この記事は2026年9月9日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:日本経済と政策の見通しのまとめ(リフレ政策から官民連携の戦略投資拡大への変化)」を一部編集し、転載したものです。
目次
アンダースロー:日本経済と政策の見通しのまとめ(リフレ政策から官民連携の戦略投資拡大への変化)
日本経済見通しのメインポイント(経済):高市政権の官民連携の戦略投資による内需拡大で構造的経済停滞を脱却へ
① 異常であるプラスの企業貯蓄率が示す構造的な経済停滞圧力が残っているため、内需はまだ弱い。原油価格上昇や金融政策の引き締めなどによるグローバルな景気減速の下押し圧力を受ける。エネルギーコストの上昇が、家計の購買力を削ぎ、需要の価格弾力性が上がる。まだ弱い内需と消費減税によって、コアコア物価上昇率(除く生鮮食品・エネルギー)は一時的に減速する。地政学上のリスクの後退に加え、官民連携の戦略投資拡大が実質賃金の上昇につながり、内需を徐々に拡大させる力となる。企業貯蓄率が正常なマイナスに戻ったところで、構造的経済停滞から完全に脱却する。
図1:企業貯蓄率と消費者物価
② 積極財政と緩和的な金融政策の継続によるリフレの力が、名目GDPを大きく拡大させてきた。日銀のこれまでの拙速な利上げと交易条件の悪化で、名目GDPの拡大は一時的に減速する。成長促進の力は、リフレ政策から投資拡大に変化する。
図2:名目GDP
③ ネットの国内資金需要(企業貯蓄率+財政収支)が回復し、リフレの力で、名目GDPを拡大させた。リフレ政策の局面は終わり、供給能力拡大の投資が必要となっている。官民連携の戦略投資と消費減税による積極財政が内需を回復させ、地政学リスク後退によるグローバルな循環的景気回復も見込まれる。企業の国内支出の増加で、企業貯蓄率が低下を始め、積極財政と合わせ、消滅してしまっているネットの資金需要が再回復し、構造的経済停滞からの完全脱却に向かう。
図3:ネットの資金需要
④ 設備投資サイクルの上振れが企業貯蓄率を正常なマイナスに戻す力となる。設備投資サイクルが上向いている限り、将来の供給能力の拡大の期待があるため、円安の更なる強い圧力はかかりにくい。企業貯蓄率の低下が設備投資サイクルに追い付いていく局面で、実質賃金の上昇が強くなる。経済・政策・企業・マーケットの重点が外需から内需にシフトする。
図4:設備投資サイクル
日本経済見通しのメインポイント(政策):リフレから高市政権の官民連携の戦略投資に経済政策の軸は変化
① グローバルな循環的景気回復の局面と高市政権の官民連携の戦略投資による内需拡大で、設備投資サイクルの上昇が牽引役となり企業貯蓄率は低下の動きとなる。2026年の骨太の方針で、「強く豊かな日本」投資枠を中心に戦略投資の積極財政への動きが始まる。コアコア物価上昇率(除く生鮮食品・エネルギー)は内需の回復の遅れによる減速の後、2%の物価目標に向かって再拡大する。2027年には、設備投資サイクルの上振れと実質賃金の上昇によって内需が拡大する。2028年には、内需の拡大が加速し、企業貯蓄率は正常なマイナスに戻り、潜在成長率も上振れ、構造的経済停滞を完全に脱却する。
図1:日銀とCACIBのGDP、CPI見通し
出所:日銀、クレディ・アグリコル証券)
② 骨太の方針で、高市政権の戦略投資拡大と高圧経済の方針が明確化した。日銀には「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」のデュアル・マンデートが課された。利上げペースは、原油価格上昇の影響による四半期程度に1回の一時的な加速の後、半年程度に1回に戻り、緩やかなものとなる。低い実質金利の維持が、設備投資を中心に経済活動を促進する。2028年には、企業貯蓄率がマイナスに戻り、実質政策金利は物価目標対比でマイナスを脱する。2029年に2.5%のターミナルレートに達する。
