株式会社ソムリエ

ワイン輸入、直販、飲食店運営などを展開する株式会社ソムリエは、ワインと食を融合させた独自のビジネスモデルを確立している。代表取締役の守川敏氏は、母体となった企業で「社長の同好会」と揶揄された事業を、2000種類を超える希少なワインを扱う業界屈指の規模へと成長させた。

その原動力は、ECから実店舗、BtoBへと広げた販路と、中長期的なブランド価値の向上を最優先する経営姿勢だ。現在は、データ活用とAIによる需要予測や営業支援をいち早く導入。伝統を守りながらテクノロジーを駆使して成長を加速させる同社の取り組みを、守川氏に聞いた。

守川敏(もりかわ さとし)──代表取締役
1968年、山口県生まれ。18歳から飲食業に従事し、大学在学中に店長に就任。27歳で独立し、1996年に株式会社トゥエンティーワンコミュニティを設立。飲食コンサル、ワイン輸入、直営レストラン・ベーカリー事業などを展開。日本ソムリエ協会認定ソムリエ、ボルドー・サンテミリオン騎士団などの称号を持つ。
株式会社ソムリエ
1996年、株式会社トゥエンティーワンコミュニティ設立。2023年、会社分割により株式会社ソムリエ設立。ワイン輸入販売事業、直営店舗運営事業、BPO事業を展開。 企業サイト:https://sommelier-wine.co.jp/

目次

  1. 「社長の同好会」からの脱却とスケールメリットの追求
  2. 東京・六本木に「ワインと食の総合ビル」を開設
  3. 何よりもブランド価値の維持向上を最優先に
  4. ワイン流通の世界でAIをどう活用しているのか?

「社長の同好会」からの脱却とスケールメリットの追求

── 社名からワインに関する会社と分かりますが、具体的な事業内容を教えてください。

守川氏(以下、敬称略) 株式会社ソムリエは、2023年に分社化して誕生した会社です。もともとは1996年に設立した株式会社トゥエンティーワンコミュニティの一部門として、2004年にワイン事業をスタートしました。

現在は、ワインの輸入直販を行うインポーター(輸入業者)としての顔を持ちながら、酒販店としての小売、さらには飲食店への卸売も手がける独自のビジネスモデルを展開しています。また、カジュアルイタリアンの「Sakura」や、全室個室の高級和牛業態「六花」(りっか)などの飲食店も運営しています。

さらに、ベーカリー事業の「ラトリエ・デュ・パン」は、食べログのパン百名店に選出され続けているブランドです。先日は大井町に2号店をオープンしました。その他、パティスリーの「ココアンジュ」なども展開しています。

── ワイン事業を立ち上げた当初は、どのような状況だったのでしょうか?

守川 トゥエンティーワンコミュニティの一部門であったころ、ワイン事業は社内でも非常に肩身の狭い部署でした。もともと私がワインを好きだったことから始めた、いわば趣味の延長のような存在です。

当時は「直接、買い付けて輸入し、直接販売すれば、中間マージンを省いて高収益モデルを構築できる」という安直な考えで始めました。しかし、現実は甘くありませんでした。小ロットの輸入では輸送コストがかさみ、ビジネスとして成立させるのは困難だったからです。

社内では「社長の同好会」と陰口を叩かれるほど、小さな部署でした。しかし、このままではスタッフや生産者、そして消費者の皆様に感動や恩恵を提供することは不可能だと思い、一念発起して成長を目指しました。

同好会の域を脱するためには、ワインマーケットのすべてを取りにいく覚悟が必要です。輸入量、取扱量、販売量のすべてにおいてスケールメリットを享受できるレベルまで引き上げることを決意し、本格的な拡大に乗り出しました。

── 当初はECサイトでの販売に注力していたそうですね。

守川 最初は実店舗や卸売のルートがなく、ECモールでの成長に全力を注ぎました。楽天市場などでショップ・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、ワインジャンルではトップクラスの業績を上げ、急激に成長しました。

しかし、ECの中だけでどれだけシェアを取っても、激しい競争にさらされます。ワインマーケット全体の規模は約1兆円といわれますが、その中でECが占める割合は数パーセントに過ぎません。

成長の天井が見えてきたとき、私は戦略を転換しました。1兆円のマーケット、すなわち業務用酒販や一般小売、スーパー、問屋といった広大な市場を取りにいく方向へ舵を切ったのです。

