この記事は2026年7月27日に配信されたメールマガジン「アンダースロー(ウィークリー):骨太の方針のマントラの大転換」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. アンダースロー(ウィークリー):骨太の方針のマントラの大転換
  2. 妥当な仮定で現在の長期金利の水準は説明でき骨太ショックは存在しない(7月22日)
  3. シンカー
    1. ECB7月理事会プレビュー:9月利上げの可能性を残すタカ派的な現状維持を予想
  4. インフレの上振れリスクは大きくない(7月24日)
  5. シンカー
    1. 7月ECB理事会:年内2回の追加利上げ予想を維持

アンダースロー(ウィークリー):骨太の方針のマントラの大転換

  • 骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)は、第三章の冒頭に財政政策の方針が凝縮され、マントラとなる。石破政権の「財政余力と財政健全化」重視の諦念から、高市政権の「投資と成長」重視の挑戦へ大転換した。「2%の物価安定目標の実現の下で、できるだけ早期に、実質で1%を上回る、名目で3%を上回る経済成長を定着させ、更に引き上げていく」とする高圧経済の方針だ。積極財政と日銀のデュアル・マンデート(強い経済成長と安定的な物価上昇の両立)への転換を示す骨太の方針となることは既に明らかであったため、骨太ショックと呼ぶことはこれまで政治をしっかりウォッチできていなかったことになる。政府予算の概算要求も、骨太の方針に基づいて戦略投資と補正から当初に移行する恒常的支出で膨らむことは既に明らかであるため、概算要求ショックと呼ぶことも同じである。

  • 高市政権の骨太の方針(2026年):「責任ある積極財政」元年〜日本の挑戦を起動する!〜
    責任ある積極財政に基づく「中長期経済財政計画」

「強い経済」の構築と「財政の持続可能性」の実現

「成長戦略」による投資拡大等によって目指す経済・財政の姿

低迷する潜在成長率を引き上げていくためには、長年続いてきた過度な緊縮志向、未来への投資不足の流れを断ち切る必要がある。民間投資の拡大による供給力の強化を、経済規模の拡大、税収基盤の強化につなげ、「強い経済」と「財政の持続可能性」を一体的に実現する。

  • 石破政権の骨太の方針(2025年):「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ 中長期的に持続可能な経済社会の実現

「経済・財政新生計画」の推進

経済再生と財政健全化の両立の重要性
金利のある世界となる中、大災害や有事に備えた財政余力を確保する観点も踏まえ、中長期の経済財政の姿を展望しつつ、経済・財政・社会保障の持続可能性を確保していく必要がある。

図:高市政権の骨太の方針の解釈

高市政権の骨太の方針の解釈
(出所:内閣府、クレディ・アグリコル証券)

以下は配信したアンダースローのまとめです

妥当な仮定で現在の長期金利の水準は説明でき骨太ショックは存在しない(7月22日)

日銀の政策金利(無担保コールレートオーバーナイト物)のマクロ・フェアバリューは、政府が重要視する需給ギャップとネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、GDP比)が示すファンダメンタルズの状態、そして米国の長期金利で算出できる。公表されている直近の1-3月期の需給ギャップ+0.5%(4QMA)とネットの資金需要+2.6%が示す弱いファンダメンタルズ、4.6%の米国の長期金利を前提とすると、日銀の政策金利のマクロ・フェアバリューは0.15%程度となる。現行の政策金利である1.00%よりかなり低い。

日銀は、「消費者物価の基調的な上昇率が2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクがある」ことを利上げの理由としているが、マクロ・ファンダメンタルズでは、そのリスクはほとんどないことが示される。政府が重視するファンダメンタルズ対比の推計では、日銀は「ビハインド・ザ・カーブ」(利上げの遅れ)ではなく、逆に「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」(拙速な利上げ)となっている。マクロ・フェアバリューとの誤差の幅は、緊縮で知られた三重野・白川総裁と同じように、標準誤差の1.25倍を超えてしまった。

コールレート(%)=-0.16 -0.13 ネットの資金需要(%GDP、1Qラグ)+ 0.31 需給ギャップ(1Qラグ)+0.11 米国債10年金利; R2=0.85

長期金利(国債10年金利)のマクロ・フェアバリューは、名目GDP(前年比、12QMA)、企業貯蓄率と財政収支を合わせたネットの資金需要(対GDP比%、マイナスが強い)、日銀の長期国債買入れ額(対GDP比%)、米国債10年金利、緩和的金融政策のコミットメントの強さを表すダミー変数(2016年4-6月期から2024年10-12月期まで1、2025年1-3月期から7-9月期まで0.75、他は0とする、プラスは緩和に前のめり)で推計できる。1-3月期の名目GDP(前年比、12QMA)は+3.5%である。

