日銀,政府,方向性
(写真=PIXTA)

「量」と「金利」の手段を使うことができず、ETF買い入れ拡大という「質」的な金融緩和に限定された7月28・29日の日銀金融政策決定会合。現行の枠組みでの緩和手段が限界に来ていることを示したと考える。

9月20・21日の政策決定会合で日銀が実施するこれまでの政策の総括的検証では、依拠してきた二つの前提が否定されるだろう。

前提崩れ、2年で2%の物価上昇は不可能

一つ目の前提は、デフレを含め物価はすべからく貨幣的現象であり、需給ギャップの解消と2%への物価の押し上げは、主に金融緩和のみで可能であるということだ。

二つ目の前提は、財政拡大は金利上昇と為替高をもたらすために景気押し上げ効果がなく、逆に緊縮財政は将来の財政赤字・社会保障への不安を解消するため、安心効果があるということだ。

この二つの前提の下に、消費税率引き上げを含む緊縮財政による安心効果と、マーケットにサプライズを与える断固とした大規模な金融緩和の組合せだ。まずインフレ期待を2%へ上昇させ、そこでアンカーし、実際の物価もインフレ期待を追うように速やかに2%へ上昇させていくというロジックが維持されてきた。

しかし、緊縮財政は安心効果がないばかりか需要に下押し圧力をかけてしまう。資金調達部門である企業が、もはや貯蓄部門になっている状況では、日銀が間接的にマネタイズする企業貯蓄率と財政収支の合計、ネットの資金需要がアベノミクスの最大でも15兆円程度と弱い。ネットの資金需要の分しか金融緩和の量の効果は出ず、日銀の80兆円程度のマネタリーベースの増加という、大規模な金融緩和の効果も限定的であった。

結果として、インフレ期待が実際の物価を引っ張っていくより、実際の物価に沿う形でしかインフレ期待は上昇せず、「2年」という期限を設けて早期に2%の物価上昇を実現することは不可能であった。

政府と協働時間の確保の必要性を確認するはず

総括的な検証では、2%の物価上昇を目指す目標は政府・日銀で設けたものであり、変更できない。政府が決定した経済対策にも、「日銀に2%の物価安定目標を実現することを期待する」という文言が入った。

「量」・「質」・「金利」という三次元を持った現行の金融緩和の枠組みは維持されるだろう。政府の意向に反して、量の削減や金利の引き上げなどの引き締め政策、と誤解されるような行動を日銀がとることは不可能だろう。

しかし、2%の物価目標は「2年」という期限を設けたものではない。中長期的に目指すものとされ、その実現まで粘り強く金融緩和を継続していくスタンスへ、変化するとみられる。

物価目標を早期に実現するためには、財政政策による需要拡大策、そして成長戦略と構造改革による企業部門の刺激策が重要だ。物価目標の実現のためには、政府との協働と時間が必要あることを確認することになるだろう。

日銀が、消費税率引き上げなどの緊縮財政が物価目標達成を阻害してきたこと、そして金融政策だけでデフレから完全脱却することは困難であることを認められるのかが焦点である。そして、2%の達成時期は、財政政策や海外経済・マーケットの動向にも依存すると判断し、早期達成には、政府にも一定の責任があることを示す可能性がある。

2%の早期達成に向けて、責任をわかちあう日銀と政府

麻生財務大臣と黒田日銀総裁の会談では政府・日銀が協調してデフレ完全脱却を目指すことが確認された。G20でも財政政策の役割の重要性で合意しており、政府も異論はないと考えられる。

日銀も、「きわめて緩和的な金融環境を整えていくことは、こうした政府の取り組みと相乗的な効果を発揮するものと考えている」とし、ポリシーミックスの考え方に前向きだ。目標の早期達成へのスピードは、政府の財政政策に期待するというスタンスになろう。

金融政策から財政政策に、デフレ完全脱却に向けた政策の軸足は、移りつつあると考えられる。

8月の概算要求から始まる2017年度の政府予算の議論では、財政拡大の動きへの変化がみられるだろう。追加的な赤字国債を出さないというのは、本予算対比の話であり、既に赤字国債を発行している本予算自体では、赤字国債を財源とした財政拡大はいくらでもできることになる。

更に、2020年度のプライマリーバランスの黒字化は、フローでの単年での目標だ。2019年度までは赤字を大きくし、景気刺激を続けても問題にならないばかりか、それで景気拡大が強くなれば、2020年度の黒字化の可能性は高まることになる。

2017年度の政府予算編成に向けた骨太の方針から消えた言葉がある。昨年度まであった財政収支に対する、警戒感を示す「赤字」という言葉、そして歳出増加に対して「デフレ脱却・経済再生の中で、金利動向と財政収支にも十分注意する」という警句だ。政府の「経済再生なくして財政健全化なし」という方針がより純化し、財政緊縮から拡大に転じている。

2%の物価目標の早期達成に向けて、政府も一定の責任を引き受けることに前向きだろう。