ISOBE GROUP HOLDINGS株式会社

塗装工事の磯部塗装株式会社は、持株会社であるISOBE GROUP HOLDINGS株式会社を2025年10月に設立。両社の代表取締役である磯部武秀氏は、50億円の負債を抱えた磯部塗装をわずか5年で立て直したことから、持株会社には金融機関を介したM&Aの案件紹介が持ち込まれる機会は少なくないという。

建設業界が直面する人手不足やDX化の課題に対応するため、ISOBE GROUP HOLDINGSが推進する「採用・育成の集約」を中心とした戦略を、磯部氏に聞いた。

磯部武秀(いそべ たけひで)──代表取締役
1982年、静岡県生まれ。家業の4代目として27歳で代表に就任し、約50億円の負債を抱えた状況から「透明貯金」という理念の下、5年をかけて事業を立て直す。現在は、ヤマギシリフォーム工業株式会社、株式会社草野、株式会社アッシュなどグループ会社の拡充に注力。著書に『周りが自然に助けてくれる人の仕事術──27歳で借金50億を抱え、5年でゼロにした私の「透明貯金」』(合同フォレスト)がある。
ISOBE GROUP HOLDINGS株式会社
2025年10月、設立。塗装・改修工事を中核とする建設関連企業群を統括する持株会社。人材基盤の強化およびM&Aを継続中。
企業サイト:https://isobe-ghd.co.jp/

目次

  1. 持株会社設立の背景にあった「3つの目的」
  2. AIが介入できる現場が少ないからこそ、人材採用に注力
  3. 現場からも会社の業績を実感できる環境づくり
  4. 代表の経営手法で特筆すべき点とは?

持株会社設立の背景にあった「3つの目的」

── 持株会社を2025年10月に設立したそうですが、その目的を教えてください。

磯部(以下、敬称略) そもそもは、困っている会社のお手伝いができれば、との思いがありました。ISOBE GROUP HOLDINGSのロゴにも「Regrowth(再成長)」と「together(一緒に)」と2つの言葉を入れており、グループに入った会社と一緒にやっていこうというのが、根底にある考えです。

目的としては、三つあります。

一つ目は、再成長のためには人材の採用・育成が不可欠であるということです。建設業の人手不足という環境下でも、しっかりと採用・育成ができれば、受注に対応できます。多くの業界で人手不足は深刻ですが、建設業はAIやロボット化、自動化がまだ進んでいない傾向が特に強い業界です。

しかし、一つの会社で採用の努力をしても、実際に人材を獲得するのは難しい。会社の規模や人材確保に必要な情報が揃っていないと雇用に至るのは困難であり、それでいて規模がさほど大きくない会社に人事部を置くのは、コスト的にも人員的にも負担が大きくなります。

そこで、ISOBE GROUP HOLDINGSがグループ各社の採用・育成管理を担うことが、設立の目的の一つです。

二つ目はファイナンスの最適化で、グループ各社の借り入れや金融機関との交渉を持株会社で一元的に行うことが目的でした。

三つ目として、これからも出てくるM&Aを主導するため、新たに会社を設けた側面もあります。

これらが持株会社設立の目的となります。

── ホールディングス化されている会社は、中央集権型と連邦型に分かれると思いますが、ISOBE GROUP HOLDINGSはどちらでしょうか?

磯部 後者の連邦型に近いです。バックオフィス部門は持株会社が担う部分が大きいですが、各社の事業自体はそれぞれの責任者に任せ、元からある「色」を消さないようにしています。各社の自主性や企業風土を、無理に変えるつもりはありません。

建設業は地域密着型の企業が多く見られ、それぞれの地域で築いたブランドやお客様との取引といった資産があります。それらを崩すつもりはないということです。

── 地域性についてですが、富山や福岡といった地域に拠点を持つことへの意図はありますか?

磯部 われわれがカバーしていない地域を補完するという意味合いが大きいですね。たとえば、磯部塗装やヤマギシリフォーム工業はグループの売上の大部分を占めますが、福岡に拠点を有していても地域での業績が伸び悩んでいました。

そこで草野という福岡にある防水工事の会社をM&Aしました。今後は、その下にヤマギシリフォーム工業が入った形の運用をすることも、想定しています。

橋梁補修などを行うアッシュ(富山)が地盤とする北陸も、われわれがカバーしていなかった地域を補完するものです。

将来的には、東北や北海道といった地域に拡大する可能性も、十分にあります。

AIが介入できる現場が少ないからこそ、人材採用に注力

── 冒頭でも話のあった人材獲得について、現状はどうでしょうか?

磯部 現在、グループ全体で採用はうまくいっており、新卒で年間約10人、中途の施工管理で約30人、職人で約20人、合わせて年間50~60人程度を採用しています。さらに磯部塗装の離職率は低く抑えられています。

ただ、グループ全体ではまだ育てた人間が辞めてしまう場合もあり、採用にコストをかけられないのが課題です。人が辞めずに健全に育てられれば、そのコストを採用に回せます。実現できれば、現在は年間50人規模の採用を、100人規模まで広げたいです。

新卒採用の場面では「大学を出て塗装会社に入る必要性はあるのか」と聞かれることもありますが、内定者には会社の魅力を説明できるように、魅力を伝える材料を用意しています。AIやロボットによって消える仕事がある中で、建設業は需要があり、伸ばす余地もあるので面白いということを伝えられれば、優秀な学生が来てくれる手応えを感じています。

── 反対にAIやDX化について、建設業界ではどういった恩恵を受けていますか?