高市政権の積極財政の方針によって、ネットの資金需要0%までマクロ・ファンダメンタルズが改善すると市場が織り込んだと仮定する。そして、日銀の金融政策スタンスの変化を表すダミー変数を「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」によりマイナス0.25(マイナスは引き締めに前のめり)、また月間2兆円までの長期国債買い入れ額の減額を織り込んだと仮定する。10年金利のマクロ・フェアバリューは2.7%となり、妥当な仮定で現在の水準が説明でき、「骨太ショック」は存在しないことが示される。

長期金利推計式

国債10年金利(%)=0.48+0.30 名目GDP(%、前年比、12QMA)+0.26 米国10年金利(%)-0.15 ネットの資金需要(対GDP比%)-0.06 日銀長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比)-0.61 緩和的金融政策ダミー(2016年4-6月期から2024年10-12月期まで1、2025年1-3月期から7-9月期まで0.75、他は0) ;R2=0.93

図1:国債10年金利のマクロ・フェアバリュー

国債10年金利のマクロ・フェアバリュー
(出所:日銀、内閣府、ブルームバーグ、クレディ・アグリコル証券)

図2:コールレートのマクロ・フェアーバリュー推計誤差

コールレートのマクロ・フェアーバリュー推計誤差
(画像=出所:内閣府、日銀、ブルームバーグ、クレディ・アグリコル証券)

シンカー

ECB7月理事会プレビュー:9月利上げの可能性を残すタカ派的な現状維持を予想

今回の会合に臨むにあたり、ECBはマクロ経済見通しの公式な更新を行わない。しかし、政策理事会の各メンバーはそれぞれ独自の最新予測を持っており、結果として当社とほぼ同等の情報を有していると考えられる。したがって、7月の利上げは予想しない。仮に追加利上げが100%確実な世界であったとしても(実際にはそうではないが)、緊急利上げのマイナス面(市場へのサプライズ、不必要なボラティリティ)がプラス面(即時の引き締め効果)を上回るだろう。

ECBはデータ次第・会合ごとのアプローチという従来の非コミット的な表現を維持する可能性が高く、結局のところ他の市場参加者と同様にエネルギーコモディティ価格次第ということになる。ただし、ECBが利上げサイクルは終了していないと認識していること、そして9月利上げの可能性が残ることが予想される。ECBはタカ派的なバイアスを緩やかに示し、9月利上げに対する市場の期待を概ね追認するだろう。もっとも、現在の市場の織り込み状況を踏まえると、会合間の利上げや50bpの利上げ(いずれも正当化される状況はないと判断している)を除外する以上、市場が現状以上に織り込む余地は見出しにくい。ただし、その先の会合については、12月の期待がやや過度にハト派的だと考える。

市場は現在1.6回分の利上げ(41bp)を織り込んでいるが、9月利上げの確認によって12月の織り込みが上方修正される可能性がある。一方、12月2026年以降の追加利上げをECBが行う理由は依然として見出しにくい。12月までには、ホルムズ海峡の状況とユーロ圏経済への影響について十分な情報が得られているはずだ。もしそうでなく、ホルムズ海峡が安定していない場合、それはエネルギー価格が急騰していることを意味する。12月以降の利上げが正当化されうる要因としては、以下の2点が考えられる。

・エネルギーコモディティ価格の全体的な動向が、ターミナルレートを3.00%とすることを必要とする場合。・ホルムズ海峡の緊張が今後数週間で緩和され(例えば米中間選挙前など)、ECBが12月会合までに1回のみ利上げを行うにとどまった後、年末または来年初頭に紛争が再燃する場合。それでもなお、最も蓋然性の高いシナリオは、コモディティ価格が現在の先物水準に沿って推移するならば、2026年6月から12月にかけて四半期ごとに利上げを実施するという直線的な経路であり、これが物価安定を確保するために必要かつ十分であると考える。(松本賢)

図3:ECB預金ファシリティ金利の織り込みとCACIB予想

ECB預金ファシリティ金利の織り込みとCACIB予想
(出所:Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

インフレの上振れリスクは大きくない(7月24日)

6月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+1.6%と、5月の同+1.4%から上昇幅が拡大した。地政学上のリスクによる原油価格上昇の影響が出て、エネルギーが同-0.1%と、同-2.5%から下落幅が縮小し、前年同月比の動きをすべて説明できる。政府のエネルギーコスト軽減策などの政策効果があり、コア消費者物価指数の前年同月比は5か月連続で2%に日銀の物価安定目標を下回った。コアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)は同+1.7%と、+1.8%から上昇幅が縮小した。生鮮食品を除く食料が+3.1%と、+3.5%から11か月連続で上昇幅が縮小した。貯蓄率が史上最低水準まで低下するなど、家計のファンダメンタルズは悪化している。需要の価格弾力性が強くなり、価格引き上げによる販売数量の減少への懸念で、企業は輸入物価上昇などの価格転嫁に徐々に慎重になってきているようだ。エネルギーなどの必需品への支払いが増えれば、他の需要が落ち、価格に下押し圧力がかかることが軽視されているようだ。

