独立系SIerとして、売上高1兆円を超える株式会社大塚商会。同社は、数多くのIT商材を取り扱う強みを生かし、顧客の課題を総合的に解決する「オフィスまるごと」のDX支援を推進している。
しかし、AIの活用が急速に進む一方で、日本の中小企業には今もなお「紙」のアナログな情報が大量に残っているという現実がある。このギャップをどう埋め、企業を真のデジタル化へ導くのか。
大塚商会 常務執行役員 MM本部 副本部長の十倉義弘氏に、同社のマーケティング戦略と、サイオステクノロジー株式会社との協業による複合機を活用した紙のデジタル化ソリューション「Quickスキャン」の取り組みについて話を聞いた。
目次
独立系SIerとして中小企業の「オフィスまるごと」を支援
── まずは事業内容、十倉さんのご経歴や現在の役職について教えてください。
十倉氏(以下、敬称略) 株式会社大塚商会は、IT全般、DX、最近ではAIも含めたソリューションを提供する会社です。
SIerやITベンダーはエンタープライズ(大企業)向けの商売を主とする企業が多い中、当社は売上高が1兆円を超えていながら、取引しているお客様数の約8割が年商10億円未満の中小企業という少し特殊な会社です。
日本の企業数は約336万社といわれています。その99.7%を占める中小企業を元気にしないと日本は元気にならない、そこを元気にするのが大塚商会の使命だという思いで、日々仕事に取り組んでいます。
私自身は1991(平成3)年に新卒で入社し、30年以上SIの営業をやってきました。お客様の業務課題をうかがい、基幹システムや情報系のシステムを導入して解決するという仕事です。
2年ほど前に大塚裕司社長から「マーケティングをやりなさい」と言われ、現在はマーケティングやプロモーション、営業を支援するバックヤードの部隊を管轄するMM(まるごとマーケティング)本部を担当し、常務執行役員を務めています。
── 「オフィスまるごと」という考え方でDXを支援されているとのことですが、これはどのようなものなのでしょうか。
十倉 「オフィスまるごと」は、大塚社長が2018年から打ち出しているメッセージです。
当社には「たのめーる」というオフィスサプライ通信販売事業がありますが、たとえば「たのめーる」だけ、「複合機」だけ、「基幹業務パッケージ」だけと、一つの分類だけのご支援に留まっているお客様が全体の3分の2を占めているのが現状です。
お客様の社内には部署や役職ごとに様々な課題があるはずなのに、大塚商会は一つの課題しか解決できていないのではないか。そうではなく、一つの取引で信頼をいただき、次の課題もお聞きして「まるごと」解決するべきだ、という発想です。
私がマーケティング担当になる際、社長から「単体でマーケティングするのではなく、複合商材でお客様の課題を解決する仕組みを作ってほしい」とリクエストされ、「MM(まるごとマーケティング)本部」という名称がつけられました。
このMM本部の本部長は大塚社長自身が務めています。それほどマーケティングを重視しており、全社の重点テーマとして位置づけられています。
科学的な営業スタイルの実現とAI活用
── DXという言葉が広まる前から、営業活動のデータ化などに取り組んでいたそうですね。
十倉 はい。現社長が就任する前に立てた「大戦略」というものがあり、その一つに「SPR(Sales Process Re-engineering)」という仕組みがあります。これはSFAとCRM、さらに基幹業務の情報が混ざり合ったようなシステムで、2001年から導入(2003年本格稼働)しています。
このSPRにより、お客様がどんなサービスを利用しているか、サポート部門への問い合わせ内容、営業の日報、売上情報などが1画面で集約して見られるようになりました。現在ではAIを使って行き先のレコメンドやお客様が欲しているものの示唆を出すなど、バージョンアップを重ねています。昔のように情報がない中でやみくもに飛び込むのではなく、データをもとに科学的な営業を行うための基盤です。
── AIの活用について、社内で実証してから商品化するケースが多いとか。
十倉 社内でのAIの取り組みは古く、2016年頃からIBMのWatsonなどを使い始めています。様々なAIツールを検証し、どういったものに使えるか実証実験を行ってきました。
2015年に発足し、2024年に組織再編したマルチAI研究センターでは、新しいツールの検証や、社内のリクエストに応じた推論モデルの構築などを行っています。Microsoft社のCopilotも全社員に導入しており、セキュリティとガバナンスを担保しながら柔軟にエージェントを作る社内コンテストなども実施しました。
当社の強みは、進化を続けるAI技術を自社で実践しながら知見を蓄積し、お客様一社一社の課題や業務に合わせて、導入から活用定着まで支援できることです。
ただし、AIの活用には注意も必要です。高性能なツールほど従量課金が重くなりがちで、中小企業がそのまま使うと「AIを導入したら人を雇うより高くつく」という事態にもなりかねません。それでは本末転倒です。
