マイナス金利,メカニズム,長期金利
(写真=PIXTA)

財政収支の改善と日銀の大規模な金融緩和などにより日本の国債市場の流動性が縮小している。その上、マーケットとの対話がうまくいっていないことによる金融政策の先行きの不透明感もあり、長期金利(国債10年金利)の変動が大きくなっていると言われる。

過度な警戒感や変動により金利の水準感を見失う恐れがあるため、マクロのファンダメンタルズや政策要因に基づいた分析で、金利のフェアバリューがどのあたりにあるのかを認識しておくことが、極めて重要になってきている。

ネット資金需要ーマクロのファンダメンタルズ要因

マクロのファンダメンタルズ要因としては二つの柱がある。

一つは、企業貯蓄率と財政収支の合計で、貨幣経済の拡張を左右するネットの資金需要である(トータルレバレッジ、GDP対比、マイナスが強い)である。重要なのは、財政赤字が長期金利に単独で影響を及ぼすのではなく、企業の資金余剰との相対感で影響を及ぼすということだ。財政赤字が大きくても、企業の資金余剰が大きければ、ネットの資金需要は弱く、長期金利は低位安定することになる。

日本の内需低迷・デフレの長期化は、企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要がゼロと、国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失していたことが原因であった。言い換えれば、ネットの資金需要の水準が、企業の貯蓄率を前提として、どれだけ財政政策が景気刺激的なのかを示す政策変数であると言える。

実際に、2000年代は企業貯蓄率が大きく変動していても、ネットの資金需要はゼロ%近くに張り付き、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率(デレバレッジ)に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度、すなわち成長を強く追及せず、安定だけを目指す財政政策であったと言える。

長期金利を過度に恐れると、取れる手段を潰してしまう

ネットの資金需要の動きを見ると、バブル期にはGDP対比-10%程度、平均では-5%程度、デフレ期は0%程度、そして+5%程度になると信用収縮をともなう、デフレスパイラルになると考えられる。

ネットの資金需要は受動的な変数であるように見えるが、財政政策によってある程度コントロールできる政策変数と見なしているのが、このモデルの大きな特徴である。企業貯蓄率が高く、景気が悪い時には財政赤字を増やし、企業貯蓄率が低く、景気が良い時には財政赤字を減らす。

どの水準で、企業貯蓄率と財政収支をバランスさせるのか、すなわちその合計であるネットの資金需要の水準をどの位置にするのかは、財政政策の強さの度合いに依存すると考える。財政政策を緩和し、ネットの資金需要の水準を0%程度から若干のマイナスにし、資金が循環し貨幣経済が拡大する力を復活させたのがアベノミクスのデフレ完全脱却への推進力であった。

しかし、消費税率引き上げ後の財政緊縮などにより、ネットの資金需要はまた0%の戻り、その推進力が喪失してしまった。今後、財政拡大などにより、ネットの資金需要を復活させ、アベノミクスを再稼動させることが期待される。企業の貯蓄行動を前提とせず、財政赤字だけで過度に長期金利上昇を恐れ、財政政策の手を縛ることはよくない。