東京・六本木に「ワインと食の総合ビル」を開設

── 店舗の展開についても、独自の戦略をお持ちだとか。

守川 六本木にある自社ビルを中心に「ワインと食の総合ビル」を構築しました。ワインショップを単体でオープンしても、目的がある人しか訪れません。

そこで、人が集まる空間をつくるために、飲食店やベーカリー、パティスリーを融合させました。食事をしに来た方がワインを楽しみ、帰りにショップでワインを買う。あるいは、パンを買いに来た方がついでにワインショップへ立ち寄る。食を通じてワインを知り、ワインを通じて食を楽しむ。相互作用によって、ワインと食を総合的に提案する場を実現しました。

この空間づくりは、後から立ち上げた飲食事業部が大きな役割を果たしています。

── 現在はBtoBの領域にも力を入れているのでしょうか?

守川 実店舗やBtoCのECだけでなく、現在はBtoB、つまり業務用酒販の拡大に注力しています。営業部隊を育成し、飲食店や小売店へのアプローチを強化しているところです。

営業担当者の育成と売り上げは、比例して伸びる状態にあります。着実な成長を遂げていますが、さらなる拡大のためにさまざまな施策を試行しています。

── 強みとして、スタッフの多くがソムリエ資格を保有している点が挙げられます。これは採用や育成で重視しているのでしょうか?

守川 ソムリエ資格は、ワインの基礎知識だけでなく、テイスティング能力などの訓練を重ねた証です。しっかりとした知識と経験を持つスタッフが揃っていることは、お客様の信頼につながります。

ただ、私たちの本当の強みは、独自の自社輸入ワインに特化してきたことです。現在、取り扱いアイテム数は2000種類を超えています。これは日本のインポーターの中でも指折りの規模です。

── 2000種類もの在庫を抱えるのは、経営上のリスクも大きいのではないでしょうか?

守川 正直に申し上げますと、当初は流通業者としての経験が乏しく、自分の興味がある無名の生産者のワインを次々と集めてしまいました。その結果、膨大な在庫を抱え、赤字が続く苦しい時期もありました。

しかし、欠品を出さないよう補充し、在庫のバランスを整える努力を続けた結果、それが大きなメリットに転じています。気がつけば、弊社でしか取り扱っていないレアなワインが世界各国から集まっていたのです。

この希少性に価値を見出してくれるお客様が徐々に増え、ファン層が拡大しました。生産者とのつながりも非常に強く、毎月のように生産者を招いたイベントを開催しています。

単にワインを安売りするのではなく、生産者とお客様をつなぐ。こうした活動を通じて、他社とは異なる独自の立ち位置を確立できたと感じています。

何よりもブランド価値の維持向上を最優先に

── 六本木の自社ビルはキャッシュで購入したそうですが、どのような背景があったのでしょうか?

守川 自社ビルを所有できたのは、ワイン事業の成功によるものではありません。もともとのコンサルティング事業で収益を上げ、十分なキャッシュを保有していたためです。

リーマンショック後に不動産価格が下落し、金融機関の融資が厳しいタイミングを見計らって取得しました。良い条件のときに迅速に動ける体制があったことが、現在の強固な経営基盤につながっています。

── ワイン市場の現状と、今後の展望についてどのように見ていますか?

守川 日本国内ではアルコール離れが進み、市場全体が縮小傾向にあります。しかし、その中でワインマーケットだけは微増を続けています。

特に、富裕層による高級ワインへの需要は非常に堅調です。私たちは低価格帯から高価格帯まで幅広く取り扱いますが、今後は特に中高価格帯の、価値を提供できるワインに力を入れます。

── 経営判断を下す際、守川社長が大切にしていることは何ですか?

守川 長年の経営の中で、目先の利益や売り上げを追い求めて失敗した経験があります。その反省から、現在は「中長期で価値が積み上がるかどうか」を最も重視しています。

短期的な数字をつくるためにブランドを傷つけたり、社員やお客様の信頼を損なうような判断はしません。将来的なブランド力や顧客基盤、事業の再現性につながるものに積極的な投資をします。

ワインという商品は、何十年、何百年と続くシャトーや生産者の情熱の結晶です。そのブランド価値を下げないよう、一つひとつの商品を丁寧に販売することが、私たちの使命だと考えています。

── 今後の目標として、IPO(新規上場)も見据えているとか。

守川 IPOを目指す理由は二つあります。一つは認知度と信用の向上、もう一つは優秀な人材の獲得です。資金調達が目的ではありません。自己資本だけで事業を賄える体力は十分にあります。

IPOはゴールではなく、通過点です。私たちの取り扱うワインをより多くの方に知ってもらうための手段としてとらえています。急成長を追い求めるのではなく、着実に成長を積み重ねる企業でありたいです。

ワイン流通の世界でAIをどう活用しているのか?

