狙いは「信用棄損による値下がり?」空売りファンド「グラウカス」

そもそも今回レポートを発行した「グラウカス」とはいかなる集団なのか。

「グラウカス・リサーチ・グループ」は米国の投資ファンドで、行う投資手法は「空売り」だ。

信用取引により空売り(株価が下がったほうが儲かる)ポジションを取り、収益を挙げる。今回の伊藤忠のように「会計上問題がある」と思われる企業を探し出して売りを仕掛け、レポートの公開や株主総会での問題提起を行うことで株価を下げ、収益を出すというスキームだ。

こういった手法は金融商品取引法において制定されている「風説の流布」に抵触する可能性もあり、非常に厳しい目線にさらされている。

風説の流布とは「合理的根拠のない情報により有価証券の価格を変動させる」行為を指し、法人等の代表者や従業員などが違反した場合、7億円以下の罰金刑が課せられる。

米国などでは近年、SNSなどにより風説の流布を行い株価操縦をすることが問題視されており、こういった手法が日本に「輸入」されてきた形だ。

今回の場合、レポートによる指摘が「合理的根拠があるのかないのか」という非常にグレーな部分が総論の対象となり、会計問題の“見解”を述べただけだと主張されれば強くは出にくい。

またこういった「厳しい目で会社会計を分析する」という団体が目を光らせることで、経営者が不正会計を行いにくくなるというプラスの要因もあるため、一概に悪とは言い切れない部分もあり、問題は複雑だ。

伊藤忠の問題がどういった形で決着するにせよ、「不正会計の監視役」が日本に上陸したことで、いままでの「グレー」だった会計手法を明朗化し、自浄作用を強化するきっかけとなる企業もでてくるだろう。今後の流れに注目したい。
土居 亮規 AFP、バタフライファイナンシャルパートナーズ