株式会社若松屋

1937年の創業以来、玩具花火と打ち上げ花火の両方を扱う日本唯一の企業として、長きにわたり日本の夏を彩ってきた株式会社若松屋。

代表取締役社長の佐野明正氏は、売り上げの大半が消失したコロナ禍という未曾有の危機を契機に、業界の常識であった「受注を待つ」姿勢からの脱却を図った。 潜在ニーズを掘り起こすプライベート花火の展開や、累計30万ダウンロードを記録したアプリの開発、さらには気象データを用いた論理的なマーケティング戦略まで、その一手は伝統産業の枠を大きく超える。

花火業界の構造そのものに革新をもたらす同社の歩みと、M&Aを見据えた今後の成長戦略、そして佐野氏が信じる「花火のチカラ」について詳しく語ってもらった。

佐野 明正(さの あきまさ)──株式会社若松屋 代表取締役社長
1963年、愛知県生まれ。1986年、青山学院大学卒業。1987年、株式会社若松屋入社。入社後、玩具花火の企画販売とともに大型花火事業にも従事。2004年、東京支店開設に伴い活動拠点を東京に移す。副社長就任後、花火に携わってきた経験を活かしつつ、花火の力を活かしてすべての人々に楽しさと感動を伝えられるさまざまな花火企画を主導。新たな時代に対応する花火の発信方法も視野に活動し、2022年、代表取締役社長に就任。
株式会社若松屋
1937年創業。玩具花火と煙火(打ち上げ花火)の両方を扱う日本で唯一の会社。玩具花火、煙火、雑貨(一般玩具)の3本を基本事業とする。「さぁ、花火をしよう。」をキャッチフレーズに、十分な保安体制のもと花火の伝統を守り、花火の楽しさを広めることで、社会に「花火のチカラ」を届けている。
企業サイト:https://www.hanabi-wakamatsuya.co.jp/

目次

  1. 玩具花火と打ち上げ花火の両輪で歩む創業87年の歴史
  2. コロナ禍での売上95%減を機に挑んだ「受注型」からの脱却
  3. 30万ダウンロードを記録したアプリ開発とユーザー視点のものづくり
  4. 気象データ活用とインフルエンサー施策で捉える潜在的ニーズ
  5. M&Aによる全国拠点拡大と「楽しさ」を追求する組織の未来

玩具花火と打ち上げ花火の両輪で歩む創業87年の歴史

── 御社の事業の変遷と現在の事業内容について詳しく教えてください。

佐野氏(以下、敬称略) 当社は戦前である1937年ころに、玩具花火の専門会社として創業しました。戦中を経て、戦後になり二代目の社長が事業を引き継ぎ、しばらくは玩具花火を中心に展開していました。

大きな転機となったのは1957年です。縁あって他社を併合する形で、打ち上げ花火の事業を開始しました。それ以降、現在に至るまで、玩具花火と打ち上げ花火の両方を扱う日本で唯一の会社として、全国に花火を届けています。

── 玩具花火だけでなく、雑貨などの事業も展開しているそうですね。

佐野 はい。約20年前に、廃業される企業の事務所を引き継いだことをきっかけに、一般玩具や雑貨の取り扱いも開始しました。現在は、玩具花火、煙火、雑貨の3本柱で事業を構成しています。

── 長い歴史の中で、事業のあり方が変わるようなターニングポイントはありましたか。

佐野 私が業界に入った1980年代後半から2000年代初頭までは、景気も良く、作れば売れるという時代でした。子どもの数も安定しており、既存の事業を回すだけで精一杯という状況でした。

しかし、2000年代に入ると少子化の影響やバブル崩壊後の景気後退により、高額な商品が売れにくくなるなど、何もしなければ事業が縮小していくという危機感を抱くようになりました。そこで2004年に東京支店を開設し、活動拠点を広げたことが一つの転換点です。

── 社会情勢の変化が、経営判断に大きな影響を与えたのですね。

佐野 特に2011年の東日本大震災は、私たちの意識を大きく変えました。多くの花火大会が中止となるなかで、「このような社会状況で花火を打ち上げてもよいのか」という葛藤がありました。

当時の花火業界は、自治体などからの受注を待つのが当たり前で、自ら企画してイベントを仕掛けることは皆無でした。しかし、受注を待つだけの姿勢では、これ以上の発展はないと痛感したのです。

