この記事は2026年8月7日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:日本成長戦略会議で勝つための算段はしてあります」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. 日本成長戦略会議で勝つための算段はしてあります
    1. 円安・ドル高の基調そのものを転換するには日本側の政策対応が欠かせないとの訴えについてはどうご覧になっていますか?
    2. 拙速な利上げは将来の歯止めのきかない円安につながるリスクは?
    3. 「骨太の方針」から「財政健全化」の文言がなくなったことについてはどうご覧になっていますか?
    4. 予算の要求上限を設けないことについては?
    5. 消費減税の財源確保は大丈夫なのでしょうか?

日本成長戦略会議で勝つための算段はしてあります

  • 円安・ドル高の基調そのものを転換するには日本側の政策対応が欠かせないとの訴えについてはどうご覧になっていますか?
  • 拙速な利上げは将来の歯止めのきかない円安につながるリスクは?
  • 「骨太の方針」から「財政健全化」の文言がなくなったことについてはどうご覧になっていますか?
  • 予算の要求上限を設けないことについては?
  • 消費減税の財源確保は大丈夫なのでしょうか?

    以下は会田がコメンテーターとして出演している文化放送の「おはよう寺ちゃん」の内容の一部をまとめ、加筆・修正したものです。

円安・ドル高の基調そのものを転換するには日本側の政策対応が欠かせないとの訴えについてはどうご覧になっていますか?

問(寺島):日銀の利上げ路線に、アメリカから追い風が吹いています。日米が協調して円安を食い止めるための為替介入に動いた中、ベッセント財務長官は日銀に利上げを求める考えを示唆しました。アメリカ側で協調介入の旗振り役を務めるベッセント氏は、「介入によって市場にシグナルを送ることはできても、相場の流れを変えるのは政策だ」と訴えました。日銀の植田総裁の名前を挙げ、「彼とは15年以上の付き合いがあるが、必要なことを実行すると信じている」と述べ、改めて利上げを求める考えを示唆しました。為替介入は相場の変動を抑えるための時間は稼げるものの、円安・ドル高の基調そのものを転換するには日本側の政策対応が欠かせないとの訴えについてはどうご覧になっていますか?

答(会田):米国の国債10年金利は、年初までの4%程度から、現在は4%台の後半まで上昇してきました。金利の上昇は、政府の財政政策の制約となります。米国では、これまでかなり低く安定していた日本の長期金利が上昇し、円安も進行していることが、米国の長期金利の上昇にも影響を及ぼしているのではないかとの懸念があるようです。しかし、米国の長期金利が上昇しているのは、FRBの利上げ観測が出てきたことと、GDP比7%程度の大幅な財政赤字が示す財政支出の拡大が原因だと考えられます。円安は、官民連携の戦略投資が既に強く拡大している米国と比較し、2027年度の予算から始まる日本は出遅れてしまい、日本の投資が弱いことが原因です。しかし、過度な円安は、日本の国民の生活コストを上昇させ、グローバル金融市場を不安定にするリスクがあるため、協調介入の動きをみせたのだと考えられます。日銀が拙速に利上げをすれば、日本の長期金利は更に上がるでしょうし、投資が弱くなれば、円安も更に進行してしまいます。日本は、官民連携の戦略投資を強く拡大する政策の推進が必要で、投資の拡大に伴って緩やかに日銀が利上げをしていくのが正解です。日銀の利上げだけで解決する単純な問題ではなく、拙速な利上げは問題を更に複雑にしてしまいます。

拙速な利上げは将来の歯止めのきかない円安につながるリスクは?

問(寺島):円安を是正するための日米の協調介入を受け、日銀も政策の足並みをそろえさせられるとの見方から早期利上げ観測が台頭しています。これまで10月利上げがメインシナリオでしたが、一段とペースが速まるとの見方が広がっています。拙速な利上げについてはどうみていますか?

答(会田):日銀が拙速に利上げをすれば、日本の長期金利は更に上がるでしょうし、投資が弱くなれば、円安も更に進行してしまいます。日本は、官民連携の戦略投資を強く拡大する政策の推進が必要で、投資の拡大に伴って緩やかに日銀が利上げをしていくのが正解です。日銀の利上げだけで解決する単純な問題ではなく、拙速な利上げは問題を更に複雑にしてしまいます。投資の拡大が強くなって初めて、円高に転じることになります。投資サイクルが上向いている間の円安は、将来の供給能力が拡大するわけですから、歯止めがきかなくなる懸念はありません。投資の拡大が弱い中での利上げは、単純に景気悪化という代償を払うリスクとなり、国民を疲弊させます。投資サイクルが腰折れ、将来の供給能力の棄損が懸念される中での円安は、止めることが困難となります。だからこそ、政府は投資の拡大を重視し、日銀にデュアル・マンデートを課しています。デュアル・マンデートは、ECB型からFRB型に変える試みで、日銀の金融政策の手段の自主性を棄損するものではありません。政府と日銀の連携は正常な経済政策の姿である。一方、ベッセント財務長官が日銀に直接的に利上げをもとめたのは事実ではないとみられますが、内政干渉のような外圧による金融政策の変更は自主性を棄損し、外圧に脆弱な中央銀行を持つ国の通貨は強くなりません。

「骨太の方針」から「財政健全化」の文言がなくなったことについてはどうご覧になっていますか?