だからこそ、そうならない使い方や仕組みを、私たち自身がメーカーと一緒に整えたうえでお客様に届けることが重要だと考えています。率直に言えば、日本は生成AIやAIエージェントの活用でまだ大きく遅れています。ここを何とか改善し、より多くのお客様がAIを使いこなせる状態にしていきたいと考えています。
たとえば、当社グループのDX統合パッケージで、スマホで読み込んだ領収書をAI-OCRでデータ化し、会計システムに流して経費精算を行うといった仕組みを自社で実証し、それをお客様に展開しています。社内で活用して成功事例や失敗事例、セキュリティ的な課題などを蓄積し、その経験値を営業がお客様に提供するという流れです。
AI活用を阻む「紙」の壁と「Quickスキャン」の役割
──中小企業がDXを進める上で、どのようなハードルに直面しやすいのでしょうか。
十倉 AIは構造化されたデータを持って学習するものですが、お客様の現場にはまだまだアナログな「紙」の情報、つまり非構造化データが大量に残っています。
当社が出荷する複合機の多くにFAXユニットが付いていることからも、企業間取引においてFAX(紙)でのやり取りがあるのが実態です。
たとえば小規模な飲食店では、店長が夜に厨房の在庫を確認し、「玉ねぎを何個」といった発注書を手書きして、深夜のうちに本部へFAXで送るといった業務が今も数多く残っています。大手のファミリーレストランチェーンならデジタル化されていても、数店舗規模の本部と店舗の間ではこれが実態です。建設業や不動産業でも同様に、紙のやり取りが根強く残っています。
こうした紙がなくならない背景には、現場で入力する仕組みが整っていないことや、その意義を理解できていないことも大きく影響しています。「タブレットで入力していただければ、そのままデータになります」と提案しても、なかなか定着しないのが難しいところです。
「紙」のデジタル化が進まない今の状況は、AI時代において大きな足かせになります。構造化されていないデータはAIがうまく読めません。AIツールを単に勧めるだけでなく、それが使えるようなデータの整備を一緒に行っていくことが、これからのSIerの重要な役割だと深く感じています。
── 紙からの脱却を進めるためのソリューションとして、サイオステクノロジー社と協業で提供している「Quickスキャン」について教えてください。
十倉 「Quickスキャン」は、大塚商会が多数取り扱っているリコー製の複合機にインストールして使用するソフトウェアです。複合機に入ってくるFAXやスキャンした図面などの紙の情報を、AIを使ったOCRでデジタル化します。
さらに、そのデータを当社グループのDX統合パッケージや他社製の会計ソフト(freeeやOBCなど)、kintoneなどの様々なパッケージアプリケーションやSaaSサービスと連携させることができます。非構造化データである紙の情報をデータ化し、体裁を整えてしかるべきソフトに流し込む役割を担っています。
サイオステクノロジー社とのパートナーシップとカスタマーサクセスの重要性
── その取り組みは、どのような経緯で始まったのでしょうか。
(サイオステクノロジー社担当者) 当社としては、もともと大塚商会様がLinuxやJavaといった新しい領域を進める際の支援として関わらせていただいたのがきっかけです。Javaのビジネスの延長線上に現在のQuickスキャンがあり、複合機の中で動くアプリケーションの開発という専門的な知識を評価して、お声がけいただいたという経緯です。
十倉 昔から長いお付き合いをさせていただいており、定期的な定例会を行っています。私たちが「今こういうものを欲している」といったリクエストを直接お伝えできる、自社の開発部隊の一つに近いようなパートナーとしてとらえています。
大塚商会が日本全国で複合機のご支援をしているお客様は約10万社にのぼります。多くの中小企業に残っている紙の業務プロセスを、複合機とQuickスキャンを連携させることでデータ化・構造化し、AIを活用できる土壌を作りたいと考えています。
── AIやDXの波が押し寄せる一方で、「何から手をつけていいか分からない」と悩む中小企業の担当者も多いと思います。そうした担当者に対して、大塚商会としてどのような価値を届けますか。
十倉 現在の中小企業の課題感は、人手不足やITリテラシーにあると思います。また、ツールを導入しても使われなければ意味がありません。大塚商会では、MM本部内にカスタマーサクセス専門のグループを立ち上げています。
Quickスキャンについても、サイオステクノロジー様と一緒にカスタマーサクセスチームが協力し、お客様に活用のアプローチをかけていく予定です。お客様が気づかないような活用方法を提案し、価値を感じていただけるような支援を継続的に行っていきたいと考えています。何から始めていいか分からないというお客様に寄り添い、サポートするのが大塚商会の使命です。