コロナ禍での売上95%減を機に挑んだ「受注型」からの脱却

── コロナ禍では厳しい状況に直面したのではないでしょうか。

佐野 2020年からのコロナ禍は、決定的な打撃でした。玩具花火の売り上げは、いわゆる「おうち時間」の需要で150%ほどに伸びましたが、打ち上げ花火の売り上げは95%も消失しました。

世の中から花火大会が消え、約2年間にわたり打ち上げ花火の売り上げがほぼゼロになるという、未曾有の事態です。

このとき、「自分たちで何かを始めなければならない」と強く決意しました。

── 具体的に何を始めたのですか?最初に起こしたアクションは何でしたか?

佐野 まず着手したのは、花火のワークショップです。地元の小学校などで花火の仕組みを教えたり、線香花火を手作りしたりする活動を始めました。当時は社員の手も余っていたため、まずは教育や文化継承の側面からビジネスの種を探しました。

また、大規模な花火大会ができない代わりに、少人数で楽しむ「サプライズ花火」や「プライベート花火」の需要があることに気づきました。これが現在の個人向け受注サービスにつながっています。

── 業界全体の構造を変えるような取り組みですね。

佐野 花火業界は非常に閉鎖的で、これまでは「受注を待つ」のが常識でした。しかし、時代に合わせてこちらから受注を取りに行く姿勢が必要です。

当社の打ち上げ花火事業は、自社で打ち上げるだけでなく、世界中から花火を集めて全国の花火業者に卸すという、問屋としての機能も持っています。日本中の花火業者が仕事を得られる環境を作ることが、私たちの重要な役割です。

── 業界全体を活性化させるために、SNSを活用した施策も行ったとか。

佐野 コロナ禍の際、当時のTwitter(現X)で「プライベート花火を打ち上げよう」という企画を立ち上げました。ゴールデンウィークの期間中に全国60ヵ所で受注を獲得するなど、大きな反響がありました。

また、12月5日を「還暦の日」と定め、還暦のお祝いとして花火を打ち上げる企画も実施しました。

昨年は全国約450ヵ所で打ち上げを行い、数千万円規模の受注につながりました。12月は花火の閑散期ですが、新しい需要を創出することで、全国の花火業者に仕事をつなげられました。

30万ダウンロードを記録したアプリ開発とユーザー視点のものづくり

── 花火を打ち上げたいという潜在的なニーズは、実は多いのですね。

佐野 はい。しかし、多くの人は「花火を5分間打ち上げるのにいくらかかるか」を知りません。実は30万円程度から打ち上げ可能なのですが、その情報が届いていないのです。

富裕層の方々や、企業の周年記念、海外からの賓客を招いたパーティーなど、マッチングさえうまくいけば、花火の需要はもっと掘り起こせると考えています。

── 玩具花火の分野ではどうですか。

佐野 玩具花火における最大の課題は、「花火をやりたいけれど、場所がわからない」というユーザーの悩みでした。特に都市部では、公園での花火が禁止されていることも多く、心理的なハードルが高くなっています。

そこで、スマートフォンの位置情報を活用して、近くで花火ができる公園を探せるアプリ「花火MAP」を開発しました。これが累計30万ダウンロードを記録し、売り場での認知度向上にも大きく貢献しました。

── ユーザーの「困りごと」を解決することが、マーケティングにつながったということでしょうか。

佐野 商品開発においても、徹底してユーザー視点を貫いています。これまでの玩具花火は、見た目を大きく見せるためにプラスチックのパッケージを多用し、セロハンテープでガチガチに固定するのが一般的でした。

しかし、これは開封時にストレスがかかるうえに、大量のゴミが出ます。そこで当社は、プラスチックを一切使わず、紙のパッケージでコンパクトにまとめた商品を開発しました。

── それは業界の常識を覆すようなパッケージでは?

