この記事は2026年8月10日に配信されたメールマガジン「アンダースロー(ウィークリー):日銀の金融政策が長期金利を1.3%程度押し上げ」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. シンカー
  2. 日銀の金融政策が長期金利を1.3%程度押し上げ
  3. 拙速な利上げは将来の歯止めのきかない円安につながるリスクに(8月5日)
  4. 日本成長戦略会議で勝つための算段はしてあります(8月7日)
    1. 円安・ドル高の基調そのものを転換するには日本側の政策対応が欠かせないとの訴えについてはどうご覧になっていますか?
    2. 拙速な利上げは将来の歯止めのきかない円安につながるリスクは?
    3. 「骨太の方針」から「財政健全化」の文言がなくなったことについてはどうご覧になっていますか?
    4. 予算の要求上限を設けないことについては?
    5. 消費減税の財源確保は大丈夫なのでしょうか?

シンカー

米国の7月雇用統計は、雇用者数が前月比-2.3万人と、5カ月ぶりのマイナスとなった。5月、6月分も合わせて10.3万人下方修正され、過去3カ月間の雇用者数の伸びは+2万人にとどまった。企業の雇用需要が引き続き低調であることを示している。雇用需要の鈍化は求人統計とも整合的であり、賃金にも引き続き抑制圧力がかかることを示唆している。

コストプッシュ要因の強いインフレが続く中、直近4-6月期の個人所得の伸びからPCEデフレーターの伸びを差し引いた実質所得の伸びは前年比-0.3%と、インフレが高進した2022年以来のマイナスである。概ね連動する消費の伸びも、大規模な財政サポートがない限り、緩やかな伸びにとどまる可能性が高い。住宅価格の伸びも、高金利環境の長期化を背景に、インフレ率をも下回る低い伸びが続いており、保有資産に占める住宅の割合が高い中間層以下では、大きな資産効果も見込みにくい。雇用需要が弱い一方、失業率は4.1%と、前月の4.2%から低下した。2025年11月の4.5%から、低下基調が続いているが、要因は職探しを行わない非労働力人口の増加(労働参加率低下)による、労働供給の減少にある。

労働参加率は、特に55歳以上の年齢層の低下が顕著であり、高齢層の労働市場からの退出が失業率低下に影響している可能性が高い。労働供給の減少は、足元の景気サイクルよりも、中長期的には潜在成長率の押し下げ要因として一般的には捉えられる。FRBの金融政策にとっては、様子見姿勢を続けるための材料が増えたことになる。失業率が低下したとはいえ、その背景には労働供給の減少という供給要因が強く、雇用者数がマイナスとなるほど雇用需要が鈍いことを踏まえれば、インフレ圧力の高まりを理由に利上げを急ぐ必要性は乏しい。インフレ指標については、9月30日に予定されているPCEデフレーターの一部サービス品目の価格算出方法の刷新により、公表値が下方改定される可能性が指摘されている。

ウォーシュ議長は、強い経済成長率が示されても、設備投資の増加が続いているのであれば、それが将来のイノベーションや生産性向上を通じてディスインフレ圧力として働くとの見方を重視している。そして、設備投資や技術革新の進展は、必ずしも足元の経済指標だけで捉えられるものではないとも指摘している。企業経営者の声や、身の回りで実感する利便性の向上といったアネクドータルで定性的な情報が、経済指標などのハードデータに先行する傾向があるとも、過去に述べている。1990年代のIT革命時にも、当時のグリーンスパンFRB議長がこうした定性面を重視していたというのが、ウォーシュ議長の見解であり、金融引き締めを急ぐことには慎重姿勢だとみるべき要因の一つである。(松本賢)

日銀の金融政策が長期金利を1.3%程度押し上げ

  • 長期金利(国債10年金利)のマクロ・フェアバリューは、名目GDP(前年比、12QMA)、企業貯蓄率と財政収支を合わせたネットの資金需要(対GDP比%、マイナスが強い)、日銀の長期国債買入れ額(対GDP比%)、米国債10年金利、緩和的金融政策のコミットメントの強さを表すダミー変数(2016年4-6月期から2024年10-12月期まで1、2025年1-3月期から7-9月期まで0.75、他は0とする、プラスは緩和に前のめり)で推計できる。

  • 日銀の金融政策は、「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」のデュアル・マンデートのうち、「強い経済成長」を軽視した「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」となっている。安定的に名目GDPが3%程度の成長を続け、ネットの資金需要が0%程度まで強まることを前提に置きつつ、金融政策スタンスの変化を表すダミー変数を、2026年4-6月期からマイナス0.25(マイナスは引き締めに前のめり)とすると、現状の長期金利水準が概ね説明可能である。

