株式会社ARIA

「やりがい搾取」という言葉が象徴する医療業界の自己犠牲的な体質に風穴を開けるべく、2022年に株式会社ARIAを創業した宮崎大輔氏。

同社の「NewGate訪問看護ステーション」は全国でも希少な小児特化型のサービスだ。1700超の事業所がひしめく大阪において、競合が少ない小児領域というブルーオーシャンを見出し、総フォロワー6万人超のSNS発信力で採用難を突破。約3年で西日本を中心に13拠点へと異例の成長を遂げた。

華やかなSNS戦略の裏で躍進を支えるのは、給与算出根拠の完全開示や徹底した仕組み化など、属人性を排した緻密な経営手腕だ。医療ビジネスの新たなスタンダードを確立する若き経営者の実像と戦略に迫った。

宮崎大輔(みやざき だいすけ)──株式会社ARIA 代表取締役
大阪府生まれ。1993年、看護専門学校卒業、近畿大学病院に入職し、3年間オペ室に勤務。その後、個人事業主として独立。営業会社で営業や組織マネジメントを経験。コロナ禍を機にSNSで情報発信を開始し、総フォロワー6.4万人になる。2022年に株式会社ARIAを設立。自己犠牲の元に成り立っている旧態依然の医療業界を変えるべく、訪問看護事業に注力している。
株式会社ARIA
2022年創業。小児に特化した訪問看護ステーション「NewGate訪問看護ステーション」を大阪、兵庫、福岡、神奈川、佐賀の全13拠点で展開。「笑顔あふれる 自分らしい人生を」をビジョンに掲げ、スタッフファーストの人事・キャリア制度を整備。看護師の自己実現をサポートすることで、地域医療現場の改革を目指す。5年後には、訪問看護ステーション以外に、デイサービスや保育園など、小児のサービスを包括的に展開できるよう計画中。
企業サイト:https://new-gate.jp/(NewGate訪問看護ステーション)

目次

  1. 看護師のキャリアに抱いた違和感とSNSでの発信
  2. 小児特化というブルーオーシャンへの挑戦
  3. 属人的なマネジメントからの脱却と組織化
  4. 透明性の高い給与体系と評価制度の構築
  5. 西日本を中心とした拠点拡大とM&A戦略
  6. 地域医療を支える包括的な小児福祉の実現へ

看護師のキャリアに抱いた違和感とSNSでの発信

── 起業に至るまでの歩みを教えてください。

宮崎氏(以下、敬称略) 私は現在32歳(2026年3月取材時点)ですが、25歳までは大学病院で看護師をしていました。看護師は初任給こそ平均以上ですが、そこからの昇給が少なく、将来に不安を感じました。

結婚して子供が生まれたタイミングで、自分の趣味や生活を我慢し続ける人生に疑問を持ちました。もっと稼げるようになりたいと考え、思い切って看護師を辞める決断をしました。

退職後、最初は個人事業主として動きましたが、営業ではまったく稼げない時期が続き、組織マネジメントなどを経験してお金を稼ぐ術を学びました。

転機は新型コロナウイルスの流行です。対面での営業が困難になったため、TikTokやInstagramで「看護師あるある」の発信を始めました。

── SNSでの発信が大きな反響を呼んだのですね。

宮崎 看護師の共感を得る内容を発信し続けた結果、フォロワーが6万人を超えました。そのころに訪問看護の話を聞き、「採用ができれば勝てる」という確信を持ちました。

自分のアカウントを活用すれば、看護師の採用は可能だと考えました。医療業界の古い体質を変えたいという思いもあり、訪問看護事業の立ち上げを決めました。

── 医療業界のどのような点に古い体質を感じていたのですか?

宮崎 年功序列が強く、どれだけ努力して良い看護を実践しても正当に評価されないことです。在籍年数だけで役職が決まる仕組みに、強い違和感を覚えていました。

看護師には善意のある人が多く、自分を犠牲にして患者のために働くことが美徳とされますが、それは「やりがい搾取」になりやすい構造です。

努力が正当に評価され、収入につながる場所を作りたいと考えました。病院を作るのは難しいですが、訪問看護なら自分の理想とする組織を構築できると判断しました。

小児特化というブルーオーシャンへの挑戦

── 創業当初の状況はどうでしたか。

宮崎 SNSで「訪問看護を立ち上げる」と発信したところ、最初から20人近くが集まりました。2022年の創業から約3年で、現在は従業員が100人近くまで増えています。

拠点は大阪の堺市から始まり、現在は兵庫、神奈川、福岡、など13拠点まで拡大しました。 5月には佐賀県にも新しい拠点を設立する予定です。

── 訪問看護の中でも、特に「小児」に特化している理由は何ですか?

