株式会社アクセルスペースホールディングス

宇宙ベンチャーとして2008年に創業、持株会社としては2020年に設立した株式会社アクセルスペースホールディングスは、小型人工衛星の開発・運用とそのデータの提供を両輪とするビジネスモデルを確立し、2025年8月に東証グロース市場への上場を果たした。

創業初期は、株式会社ウェザーニューズやJAXAの衛星開発・運用を受注し、実績を積んだものの、宇宙ビジネスに参画する企業が増えない現実に直面する。市場のニーズを捉え、衛星データの提供にも参入。後に、量産可能な衛星の開発にも着手し、データ提供の「AxelGlobe」と衛星を提供する「AxelLiner」の二本柱で、事業を成長させてきた。

こうした同社のコア事業の他、グローバル展開、IPO後の社内について、中村氏に聞いた。

中村友哉(なかむら ゆうや)──代表取締役
1979年生まれ、三重県出身。2007年、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中、手のひらサイズの人工衛星「キューブサット」を含む3機の超小型衛星の開発に携わる。卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年に株式会社アクセルスペースを創業。2015年より10年間、内閣府宇宙政策委員会部会委員を務める。2020年に株式会社アクセルスペースホールディングスを設立し、現職。
株式会社アクセルスペースホールディングス
「Space within Your Reach〜宇宙を普通の場所に〜」をビジョンに掲げ、2008年に前身となる株式会社アクセルスペースが設立。小型衛星の設計、製造、軌道上運用における独自技術を基盤に、顧客向けの衛星開発・運用事業「AxelLiner(アクセルライナー)」、自社の光学衛星コンステレーションによる地球観測データ提供事業「AxelGlobe(アクセルグローブ)」を展開。
企業サイト:https://www.axelspacehd.com/ja/

目次

  1. 試行錯誤の末、衛星開発と衛星データ提供の二本柱を立てる
  2. さまざまな手を打つための「手段」としての上場
  3. 今後はさらなるグローバル展開へ
  4. IPOで得た社員の誇りと事業の推進力

試行錯誤の末、衛星開発と衛星データ提供の二本柱を立てる

── 2025年8月に上場しましたが、現在に至るまでどのような事業の変遷をたどってきたのでしょうか?

中村氏(以下、敬称略) 私は大学で宇宙システム工学の研究室に入り、そこで衛星開発の面白さを知りました。在学中に3つの衛星プロジェクトに関わるなかで、まだ世の中にほとんどない小型衛星を、社会の役に立つツールにしていきたいという思いを抱いたのです。

卒業後、小型衛星の開発を続けられる企業に入りたいと考えていましたが、当時は存在しませんでした。ちょうど研究室で大学発ベンチャーをつくるための補助金を受給していたこともあり、タイミングと運が重なって、起業に至ったのが経緯です。

当時、宇宙ベンチャーが事業を回せるようになると信じている人はほとんどいませんでしたので、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達は難しく、まずはお客様を見つけるところから始めました。

さまざまな企業を回る中で、最終的にウェザーニューズ様が自社の人工衛星を持つという意思決定をし、この開発の受注をきっかけにアクセルスペースを創業しました。これが2008年です。

起業してしばらくはウェザーニューズ様の衛星開発に注力しました。民間の衛星打ち上げが世界的に見てもまだ事例が少ない時代だったため、ロケットの確保にも苦労し、最初の打ち上げは2013年でした。

実績ができれば、多くの企業が衛星活用に乗り出すだろうと考えていましたが、現実はそうではありませんでした。衛星を持つには数億円の費用がかかり、打ち上げ失敗時のリスクを考えると、企業が最終的な意思決定に到達するのが難しい状況でした。

── SpaceXのような宇宙ベンチャーはあったものの、国内の機運はまだ高まっていない状態だったのですね。

中村 ええ、このままでは成長できないと感じ、状況を打開するためには衛星を所有するコストとリスクを当社が引き受けるのが最善だと考えました。そこで、衛星を運用して得られるデータをお客様に提供する、データビジネスへ進出することに。この決定をしたのは、2014年ごろです。

