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(写真=FinTech online編集部)

FinTechに関する国内外のニュース、金融機関の取り組み、業界の人材ニーズ、スタートアップ企業紹介などフィンテックに関するあらゆる情報を報じているWebメディア「FinTech online」の公開記念イベントが5月17日、東京・茅場町で開かれ、金融機関のフィンテック担当者を中心に約50人が訪れた。

パネルディスカッション「FinTechを活用した金融機関の未来像」も行われ、専門家5人が登壇。増島雅和氏(森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士、Finovators代表理事)、瀧俊雄氏(マネーフォワード取締役兼FinTech研究所長)、藤井達人氏(三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタルイノベーション推進部シニアアナリスト)、阿部展久氏(みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)インキュベーションPT長)、冨田和成氏(ZUU社長兼CEO)が、昨今の状況や金融機関が今後どのように対応していくべきなのか――といったテーマについて議論を交わした。

会場はCAFE SALVADOR BUSINESS SALON。日本を代表する金融街・日本橋兜町、茅場町に、新たにFinTech企業や人材が集まることができる場所をつくるべく、平和不動産が新たにつくったスポットだ。

2040年のバンキングを見通して

冒頭、昨今の「ブーム」とも言えるFinTechを取り巻く現状についての感想を求められた瀧氏は「FinTechプレイヤーにはフォローの風が吹いている」と述べた上で、金融機関も短期的な視点だけでなく長期を見通した取り組みをすべきと指摘。「2040年のバンキングを考えれば、今取り組んでいることだけが課題ではない」と述べるなど、現状を直視しつつも、将来像を描き、そこからの逆算で今やるべきことを考え、取り組むべきであるとの考えを披露した。

金融庁監督局への出向経験を持ち、IMFの金融安定査定プログラム外部顧問を務めた経験もある増島氏は、「世界金融における日本の金融のポジション」という視点を持って見ていると述べたほか、金融はひとつの産業であると同時に全産業のインフラであるという点を強調した。

冨田氏は昨今の業界の盛り上がりについて触れた後、現状のFinTechビジネスで収益化できているのがtoBのビジネスで、toCのビジネスはまだまだとの認識を示した。

「FinTechは銀行を破壊する」?

経済メディアでは「FinTechは銀行を破壊する」といった形容をされることがある。

この点について三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の藤井氏は、「破壊というより協働だと思う」との返答。カスタマーセントリック(顧客中心)であることはデジタル、ネット業界では当たり前だが、金融機関ではいまだそうではないところが多いことを指摘した上で、「金融機関の競争相手は金融機関ではなくなりつつある」などと述べた。

さらにFinTechスタートアップを「これまで金融機関の商品やサービスが届いていなかった人たちに届ける存在」と位置付け、「そう遠くない将来、金融機関にとって本当の競合相手になる可能性はある」と述べた。しかし先述したように藤井氏は「破壊ではなく協働」という考えを持っているだけに、業界の将来について悲観論に立ってはいない。

みずほFGの阿部氏は、FinTech onlineでインタビュー記事に掲載された山田大介執行役常務の言葉を紹介。「FinTechで実現したいことはたくさんあるが、必ずしも“テック”でなくてもいいという立場。たしかにテックを使ったほうが早く効率的なケースが多いが、テックを使うことそのものが目的ではない」と述べるなど同グループの基本的な姿勢を示した。

この命題に対して、金融機関ではなくプレイヤーとしてのコメントを求められた瀧氏は「理想的な金融サービスの条件は、安心して子育てできる、安心して働けること」としたうえで、銀行業務の分化が進むことを指摘した。

MUFGの藤井氏も、「銀行もデジタル世界のAPIエコノミーに参画していく必要がある」と述べ、銀行API提供についても可能性があると話した。またブロックチェーンの持つ可能性と影響力についても触れ、「(政府や中央銀行といった)中央集権の機関なしに物事が決められていく社会を実現しようという動きが出てきている」と述べ、「そうした社会の中で、今後はよりディスラプティブ(破壊的)なことがスタートアップから起こる」と話した。

これを受けて増島氏は、「非金融の各分野でインターネットを用いた「分散化」が進む中で、金融業界だけ中央集権であり続けるとの仮説は不合理であり、モデルの転換が必要。他方で銀行は、社会を支えるインフラ業務を担っており、ここは銀行が「銀行」であるうえでのコア機能なのでディスラプトできない」と説明。金融機関が何をすべきかについては「今後自ずと見えてくるはずだが、単なる目利きやコンサルティングではなく、第四次産業革命後の新しいパラダイムのなかでの金融インフラまたはプラットフォームとなるべく、より主体的に動くべき」とし、さらに「業務範囲規制は普遍的なものではなく、リスクへの対処方法として生み出された制度にすぎない。銀行のあり方の変遷に応じて変えてもよい仕組みだ」などと具体的に提案した。