道路インフラ投資拡大の障害
オバマ大統領は、2月に今後6年間で道路インフラ投資に3,170億ドルを充当(インフラ全体では4,780億ドル)する“GROWAMERICAACT"を議会に提案した。昨年も4年間で1,999億ドル(インフラ全体では3,020億ドル)を充当する同様の法案を提案していたが、議会の審議が進まず、結局14年9月末で期限切れとなった陸上交通授権法(MAP-21)の金額を維持した暫定的な法案で凌ぐ状態が続いている。
また、道路インフラの財源であるHFTの燃料税収入が不足しており、一般財政からの財政援助により急場を凌ぐ状況となっている現状では、財政面からはインフラ投資を拡大する状況にはなっていない。
HFTの財源確保については、09年に道路財源を確保するための専門委員会の報告書(*8)では、将来的な方向性として、車種や排気ガス量に加え、利用時間も考慮して走行距離に応じた通行料の導入を提言している。しかしながら、利用者負担増による財源拡充策は物流コストの上昇などを通じて経済に悪影響がでるため、総合的に判断する必要があり、現状でも様々な検討が続いている。
また、利用者負担以外の財源の拡充策としてオバマ大統領は、多国籍企業に対する一時的な課税強化により捻出することを提案しており、野党共和党でも次期下院議長就任が濃厚なポール・ライアン下院予算委員会委員長が同様な提案を行っているものの、同じ共和党内での意見集約が出来ていない。
これまでみたように、米道路インフラは劣化しており、経済損失が大きくなっているほか、国際競争力の点からも問題が指摘されており、インフラ投資を拡大することの必要性は与野党で概ね共有されている。さらに、足元ではインフラ投資拡大をする上で低金利など、非常に良い環境になっており、投資効率の点からもインフラ投資拡大の好機であることは間違いない。
しかしながら、インフラ投資拡大の最大の障害となっているのが、政治の機能不全である。米国では、長期的なインフラ投資計画に基づく本格的な法案成立の目処が立たない状況が続いている。
企業経営者の団体であるビジネス・ラウンドテーブルは、15年9月に発表したインフラ投資拡充の必要性を訴える報告書(*9)でインフラ投資は長期的な視野で行われるべきであり、短期的なつなぎ法案しか成立させられない政治の怠慢について非難しており、政治の機能発揮が期待される。
(*1) 国際凹凸指数が94以下を良好な状態としている。
(*2)"2015 URBAN MOBILITY Scorecard"(15年8月)
(*3)"2013 Status of the Nation's Highways, Bridges, and Transit: Conditions & Performance"
(*4)"Bumpy Roads Ahead: America's Roughest Rides and Strategies to Make our Road Smother"(15年7月)
(*5)"2015 AASHTO Bottom Line Report"(14年12月)
(*6)燃料税では、それ以外にもガソリンとエタノールの混合燃料や、トラック等に対して重量税が賦課されている。(参考)"Primer Highway Trust Fund"(FHA,98年11月)
(*7)"Estimate of the Status of the Highway Trust Fund Based on CBO's August 2015 Baseline"(15年10月21日)
(*8)"PAYING OUR WAY A New Framework for Transportation Finance"(09年2月)
(*9)"Road to Growth THE CASE For Investing in America's Transportation Infrastracture"
窪谷浩
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
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