宮崎 大阪府は訪問看護事業所が全国で最も多く、1700以上の事業所がひしめき合う激戦区です。しかし、その中で小児に対応できる事業所は、両手で数えるほどしかありません。

小児領域は専門性が高く、対応できるスタッフの確保が難しいため、競合が極めて少ないのです。当社の採用力があれば、この市場でトップポジションを取れると考えました。

── 小児訪問看護のニーズは、都市部以外でも高いのでしょうか。

宮崎 小児領域に関しては、どの地域でもサービスが不足しています。人口が極端に少ない地域を除けば、どこに出店しても高いニーズがあります。

当社は大阪府全域をカバーしていますが、広範囲に対応できるステーションは意外と少ないです。スタッフを多く抱えているからこそ、広域での対応が可能です。

── 利用者からは、どのような声が届いていますか。

宮崎 「訪問看護が小児でも利用できることを知らなかった」という声が非常に多いです。医療的ケアが必要な子たちだけでなく、発達の遅れや双子の育児支援でも利用可能です。

特に双子のお子様を持つご家庭からは、口コミ経由で多くの依頼をもらいます。お母様同士のつながりで、支援の輪が広がっています。

── 小児訪問看護の認知度向上にも取り組んでいるのですね。

宮崎 関係機関ですら、小児で訪問看護が使えることを知らないケースがあります。 そのため、ウェブサイトで利用者のインタビュー記事を掲載するなど、情報発信に注力しています。

具体的な支援内容をイメージしやすくすることで、潜在的なニーズを掘り起こしています。 地域社会において、小児訪問看護を当たり前の選択肢にするのが当社の役割です。

属人的なマネジメントからの脱却と組織化

── 急成長を遂げる中で、組織運営において意識していることはありますか。

宮崎 組織の規模が大きくなるにつれ、スタッフとの距離感の保ち方を重視しています。創業期は私のSNSを見て入社した人が多く、一致団結して進むフェーズでした。

しかし現在は、私が直接面接に関わらないケースも増えています。私個人に依存するのではなく、会社としてのルールや規範で動く組織にする必要があると思っています。

── 属人的な経営から、システムによる経営への移行ですね。

宮崎 そのとおりです。私のお気に入り人事を排除し、誰に対しても公平な環境を整えています。就業規則やマニュアルをカチッと固め、裏方として組織の基盤を作ることに注力しています。

私が現場に出て目立つのではなく、スタッフが自律的に動ける環境を作ることが重要です。 承認欲求に負けて現場に介入しすぎないよう、自分自身を律しています。

── 理念である「笑顔あふれる 自分らしい人生を」を浸透させる難しさはありますか。

宮崎 言葉の解釈が人によって異なる点は、組織運営の難しい部分です。「自分らしく」という言葉を、「楽をして働ける」と誤解する人も中にはいます。

しかし、自己実現や自分らしい人生は、日々の努力と成長の先にあるものです。理想ばかりを追うのではなく、現実の厳しさとのギャップを埋める教育が必要です。

── 具体的にどのような教育を行っているのでしょうか。

宮崎 理念を直接説くよりも、具体的な行動指針やマニュアルを徹底させるようにしています。日々の業務で意識すべきことをシンプルに集約し、仕組み化しています。

正しい行動を積み重ねた結果として、理念の実現につながるような導線を引いています。これが、組織が拡大してもサービスの質を維持するための工夫です。

── 仕組み化による成果は、数字としても表れていますか。

宮崎 離職率や在籍年数などのデータ集計を、2023年の中盤から本格的に開始しました。まだ分析の途中ですが、施策と結果をひもづけて改善を繰り返す体制が整いつつあります。

感覚に頼るのではなく、データに基づいた経営判断を行うフェーズに入っています。スタッフが安心して長く働ける環境を、数字の裏付けをもって構築します。

透明性の高い給与体系と評価制度の構築

── 看護師の待遇改善について、具体的にどのような施策を講じていますか。

宮崎 まず、労働時間の短縮に取り組んでいます。

一般的な病院は8時間勤務ですが、当社は7時間勤務を基本としています。さらに週1回の時短勤務を設け、週の労働時間を32.5時間まで抑えるように調整しています。残業も月平均5〜6時間程度で、メリハリのある働き方を推奨しています。

