年金という目前の大金は不正への誘惑になりやすい

社会保険基金はすべて地域主権で運用されている。

しかし地方政府にとって、目前に大金のころがっている状態は不正への誘惑となりやすい。有名な事件では、2006年に陳良宇・上海市党委書記が「社会保険基金の不正使用」「縁者の優遇」により同市社会保険局長とともに解任され、実刑判決を受け収監された。

2007年に後任に選ばれたのが現在の習近平主席で、陳・元上海市党委書記は結果として習主席の履歴箔付けに貢献した。ともあれこうした危険な状況は今も変わらないと思われる。

今年の8月には、基金総資産の30%を上限として株式での運用が許可された。株式市場テコ入れ策の一環だが、役に立たない建設プロジェクトなどに浪費されるよりは国益にかなっているだろう。

中国人研究者も「実質破たん状態」と指摘

社会保険事業を担当する人力資源・社会保障部が今年3月に発表した、2014年の年金収支によると、3800万人が支払い中断したにもかかわらず、都市企業就業者年金は3458億元の黒字、Bの都市住民社会養老保険は743億円の黒字を確保したという。

中国紙『第一財経日報』は、海外メディアの「中国の年金制度は今後20年で11兆ドルの資金不足に陥る」などの分析記事も紹介し、この問題への注意を促している。

「すでに実質破たん状態」とする中国人研究者も現れ始めている。このように中国の年金制度は、ブラックボックスと地雷にとり囲まれている。

あまりにも条件が違い過ぎ、「日本より中国の年金ランキングが上、などという比較はほとんど意味をなしていない。(高野悠介、中国在住の貿易コンサルタント)