日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIーマクロのファンダメンタルズ要因

もう一つは、失業率に先行する指標として知られ、内需の拡張を左右する日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIである。金融機関の貸出態度が緩和的であるということは、国債投資よりも貸出を優先する傾向にあることも意味する。貸出態度が緩和すれば、企業の資金調達に対する不安感が減少し、より積極的な企業活動が景気を刺激していくことになる。

金融政策要因としては二つの柱がある。一つは、イールドカーブのアンカーである日銀政策金利である。もう一つは、日銀の資金供給(マネタイズ、買いオペ)の力を示す日銀当座預金残高の変化(前年差、GDP対比)である。

財政拡大によりネットの資金需要が増加しても、日銀のマネタイズの力で長期金利を抑制することは可能であると考えられる。ネットの資金需要と日銀当座預金残高の変化の合計が、マクロ的な債券需給の代理変数ということになる。そして、グローバルな金利水準の代理変数として、米国債10年金利の動きが重要となる。

数年前までは、米国の長期金利を入れても入れなくても、推計結果に大きな違いがなかった。しかし、昨今の大幅な金利低下は、日本国内の要因だけではなく、グローバルな金利水準の大幅な低下を理由にしないと、説明が困難になってきている。

マイナス金利時にも応用できるモデルとは?

一つの問題は、プラスの政策金利の時のモデルを、マイナスの政策金利の時にも応用してよいのか、ということだ。プラスに比べマイナスであると、金融機関は保有国債をなかなか手放したがらないため、日銀の国債買入れオペの価格が強含みやすくなるとみられる。同じ10bpの政策金利の変化でも、長期金利に与える影響はプラスに比べてマイナスの時の方が大きくなると考えられる。

マイナスの時のインパクトがプラスの時の何倍かを表す、調整ファクターを政策金利にかけることで、その違いを含めることができる。(1であれば同じ強さ、5であれば5倍のインパクトの強さを表す。)2016年4-6月期は4倍の調整ファクターで、実績がうまく説明できる。

これらの要因を使うと、日本の長期金利のマクロ・フェアバリューが推計できる(1988年からのデータ、4四半期移動平均、98%程度の動きを説明)。

長期金利 = 0.183+ 0.022 中小企業貸出態度DI + 0.74 (政策金利X調整ファクター)+ 0.90 LN (米国長期金利)- 0.063 (ネットの資金需要+日銀当座預金残高変化)

調整ファクターが1・2・3・4・5と変化するに従い、2016年7-9月期の長期金利の推計値(米国の長期金利は1.55%程度、ネットの資金需要は+0.8%、DIは20を前提)は0.05%・-0.02%・-0.10%・-0.17%・-0.24%と変化する。

調整ファクターを見極める

現在の長期金利の水準は、調整ファクターを3倍程度とすると、マクロ・フェアバリューと考えることができる。そして、プラスとマイナスの政策金利のインパクトが同等であれば、長期金利のフェアバリューは若干のプラスということになる。問題なのは調整ファクターは何倍が適当なのか、判断ができないことである。

その時の、グローバルなマーケット環境、政策への期待、または国債入札や日銀国債買入れオペの結果により、調整ファクターは短期間に変動しても不思議ではない。調整ファクターが大きく変動すれば、推計値も大きく変動するため、長期金利の変動幅は大きくなるとみられる。

ファンダメンタルズに変化はなくても、調整ファクターが1倍から6倍に変化すれば、長期金利は36bpも変動することになる。もちろん、調整ファクターが一定でも、政策金利に対する予想が変化すれば、長期金利が変動することになる。

このように考えれば、マイナス金利政策により長期金利は低く抑制されているが、変動が高まっていることが説明できる。

マーケットとの対話が日銀に求められる

政策金利の係数が1を下回っていることは、長期金利の影響は政策金利の変化の七割程度であり、イールドカーブが利上げ局面でフラットニング、利下げ局面でスティープニングする傾向にあることを示す。しかし、調整ファクターが1.5倍より大きければ、マイナス金利下では、イールドカーブが利上げ局面ではスティープニング、利下げ局面ではフラットニングすることを示し、実際にそのようになってきた。

現行の日銀の金融政策の枠組みは、低金利の中で長期金利の変動を大きくしやすいものであり、日銀がマーケットとの対話をしっかりしていくことは重要であると考えられる。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

【編集部のオススメ記事】
「信用経済」という新たな尺度 あなたの信用力はどれくらい?(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
会社で「食事」を手間なく、おいしく出す方法(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)