この記事は2026年7月24日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:インフレの上振れリスクは大きくない」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. シンカー
    1. 7月ECB理事会:年内2回の追加利上げ予想を維持
  2. インフレの上振れリスクは大きくない

シンカー

7月ECB理事会:年内2回の追加利上げ予想を維持

ECB7月理事会は、政策金利の維持が決定された。理事会後の記者会見は、通常であれば望ましいように、まったく波乱のないものだった。全体として、ラガルド総裁は、市場が織り込んでいる「年内あと2回の利上げ」という見方を損なうことはなかった。しかし、その確度を高めたわけでもなかった。エネルギー価格の変動を踏まえれば慎重姿勢が必要であり、これまで以上に、ECBが政策方針を事前に約束しない姿勢は、苛立たしいものではあるが理解できる。

CACIBは、商品価格が先物価格どおりに推移するのであれば、ECBは年内にあと2回利上げを行うとの見方を維持する。 最低準備預金(Minimum Reserves requirement)について質問があったが、ECBは今回の理事会ではこれを議論しなかった。ただし、ラガルド総裁は、最低準備預金については今後議論されることになると確認した。

記者会見では、金融政策の見通しに関する新たな情報は何も示されなかった。ラガルド総裁は、ECBは特定の金利パスを事前に約束するものではないと繰り返し述べ、9月に利上げを行う可能性について肯定も否定もしなかった。より広く言えば、「エネルギー価格の見通しは依然として非常に変動が大きいものの、現時点では6月のユーロシステム・スタッフ見通しのベースラインに近い水準にある」と強調した。CACIBもこの見方には概ね同意している。

7月初めに大幅な下方修正を行った後、当社の最新のインフレ見通しは再びECBの6月見通しと整合的なものとなっているためである。総じてみれば、CACIBは今回の記者会見を、市場の現在の織り込みを暗黙のうちに確認したものと受け止めている。すなわち、9月の利上げの可能性は非常に高く、商品価格が現在の先物価格どおりに推移すれば、12月にも追加利上げが正当化される可能性がある。また、CACIBは、ECBが年末までに最低準備預金を引き上げる可能性は依然としてかなり高いと考えている。(松本賢)

インフレの上振れリスクは大きくない

  • 企業は借入れや株式で資金を調達して事業を行う主体なので、企業の貯蓄率はマイナスであるのが正常だ。しかし、日本ではバブル崩壊後、企業が後ろ向きになり、賃金や投資などのコストと債務の削減を続けた結果、異常なプラスの企業の貯蓄率が続いてしまっている。この過剰貯蓄が、企業の支出不足として構造的な経済停滞圧力を生んでいる。コアコア消費者物価指数の動きは、構造的な経済停滞圧力を示す企業貯蓄率と同じように動いてきた。

  • 昨今は、海外の強いインフレを輸入する形で、日本の物価上昇率も上振れている。グローバルコア消費者物価指数(除く食料・エネルギー)の前年同期比は、米国を1年先行させると、海外のインフレの輸入としての日本の物価の動きが説明できる。米国では、成長率の緩やかな鈍化に合わせてインフレも減速が続いている。

  • 企業の貯蓄率はまだプラスで、構造的な経済停滞圧力はまだ残っており、日本の国内からの物価上昇圧力はまだ弱い。米国のインフレの減速は、海外のインフレの輸入がピークアウトすることを示す。日銀は、「消費者物価の基調的な上昇率が2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクがある」ことを利上げの理由としているが、マクロファンダメンタルズでは、インフレの上振れリスクは大きくないことが示される。

  • 貯蓄率が史上最低水準まで低下するなど、家計のファンダメンタルズは悪化している。需要の価格弾力性が強くなり、価格引き上げによる販売数量の減少への懸念で、企業は輸入物価上昇などの価格転嫁に徐々に慎重になってきているようだ。エネルギーなどの必需品への支払いが増えれば、他の需要が落ち、価格に下押し圧力がかかることが軽視されているようだ。

6月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+1.6%と、5月の同+1.4%から上昇幅が拡大した。地政学上のリスクによる原油価格上昇の影響が出て、エネルギーが同-0.1%と、同-2.5%から下落幅が縮小し、前年同月比の動きをすべて説明できる。政府のエネルギーコスト軽減策などの政策効果があり、コア消費者物価指数の前年同月比は5か月連続で2%に日銀の物価安定目標を下回った。コアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)は同+1.7%と、+1.8%から上昇幅が縮小した。生鮮食品を除く食料が+3.1%と、+3.5%から11か月連続で上昇幅が縮小した。貯蓄率が史上最低水準まで低下するなど、家計のファンダメンタルズは悪化している。需要の価格弾力性が強くなり、価格引き上げによる販売数量の減少への懸念で、企業は輸入物価上昇などの価格転嫁に徐々に慎重になってきているようだ。エネルギーなどの必需品への支払いが増えれば、他の需要が落ち、価格に下押し圧力がかかることが軽視されているようだ。

企業は借入れや株式で資金を調達して事業を行う主体なので、企業の貯蓄率はマイナスであるのが正常だ。しかし、日本ではバブル崩壊後、企業が後ろ向きになり、賃金や投資などのコストと債務の削減を続けた結果、異常なプラスの企業の貯蓄率が続いてしまっている。この過剰貯蓄が、企業の支出不足として構造的な経済停滞圧力を生んでいる。投資不足による潜在成長率の低下の原因でもある。高市政権は、責任ある積極財政の考え方の下、政府が一歩前に出て、官民手を携え、戦略分野への投資を進めることで、企業を異常な貯蓄超過(プラスの企業貯蓄率)から正常な投資超過(マイナスの企業貯蓄率)へ回復させ、コストカット型経済から完全に脱却し、投資成長型経済に転換させようとしている。コアコア消費者物価指数の動きは、構造的な経済停滞圧力を示す企業貯蓄率と同じように動いてきた。

しかし、昨今は、海外の強いインフレを輸入する形で、日本の物価上昇率も上振れている。グローバルコア消費者物価指数(除く食料・エネルギー)の前年同期比(6月は前年同月比+1.2%)は、米国を1年先行させると、海外のインフレの輸入としての日本の物価の動きが説明できる。米国では、成長率の緩やかな鈍化に合わせてインフレも減速が続いている。企業の貯蓄率はまだプラス(1-3月期+4.4%)で、構造的な経済停滞圧力はまだ残っており、日本の国内からの物価上昇圧力はまだ弱い。米国のインフレの減速は、海外のインフレの輸入がピークアウトすることを示す。日銀は、「消費者物価の基調的な上昇率が2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクがある」ことを利上げの理由としているが、マクロファンダメンタルズでは、そのリスクは大きくないことが示される。

図1:企業貯蓄率とコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)

企業貯蓄率とコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)
(出所:内閣府、日銀、総務省、クレディ・アグリコル証券)

図2:日米のグローバルコア消費者物価指数(除く食料・エネルギー)

日米のグローバルコア消費者物価指数(除く食料・エネルギー)
(出所:総務省、BLS、クレディ・アグリコル証券)

図3:ECB政策金利予想と市場織り込み

ECB政策金利予想と市場織り込み
(出所:Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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