  • マイナス金利を解除する前の2023年10-12月期から、国債10年金利は200bp程度上昇しているが、フェアバリューの推計式を用いて、足元までの金利上昇の要因を分解すると、市場の中立金利に対する目線が引き上がりつつ、日銀が利上げに前のめりな「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」となったことが、10年金利を75bp程度押し上げたことが示唆される。このうち、中立的な金融政策スタンスといえる、ダミー変数0から、「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」であるマイナス0.25による押し上げ効果は、15bp程度である。また、2027年4月からの毎月2兆円程度までの国債買い入れ減額を市場が織り込んだことを踏まえると、マイナス金利解除前の時点から、長期金利を60bp程度押し上げたことが示される。合計すると、市場の中立金利見通しの上昇と日銀による金融政策要因が、マイナス金利解除以降に国債10年金利を130bp程度押し上げたといえる。残りの上昇要因は経済成長期待や海外金利の上昇の影響が強く、長期金利の上昇は、財政不安などリスクプレミアムの上昇による寄与ではなく、日銀の金融政策要因が極めて大きいことが分かる。

国債10年金利(%)=0.48+0.30 名目GDP(%、前年比、12QMA)+0.26 米国10年金利(%)-0.15 ネットの資金需要(対GDP比%)-0.06 日銀長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比)-0.61 緩和的金融政策ダミー(2016年4-6月期から2024年10-12月期まで1、2025年1-3月期から7-9月期まで0.75、他は0) ;R2=0.93

図1:米国実質所得と実質消費

米国実質所得と実質消費
(注:住宅価格の実質値はケースシラー住宅価格指数の伸び率とPCEデフレーターを使用
出所:BEA、S&P Global、NBER、クレディ・アグリコル証券)

以下は配信したアンダースローのまとめです

拙速な利上げは将来の歯止めのきかない円安につながるリスクに(8月5日)

サナエノミクスの主軸は、官民連携の戦略投資の拡大です。バラマキではありません。投資の拡大が、供給能力の回復としての国力の回復となり、労働生産性の上昇よる実質賃金の強い上昇として、景気回復の果実が国民に回ります。しかし、投資の拡大から国民に果実が回るまでには、時間がかかります。その間は、積極財政によって、国民の生活を支える必要があります。2026年度は、所得税の減税、エネルギーコストの軽減策などで支え、2027年度と2028年度は消費税減税で支えることで、3年間の支援パッケージとなります。4年目からは、投資拡大の果実がしっかり実り、財政支援がなくても家計に果実が回ることを目指します。物価上昇の国民負担を軽減するには、実質賃金を強く上昇させる必要があります。そのためには、投資の拡大が必要です。投資の拡大なくして、物価上昇を上回る持続的な賃金上昇はありません。

高市政権は、日銀の利上げ自体については、反対していません。サナエノミクスの主軸は、官民連携の戦略投資の拡大です。投資の拡大の動きを含む、景気の状態をしっかり確認しながら、慎重に利上げをしてもらいたいということです。円安は、これまで投資を怠り、供給能力が棄損してきたことが原因です。円安を円高に変えるには、投資の拡大が必要です。物価高の負担を克服する実質賃金の強い上昇のためにも、投資の拡大が必要です。そこで政府は、投資の拡大を確かなものとするため、日銀に対して、「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の両立という二つの責務を課しました。デュアル・マンデートと言われます。政府との連携を重視する植田総裁は、このバランスを見ながら、利上げの是非を決めることになります。

政府は骨太の方針でも、日銀に「「強い経済」の実現に向けては、「安定的な物価上昇」の実現に資する適切な金融政策運営が行われることが非常に重要である」とし、「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」のデュアル・マンデートを課しました。「強い経済」の目標を、「2%の物価安定目標の実現の下で、できるだけ早期に、実質で1%を上回る、名目で3%を上回る経済成長を定着させ、更に引き上げていく」とすることによって、高圧経済の方針の下の日銀のデュアル・マンデートをより明確化しました。「安定的な物価上昇」が「持続的な経済成長」につながるという、「安定的な物価上昇」の達成に前のめりのシングル・マンデートのような日銀の説明は、もはや政府の方針と整合的ではなくなりました。