問(寺島):高市総理は「責任ある積極財政」を掲げているわけですが、その政策姿勢を強く反映した「経済財政運営と改革の基本方針」、「骨太の方針」をめぐっては、その原案が公表されると円安・債券安が進みました。経済成長を重視する政府が、インフレを抑制するため利上げを進める日銀をけん制しているとの見方が広がったためです。結局、政府は修正を迫られ、日銀の独立性に関する文言を追加しました。一方、前の年まで盛り込まれていた「財政健全化」の文言がなくなり、「財政の持続可能性」に置き換えられたことも市場は懸念しています。高市政権が掲げる「積極財政」方針や消費税減税に伴う財政悪化懸念が、構造的な円安を招いているとの指摘もあるわけですが、「骨太の方針」から「財政健全化」の文言がなくなったことについてはどうご覧になっていますか?

答(会田):骨太の方針では、経済政策の思想が「コペルニクス的転回」を遂げました。日本経済の停滞は、これまで少子高齢化などの「宿命」とされてきましたが、これを「国内投資の不足」という「意志の問題」と再定義しました。「意志の問題」なら、国民の力で変えられます。国内投資の拡大によって、日本経済を再生する「意志」と計画を示したのが日本成長戦略と、それが織り込まれた骨太の方針です。当然ながら、財政政策の思想も、「宿命」の下の節約による財政余地の確保という財政健全化の緊縮政策から、投資と成長による財政の持続可能性の確保という責任ある積極財政に転じたことになります。日本成長戦略会議で勝つための算段はしてあるので、企業には安心して投資の挑戦をしてほしいということです。節約ではなく、官民連携の戦略投資の拡大がもたらす成長が、財政を健全化する力になります。

予算の要求上限を設けないことについては?

問(寺島):高市政権は「責任ある積極財政」で経済成長を実現する方策として、官民投資の強力な推進も「骨太の方針」に盛り込んでいます。「強く豊かな日本」投資枠を創設して、「シーリング」と呼ばれる予算の要求上限を設けないこととしました。しかし、その財源はまだ明確化されていません。「強く豊かな日本」投資枠の予算は青天井になるのではないかと懸念されていますが、これは大丈夫なのでしょうか?

答(会田):財政政策の目標は、単年度のプライマリーバランスの黒字化から、債務残高GDP比の安定化に改革されました。将来の成長と所得を生む投資でさえも、税収の範囲内で行う制約となるプライマリーバランスの黒字化目標は、日本の投資不足の元凶だったからです。政府が投資を国債でファイナンスしても、将来の成長によってGDPが十分に増加すれば、債務残高GDP比は安定します。よって、将来の十分な成長をもたらす投資は、国債を発行してでも、上限なく実施した方が、国民の所得の増加と、財政の健全化にもつながることになります。日本成長戦略の17の戦略分野の62の主要な製品・技術には、投資によって将来の成長をもたらす勝ち筋がしっかり点検されています。これらの投資のポートフォリオとして運用し、日本成長戦略会議で点検と見直しを継続することで、将来の十分な成長がもたらされるようにします。

消費減税の財源確保は大丈夫なのでしょうか?

問(寺島):一方、政府は、飲食料品への消費税率を引き下げる基本方針を閣議決定しました。来年4月から2年限定で、現行の8%から1%にします。来年6月以降は、残る1%分の税収相当額を中低所得者向けの現金給付に回し、消費税率を「実質ゼロ」とします。1989年4月の導入以来、消費税を減税するのは初めてとなる

※今回の減税によって年およそ5兆円の穴が開くことになりますが、高市総理は代替財源について「赤字国債に頼らず確保する」と明言しています。しかし、閣議決定の時点で具体策は示していません。これがさらなる円安を招くとの声もある中、財源確保は大丈夫なのでしょうか?

答(会田):投資が実質賃金の上昇につながり、家計のファンダメンタルズが回復するまでには時間がかかります。その間は、財政政策で家計を支える必要があります。内需が腰折れてしまえば、国内で収益を上げられない企業は投資を控えてしまうからです。よって、2027年度と2028年度は、食料品の消費税率を引き下げ、家計を支えるのは合理的です。それ以降は、所得連動型の給付金の導入と、実質賃金の上昇による好循環が動き出すことになります。2027年度の税収と税外収入の見込みは98.8兆円となり、2026年度の当初予算の92.7兆円から、6.1兆円も増える。更に、当初予算で財務省が歳入を過小に見積もる癖によって、決算まで歳入が8.8兆円程度(2024年度と2025年度の平均)も上振れることが常態化している。2027年度は、合計で14.8兆円の財源が生まれることになる。消費税の食料品の税率が1%まで引き下げられ、税収が5兆円弱下振れても、国債に頼らずできることが明らかとなっている。

図1:消費税の減税の財源

消費税の減税の財源
(画像=出所:内閣府、日銀、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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