株式会社マイスターエンジニアリング

重電機器や都市土木、防災設備などの重要インフラ、半導体・自動車をはじめとする製造業での技術サービスを事業領域とするマイスターエンジニアリンググループ。2020年に株式会社マイスターエンジニアリングが非公開化を実施して以降、グループは高度な技術・技能を持つ中小企業から成る「技術サービス連邦」を構築し、独自のM&A戦略によって事業拡大を図っている。

2040年に1000億円という売上目標を掲げるグループの原動力は、エンジニアの採用・育成と当該事業領域におけるM&Aによる事業承継。ゴール達成、そして持続的成長に向け、マイスターエンジニアリンググループが具体的に取り組んでいる人材採用・育成施策とは。また、事業承継おいて特に重視している点は何か ――平野大介社長に聞く。

平野大介(ひらの だいすけ)──グループ代表、㈱マイスターエンジニアリング代表取締役社長
1980年生まれ。2003年、早稲田大学第一文学部卒。米国ハワイ大学大学院修了(人類学修士)、米国コロンビア大学経営大学院修了 経営学修士(MBA)。みずほ証券で債券マーケット関連業務・M&Aアドバイザリー業務、マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルティング業務に従事した後、2016年に入社。2018年より現職。
マイスターエンジニアリンググループ
1974年設立。製造業・インフラ関連の高度な技術を持つ中小企業が集まり、「社会が成立するための前提条件」を支える「技術サービス連邦経営」を標榜する。2025年11月時点の参画企業は22社。
グループウェブサイト:https://www.mystargroup.jp/

目次

  1. 「長期視点の経営」実践に向けて踏み切った非公開化
  2.  時代に即した人材採用・育成で「定着」を
  3. 「2040年1000億円」を見据える平野社長の視座
  4. 同じ方向を向いて協業――グループの意識をひとつにする
  5.  社会を支え、社員が成長を実感しながらやりがいと誇りを持てるグループに

「長期視点の経営」実践に向けて踏み切った非公開化

── 2018年の社長就任以降、最も大きな経営上の判断は何でしたか?

平野氏(以下、敬称略) 2020年に行った非公開化です。上場企業は短期的な利益を追求する株主からのチェックを受けますので、大型M&Aのように長期的な成長に寄与する可能性があっても、一時的に財務バランスを悪化させる施策は打ちづらい点もあります。また、技術者を育てるには時間がかかることや、大きな設備投資が必要な事業ではないこと、規模的にも複雑化・高度化する上場維持に必要な対応は重いものでした。

そこで2019年にMBOを実行し翌年3月に非公開化に踏み切りました。上場企業ゆえの制約を外し長期視点で必要な投資をスピーディに決断、実行できる環境を整えました。中小企業のM&Aが今ほど盛んになるより少し前のことです。

これにより、会社としての社会に対するあり方は全く変わらないものの、より本質的な意味での経営に集中できるようになったと感じています。また、新たにグループに加わる会社に対しても、上場企業として形式的なルールの遵守を求めるのではなく、「共に事業成長に向けて協業していきましょう」と、より説得力をもって伝えられるようになりました。その点で、非公開化を実施したことの意義は大きかったと実感しています。

── 「技術サービス連邦」をグループのコンセプトに掲げていますが、あえて「連邦」という言葉を使われているのはなぜですか?

平野 通常、M&Aの目的は本業の拡大ですが、私たちが行う事業承継は、製造業やインフラに対するメンテナンスとエンジニアリングという技術サービスを通して、社会になくてはならない事業を継続・発展させていくことを目的としています。その実現に向け、私たちの目指す方向を共有し、事業基盤として今後も共に成長していけると感じられた企業をグループにお迎えしています。その結果として、祖業とは異なる土木やプラントなどの分野にも裾野を広げながら、事業領域の拡大を進めています。

異なる領域の会社が集まるグループであるがゆえ、その関係性もユニークです。私たちは、親会社・子会社という支配・被支配の関係ではなく、各社が持つ技術や経験、知見を尊重し、ともに協力しながら成長する関係を志向しています。ですので、屋号はそのまま引き継ぎますし、継続いただく従業員の皆さんの処遇を改善することはあっても悪化させることは一切ありません。事業承継の際、私は株式を「お預かりします」と表現していますが、その意図は、会社は個人のものでなく社会のものであり、きちんと成長させて社会の役に立てていく責任があると考えているためです。

