この記事は2026年7月10日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「好調な不動産市場の陰で、一段と強まる市場の選別色」を一部編集し、転載したものです。


好調な不動産市場の陰で、一段と強まる市場の選別色
(画像=chachamal/stock.adobe.com)

好調な不動産市場で最大の懸念は金利上昇だ。理論上、金利上昇は不動産価格の下押し要因となる。しかし、現時点で不動産価格は下落しておらず、市場関係者の間でも大幅な価格下落を予想する声は少ない。

不動産価格の下落で思い起こされるのは、2007年以降に発生した世界金融危機である。当時、不動産市場の崩壊は融資環境の悪化から始まった。翻って現在の資金調達状況を事業体ごとに見ると、24年ごろまでは低利の長期固定金利による安定的な資金調達が主流だった。足元では、金利負担を抑えるために短期金利や変動金利にシフトし、金利変動リスクを受け入れる動きが見られる。

一方、日銀短観の貸出態度DIは不動産業でプラスを維持しており、市中でも資金調達が困難との声は聞かれない。また、事業用不動産サービス会社のCBREが26年4~5月に行った不動産ノンリコースローン事業者に対するアンケートでは、26年の融資額の見通しについて、シニアレンダーの60%、メザニンレンダーの57%が前年よりも融資額を「増加する」と回答していた。当面の融資環境では、資金調達が不動産市場の制約となる状況にはなさそうだ。

不動産売買額を確認すると、25年第2四半期(4~6月)から26年第1四半期(1~3月)の4四半期累計は、前年同期比9.7%減の8兆6,972億円となった。一方で、大型取引の割合はむしろ上昇している。100億円以上の取引は全体の60%(前年同期比4ポイント上昇)、500億円以上の取引は29%(同4ポイント上昇)を占めた(図表)。

背景には、良好な資金調達環境が維持されるなか、円安を追い風とした海外資本の流入と、運用資産規模の大きい機関投資家の存在感の高まりがあると考えられる。特に海外機関投資家は投資期間が長く、短期的な金利上昇よりもインフレヘッジや分散投資、賃料成長を重視する傾向があり、高値圏でも物件取得を継続する。もっとも、金利上昇の影響から、相対的に資本力の弱い中小の投資家との取引は成立しにくくなっている可能性がある。

金利上昇局面でも不動産価格が高値圏を維持する背景には、投資主体の大型化による市場構造の変化があるとみられる。今後、日本銀行の利上げが進めば、借入れ条件の変化や自己資本負担の増加を通じ、資本力のある投資家とそうでない投資家の間で投資余力の差がさらに広がるだろう。その結果、大型取引への集中が進む一方で、中小型案件の流動性は低下し、市場の選別色は一段と強まると考える。

好調な不動産市場の陰で、一段と強まる市場の選別色
(画像=きんざいOnline)

ニッセイ基礎研究所 准主任研究員/渡邊 布味子
週刊金融財政事情 2026年7月14日号