そこからVCとの協議を始め、2015年にシリーズAで18億円の資金調達を行いました。当時としては宇宙分野は非常に珍しい事業だったので多くの苦労がありましたが、なんとかクローズすることができ、データビジネス開始に向けた準備に至ります。

当社が所有する地球観測衛星の最初の打ち上げは2018年で、翌年からサービスインしました。現在では5機体制で、さまざまなお客様に衛星画像のデータを提供しており、今も成長を続けています。

データビジネスを始めてから売上や社員数がぐっと伸び、この成長が会社にとっての大きな転換点になったと考えています。

── 一方、衛星開発も引き続き行っていますね。

中村  2010年代後半から、政府が宇宙産業に力を入れるようになり、ベンチャー向けの支援も拡充されました。

宇宙産業が盛り上がるにつれ、衛星開発のニーズも必ず増えていくはずです。当社の衛星開発のあり方を変革する動機になりました。

創業当初、お客様の要望に100%寄り添う、フルカスタムの人工衛星をつくるのことに注力していました。しかし、民間企業が次々と衛星を打ち上げるようになれば、より早く、安く打ち上げることが重要です。

そこで、創業初期の特定顧客向け専用衛星開発事業を再定義し、2022年に「AxelLiner」を発表。デジタル技術やAI技術を活用しながら、従来のフルカスタムの開発から、設計の標準化や自動化などによるスケール可能な開発への移行を図りました。

現在、「AxelLiner」と、前述した衛星データを提供する事業である「AxelGlobe」の二つのビジネスが柱で、それぞれを成長させているところです。そして、2025年8月には上場を果たしました。

さまざまな手を打つための「手段」としての上場

── 上場を本格的に意識され始めたのはいつごろでしょうか?

中村 シリーズAでVCから出資を受けた時から、いずれ何らかのイグジットが必要になることは理解していという意識がありました。しかし、本格的に検討し始めたのは、現在の「AxelGlobe」と「AxelLiner」の事業体制の構築が進み、将来的な黒字化の見通しが立ってからです。

── IPOを目指された狙いについて教えてください。資金調達手段としてだけでなく、企業や業界の信用獲得の側面もあったかと思いますが。

中村 2つの事業を軌道に乗せるためには、まだ投資が必要なフェーズですので、資金調達という意味合いは当然あります。しかし、上場の理由はこれだけではありません。

さらに成長を加速させるためには、オーガニックな成長だけでなく、シナジーのある企業とのM&Aや資本・業務提携、新しい事業の立ち上げといった非連続な成長も実現する必要があります。

さまざまな手を打てる環境をつくるという観点から、急速な成長軌道を描く上で上場という手段が有効であると考えました。

── 上場初値が公開価格の約2倍になりました。上場を通して市場からどのような評価を受けたと感じていますか?

中村 宇宙は急成長産業であり、特に当社の事業領域である小型衛星の活用がビジネスとして成立しつつあることに、投資家の皆様の期待があったのではないかと思います。ただ、まだ当社の事業を直接評価いただいた結果ではないと思いますので、これからしっかり成果を出していく所存です。

今後はさらなるグローバル展開へ

── 「AxelGlobe」と「AxelLiner」の二本柱は、社内でどのように補完し合い、シナジーを生み出しているのでしょうか?

中村 「AxelGlobe」は「AxelLiner」にとって一番のお客様というのが、社内での位置づけです。「AxelGlobe」を通して世の中の宇宙活用ニーズに直接触れ、「AxelLiner」の衛星開発に反映できます。

この両方の事業を持つことで、ものづくりからエンドユーザーへの価値提供まで垂直統合でつなげられるのが、我々にとっての大きな強みです。顧客のトレンドが分かるからこそ、今後どのような衛星をつくるべきか、どのような技術に注力すべきかが明確になります。

── 国内で、ハードウェアとデータを両輪で回している会社は他にありますか?