佐野 ええ。発売当初は、流通業者から「こんなに小さくて地味なものは売れない」と猛反対されました。しかし、実際に店頭に並べると、インフルエンサーが「ゴミが出なくて使いやすい」と紹介してくれたことで爆発的にヒットしました。

現在は、このエコパッケージの商品が当社の主力となっています。持ち運びが楽で、後片付けも簡単。今の時代のニーズに合致したことが成功の要因です。

気象データ活用とインフルエンサー施策で捉える潜在的ニーズ

── データの活用についても取り組んでいるそうですね。

佐野 日本気象協会と連携し、気象データと販売データを掛け合わせた解析を行っています。花火の売り上げは天候に大きく左右されます。梅雨明けの時期や、気温が何度になると花火が売れなくなるのかといったデータを可視化しました。

このデータを小売店に提供することで、「夏が終わっても、この気温ならまだ売れる」といった具体的な提案が可能になります。勘に頼るのではなく、データに基づいた営業戦略を構築しています。

── 伝統的な業界でありながら、経営は非常にロジカルな印象です。

佐野 花火そのものの魅力、いわゆる「絵力」は非常に強いのですが、それだけでは「花火はすごかったね」で終わってしまい、会社の認知にはつながりません。

いかにして「若松屋」というブランドを認識してもらうか。そのためには、SNSでの発信やインフルエンサーとの協業が不可欠です。花火というコンテンツは動画との相性が抜群に良いため、YouTubeなどの視聴回数は非常に伸びます。これをいかにビジネスに結びつけるかが今後の課題です。

── 競合他社とはどう差別化していますか。

佐野 打ち上げ花火に関しては、全国の花火業者が当社のお客様であるため、競合というよりは共生の関係にあります。一方で、玩具花火はメーカー同士の競争が激しい世界です。

かつては価格競争に陥り、「安かろう悪かろう」の商品が溢れた時期もありました。しかし、当社はそのような消耗戦からは距離を置き、付加価値の高い商品やサービスを提供することに注力しています。

── 具体的にはどのような付加価値を?

佐野 先ほどのアプリやエコパッケージもそうですが、ワークショップを通じて直接ユーザーの声を聞くことも重要です。アンケート調査を外部に依頼するのではなく、自分たちで現場に足を運び、何に困っているのかをリサーチします。

「意識が高い系」の環境配慮型商品から、一目で笑ってしまうような面白い商品まで、両極端に振り切ったラインアップを展開することで、他社にはない独自性を確立しています。

M&Aによる全国拠点拡大と「楽しさ」を追求する組織の未来

── 今後の成長戦略として、どのような展望を描いていますか。

佐野 少子高齢化が進むなかで、単におもちゃを売るだけでは売り上げは上がりません。幅広い年齢層に受け入れられる商品開発や、インバウンド需要の取り込みが必須です。

また、業界全体を見渡すと、事業承継の課題を抱える企業が増えています。今後はM&Aを通じて、全国に拠点を広げる必要があると考えています。

── 拠点を増やすことで、どのようなメリットにつながるのでしょうか。

佐野 打ち上げ花火は地場産業の側面が強く、遠方への出張はコスト面で不利になります。北海道や東北、関西、四国といった各地に拠点があれば、より効率的に全国のお客様に対応できます。

幸い、当社の事業承継は完了しており、今後数十年にわたって腰を据えた経営が可能です。投資すべきところにしっかりと資金を投じ、スケールメリットを活かした展開を目指します。

── 組織づくりにおいて大切にしていることは何ですか?

佐野 世代のバランスを維持することです。20代から50代までが適度な割合で存在することで、アイデアの幅が広がります。また、社員には「遊び心」を持って仕事をしてほしいと伝えています。

一日中同じ作業を繰り返すのではなく、適度な余裕を持ち、雑談の中から新しいアイデアが生まれるような環境が理想です。メリハリを持って仕事ができる組織こそが、変化の激しい時代を生き抜けると信じています。

── 業界の常識を変えてきた若松屋ですが、佐野社長が信じる「花火が持つ本来のポテンシャル」を教えてください。

佐野 私たちは花火を通じて、世の中に楽しさを届けることを商売の柱としています。この軸をぶらさずに追求し続ければ、必ず良い結果がついてくると確信しています。

花火には、人の心を動かすチカラがあります。伝統を守りつつも、常に新しい楽しさを提案し続ける若松屋の挑戦に、ぜひご注目ください。

氏名
佐野 明正(さの あきまさ)
社名
株式会社若松屋
役職
代表取締役社長

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