「技術サービス連邦」という呼び方は、米国の連邦政府と州政府の関係になぞらえたものです。各社が自立性を保ちながら事業を行い、採用や教育訓練、バックオフィス部門などの共通課題を中心に、必要な部分を本部がサポートする――そうした当社グループ独自の体制を表しています。各社の社長には、「社員の皆さんと共に、社長として現業の発展に集中して取り組んでください。それ以外の必要なことは私たちがサポートしますから」と伝えています。

 時代に即した人材採用・育成で「定着」を

── 連邦経営によるメリットは何でしょうか?

平野 昨今、中小企業の多くが頭を悩ませているのは、人材採用です。かつては募集すれば応募が集まる時代でしたが、今や多数の採用エージェントに依頼し、費用をかけてようやく採用できる状況です。当社は技術人材サービスを行ってきた知見と体制をベースに年間400人弱を採用できる体制があります。この採用力をグループ全体で共有できるのが、連邦経営の大きな強みです。

同じ事業領域の会社が増えると、必然的に共通の課題も生まれますが、それぞれの優れた取り組みやノウハウを集約・共有し、例えば教育・トレーニングをパッケージ化することで、グループ内に横展開することができます。本来、中小企業が単独で採用・育成、バックオフィスのオペレーションに至るまですべてを各社ごとに取り組むと成長スピードには大きな制約がかかりますが、グループであればそれらの業務を集約したうえで標準化、効率化することができます。その分、各社には本業である技術サービスに注力していただけるというのが、最大のメリットです。

2020年の非公開化以降、15社の仲間に加わっていただきました。その後のオンボーディングの成果も少しずつ出始めており、劇的な売上増とはならなくても着実に人材は増え、組織としても人としても、成長していただける環境が整いつつあります。メンテナンスや工事が必要な施設・設備は増え続けており、エンジニア不足も相まって仕事は豊富にあります。グループに参画いただく各社はいずれも長年の実績と信頼を有し、多くの得意先や仕事を抱えています。後継者問題や人手不足の解消に向け協力しながら、同じグループの仲間として日常生活の“前提”となるインフラの安定稼働を支えています。

── 平野社長が人材採用・育成面で重点を置いていることは何でしょう?

平野 人材育成の成果は社員のさまざまなスキル・能力を加味して総合的に判断するものですが、中でも私が最も重視しているのは「辞めずに続けてくれる環境になっているか」という点です。会社の方針についていけない、仕事が楽しくない、スキルが伸びない・成長実感がない――こうした理由で離職が続くというのは、エンジニアが仕事にやりがいや、モチベーションを見出せていない証拠です。

私は毎月、グループ各社の退職状況に関する報告を受け、その理由を詳しく分析します。「もっと教えてもらいたかった」「つまずいたときに助けてもらえなかった」といった退職理由を目にしたときは、必ず状況を深堀りし、改善策を検討します。

技術サービスはエンジニアがいなければ成り立たないビジネスです。だからこそ、人に向き合うプロセスはきわめて重要となります。 たとえば、数字に苦手意識を持つ方に電気回路計算を多用する業務を割り当てると、本人にとって大きな負荷となり、結果として組織にもマイナスの影響が生じます。これは、採用やアサインを行った側の責任でもありますから、当社では一人ひとりの適性を見極め、適切なケアを行う体制を整えています。

── とはいえ、上場企業や有名企業でも高い離職率はそれなりに見受けられます。

平野 だからこそベテラン社員には、「『背中を見て覚えろ』というやり方は通用しない。今は時代が違う」と伝えています。当社グループでは、教え方やフィードバックに関するオリジナル研修プログラムを開発・展開し、「従来行ってきたのは『選抜』であり、これから必要なのは『育成』である」というメッセージを口酸っぱく発信しています。

かつては、エンジニアも豊富にいたので個人の能力や出来、学習態度に頼り「選抜」という手法で人が育つ時代もありましたが、今は育成の時代です。

「一度言えば覚えるだろう」という考えは教える側の思い込みです。フィードバックにおいても、「何がダメだったのか」を指摘するだけではなく「現状と目標のギャップを埋めるには何をどうすべきか」を話し合うよう説明しています。もちろん、若手だからと甘やかすわけではなく、言うべきことはきちんと伝えた上での話です。

こうした教える側への研修プログラムを最重要テーマの一つとして扱うことで、時代に合った人材育成基盤を固め、定着率向上につなげています。

── やはり、エンジニアの素養がある人を中心に採用しているのでしょうか?