── 労働時間を短縮しながら、給与水準を維持するのは容易ではないと思います。

宮崎 生産性を高めることで、高い給与水準を実現しています。基本給に加え、訪問件数や売上に応じたインセンティブ制度を導入しています。

2025年の平均年収は530万円程度を見込んでおり、開業以来、右肩上がりで推移しています。中には年収750万円に達するスタッフもおり、頑張りが報われる仕組みを証明しています。

── 評価制度の透明性についても、かなりこだわっているそうですね。

宮崎 「給与設計マニュアル」を作成し、給与の内訳や算出根拠をすべて開示しています。 30ページに及ぶ資料で、会社の利益や経費、個人の還元率を詳細に説明しているんです。

病院勤務時代、自分の働きがいくらの売上になり、なぜその給料なのかが不透明でした。その「分からない」という不満を、自社では一切なくしたいと考えました。

── 会社の収支まで公開するのは、経営者として勇気がいることではないでしょうか。

宮崎 クリーンで真っ当な経営を行うことが、スタッフとの信頼関係につながります。会社の取り分も隠さず見せることで、共に事業を拡大しようという意欲が生まれます。

昇給のチャンスも半年に1回設け、評価基準を明確に示しています。納得感を持って働ける環境こそが、高いパフォーマンスを引き出す源泉であると思います。

── 採用面での強みは、やはりSNSの活用にあるのでしょうか。

宮崎 SNSは強力な武器ですが、それだけで採用し続けるのは不可能です。「この会社なら成長できる」「待遇が良い」という実態が伴ってこそ、人は集まります。

採用しすぎて人件費が膨らみ、キャッシュが厳しくなった時期もありましたが、その経験を経て、現在は融資を活用しながら適切なペースで拡大する術を学びました。

西日本を中心とした拠点拡大とM&A戦略

── 今後の資金調達や財務戦略については、どのように考えていますか。

宮崎 上場は現在のところ考えておらず、銀行からの融資を中心とした調達を継続します。2025年も地銀などから約8000万円を調達しており、2026年はさらに規模を拡大する予定です。

決算書の内容も良くなっており、プロパー融資の相談もスムーズに進んでいます。調達した資金は、採用の加速と新規事業の立ち上げに投入します。

── 訪問看護以外の事業展開も計画しているそうですね。

宮崎 小児に関連する福祉サービスとして、デイサービスや保育園などの展開を考えています。訪問看護を軸に、小児福祉を包括的に支えるモデルを構築するのが目標です。

組織が大きくなれば、1人あたりの販管費を抑えられ、スタッフへの還元率も高められます。規模のメリットを活かし、地域社会への貢献度を高める方針です。

── M&Aによる拠点拡大の可能性についてはいかがでしょうか。

宮崎 廃業の危機にある事業所の買収には、積極的に取り組みたいと考えています。

訪問看護業界では、経営難に陥っている小規模な事業所が少なくありません。そうした事業所を当社の傘下に収めることで、雇用を守り、利用者の支援を継続できます。 これは社会的な意義も非常に大きい活動だと捉えています。

── エリア戦略について教えてください。

宮崎 大阪から九州にかけての西日本エリアを、重点的に攻める計画です。拠点を点在させるのではなく、ドミナント戦略で地域に根ざした体制を作ります。

組織が強固であればあるほど、スタッフに安心感を与えられ、サービスの安定につながります。「NewGateなら安心だ」と言われるブランドを、西日本全域で確立します。

地域医療を支える包括的な小児福祉の実現へ

── 小児訪問看護の社会的意義の大きさが伝わる一方で、未経験の看護師にとってはまだ未知の領域かと思います。

宮崎 在宅医療、特に小児の領域は、まだイメージがわきにくい分野かもしれません。 しかし、そこには確実に助けを必要としている子供たちとご家族がいます。

当社では事業所の見学や説明会を随時実施しており、YouTubeでも活動の様子を公開しています。少しでも興味があればのぞいてみてください。

── 現場の雰囲気を感じてもらうことが、第一歩になるのですね。

宮崎 まずは一度お話しして、私たちの想いや現場のリアルを知ってもらいたいです。 看護師としての新しいキャリアを、共に切り拓いていける仲間を待っています。

医療業界の常識を変え、スタッフも利用者も笑顔になれる環境を本気で作っています。 私たちの挑戦に共感してくれる方と一緒に、地域医療の未来を創造していきます。

氏名
宮崎大輔(みやざき だいすけ)
社名
株式会社ARIA
役職
株式会社ARIA 代表取締役

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