物価と名目GDP成長率を合わせたハイブリッド目標登場か?

9月20・21日の政策決定会合での総括的な検証では、財政政策、成長戦略と構造改革による企業活動の活性化で生み出したネットの資金需要を、ポリシーミックスとしての日銀の金融緩和の継続で、間接的にマネタイズしてサポートするというスタンスに転換すると考えられる。

金融政策において、ネットの資金需要の役割はこれまでほとんど意識されてこなかった。財政を含めた何らかの資金需要を、ヘリコプターマネーのような直接的なものではなく、間接的にマネタイズすることを躊躇しないことは、これまでの日銀の政策スタンスまたは、哲学からの大きな転換となる。

政府との協働をより強くするための枠組みとして、物価目標と名目GDP成長率目標を合わせた、ハイブリッド目標への動きもあるかもしれない。

内閣府の中長期の経済財政に関する試算では、経済再生ケースで安定的な名目GDP成長率は3.5%-4.0%となっている。日銀がコミットメントする2%の物価目標と、政府がコミットメントする成長戦略と構造改革による潜在成長率の+1.5%への引き上げを合わせて、+3.5%程度の名目GDP成長率を目指すコミットメントが加わってもおかしくはない。

2%の物価が困難でも、成長率が予想以上に加速すれば政策目標は達成可能である。原油価格が下落し物価が下がっても、交易条件改善は名目GDP成長率の押し上げ効果があるため、原油価格の下落に悩まされることもない。

骨太の方針の表題が「600兆円経済への道筋」とされ、名目GDPの拡大が政府の最重要課題であることと整合的だ。名目GDP(=総賃金)の拡大へのコミットメントが弱く見える中、政策により物価だけ押し上げて、家計に余計な負荷をかけるというインフレ政策が、不人気である側面も是正することができる。

年末まで経済活動の停滞が続けば、再度大規模な経済対策が必要か?

海外投資家からみても、日銀のみで実現が疑われている単純な物価目標より、重要視される成長戦略の効果が見える名目GDP成長率の方が、日本経済・マーケットを評価する基準として使いやすいだろう。

政策決定会合には内閣府と財務省からの参加者もいるため、これまでのような形式的な論評ではなく、より深い議論ができる枠組みは既にある。今回の総括的な検証が、「量」・「質」・「金利」の現行の枠組みでの単純な追加金融緩和に、直接的につながることはないだろう。

10月31日・11月1日で日銀は展望レポートを見直すが、追加金融緩和が行われるかは、その時の景気・物価動向次第となる。日本も米国も経済指標には上昇の強さはないが底打ちの形になってきていること、そして政府の経済対策と7月の日銀のETF買い入れ増額による、株価の下支えの効果が出てくることを考えると、追加金融緩和を日銀が必要と判断するような状況にはならないだろう。

「2年」という物価目標が中長期的なものとなれば、これまでのように物価目標の達成時期の日銀の予想(現在は「2017年度中」)が先延ばしになる状況にあっても、それがすぐに追加金融緩和につながることはなくなる。

もし年末まで経済活動の停滞が続くのであれば、経済対策は十分でなかったことになる。来年1月の通常国会における補正予算で、時間の制約のあった今回の経済対策で具体化が間に合わなかったものを積み増すことを中心に、再び大規模な経済対策を実施する必要が出てくることになる。

円高圧力軽減と輸出・生産のサイクル持ち直しにはグローバル経済向上

そうなった場合には、政府は赤字国債を発行してファイナンスしなければらなず、日銀にも追加金融緩和圧力がかかる。来年1月の展望レポートの見直しのタイミングで、ポリシーミックスとして「量」を中心とした、追加金融緩和が実施される可能性が出てくることになろう。

しかし、2017年に入り、経済対策の効果がしっかり現れることにより日本の景気の持ち直しも明らかとなるだろう。米国景気のしっかりとした拡大がFEDの利上げの進展につながり、円高圧力は自然に減じていくだろう。

グローバルな景気・マーケットの不安定感を各国の政策対応で乗り越え、先進国の堅調の成長がなんとか持続している間に、その好影響が波及して新興国が減速した状態から脱していけば、輸出と生産のサイクルも持ち直していく。

海外景気の持ち直しとともに、政府・日銀の政策効果などによりアベノミクスが再稼動したという認識が企業とマーケットにも浸透し、総賃金の強い拡大がデフレ完全脱却への動きを再加速させていくシナリオになると考える。

日銀の追加金融緩和はメインシナリオではなく、この7月の追加金融緩和が最後になる可能性が高いと考える。物価目標の達成時期に拘らない枠組みでは、景気拡大が強い中で、日銀が買い入れる国債が不足する可能性が高くなれば、2%の物価目標が達成される前に量的金融緩和のテーパリング(資産買い入れ額の減額)が起きる可能性がある。

2019年10月の消費税率引き上げ後、実質GDP成長率がプラスに回復したことを確認した後、実施は2020年7月になろう。しかし、日銀のバランスシートの残高を減少させることはなく、政策金利は目標達成までマイナスで据え置かれるだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

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