

一緒に良い製品・サービスをつくれたら嬉しいです。ここまでも話したように、パートナーシップでも「試す」という気持ちで、重く考えず緩やかな協業関係からスタートできればと思っています。

また、具体的な取り組みとして、住環境を動的に組み替えられるプロダクトを増やしました。今月発売したカーテンや、来春発売予定の現状回復ができる手すりなど、賃貸住宅にお住まいの方でも安全な形で住環境を整えられる選択肢を提供しています。

鉄パイプとプラスチックを材料とした設計という得意分野にとどまらず、可変性・仮設性という文脈でさまざまなプロダクト開発が進行中です。もし、「こんなことができるよ」というアイデアがあれば、ぜひ一緒に考えていきたいです。

── 「暮らすがえ」とともに、「私らしい暮らし」はどう実現しますか?

私たちの「つっぱり棒」という製品は一見するとコモディティに感じますが、特殊な条件下での耐久性や安全性には長年の経験からくる技術力が生かされています。アマゾンのランキングでも上位を占め、お客様から高い評価を得ていることがその証です。

この技術力を活かし、共に「私らしい暮らし」を創造できるパートナーシップを築いていけることを楽しみにしています。

氏名
竹内香予子(たけうち かよこ)
社名
平安伸銅工業株式会社
役職
代表取締役

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