中村 さまざまなお客様に対して衛星をつくり、かつ自社でも衛星を運用してデータビジネスを展開しているという会社は、日本だけでなく世界的に見てもほぼ例がないと思います。

── 「AxelGlobe」で特に見られるユースケースはどのようなものでしょうか?

中村 多いのは農業です。特にオーストラリアのような広大な農地を持つ国では、衛星による農地モニタリング、精密農業のニーズが高いですね。

また、日本を含め、政府機関が土地利用状況を定期的にモニタリングしたいというニーズがあり、地図作成や国土管理にも活用されています。広いエリアを高頻度で撮影できるという、我々の強みが生かせる分野だと感じています。

── 海外展開はどの段階にいるのでしょうか?

中村 「AxelGlobe」の売上の約3割は海外です。これからもグローバルにビジネスを進める前提でいます。販売代理店やパートナーを各国に置くことで販路を拡大していて、今後も積極的に進めます。

IPOで得た社員の誇りと事業の推進力

──会社運営において、ぶつかった壁などはありますか?

中村 一番の壁は人材確保です。事業拡大のスピードに対して、エンジニアと営業の採用がまだ追いついていません。

エンジニアに関しては、宇宙関係の経験者だけでなく、自動車や電気メーカー出身者など、異業種からの転職者も積極的に採用しています。ビジネス人材については、新規事業開拓の経験が豊富な人材を求めています。

宇宙ビジネスは難しそうだと敬遠する人も多いため、いかに興味を持ってもらい、働きたいと思ってもらえるかが課題です。

── 市場の啓蒙や、宇宙ビジネスを平易なものとして理解させるために取り組んでいることは?

中村 宇宙関連の展示会だけでなく、さまざまな分野のイベントに露出することで、これまで宇宙に縁がないと思っていた人たちにも「実はそうではない」と知ってもらうことが必要だと考えています。

メディアや取材の機会を通して、宇宙を使って何かできるかもしれないと思ってもらえるチャンスを増やしたいです。

── 上場したことで、ガバナンスや情報開示、内部統制のレベルに変化があったと思います。

中村 上場をきっかけにガバナンス強化に努めました。現在、取締役の半数が社外取締役であり、上場企業で取締役の経験を持つ方にも参画いただいています。上場企業として社会的責任を果たせるレベルになっていると考えます。

── IPO後の社員や求職者からの反応や変化は感じていますか?

中村 社員からは、自分の会社を誇りに思えるようになったという声を聞きます。家族にも自慢できるようになった、と。採用に関しても、前年と比べて応募者が増えたという効果は出ています。

── IPOで調達した資金は、主にどのような用途に投下する計画でしょうか?

中村 AxelGlobe向けに来年に衛星を7機、2028年にも3機を打ち上げる計画があり、その開発費や打ち上げ費に充てます。また、採用など成長投資にも投下する計画です。

── 今、中村代表が最も時間を割いている関心事項は何でしょうか?

中村 私の仕事は、仕事をつくることだと考えており、中長期的な成長につながる新たなビジネスの種まきや、新しいパートナーシップ構築に時間を割いています。また、経営陣やミドルマネジメント層の育成も重要であり、200人近くになった組織がしっかり回る体制をつくることに注力しています。

── 投資家や将来、パートナーとなる企業に伝えたいことはありますか?

中村 宇宙は、夢やロマンではなく、ビジネスとして意識され始めている分野です。間違いなく成長する産業だと確信していますので、投資家の皆様にはぜひこの宇宙分野を応援していただきたいです。

また、事業家の皆様とは、一緒に宇宙を活用したビジネスを創っていきたいです。今後、あらゆる産業が宇宙と繋がっていきます。それに向けた第一歩を、当社と共に踏み出していただければ幸いです。

氏名
中村友哉(なかむら ゆうや)
社名
株式会社アクセルスペースホールディングス
役職
代表取締役

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