図2:日銀の政策金利
③ 高市政権は、衆議院選挙での大勝を背景に、骨太の方針で、緊縮志向の呪縛を乗り越え、積極財政に転換をした。リフレ政策ではなく、官民連携の戦略投資の拡大によって、供給能力と経済規模の持続的拡大にコミットする。投資需要の拡大によって、需給ギャップを十分に大きくする「高圧経済」の方針だ。企業の国内支出の増加によって、企業貯蓄率が低下を始め、積極財政の動きと合わせ、消滅してしまっているネットの資金需要が再回復し、構造的経済停滞からの完全脱却に向かう。実質賃金の強い上昇までの家計の負担は、消費減税などの家計支援の財政政策で軽減することになる。
図3:リフレ政策からサナエノミクスへの変化
④ 地政学上のリスクが高まる中でのグローバルな景気減速の下、金融・財政政策の後押しが不十分で、信用サイクルと設備投資サイクルが腰折れれば、内需の鈍化で企業貯蓄率は上昇し、構造的不況に戻るリスクになる。日銀の拙速な利上げによって、雇用・賃金・消費を含む内需の回復が遅れるリスクが残っている。設備投資サイクルが腰折れてしまえば、グローバルな戦略投資の競争から脱落し、将来の供給能力の棄損によって、円安と金利上昇に歯止めがかからなくなる。円安のコストを、為替介入や経済対策で軽減しながら、設備投資サイクルの押し上げを続けることが重要である。
図4:信用サイクルと失業率
日本経済の成長と物価の見通し:官民連携の戦略投資拡大で構造的経済停滞からの完全脱却の動き
成長(CY26:0.8%・CY27:0.6%・CY28:1.3%):短期的停滞の後に構造的経済停滞から脱却へ
2026年から2027年前半は、グローバルな景気減速とトランプ政権の不確実性、地政学上のリスクによる原油高と供給停滞の下押しの中、日銀が拙速な利上げをすることで、経済成長は潜在成長率(0.6%程度)なみにとどまり、構造的経済停滞からの脱却への動きは一時的に停滞する。2027年後半以降は、グローバルな循環的景気回復、高市政権の官民連携の戦略投資拡大の積極財政と設備投資サイクルの上振れによる内需の拡大で、構造的経済停滞からの脱却への動きの加速が始まる。2028年までには、1%台への成長の上振れによる高圧経済への動きとなる。消費減税に加え、実質賃金の上昇が消費の回復につながる。名目GDPの持続的拡大によって、企業の競争がコスト削減から投資に明確に変化する。設備投資のGDP比率はなかなか到達できなかった18%を大きく上回り、消費の拡大とともに景気回復に加速感が出る。企業の期待収益率・成長率の上振れで潜在成長率が上昇する。企業貯蓄率は正常なマイナスに戻り、構造的経済停滞を完全に脱却する。緊縮財政への転換や日銀の利上げのスピードが速すぎれば、構造的経済停滞からの脱却が失敗するリスクになる。
物価(CY26:2.1%・CY27:1.1%・CY28:1.7%):弱い内需と消費減税で1%台へ一時的減速
消費者物価指数(除く生鮮食品とエネルギー)の前年比は、まだ弱い内需とエネルギーコストの大幅な増加による購買力の低下、消費減税によって、1%台に縮小する。需要の価格弾力性の上昇に企業は警戒感を持ちなじめる。グローバルな循環的景気回復と内需の回復の下、設備投資と賃金を含む企業の支出が強くなり、過剰貯蓄として構造的経済停滞の原因となった企業貯蓄率のプラス幅は縮小していく。実質賃金の上昇による消費の回復と成長率の上振れによる高圧経済の実現で、物価上昇率は再び2%に向けて上昇幅が拡大していく。2028年には企業貯蓄率がマイナス化し、構造的な経済停滞圧力を払拭し、賃金上昇の加速とインフレ期待が2%にアンカーされ、物価目標の安定的・持続的な達成となる。日銀の拙速な利上げによって、信用サイクルの下押しで内需が腰折れないことと急激な円高にならないことが前提条件である。
