試験移転でも官僚は問題点を再三強調

徳島県での試験移転は3月と7月にあった。3月は板東久美子長官(当時)ら10人が神山町の神山バレー・サテライトオフィスコンプレックス、7月は板東長官、全9課の課長級ら40人余りが徳島市の徳島県庁で勤務した。

通常の業務をテレワークで進めるだけでなく、ウェブ会議システムで東京・霞が関の消費者庁記者会見室と結び、報道陣とのやり取りを実験した。さらに、徳島市のホテルと東京、鳥取県庁をテレビ会議システムで結び、人や環境に配慮した消費行動「エシカル消費」に関するパネルディスカッションも行った。

しかし、3月の記者会見ではしばしば音声が途絶える深刻なトラブルが発生、東京の報道陣と板東長官の間でスムーズなやり取りができなかった。情報の漏えいを防ぐ保秘システムが未整備なこともあり、板東長官ら官僚側は慎重に言葉を選びながら、移転に問題が多いことを繰り返し強調した。

官僚側の抵抗と歩調を合わせたように、消費者庁の外郭団体や消費者団体が移転阻止を訴える抗議行動を相次いで開催した。国会対応や各省庁との連携が難しく、行政処分の対象となる悪質業者が圧倒的に関東に多いことなど、考えられるありとあらゆる理由を掲げている。

河野前消費者担当相が退任会見で「反対のための反対が相次ぎ、消費者行政と地方創生の中身の議論がなかなかできなかった」というほど抵抗はすさまじかった。官僚にとって徳島はまるで島流しだったのかもしれない。

政府の方針が官僚の抵抗で掛け声倒れに終わるのは、竹下内閣の政府機関地方移転や橋本、小渕、森の3内閣が進めた省庁再編でも見られた。そのたびに政府は国民から強い批判にさらされている。移転判断の3年先送りには、現時点で見送りと結論し、世論の批判を受けるのを避ける思惑が透けて見える。

政府が地方移転の範を示せなかったことで、民間企業の本社機能移転にもブレーキがかかる可能性は否定できない。政府は本気で地方移転を進めようとしたのか、そんな疑問が生じても不思議でないほど今回の地方移転は中途半端な結果に終わった。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。