日銀内で、「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の両立という二つの責務のデュアル・マンデートが、まだ浸透していないとみられます。「安定的な物価上昇」の一つの責務の下での古い考え方がまだ残っています。拙速な利上げで、投資サイクルが腰折れれば、供給能力の更なる棄損への懸念で、将来の円安と物価上昇はより強くなるリスクがあります。単純に、利上げを急げば、円安と物価上昇の問題が解決するわけではありません。現在、財政赤字を出しても官民連携の戦略投資の拡大を進めている欧米と比較し、2027年度の政府予算から戦略投資を拡大する日本は出遅れていることで、円安が進行しています。投資の拡大が強くなって初めて、円高に転じることになります。

投資サイクルが上向いている間の円安は、将来の供給能力が拡大するわけですから、歯止めがきかなくなる懸念はありません。投資の拡大が弱い中での利上げは、単純に景気悪化という代償を払うリスクとなり、国民を疲弊させます。投資サイクルが腰折れ、将来の供給能力の棄損が懸念される中での円安は、止めることが困難となります。だからこそ、政府は投資の拡大を重視し、日銀にデュアル・マンデートを課しています。デュアル・マンデートの下で、常識的に考えれば、中東情勢が不透明な中では、利上げは控えることになります。しかし、原油価格の上昇は更なる物価上昇につながりますので、「安定的な物価上昇」の一つの責務の下での古い考え方で、拙速な利上げをしてしまうリスクも高まっています。デュアル・マンデートは、ECB型からFRB型に変える試みで、日銀の金融政策の手段の自主性を棄損するものではありません。政府と日銀の連携は正常な経済政策の姿である一方、外圧による金融政策の変更は自主性を棄損し、そのような外圧に脆弱な中央銀行を持つ国の通貨は強くなりません。

政府は、昨年の経済対策で、「需給ギャップは0%近傍だが、景気は十分に強くない」との認識が示されました。「企業と政府の支出する力を十分に強くし、家計に所得が回る力を強くする」ことを目指すとされました。官民連携の戦略投資の拡大によって、企業と政府を合わせて、貯蓄超過から十分な投資超過に回復させ、家計の実質所得の増加で、経済成長の果実を国民に届けることを目指しています。需給ギャップ0%、企業貯蓄率と財政収支を合わせたネットの資金需要0%を基準とする、過度な緊縮志向を積極財政で断ち切ろうとしています。企業と政府の支出する力であるネットの資金需要が-5%(GDP比)、需給ギャップが2%の高圧経済、名目GDP成長率3%台が、目指すべきマクロの絵姿となっています。

政府が重要視する需給ギャップとネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、GDP比)が示すファンダメンタルズの状態、そして米国の長期金利で、日銀の政策金利(無担保コールレートオーバーナイト物)を推計し、マクロ・フェアバリューを算出します。公表されている直近の1-3月期の需給ギャップ+0.5%(4QMA)と1-3月期のネットの資金需要+2.6%が示す弱いファンダメンタルズ、4.5%の米国の長期金利を前提とすると、日銀の政策金利のマクロ・フェアバリューは0.2%程度となります。現行の政策金利である1.0%よりかなり低く、誤差の幅は1.25標準誤差を超えます。

政府が重視するファンダメンタルズ対比の推計では、日銀は「ビハインド・ザ・カーブ」(利上げの遅れ)ではなく、逆に「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」(拙速な利上げ)となっていることを示します。マクロ・フェアバリューとの誤差の幅は、1.25標準誤差を超え、緊縮で知られた三重野・白川総裁以来のことです。海外景気の急減速が加わるなどして、2027年に景気が後退するなどして、投資サイクルが腰折れた場合、政府との連携とデュアル・マンデートを軽視した日銀には大きな責任を生じるとみられます。

コールレート(%)=-0.16 -0.13 ネットの資金需要(%GDP、1Qラグ)+ 0.31 需給ギャップ(1Qラグ)+0.12 米国債10年金利; R2=0.85

図:日銀政策金利のマクロ・フェアーバリュー推計誤差

日銀政策金利のマクロ・フェアーバリュー推計誤差
(出所:日銀、内閣府、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

日本成長戦略会議で勝つための算段はしてあります(8月7日)

以下は会田がコメンテーターとして出演している文化放送の「おはよう寺ちゃん」の内容の一部をまとめ、加筆・修正したものです。

円安・ドル高の基調そのものを転換するには日本側の政策対応が欠かせないとの訴えについてはどうご覧になっていますか?