平野 以前は、理系経験者に絞っていましたが、現在は文系・未経験者でもやる気があれば積極的に採用し、入社後に育成して戦力化しています。

特に育成に関しては、ベテランだけでなく若手にも「自分の後から入ってきた人に対しては、皆さんが先生になってください」と伝えることで、全員で教え、高め合う文化の醸成を図っています。1〜3年の経験を積んだ社員も増えてきましたので、今後はリーダー育成プログラムにも力を入れていきます。採用は「選別」ではなく「勧誘」、入社後は「選抜」ではなく「育成」。生産年齢人口の減少という社会構造を踏まえても、これが今の時代に必要なアプローチだと考えています。

「2040年1000億円」を見据える平野社長の視座

── 事業承継においては、社員を大切にしている会社や独自の技術を持つ会社を重視しているそうですが、どのように見極めているのでしょうか?

平野 第一に重視しているのは、事業の連続性を確保できるかどうかです。承継後どのくらいの期間、現社長に在職していただけるか、後継者がいるかという点です。承継直後に退任されてしまうと、社長が築き上げてこられた組織やお客様との関係を引き継ぐことが難しくなります。

次に、売り上げの再現性、つまり事業の安定性を見ます。たとえばビル管理のようにストック型の事業は比較的安定しますが、工事のようなフロー型の場合は、仕事が途切れるリスクがあります。

ただし、建設会社であっても、埼玉県を拠点とするとだか建設(2021年グループ参画)のように地域で確固たる信用を持ち、仕事が継続的に発生する会社であれば高い安定性が見込めます。一方、需要が旺盛な現在の環境下でも仕事に困っている会社は、品質や信用面に課題がある可能性があり、承継は難しいと判断することが多いです。参画いただく会社はいずれも社会的に必須の事業を行っているので、この点が問題になることはそれほどありません。

さらに、組織としての安定性も重視しています。社員同士の関係性や、組織が自律的に機能しているかどうかは、承継後の成長に大きく影響します。社員の多くが入社したばかりという会社では、組織が安定していない可能性もあります。

── 2040年に連結売上高1000億円という目標を掲げています。そこまでのマイルストーンはどのようにイメージしていますか?

平野 非公開化の立場上、具体的な中期目標は公表していませんが、事業承継を続けていく中で、年間5~6%以上のオーガニック成長を積み重ねていけば、2040年の1000億円はおのずと達成可能な水準であると考えています。

昨今、事業承継案件は他社との競争になりますが、現在のペースを維持できれば、グループ売上はまもなく500億円規模になります。 売り上げのみを追うのではなく、DX投資や、買収によらないプラットフォーム型の協業なども実現したいと考えています。「人」が基盤の産業ですので、無理のない財務運営で長期的に成長できると考えています。

── 掲げる目標や事業承継に関して、感じている課題は何ですか?

平野 今すぐ顕在化しているわけではありませんが、現在のグループ会社数が30〜40社へ増加する段階では、私が1社あたりに割ける時間は相対的に減っていきます。したがって、参画後の各社とどうコミュニケーションを取り、どのように支援体制を築くかが今後の大きなテーマです。会議や懇親の場に加えTeamsでのチャットやオンライン会議、宿泊研修などを活用し、日常的に交流できる仕組みづくりを進めています。

オンボーディングはチーム体制で進めており、これまで大きな困難は生じていませんが、特に業種ごとの人材採用と定着、育成面で試行錯誤を続けています。不十分な育成や適性のミスマッチによる離職は、グループ全体の成長にとってクリティカルな課題です。だからこそ、今後も悩みながら改善を重ね、より良い仕組みを作っていきたいと考えています。