日本経済の政策の見通し:政府と日銀の連携で強い経済成長と安定的な物価上昇の両立を目指す
金融政策:強い経済成長と安定的な物価上昇の両立のデュアル・マンデート
2024年からの拙速な利上げをしたことで、内需の回復を遅らせてしまった。グローバルな金利上昇局面に対峙する利上げ余地を浪費してしまった。高市政権の官民連携の戦略投資による構造的経済停滞からの脱却への政策方針との連携がより重視される。政府は、日銀に強い経済成長と安定的な物価上昇の両立を目指す、事実上のデュアル・マンデートを課した。利上げペースは、原油価格上昇の影響による四半期程度に1回の一時的な加速の後、半年程度に1回に戻り、緩やかなものとなる。低い実質金利の維持が経済活動を促進する。2028年には、企業貯蓄率がマイナスに戻り、企業の資金需要が回復し、構造的経済停滞の脱却で、実質政策金利は物価目標対比でマイナスを脱する。2029年に2.5%のターミナルレートに達し、実質では現在の潜在成長率なみの水準となる。地政学上のリスクとグローバルな景気減速の下、利上げペースが過度に速くなり、信用サイクルと設備投資サイクルが腰折れれば、内需の鈍化で企業貯蓄率は上昇し、構造的不況に戻るリスクとなる。
財政政策:戦略投資拡大の積極財政を推進して内需拡大に注力
政府の関与を縮小する自由主義的政策から完全に転換し、成長を妨げている社会・経済課題を、政府の積極財政と官民連携の戦略投資によって解決する新機軸の方針がとられる。リフレ政策ではなく、官民連携の戦略投資の拡大で、供給能力と経済規模の持続的拡大にコミットする。投資需要の拡大によって、需給ギャップを十分に大きくする「高圧経済」の方針だ。景気回復を国民に実感させることで、2028年の参議院選挙まで政権への強い支持を維持しようとする。戦略投資まで税収の範囲内とする欠陥があったプライマリーバランスの黒字化目標は、骨太の方針で形骸化し、投資の成長効果を含む債務残高GDP比の安定的低下に財政目標は転換した。予算編成方針を抜本的に改革し、当初予算に新たな投資枠を設定することで成長戦略に基づく長期投資を可能にし、危機には機動的な補正予算で対応する。外需依存から脱するため、米国との貿易紛争後の1980年代後半の内需拡大のような展開が経済政策で促進される。構造的経済停滞からの完全脱却で、税収が大きく上振れすることで、2029年に財政収支は赤字を脱する。政府の純負債残高GDP比は、過去AAA時の50%の水準を大きく下回る。
日本経済メインシナリオ 2024-2029年:構造的経済停滞からの脱却への道
- 2024年(実績):日銀の拙速な利上げで成長が止まる
- 2025年(実績):高市政権の誕生で成長期待が高まる
- 2026年:日銀の拙速な利上げと財政政策転換の端境期で一時的な停滞
- 2027年:官民連携の戦略投資の始動で構造的経済停滞脱却への動きも再開
- 2028年:構造的経済停滞脱却で潜在成長率が上昇
- 2029年:高圧経済の維持と財政収支の黒字化
2024年(実績):日銀の拙速な利上げでマイナス成長に
日銀が拙速なマイナス金利政策の解除と追加利上げを実施して信用サイクルが下押され、グローバルな景気減速もあり、実質GDP成長率はほぼゼロとなる。輸入物価の上昇の転嫁が進み、物価上昇率の高止まりが、実質賃金の下押しとなり、内需が停滞する。
内需は停滞しながらも、名目賃金等の上昇を背景とした日銀の利上げ姿勢継続により、長期金利は上昇。
2025年(実績):高市政権の誕生で成長期待が高まる
