この記事は2026年7月30日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:ウォーシュ議長は政権のポリシーミックスと足並みを揃える」を一部編集し、転載したものです。
ウォーシュ議長は政権のポリシーミックスと足並みを揃える」
シンカー
米国の7月のFOMCでは、政策金利の維持が決定された。投票では利上げを主張して地区連銀総裁3人が反対したものの、理事は全員が賛成した。ウォーシュ議長は、インフレ目標を大きく上回る状態は容認しないと繰り返し言及しつつ、声明文に記されているように、足元のインフレ上振れはエネルギーなど供給要因が主因であり、利上げによる需要の抑制は可能な限り回避する姿勢だとみられる。
ウォーシュ議長は、市場金利が実質と名目ともに上昇したことで、政策変更がなくとも引き締め効果が強まっていると述べた。フォワードガイダンスをなくし、記者会見も含めFOMCからの情報発信を減らし、市場への関与を避ける、政治では共和党的な考え方の、小さな中央銀行を志向する。今後も市場金利を重視し、金利に逆行してインフレが高進することがなければ、現状維持を続けるとみられる。5つ(コミュニケーション戦略、バランスシート、データ活用の在り方、生産性と雇用、インフレの枠組み)の作業部会による検証作業が進行中であることも、様子見姿勢を続ける口実となる。
市場金利の動向からみられるように、エネルギー価格の上昇、AIブームに関連する一部製品の特需などを背景としたインフレ懸念に、FRBは年内に利上げに踏み切ることが市場では織り込まれている。利上げの織り込みには、ウォーシュ議長がタカ派であり、インフレ目標を重視するとの認識も加わっているとみられる。
しかし、ウォーシュ議長はAIを含む技術革新による生産性向上はディスインフレ要因であると議長就任前から一貫して主張しており、規制緩和、減税、エネルギー生産の拡大を通じた成長とインフレ抑制を主張するサプライサイド経済学を明確に支持してきた。これらは、インフレ目標を遵守する発言とは矛盾しない。トランプ政権の経済政策の要は、防衛産業基盤や先端技術への投資拡大を通じたイノベーションと雇用の創出、そして安全保障の強化である。他国との投資の競争に勝ち、優位性を維持するために産業政策を拡大する方針であり、投資を妨げ、競争力強化に逆行する緊縮的な財政政策と過度に引き締め的な金融政策には否定的である。ウォーシュ議長の考えは政府の財政と金融政策のポリシーミックス的な方針と整合的であり、トランプ政権の意向に反してタカ派シフトしているとみるのは誤りだろう。
成長率が高いから利上げを行う、という短絡的な従来の金融政策にも一貫して批判的である。GDPに含まれる設備投資指標が大きく増加していることを、今回も前向きに評価した。また、インフレ指標には一部品目の極端な価格変動を除外する、刈り込み平均を重視すべきであることを今回も示唆した。ダラス連銀の刈り込み平均PCEデフレーターは前年比+2.4%で、長期停滞とされた2010年代を上回るものの、2000年代や1990年代の景気拡大期のピークを下回る水準である。需要主導でインフレ率が著しく加速し、現在は安定している中長期のインフレ期待が大きく上振れることがない限りは、ウォーシュ議長が利上げ姿勢に転換するハードルは高いと考える。(松本賢)
図:米国刈り込み平均PCEデフレーター
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