磯部 設計やモデル作成など、超上流工程ではAIや3Dプリンターの活用があるかもしれませんが、われわれが直接手掛ける職人のいる領域では、DX化やIoTは難しいのが現状だと感じています。

同じ塗装工事でも、工場での自動車ラインの塗装は完全自動化されていますが、建築分野の塗装は状況や仕事内容が現場によって異なるため、オートメーション化はまだ先になりそうです。コストもかかりますし、人の手でやった方が早く、正確な場合が多いからです。

一方で、戦後から高度経済成長期にかけて整備されたインフラや建物の老朽化が進み、メンテナンスの必要性が高まっています。職人の希少価値は上がり、現場での存在価値はさらに高まるでしょう。円安の影響もあり、われわれのグループでは日本人の職人の採用に踏み切っています。

お客様からは「元気な会社と付き合いたい」という声をいただき、そこでも平均年齢30代前半と若いわれわれのグループが力になれます。事業会社の継続性という点でも、若い人材の育成は重要です。

結論として、しばらくは機械よりも人の手が必要な状況です。

現場からも会社の業績を実感できる環境づくり

── ISOBE GROUP HOLDINGS設立後に生じた課題はありますか?

磯部 世の中ではM&Aがうまくいかないケースもあると思いますが、われわれのグループは比較的うまくいっている方だと思います。一方、課題を感じているのは計画の進行です。

建設業といってもマーケットは多様にあるのですが、われわれグループのメンテナンス事業では労務単価が倍近く上がっています。たとえば、ヤマギシリフォーム工業のマンション修繕計画も、当初の想定を超えた労務費の上昇で計画通りに進まないことがあります。

人がいれば仕事が取れるという大枠は間違っていないと考えていますが、案件を個別に見ると地域差やマーケットの違いがあり、うまくいかないケースがあるということです。

── 建設業では地域性が強く影響するという中で、文化の融合について困っていることはありますか?

磯部 将来的には、グループ内で人材の流動化を進めたいのですが、地域性を含めて各社の利益状況や雇用条件が異なるため、簡単ではありません。社員それぞれで元の会社への思い入れもあります。

グループ共通の価値観としては、売上ではなく営業利益率を重視しており、グループ内で切磋琢磨しながら横を見て比較し合う環境を目指しているところです。その上で人材の流動化を考えると、磯部塗装が採用の大部分を占めるため幹部ポストが埋まり始めており、グループ内の別会社の幹部や役員を目指す道が開かれています。

── 現場の施工管理や職人目線で見ると、グループ傘下に入ることでどのようなメリットがありますか?

磯部 上場企業並みとはいいませんが経営情報は公開しているので、利益など数字を意識してもらうことで、現場の仕事が業績に反映されていると理解してもらえます。われわれのグループは、利益の3分の1を従業員に還元する方針を公言しています。

代表の経営手法で特筆すべき点とは?

── ほかにグループ企業が自律的な成長をする理由を教えてください。

磯部 石川さんどうでしょう?(と、同席しているISOBE GROUP HOLDINGS 石川氏に声をかける)

石川氏 私はもともとヤマギシリフォーム工業に所属し、現在はホールディングスの人事部に転籍しています。

磯部(代表)の経営手法で特筆すべきは、グループ各社のポイントをつかむのがうまいことです。そのロジックはシンプルで、営業利益や文化を壊さないといった基準に基づいています。ポイントを指摘したら、あとは各会社に責任を渡し、きちんと実行することで全体の流れが良くなります。

これは、ISOBE GROUP HOLDINGSのシステムにおける裏側の動きといえるかもしれません。

磯部 石川には、これからの幹部として、経験を積んでもらっています。人を育てる考え方は、やはり重要です。私一人でやると早いですが、それだとずっと私一人でやらねばなりません。

重要なポイントを取り上げて実際にやってもらうことで、幹部のレベルが上がり、私以外でも会社が回るようになります。属人化をいかに解消するかがテーマであり、幹部育成にも力を入れています。

── 建設業界では、採用や行政との付き合いのために上場を目指す会社も多いですが、ISOBE GROUP HOLDINGSはIPOについてどうお考えですか。

磯部 資金調達の必要性はあまり感じていません。M&Aは3~5年で回収できています。上場しても、採用がさらに増えるかというと、現状とあまり変わらないと見ています。上場コストを考えると、営業面でのメリットもそれほど大きくありません。

上場しなくても採用できる根拠は、リニューアルした磯部塗装の採用サイトをご覧いただけると、イメージが湧くはずです。

── 今後のM&A戦略について、見据えているものはありますか?

磯部 年度内にもう一社、M&Aが決まる予定です。中国地方で特定の分野に強い建設会社です。

東北や九州、四国などでも、M&Aや資本提携を組めるところがあれば、積極的に組みたいと考えています。地方は人手不足が深刻ですが、メンテナンスのニーズは東京都心と変わりません。そこにチャンスを見出しています。実際、相談はかなり来ていますね。特に金融機関経由が多いです。

企業再生の実績や、地銀などで講演していることが理由です。金融機関も仲介手数料を得られるため、積極的に紹介してくれます。

── 建設業の市場全体をどうとらえていますか?

磯部 建設業は、人手不足という課題はありますが、インフラの老朽化などメンテナンスの需要は今後、さらに高まります。ISOBE GROUP HOLDINGSとしても、若い人材の育成やグループの連携を強化することで、持続的な成長を目指します。

氏名
磯部武秀(いそべ たけひで)
社名
ISOBE GROUP HOLDINGS株式会社
役職
代表取締役

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