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(写真=PIXTA)


民主主義の欠点

デモクラシー(民主主義)という言葉は、ギリシャ語のデモクラティアに由来し、古代民主主義はギリシャにあった都市国家(ポリス)で生まれたとされる。人々の意思が政治に反映されない制度では、国民は幸福になれないし社会の繁栄も維持できない。

しかし、古代ギリシャでは大衆に迎合した人気取りに終始する衆愚政治がはびこり、衰退の道を歩んだ。「民主主義は最悪の政治形態」というチャーチルの有名な言葉があるように、民主主義は極めて問題の多い制度だ。国民が甘い幻想に惑わされ易いということも、民主主義の大きな欠陥だ。

6月下旬ころから世界経済はギリシャの債務問題に揺れた。ドイツなど他のユーロ加盟国との支援交渉で、ギリシャ政府は次々と思いもよらぬ行動に出た。

戸惑う各国首脳を見て溜飲を下げたギリシャ国民もいただろうが、冷静に考えれば交渉の過程でギリシャが失ったものの方が大きかった。ギリシャ政府は交渉相手としての信頼を無くしてしまい、資金的な負担をする側の国々の国民からの支援を得難くしてしまった。

ギリシャは支援を受けるために、支援国より手厚いと批判される年金の削減など、痛みを伴う様々な国内改革を受け入れる必要がある。ギリシャの指導者は不人気でも国民を説得することが必要だ。


高失業下の緊縮財政

ギリシャは政府が多額の債務を負っているというだけではなくて、債務の多くが海外からの借り入れだということがより問題を難しくしている。

ギリシャには多額の利払いの負担がのしかかっているが、問題を根本的に改善するためには債務の元本を大幅に削減しなくてはならない。海外に対して、多額の利子だけでなく元本の返済も行なうためには、ギリシャはかなりの規模の経常収支の黒字を出す必要がある。

IMFが今年の4月に出した予測では、今後長期にわたってギリシャの財政収支と経常収支が黒字となって、徐々に問題が改善していくという道筋が描かれていた。

ギリシャ

1997年のアジア通貨危機の場合を見れば分かるように、こうした場合には通常であれば債務国の通貨が大幅に下落する。債務国では輸入品の価格が高騰して輸入が減少するが、激しい輸入インフレに苦しむことになる。

しかし、この一方で債務国の製品は通貨下落によって海外で割安となり、輸出は大きく伸びる。経常収支は大幅に改善して黒字となり、債務の削減も可能になる。

ところがギリシャの場合には、共通通貨のユーロを使っているのでこうした効果が働かない。著しい輸入インフレの発生は回避できているが、国際収支を改善するためには、失業率が20%を超えるほどの強い財政緊縮策を続けることが必要になっている。


ギリシャの債務再編は不可避

元はと言えばギリシャ国民が借りたお金だから、ギリシャ国民の負担で返済するのは当然だ。とはいうものの、多くの国民の生活が危機に瀕しているにも関わらず、政府が救いの手を差し伸べることができないという状況は危険だ。民主主義国家であるからこそ、苦境に陥った国民の不満が本来意図したところとはかけ離れた政策に繋がってしまうということが起こる。

第一次世界大戦に対するドイツの賠償金はギリシャの政府債務とは性質が違うが、外国に支払わなくてはならない対外債務だったという点では同じだ。当時のドイツは世界で最も民主的といわれたワイマール憲法を持ちながら、賠償金支払がもたらす経済的混乱の中で全体主義への道を歩むことになる。

ケインズは賠償金額が過大で平和ではなく対立をもたらすとして、「平和の経済的帰結」という小論で賠償金削減の論陣を張ったが、各国政府は国民の批判を恐れて耳を貸さなかった。ギリシャの債務問題では逆にドイツがギリシャに対して厳しい姿勢を続けているのは歴史の皮肉だ。

IMFが指摘しているようにギリシャの債務は再編、つまるところ実質的な削減が必要で、支援国側の指導者は負担に反発する国民を説得する責務がある。

先進諸国の指導者は、一見容易に見える選択肢が実はより厳しい状況に繋がる道であり、一見困難に見える狭き門こそが真の解決に続く選択肢だということを、国民に納得させることができるだろうか。

指導者たちには批判を恐れず粘り強く国民を説得することが求められ、国民の側も甘言に惑わされず問題を正しく理解する能力を求められる。第二次世界大戦後、民主主義の下で発展を続けて来た先進諸国は、大きな課題に直面している。

櫨(はじ) 浩一
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 専務理事

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