レイ・クロック(マクドナルド創業者)

52歳にしてマクドナルドの経営を始め、世界的企業にまで成長させたクロックは、「米国を素晴らしい国にしたのは競争社会だ」と競争を全面的に肯定する。そして、競争相手と正々堂々と戦った。

数々の新商品も競争から生まれた。たとえば、フィレオフィッシュはシンシナティのカトリック教区にあるビッグボーイチェーンのフィッシュサンドイッチとの競争から生まれたものだし(敬虔なカトリック教徒は、金曜日は肉食を避けるので、ハンバーガーを食べない)、ビッグマックはバーガーキングなどに対抗して生み出されたものだ。

テネシー州ノックスビルの店舗では、数軒先の競合が価格競争をしかけてきた。ハンバーガー5個を30セントで売り始めたのだ。マクドナルドのハンバーガーは1個15セントである。しばらく我慢すればしのげるだろうと思いきや、さらにハンバーガー、ミルクシェイク、フライドポテトをまとめて10個買えば1個10セントにすると打ち出した。

困り果てたフランチャイジーは、弁護士からの「連邦取引規則に反しているので告訴すべし」というアドバイスを受けて、クロックのもとに報告に来た。

そこでクロックは、「このままでは彼らに食い尽くされるぞ」と言いながら、「政府の力を借りて今回の決着をつけたら、我々はおそらく破産するだろう」とも言った。1個15セントのハンバーガーを、より迅速なサービスで、より清潔な場所で提供することで、正々堂々と競争せよ、と指示したのだ。結果、このフランチャイジーは生き残ることに成功した。

競争相手がスパイを送り込んできてオペレーティングマニュアルを手に入れてしまうことがあり、マクドナルドも競争相手にスパイを送るべきだという声が上がったこともある。しかし、クロックは頷かなかった。あくまで、品質、サービス、清潔さと付加価値(QSC&V)で競争すべきだというわけだ。

「競争相手のすべてを知りたければゴミ箱の中を調べればいい。知りたいものは全部転がっている」とも言っている。実際、深夜2時に競争相手のごゴミ箱を漁って、前日に消費した肉やパンの量を調べたことは1度や2度ではなかった。

《参考文献》レイ・クロック+ロバート・アンダーソン共著(野崎稚恵訳)『成功はゴミ箱の中に』プレジデント社