問(寺島):日銀の利上げ路線に、アメリカから追い風が吹いています。日米が協調して円安を食い止めるための為替介入に動いた中、ベッセント財務長官は日銀に利上げを求める考えを示唆しました。アメリカ側で協調介入の旗振り役を務めるベッセント氏は、「介入によって市場にシグナルを送ることはできても、相場の流れを変えるのは政策だ」と訴えました。日銀の植田総裁の名前を挙げ、「彼とは15年以上の付き合いがあるが、必要なことを実行すると信じている」と述べ、改めて利上げを求める考えを示唆しました。為替介入は相場の変動を抑えるための時間は稼げるものの、円安・ドル高の基調そのものを転換するには日本側の政策対応が欠かせないとの訴えについてはどうご覧になっていますか?

答(会田):米国の国債10年金利は、年初までの4%程度から、現在は4%台の後半まで上昇してきました。金利の上昇は、政府の財政政策の制約となります。米国では、これまでかなり低く安定していた日本の長期金利が上昇し、円安も進行していることが、米国の長期金利の上昇にも影響を及ぼしているのではないかとの懸念があるようです。しかし、米国の長期金利が上昇しているのは、FRBの利上げ観測が出てきたことと、GDP比7%程度の大幅な財政赤字が示す財政支出の拡大が原因だと考えられます。円安は、官民連携の戦略投資が既に強く拡大している米国と比較し、2027年度の予算から始まる日本は出遅れてしまい、日本の投資が弱いことが原因です。しかし、過度な円安は、日本の国民の生活コストを上昇させ、グローバル金融市場を不安定にするリスクがあるため、協調介入の動きをみせたのだと考えられます。日銀が拙速に利上げをすれば、日本の長期金利は更に上がるでしょうし、投資が弱くなれば、円安も更に進行してしまいます。日本は、官民連携の戦略投資を強く拡大する政策の推進が必要で、投資の拡大に伴って緩やかに日銀が利上げをしていくのが正解です。日銀の利上げだけで解決する単純な問題ではなく、拙速な利上げは問題を更に複雑にしてしまいます。

拙速な利上げは将来の歯止めのきかない円安につながるリスクは?

問(寺島):円安を是正するための日米の協調介入を受け、日銀も政策の足並みをそろえさせられるとの見方から早期利上げ観測が台頭しています。これまで10月利上げがメインシナリオでしたが、一段とペースが速まるとの見方が広がっています。拙速な利上げについてはどうみていますか?

答(会田):日銀が拙速に利上げをすれば、日本の長期金利は更に上がるでしょうし、投資が弱くなれば、円安も更に進行してしまいます。日本は、官民連携の戦略投資を強く拡大する政策の推進が必要で、投資の拡大に伴って緩やかに日銀が利上げをしていくのが正解です。日銀の利上げだけで解決する単純な問題ではなく、拙速な利上げは問題を更に複雑にしてしまいます。投資の拡大が強くなって初めて、円高に転じることになります。投資サイクルが上向いている間の円安は、将来の供給能力が拡大するわけですから、歯止めがきかなくなる懸念はありません。投資の拡大が弱い中での利上げは、単純に景気悪化という代償を払うリスクとなり、国民を疲弊させます。投資サイクルが腰折れ、将来の供給能力の棄損が懸念される中での円安は、止めることが困難となります。だからこそ、政府は投資の拡大を重視し、日銀にデュアル・マンデートを課しています。デュアル・マンデートは、ECB型からFRB型に変える試みで、日銀の金融政策の手段の自主性を棄損するものではありません。政府と日銀の連携は正常な経済政策の姿である。一方、ベッセント財務長官が日銀に直接的に利上げをもとめたのは事実ではないとみられますが、内政干渉のような外圧による金融政策の変更は自主性を棄損し、外圧に脆弱な中央銀行を持つ国の通貨は強くなりません。

「骨太の方針」から「財政健全化」の文言がなくなったことについてはどうご覧になっていますか?

問(寺島):高市総理は「責任ある積極財政」を掲げているわけですが、その政策姿勢を強く反映した「経済財政運営と改革の基本方針」、「骨太の方針」をめぐっては、その原案が公表されると円安・債券安が進みました。経済成長を重視する政府が、インフレを抑制するため利上げを進める日銀をけん制しているとの見方が広がったためです。結局、政府は修正を迫られ、日銀の独立性に関する文言を追加しました。一方、前の年まで盛り込まれていた「財政健全化」の文言がなくなり、「財政の持続可能性」に置き換えられたことも市場は懸念しています。高市政権が掲げる「積極財政」方針や消費税減税に伴う財政悪化懸念が、構造的な円安を招いているとの指摘もあるわけですが、「骨太の方針」から「財政健全化」の文言がなくなったことについてはどうご覧になっていますか?