同じ方向を向いて協業――グループの意識をひとつにする

── グループ全社の社長を集めた会合を開いているそうですね。

平野 年に一度、全社の社長・経営幹部が一堂に会し、グループ全体の方針を共有する「グループフォーラム」を開催しています。ガバナンスの要は、経営者の皆さんとの基礎的な方向性のアラインメント。各社のトップと「同じ方向を向いて一緒に頑張ろう」という姿勢さえ一致していれば、大きな問題は起きません。事業成長、社会貢献、社員の待遇向上という共通目標の達成に向け、建設的な議論を通じて相互理解と信頼関係を深めるというのが、このグループフォーラムの主旨です。

── 各社長からの信頼を得るために大切にしていることを教えてください。

平野 定例の経営会議では、事業計画の説明や進捗確認に加え、それらの根本的な考え方についても議論します。中小企業では予算管理に慣れていないケースもありますが、これは会社の持続的な成長に欠かせないプロセスであることを丁寧に説明し、理解を得るように努めています。

父が中国古典『大学』を経営指針としていたことから、私も経営者としての考え方にここから影響を受けています。孔子の「君子の徳をもって国を治めなさい」という教えは、申し上げた「方向性のアラインメント」を得られる人間性を得なければならないという意味と解釈しています。ルールベースでの統治も重要ですが、孔子の言う「徳」で組織を治めることの重要性を常に意識しています。

技術サービス業というのは人同士が集まって協力して成立する業種です。、だからこそ、グループ各社の社長にも「徳をもって自社を治めていただきたい」と考えており、実際にうまく機能している会社は自然とこれを実行されていると感じます。

 社会を支え、社員が成長を実感しながらやりがいと誇りを持てるグループに

── 調査レポート発表など、グループ会社の社会的価値の定量化も行っているそうですね。製造業やインフラメンテナンスは、なかなか目に見えない仕事なので、確かに社会における価値が見えづらいのかもしれません。

平野 日本ではこれまで、作業服を着て現場で働く仕事に対して「しっかり勉強しなければ、そのような職種に就くことになる」といった誤ったイメージを持つ方も一部に見受けられました。しかし、建物や電気、水道・下水道、防災設備などのインフラや、半導体をはじめとした製造業を支えているのは、まさに現場のエンジニアたちです。

現場の皆さんの多くは仕事に誇りを持っていますが、普段目に見えない裏側を支えるような、社会からの広い認知が得られにくい仕事も多く、社員が自分に自信を持ちづらい傾向が今でも若干あります。

コロナ禍で「エッセンシャルワーカー」という言葉が注目を集めましたが、私たちが支えるのは「空気」のように“当たり前に存在しているもの”です。普段は意識されませんが、空気がなければ人は生きていけません。当社グループの社員は、技術サービスによってそうした「社会の前提となるもの」を支える、「キーワーカーズ(KEY WORKERS)」です。その社会的価値の高さを自覚し、仕事に誇りを持って働いてしてほしいと、折に触れて伝えています。

── 2040年の大きな目標が実現した先は、どのようなグループにしたいと考えていますか?

平野 2040年には、当社グループの事業が、私たちが日常の基盤を支えていることを社会に正しく伝え、“日本にとってなくてはならない存在”として広く認知される状態を実現したいと考えています。

目標とする規模に向かって効率性も高まり、よりよい処遇を得ながら、技術力を磨き、自らの成長を実感し、楽しくやりがいを持って働けるようになります。「技術で、社会を支える」社員が、地に足のついた仕事を通じて誇りを持ち、いきいきと働ける環境を、これからも整えていきます。

そして、この想いに共感してくださる中小企業の経営者の皆さまには、「ぜひ一緒にやりませんか」というメッセージをお伝えしたいです。これまで築いてこられた立派な会社を、社会に役立つかたちで次世代につなぎ、さらに発展させたいと考える経営者の方々に、ぜひご検討いただきたいと思います。

氏名
平野大介(ひらの だいすけ)
社名
マイスターエンジニアリンググループ
役職
グループ代表、㈱マイスターエンジニアリング代表取締役社長

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