── 伝統的なワイン業界において、AIの活用やDXを積極的に進めている点も特徴的ですね。

守川 AIやDXの取り組みは、現在、非常に強化している領域です。古くからの酒販業というアナログな業界だからこそ、テクノロジーの導入によって大きな効率化と成長が見込めると確信しています。

具体的には、Google Cloudをベースに全社のデータを統合しました。各部署に散在していたデータを一ヵ所に集約し、全社横断的な分析を可能にしています。データを探すコストをゼロにし、AIが学習・推論しやすい形式で構造化しました。

── 具体的にどのような場面でAIを活用しているのでしょうか?

守川 最も大きな成果を挙げているのは、2000種類に及ぶ商品の需要予測と在庫発注の最適化です。これまでは人の経験や判断に頼っていましたが、現在は過去の販売データをもとにAIが最適な在庫量を算出しています。

小売、業務用、EC、セール時など、さまざまなチャネルでの販売動向をリアルタイムで分析し、過剰在庫や欠品を防ぐ体制を構築。また、営業担当者の育成にもAIを活用しています。新人が熟練並みの戦力になるには、これまで多大な時間とコストがかかっていました。

現在は、営業時の音声を録音し、それをAIで解析しています。リアルタイムで最適な提案や指示が出る仕組みを構築しており、新人の早期戦力化を実現します。

── 営業先はどのようなところが多いのでしょうか?

守川 スーパーやデパートなどの小売店、飲食店に卸す業務用酒販店、そして大手飲食チェーンなど多岐にわたります。それぞれの担当者に対して、AIが蓄積したデータベースを元に最適なアプローチを行っています。

── 守川社長個人のおすすめのワインについてもうかがいたいと思います。

守川 個人的に大好きな生産者が二つあります。一つはシャンパンの生産者「ポール・ダンジャン」です。家族経営のメーカーで、自分たちの畑で栽培したブドウのみを使用してシャンパンをつくっています。

通常、大手メーカーは農家からブドウを買い取りますが、彼らは栽培から収穫、醸造まで一貫して自分たちで行う生産者です。非常に素晴らしいクオリティで、私はここのカジュアルなラインをデイリーシャンパンとして毎日楽しんでいます。

英国王室御用達としても知られていますが、日常の贅沢品として非常にコストパフォーマンスに優れたシャンパンです。

── 守川社長が親友と呼ぶ「ヴィニャ・マーティ」の生産者、パスカル・マーティ氏とのエピソードも興味深いです。

守川 パスカル・マーティ氏は、あの「オーパス・ワン」や「シャトー・ムートン・ロートシルト」で醸造長を務めた伝説的な人物です。彼がチリで立ち上げたワイナリーのワインは、驚くほどクオリティが高いのです。

特に「ぎんの雫」というワインには、特別なストーリーがあります。彼は「日本酒の酵母でワインをつくりたい」という夢を持っていました。日本酒の酵母が持つ強い発酵力と、低温で発酵する特性に着目したのです。

私が日本醸造協会との橋渡しを行い、彼はフランス人として初めて同協会の会員になりました。チリに酵母を持ち帰る際は空港で足止めを食らうなどの苦労もありましたが、試行錯誤の末に完成したのが「ぎんの雫」です。

── その名前は、有名なワイン漫画に由来するのでしょうか?

守川 はい。漫画『神の雫』の原作者である樹林伸先生が命名してくださいました。あるチャリティーイベントの後、私とパスカル、樹林先生の三人で酒を酌み交わした際、酔った勢いでお願いしたのを覚えていてくださったのです。

ラベルのデザインも樹林先生によるものです。ソーヴィニヨン・ブランという品種を日本酒酵母で発酵させたこのワインは、通常のワインとはまったく異なる、吟醸香を思わせる甘く華やかな香りが特徴となっています。

── 数百万円もするような超高級ワインも取り扱っているのでしょうか。

守川 もちろんです。ボルドーの五大シャトーや、ブルゴーニュのロマネ・コンティといった世界トップクラスのワインも扱っています。

特にボルドーに関しては、日本でも数少ない「プリムール(先物買い)」を行っています。ワインがリリースされる前、樽の中で熟成している段階で買い付けを行う手法です。こうした希少なワインを提供できることも、私たちの強みです。