答(会田):骨太の方針では、経済政策の思想が「コペルニクス的転回」を遂げました。日本経済の停滞は、これまで少子高齢化などの「宿命」とされてきましたが、これを「国内投資の不足」という「意志の問題」と再定義しました。「意志の問題」なら、国民の力で変えられます。国内投資の拡大によって、日本経済を再生する「意志」と計画を示したのが日本成長戦略と、それが織り込まれた骨太の方針です。当然ながら、財政政策の思想も、「宿命」の下の節約による財政余地の確保という財政健全化の緊縮政策から、投資と成長による財政の持続可能性の確保という責任ある積極財政に転じたことになります。日本成長戦略会議で勝つための算段はしてあるので、企業には安心して投資の挑戦をしてほしいということです。節約ではなく、官民連携の戦略投資の拡大がもたらす成長が、財政を健全化する力になります。

予算の要求上限を設けないことについては?

問(寺島):高市政権は「責任ある積極財政」で経済成長を実現する方策として、官民投資の強力な推進も「骨太の方針」に盛り込んでいます。「強く豊かな日本」投資枠を創設して、「シーリング」と呼ばれる予算の要求上限を設けないこととしました。しかし、その財源はまだ明確化されていません。「強く豊かな日本」投資枠の予算は青天井になるのではないかと懸念されていますが、これは大丈夫なのでしょうか?

答(会田):財政政策の目標は、単年度のプライマリーバランスの黒字化から、債務残高GDP比の安定化に改革されました。将来の成長と所得を生む投資でさえも、税収の範囲内で行う制約となるプライマリーバランスの黒字化目標は、日本の投資不足の元凶だったからです。政府が投資を国債でファイナンスしても、将来の成長によってGDPが十分に増加すれば、債務残高GDP比は安定します。よって、将来の十分な成長をもたらす投資は、国債を発行してでも、上限なく実施した方が、国民の所得の増加と、財政の健全化にもつながることになります。日本成長戦略の17の戦略分野の62の主要な製品・技術には、投資によって将来の成長をもたらす勝ち筋がしっかり点検されています。これらの投資のポートフォリオとして運用し、日本成長戦略会議で点検と見直しを継続することで、将来の十分な成長がもたらされるようにします。

消費減税の財源確保は大丈夫なのでしょうか?

問(寺島):一方、政府は、飲食料品への消費税率を引き下げる基本方針を閣議決定しました。来年4月から2年限定で、現行の8%から1%にします。来年6月以降は、残る1%分の税収相当額を中低所得者向けの現金給付に回し、消費税率を「実質ゼロ」とします。1989年4月の導入以来、消費税を減税するのは初めてとなる

※今回の減税によって年およそ5兆円の穴が開くことになりますが、高市総理は代替財源について「赤字国債に頼らず確保する」と明言しています。しかし、閣議決定の時点で具体策は示していません。これがさらなる円安を招くとの声もある中、財源確保は大丈夫なのでしょうか?

答(会田):投資が実質賃金の上昇につながり、家計のファンダメンタルズが回復するまでには時間がかかります。その間は、財政政策で家計を支える必要があります。内需が腰折れてしまえば、国内で収益を上げられない企業は投資を控えてしまうからです。よって、2027年度と2028年度は、食料品の消費税率を引き下げ、家計を支えるのは合理的です。それ以降は、所得連動型の給付金の導入と、実質賃金の上昇による好循環が動き出すことになります。2027年度の税収と税外収入の見込みは98.8兆円となり、2026年度の当初予算の92.7兆円から、6.1兆円も増える。更に、当初予算で財務省が歳入を過小に見積もる癖によって、決算まで歳入が8.8兆円程度(2024年度と2025年度の平均)も上振れることが常態化している。2027年度は、合計で14.8兆円の財源が生まれることになる。消費税の食料品の税率が1%まで引き下げられ、税収が5兆円弱下振れても、国債に頼らずできることが明らかとなっている。

図1:消費税の減税の財源

消費税の減税の財源
(出所:内閣府、日銀、クレディ・アグリコル証券)

日本経済見通し

日本経済見通し
日銀とCACIBのGDP、CPI見通し
(出所:内閣府、総務省、日銀、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。