世界的に日本の財政を分析する時、IMF(国際通貨基金)が収集したデータを使うことがある。IMFは幾度となく、日本の財政状況に警鐘をならし、大幅な消費税率引き上げを含む緊縮財政の実施を提言してきた。しかし、よく観察してみると、IMFに報告されている日本の中央政府のデータは、実際の財政状況を反映していないかもしれないことが分かった。
IMFは加盟国に対して、統一された統計基準で、一般政府及び中央政府の財政関連統計を集めており、日本もその基準に則り報告している。日本がIMFに報告している数字は、国債償還費やその分の新規国債発行額は含まれず、グローバル・スタンダートに近い数字が報告されている。
それでもIMFが発表している日本の中央政府の財政収支の状況を見ると、財政赤字はGDP対比で約7-10%(2009年度から2014年度)となっており、異常に大きく見える。政府の予算から償還費とその分の新規国債発行額を除いた財政赤字である約20-30兆円(GDP対比約5-7%、2009年度から2014年度年)とはかけ離れている。その理由は、IMFには出納整理期間に計上される歳入出が報告されてないことにあるようだ。
出納整理期間とは、会計年度(毎年4月1日から3月31日までの期間)中に確定した歳出入の未収や未払いとなっている現金を整理する期間であり、毎年度ごとに約20兆円の歳入と5兆円程度の歳出がこの期間に計上される。
日本は四半期毎に、財務省から発表される予算使用の状況をIMFに報告している。これは、その四半期の中央政府の収納済み及び支出済みの歳出入であり、当初予算などより政府の実際の財政状況をよりクリアに表すものである。
しかし、IMFに報告されている数字は四半期毎の予算使用の状況だけであり、出納整理期間分は報告されていないようだ。その結果、出納整理期間分は歳入の方が歳出よりかなり大きいことが通常であるため、IMFに報告されている日本の中央政府の財政赤字は、毎年度約15兆円くらい過大になってしまい、日本の中央政府の財政状況は実際よりかなり悪く見えてしまっているようだ。IMFに報告されている数字に出納整理期間分の歳出入を計上すると、財務省が発表している予算から償還費とその分の新規国債発行額を除いたものと一緒になる。
国際機関が発表している各国の経済データは、グローバルに基準を強引に合わせたり、報告の仕方の差異があるため、ゆがんだ数字になってしまうことがあること、そしてその数字で単純な国際比較をすることは注意を要することは、しっかりと認識すべきだろう。他の先進国では存在しない償還費を歳出に計上したり、IMFでは出納整理期間の数字がカウントされず、日本の財政赤字が実態よりかなり悪く見えてしまうのは問題がある。
財政に対する過度な警戒感が日本経済・マーケットにとっての大きなハンディキャップとなってしまっていることを考えると、わざわざ財政を悪く見せる必要はないし、より正確に日本の財政の姿を伝えることが重要であろう。技術は最高であるがそのマーケティングに課題があるといわれる日本企業と似て、財政の「見せ方=マーケティング」をもっと工夫したほうがよいだろう。
国民は気づいていないから、財政に対する悲観論を誇張してでも対策を早めなければいけないという、情報の取得が限られた時代にあった古い考え方は変える必要があるかもしれない。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト
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