企業は借入れや株式で資金を調達して事業を行う主体なので、企業の貯蓄率はマイナスであるのが正常だ。しかし、日本ではバブル崩壊後、企業が後ろ向きになり、賃金や投資などのコストと債務の削減を続けた結果、異常なプラスの企業の貯蓄率が続いてしまっている。この過剰貯蓄が、企業の支出不足として構造的な経済停滞圧力を生んでいる。投資不足による潜在成長率の低下の原因でもある。高市政権は、責任ある積極財政の考え方の下、政府が一歩前に出て、官民手を携え、戦略分野への投資を進めることで、企業を異常な貯蓄超過(プラスの企業貯蓄率)から正常な投資超過(マイナスの企業貯蓄率)へ回復させ、コストカット型経済から完全に脱却し、投資成長型経済に転換させようとしている。コアコア消費者物価指数の動きは、構造的な経済停滞圧力を示す企業貯蓄率と同じように動いてきた。

しかし、昨今は、海外の強いインフレを輸入する形で、日本の物価上昇率も上振れている。グローバルコア消費者物価指数(除く食料・エネルギー)の前年同期比(6月は前年同月比+1.2%)は、米国を1年先行させると、海外のインフレの輸入としての日本の物価の動きが説明できる。米国では、成長率の緩やかな鈍化に合わせてインフレも減速が続いている。企業の貯蓄率はまだプラス(1-3月期+4.4%)で、構造的な経済停滞圧力はまだ残っており、日本の国内からの物価上昇圧力はまだ弱い。米国のインフレの減速は、海外のインフレの輸入がピークアウトすることを示す。日銀は、「消費者物価の基調的な上昇率が2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクがある」ことを利上げの理由としているが、マクロファンダメンタルズでは、そのリスクは大きくないことが示される。

図1:企業貯蓄率とコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)

企業貯蓄率とコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)
(出所:内閣府、日銀、総務省、クレディ・アグリコル証券)

図2:日米のグローバルコア消費者物価指数(除く食料・エネルギー)

日米のグローバルコア消費者物価指数(除く食料・エネルギー)
(出所:総務省、BLS、クレディ・アグリコル証券)

シンカー

7月ECB理事会:年内2回の追加利上げ予想を維持

ECB7月理事会は、政策金利の維持が決定された。理事会後の記者会見は、通常であれば望ましいように、まったく波乱のないものだった。全体として、ラガルド総裁は、市場が織り込んでいる「年内あと2回の利上げ」という見方を損なうことはなかった。しかし、その確度を高めたわけでもなかった。エネルギー価格の変動を踏まえれば慎重姿勢が必要であり、これまで以上に、ECBが政策方針を事前に約束しない姿勢は、苛立たしいものではあるが理解できる。

CACIBは、商品価格が先物価格どおりに推移するのであれば、ECBは年内にあと2回利上げを行うとの見方を維持する。 最低準備預金(Minimum Reserves requirement)について質問があったが、ECBは今回の理事会ではこれを議論しなかった。ただし、ラガルド総裁は、最低準備預金については今後議論されることになると確認した。記者会見では、金融政策の見通しに関する新たな情報は何も示されなかった。ラガルド総裁は、ECBは特定の金利パスを事前に約束するものではないと繰り返し述べ、9月に利上げを行う可能性について肯定も否定もしなかった。

より広く言えば、「エネルギー価格の見通しは依然として非常に変動が大きいものの、現時点では6月のユーロシステム・スタッフ見通しのベースラインに近い水準にある」と強調した。CACIBもこの見方には概ね同意している。7月初めに大幅な下方修正を行った後、当社の最新のインフレ見通しは再びECBの6月見通しと整合的なものとなっているためである。総じてみれば、CACIBは今回の記者会見を、市場の現在の織り込みを暗黙のうちに確認したものと受け止めている。すなわち、9月の利上げの可能性は非常に高く、商品価格が現在の先物価格どおりに推移すれば、12月にも追加利上げが正当化される可能性がある。また、CACIBは、ECBが年末までに最低準備預金を引き上げる可能性は依然としてかなり高いと考えている。(松本賢)

図3:ECB政策金利予想と市場織り込み

ECB政策金利予想と市場織り込み
(出所:Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

日本経済見通し

日本経済見通し
日銀とCACIBのGDP、CPI見通し
(画像=注:物価見通しは2027年4月から食料品消費税ゼロ%を前提
出所:日銀、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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