グローバルな景気減速とトランプ政権の不確実性の景気下押しが続く。日銀の利上げが一時休止することで、設備投資のサイクルは堅調となる。実質GDP成長率は潜在成長率を大きく上回る。緊縮的な石破政権の退陣後、高市政権の経済政策の方針は積極財政に変化し、経済成長への期待が高まる。
日銀の利上げ、高市政権の積極財政と成長期待の高まりで長期金利、超長期金利は大きく上昇。株式市場も、緊縮的な石破政権による石破ディスカウントが剥落し、高市政権下での成長期待と円安サポートで上昇が続く。
2026年:地政学上のリスクと政策転換の端境期で一時的な停滞
グローバルな景気減速とトランプ政権の不確実性、地政学上のリスクによる原油高と供給停滞の下押しの中、日銀が拙速な利上げをすることで、実質GDP成長率は減速し、構造的経済停滞からの脱却への動きは一時的に停滞する。高市政権は、骨太の方針で、官民連携の戦略投資拡大の積極財政を推進する。リフレ政策ではなく、投資の拡大によって、供給能力と経済規模の持続的拡大にコミットする。2027年度からの積極財政の政府予算の執行で、高圧経済を目指す。2026年は端境期で、推進力は限定的となる。
ネットの資金需要の回復に伴う安定的な名目成長への期待で、リスク資産は堅調な推移が続く。成長期待を先んじて織り込んだ長期、超長期金利は緩やかな上昇のなか、2027年以降の中立金利に向けた利上げサイクル入りを織り込んでカーブは徐々にフラット化へ。
2027年:官民連携の戦略投資の始動で構造的経済停滞からの脱却への動きが加速
日銀の利上げペースの一時的な加速などによる年前半までの停滞の後、積極財政の政府予算の執行にともなう官民連携の戦略投資の始動で、企業貯蓄率がしっかり低下を始める。ネットの資金需要もしっかり回復する。企業の競争がコスト削減から投資に明確に変化し、設備投資のGDP比率はなかなか到達できなかった18%を大きく上回る動きが加速する。消費減税と実質賃金の上昇が消費を回復させる。投資拡大にともなう緩やかな利上げを政権は容認し、半年程度に1回の利上げを継続する。実質政策金利はまだ低く、構造的経済停滞からの脱却を支援する。
ネットの資金需要の回復と名目GDPの持続的成長でリスク資産の上昇は続き、日経平均株価は7万円台が定着。日銀の利上げに伴い長期金利も上昇するものの、利上げの到達点が意識され始めることでカーブのフラット化が続く。
2028年:構造的経済停滞脱却で潜在成長率が上昇
内需の拡大によって、実質GDP成長率は1%台半ばの水準へ加速する。企業貯蓄率が正常なマイナスに転じて、企業の資金需要が回復し、物価上昇率も目標の2%に安定的かつ持続的に達する。インフレ期待もアンカーされ、構造的経済停滞をから完全に脱却する。政策金利は2%まで上昇し、実質政策金利はマイナスを脱する。
デフレ構造不況の脱却で名目GDPの成長が持続し、日経平均株価は7万円台後半で推移。金利は、利上げが到達点に近づくことでカーブはさらにフラット化。
2029年:高圧経済の維持と財政収支の黒字化
企業の期待収益率・成長率の上振れで潜在成長率が1%程度に上昇。日銀の政策金利が2.5%に達したあと、若干の実質プラスの水準で利上げを止めることで、景気がやや過熱気味の高圧経済となる。円高への転換は景気を下押すが、実質GDP成長率は引き続き1%を上回る。経済規模の持続的拡大の予見可能性によって企業の投資が拡大し、名目GDPの拡大によって税収が増加し、財政収支は赤字を脱する。
実質成長率の加速は止まりながらも、十分なマイナスのネットの資金需要は維持され、名目GDPの拡大でリスク資産やインフレ期待の下振れは回避される。
図:日本経済見通し
出所:日銀、内閣府、総務省、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)
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