社会保険「五険」の現状

話を聞いた夫婦はいい時期に退職したといえる。行政部門と生産部門の分割が進み、国有企業が、外資企業、私企業の台頭による競争にさらされ、大リストラを余儀なくされていく直前に当たっていた。

新しい社会保険構築の目標が打ち出されたのは1993年。その後、2003年までに様々な法規が制定された。このころは高齢化への初期段階でもあり整備は急がれていた。試行錯誤を繰り返し、2011年の「中華人民共和国社会保険法」によりやっと実行義務を伴うものになる。

概観すると社会保険には、①養老保険、②医療保険、③労災保険、④出産保険、⑤失業保険の「五険」がある。年金は①の養老保険である。さらに①は先に紹介したA、B、C、に分かれる。中核はAで、「都市企業就業者年金」と訳される。同法により、使用者と従業員は分担して保険料を納付する義務を負う。比率は使用者20%、従業員8%である(地域によって異なる)。「五険」全体では、使用者30%、従業員10%と、保険料負担は給与額の40%にも及ぶ。

「社会保険加入者3800万人が支払いを中断している」

2011年の同法施行後、加入者は増えていたが李克強首相は、2014年10月末、衝撃的な事実を明らかにした。

「社会保険加入者は3億人いるが、そのうち3800万人が支払いを中断している」

高齢者の急増で年金収支が悪化する中、さらに深刻な問題に直面した。地方都市の労働集約型企業には、ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)という考え方が薄い。労使ともに現在さえ良ければそれでかまわない、という近視眼的な仕事観である。法律にしたがい一旦は納付したものの、労使合意の上で「やめにしよう」となったのだろう。