人脈を広げる「魔法の言葉」とは?

こう考えるのは、私自身の経験に基づいてのことです。

先に述べたように、私が人脈構築を始めた時期は決して早くはありません。銀行員だった20代は自社内にのみ関心を払い、留学時代もひたすら専門の勉強に明け暮れていました。

意識が変化したのは、コンサルタントになってからです。さまざまな業界のクライアントと会い、そのトップと話す中で外の世界と触れ合うことの意義を知り、知らないことを謙虚に教えてもらう姿勢を持てました。

そして40代、経営に携わるようになってから、本格的に人脈作りに乗り出しました。

その方法はいたって単純です。会う人ごとに、「○○に詳しい人をご存じないですか」「今、△△に興味がありまして……」「□□の権威にお話を聞きたいと思っています」などと言って回るのです。するとほどなく、それをかなえられる人物を紹介してもらえます。その繰り返しの中で私の人脈は築かれてきました。

さて、ここで注意していただきたいのは、声をかける際に「○○に詳しい人と会う」「△△について学ぶ」という目的を告げていたことです。大事なのは、その人に会うことによって何を得たいか、という意識です。つまり人脈作りを「手段」と捉える視点です。

しばしば人脈作り自体を目的化してしまう人がいますが、ただ知り合うだけでは何の意味もありません。仕事に生かしてこそ、意味があるのです。

そのためにも、「今、自分はどんな仕事をしたいのか、それには何が必要か」を、常に明確化しておきましょう。

そしてもう一つ重要なのは、こちらからも相手の益になるものを提供する姿勢を持つこと。

人脈はギブ&テイクで成り立つものです。こちらのメリットを期待するだけでは虫がよすぎます。

対面中は、会話の端々から、相手が悩みや困りごとを抱えていないか、興味を持っていることはないかを考え、役立てるチャンスを探しましょう。勉強して得た知識や情報やアイデアが、ここで役立つはずです。

紹介してくれた人に対しても同じです。仕事で役立ったり、自分も誰かを紹介したりと、恩返しのチャンスはいくらでもあります。

紹介者の中には広い人脈網を持つ“ネットワークハブ"と呼ばれる人もいます。そうした人から「役立つ人物」と思われることは非常な強みです。そうすることで、相手も自分のネットワークを惜しみなく提供しようという気持ちになり、「○○さんを紹介してもらえませんか」と言ったときにも、すぐに応じてもらえるでしょう。

「モノ」ではなく「魅力」でつながろう

このギブ&テイクでやり取りされるのは「モノ」ではありません。いわゆる「つけ届け」の類は、私の考える人脈術には登場しません。

逆の立場でも同様です。私に会いたいと思ってくださる方に期待するのは立派なメロンではなく(笑)、最新の情報、深い知識、瑞々しい感性、ユニークな視点といったものです。

人脈を築いたり、続けるために「パーティーに数多く出席する」「手紙や年賀状で小まめに関係をメンテナンスする」といったことも、私は必要ないと思います。パーティーは、なんとなく人脈を求める人々がなんとなく集まる、目的意識に欠けた場であることが多いですし、メンテナンスなどしなくても、「この人は魅力的」という信頼感があれば久々の再会でも話が通じ合うからです。

つまるところ、人脈とは実力と魅力に基づくつながりなのです。裏を返せば、魅力がなくなれば関係も終わるという怖さもあります。ですから、会うときは毎回真剣勝負です。

そうした緊張感を忘れずに、毎回、確実に成果につながる対話を交わす。それが、良い仕事へと結びつく、真の人脈術なのです。

山本真司(やまもと・しんじ)経営コンサルタント、〔株〕山本真司事務所代表取締役
1958 年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)勤務。シカゴ大学経営大学院(ブースビジネススクール)修士。名誉MBA (MBA with honors) 取得、ベータ・ガンマ・シグマ(全米成績優秀者協会)会員。1990 年にボストン・コンサルティング・グループ東京事務所に転じる。以降、A.T. カーニーマネージング・ディレクター極東アジア共同代表、ベイン・アンド・カンパニー東京事務所代表パートナーなどを経て2009 年に独立。現在、株式会社山本真司事務所、パッション・アンド・エナジー・パートナーズ株式会社代表取締役、立命館大学経営大学院客員教授、慶應義塾大学健康マネジメント大学院非常勤講師などを務める。
著書に、『会社を変える戦略』(講談社)、『儲かる銀行をつくる』(東洋経済新報社)、『40 歳からの仕事術』(新潮社)、『35 歳からの「脱・頑張り」仕事術』(PHP研究所)、共著に『ビジネスで大事なことはマンチェスター・ユナイテッドが教えてくれる』(広瀬一郎氏との共著、近代セールス社)など多数。

(取材・構成:林 加愛)(『 The 21 online 』2016年1月号より)

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